危険」とどうつき合うか?

環境リスク1、2
松田裕之(横浜国立大学)
G-COE「アジア視点の国際生
態リスクマネジメント」
Program Leader
リスク評価 1
今日の講義の狙い
• 生態系の持続的管理を目指す上で,
一定の確率で生ずるリスクに対す
る対処は重要である.環境リスク
とは何かについて説明し,リスク
を評価・管理するための基本的な
考え方について学ぶ.さらに,様々
な実例を通して紹介し,理解を深
める.
リスク評価 2
危険性riskの考え方
• リスクは確率である
– 絶対安全なものはない=「杞憂」
• リスク評価の前提は未実証
– シナリオ、悔いのない政策、予防原
理、説明責任accountability
リスク評価 3
科学者の「良識」:今と昔
• 昔:肯定も否定もされないことは
信じない。
• 今:実証されなくても、手遅れに
なりそうなことは見過ごせない。
• 「政治的に注目された問題ほど、
科学的には怪しい。」
リスク評価 4
Extrapolation外挿
リスク評価 5
岸本充生博士論文より
リスク回避のコスト
リスク評価 6
危険性の評価、管理、周知
• Risk assessment=異論の少ない
前提で未来を予測。予防原則
• Risk management=不確実性と説
明責任を考慮する
• Risk communication=相対的な
安全を市民自身に選んで貰う
リスク評価 7
人間の健康リスク
•
•
•
•
生命保険の統計情報
動物実験(食品添加物)
環境化学物質
発ガン率
リスク評価 8
損失余命によるリスク評価
• 日常的に食べて、10万人に1人がそ
のために死ぬ=平均余命にして約1
時間(10年÷10万=0.9時間)の損失
• 発ガンリスクも非ガンリスクも同
じ尺度で評価する
• Quality of Lifeで評価する
• 右利きと左利きでも寿命が違う?
リスク評価 9
生態リスクを考える理由
• 自然の恵みの損失は、究極的には
人間の福利で評価できる
• しかし、今の世代の健康リスクで
は評価できない
• 生物多様性の喪失を直接評価する
リスク評価 10
生物の絶滅リスク
• 大量絶滅の時代(生物は1日3-10種
の割で絶滅しているらしい)
• 人口増加、一人当たり消費の拡大
– 生息地破壊、乱獲(乱伐)、環境劣化
• 環境影響評価(assessment)
• 生物多様性条約
リスク評価 11
生態リスクの評価方法
• 絶滅リスク評価(中西1996)
• 環境負荷の加重集計Life Cycle
Assessment (スイス、オランダ)
• 支払意思額評価
– PrimackのCaliforniaコンドル
• アンケートによる優先順位付け
リスク評価 12
内分泌攪乱化学物質
Endocrine Disruptive Chemicals
•
•
•
•
•
•
ホルモン作用をかく乱する
ごく微量(ppt)で害をもたらす
天然に存在しない多数の化学物質
海・大気に遍在する
食物連鎖で濃縮される
母乳で母子感染する
リスク評価 13
健康・繁殖・生態リスク
• レイチェル・カーソン『沈黙の
春』
– ケネディ大統領の諮問委員会で認知
• シーア・コルボーンら『奪われし
未来』(翔泳社)
– 海獣の大量死、精子の減少、『メス
化する自然』(集英社)
リスク評価 14
EDCによる人間の健康リスク
• 環境中の濃度予測
• 食品中の濃度の予測
– 生物濃縮、脂肪
• 動物実験の致死量からの外挿
– 慢性毒性をどう推定するか
• 繁殖毒性をどう評価するか
リスク評価 15
リスクはゼロにできない
(ロドリックス「危険は予測できるか」化学同人よ
り)
行為または曝露
死亡率 行為または曝露
死亡率
モーターサイクリング
2000 ロデオ競技
3
すべての原因(全年齢)
1000 火災
2.8
喫煙による全死亡
300 塩素殺菌水(副生成物)
0.8
喫煙による発癌死
120 ピーナツバター大匙3杯/日
0.8
消火活動
80 炭焼ビーフステーキ85g/日
0.5
ハンググライダー
80 洪水
0.06
石炭採掘
63 落雷
0.05
-5
農作業
36 流星直撃
<10
自動車
24
*死亡率は対象10万人あたりの年間死亡者数
生涯リスクは上記の数字が(松田注:年齢,年代により)大きく変わらないとすれば約70倍したものとなる.
リスク評価 16
海と大気のPCB汚染
リスク評価 17
海と大気のDDT汚染
リスク評価 18
海の汚染=2000年の負債
(高橋正征氏)
• 海洋大循環、南氷洋での検出
• 人工有機化合物が世界の海を覆う
リスク評価 19
食物連鎖と生物濃縮(宮崎信之
氏)
• 海水、浮遊生物、魚、海獣
リスク評価 20
母乳で母子感染する(宮崎信之
氏)
• 母親と父親の濃度
リスク評価 21
脂肪に蓄積する(田辺信介氏)
• 分解酵素を欠く海獣、長寿、皮下
脂肪、魚食
リスク評価 22
バイ貝と有機スズ(堀口敏宏氏)
• 雄化(imposex)
• 減少と復活
リスク評価 23
TBT規制は成功だったか?
• Imposex: 雌に
擬似ペニスが
でき、不妊化
• 極端に高い絶
滅リスク
• 全巻貝などに
影響
リスク評価 24
TBTは効果的船底塗料:
採算が合わない?
世界で年7000億
円の節約
リスク評価 25
生態リスク評価におけるエンドポイントと生物学的階層
生態系
(e.g., 生態系機能の変化)
群集
(e.g., 多様性の減少)
影響の深刻度
生態系保全の管理目標や対策は「個
体群レベル」以上が対象
個体群
(e.g., 個体数の減少,地域個体群の絶滅)
個体 (e.g., 生存率,繁殖率)
エンドポイントは
「個体レベル」
化学物質の生態リスクに係る日本の法規制等
細胞
細胞小器官
分子
暴露濃度
化学物質の暴露に対する
生物学的階層と毒性反応の関係
(Spurgeon et al.(2005)ESTに基づき作成)
■ 化審法改正(動植物への毒性に関する事前調査)
(2003)
■ 水生生物保全水質環境基準(亜鉛)の設定
(2003)
■ 農薬取締法改正
(水産動植物に対する毒性に係る登録保留基準の改正)
(2003)
■ 初期リスク評価 (NITE等)(2005~)
■ 環境リスク初期評価(環境省)(2002~)
リスク評価 26
魚食の功罪
米リスク学会1999
http://www.riskworld.com/Abstract/1999/SRAam99/ab9ab073.htm
• 便益=不飽和脂肪酸 が多く、心疾
患による死亡を減らす
• 毎日35gの魚食で統計的に有意
ω-3
– 40歳男性の心疾患死亡を38%低下
• ダイオキシンによる害を凌ぐ(注:
米国では心疾患が死因第1位)
リスク評価 27
Weekly intake of each fish
Weekly intake of concentration of Mercury intake
each fish (g)
methyl mercury from each fish
(ppm)
(μg/week)
Intake from non-seafoods
sharks
sea bream
bluefin tunas
80
whales
5
shellfish
20
anchovy
160
mackerel
160
total
425
0.35
0.33
0.54
0.12
0.49
0.03
0.21
total(μg/day)
11.9
0.0
0.0
43.4
0.6
9.7
5.3
33.4
104.3
14.9
(Souce: Japan Ministry of Health 2005, Nakanishi et al. 2003)
リスク評価 28
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/aquanet.htm
Risk of mercury
Mercury
intake
(mg/day)
your case
Threshold for adults
Threshold for embryos
Average intake of
Japanese
Average in 1960s
Minamata disease in
1960s
Tuna eater (250g/day)
% in Red Risk for
blood cell adults
(ppm)
Risk for
embryos
14.7
25.0
15.7
0.024 1.3E-06 7.3E-05
0.038 1.1E-05 0.0005
0.025 1.7E-06 9.5E-05
8.4
0.015 1.3E-07 7.6E-06
98.0
0.140 0.0013 0.0236
1250.0
1.753 0.2771 0.6709
137.2
0.195 0.0036
0.048
(Source: Japan Ministry of Health 2005, Nakanishi et al. 2003)
リスク評価 29
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2005/aquanet.htm
Ecological Risk Assessment of Heavy
Metals (Zinc) to Freshwater Benthic
Macroinvertebrate Assemblages
Based on Field Survey in the Hasama River Basin, Miyagi, Japan.
Iwasaki (YNU), Kagaya (U.Tokyo),
Miyamoto(AIST), Matsuda(YNU)
2006/5/22
リスク評価 30
30
Iwasaki et al. 2009
調査地点
Zinc concentration near abandoned mine
447 μg/L
377
Nihasama Riv
Hosokura mine
source of metals
136
流下方向
152
Namari Riv.
St.2
St.1
126
St.3
Standard Zn
= 30mg/L
St.4
Polluted
Hasama Riv.
St.5
64
St.8
5
St.6
Twice higher
6
Unpolluted
St.7
St.9
richness(stone-1)
6
カゲロウ目種数
12
8
4
0
1
2
汚染
0
1000 2000 3000 4000 5000m
6
7
3
4
5
8
9
非汚染 リスク評価
汚染 31非汚染
31
上流
下流
順応的環境リスクマネジメントの基本手順
社会的合意
形成手続き
社会
科学者
0. 問題提起
科学的
手続き
1. 問題点の吟味
2.管理範囲の絞込みと利害関係者の招待
3.協議会・科学委員会などの設置
情報公開
合意できないと
きは再設定
4.「避けるべき事態」の定義
5. 定量的評価指標の列挙
6. 影響因子の分析と予測方法の構築
7. 放置した場合のリスク評価
8. 管理の必要性と目的の合意
9.数値目標の仮設定
10.モニタリング項目の決定
11.制御可能項目・手法の選定
リスクコミュニケーション
13.リスク管理計画と目標の合意
リスクコミュニケーション
12.目標達成の実現性の評価
14.管理とモニタリングの体制決定
15. 管理とモニタリングの実施・継続
必要に応じ改訂
順応的管理
16.目的・目標の達成度の評価
管理計画終了
リスク評価 32
非
現
実
的
な
ら
目
標
の
修
正
•
QH
SP
AV
R、
、E
QS
AD
L、
Y
=N
リE
スD
クO
トの
レ次
ー世
ド代
オ計
フ画
リスク評価 33
化学物質生態リスク管理
の現状と課題
•
•
•
•
•
PRTR法による排出量管理→曝露評価
Screening評価・詳細リスク評価
多重複合曝露の影響は?(国環研)
未評価物質数が多すぎる(産総研)
松田
– 個体影響と個体群影響の溝(産総研)
– 他の生態管理で推奨される順応的管理の視
点(文言!)が皆無
リスク評価 34
要議論
順応的取組みの導入状況
(環境省所轄の生態影響)
1. 化学物質管理
2. 環境影響評価1999
3. 野生鳥獣管理1999
4. 生物多様性1993
5. 自然再生2002
6. カルタヘナ法2003
7. 外来生物法2004
←整合性を問う
(2003改訂でも)皆無
検討課題*に明記
特定計画に明記
新国家戦略2002に明記
基本方針2003に明記
皆無?(←ミネソタ大)
基本方針(防除方策)
リスク評価 35
*http://assess.eic.or.jp/4-1report/03_seibutsu/1/chap_3.html
要議論
予防的取組みの導入状況
(環境省所轄の生態影響)
化学物質管理
環境影響評価1999
野生鳥獣管理1999
生物多様性1993
自然再生2002
カルタヘナ法2003
記)
7. 外来生物法2004
1.
2.
3.
4.
5.
6.
国環研リスクセンターに明記
特記なし?
特記なし?
新国家戦略2002に明記
特記なし(石西礁湖全体構想)
特記なし(国際条約明
要注意生物の選定基準
リスク評価 36
横浜国大生態リスクPost COE
の目標(案)
• 化学物質を含む生態関係環境リス
ク政策における統合的視点の普及
• そのための具体的取組みへの関与
• そのための新技術・新理論の開発
リスク評価 37
要議論
予防的規制の3条件
下記のうち、どれか一つを満たすなら…
• 野外で実際に何らかの深刻な異変があるか
– あれば原因の候補を予防的に規制する
– (貝割れ大根の誤り。TBT規制の成功)
• 個体群レベルの生態毒性が予見されるか?
– 予見されるなら規制する
• 対応が遅れると手遅れになる恐れがあるか
– 手遅れになりそうなら規制する
• 無意味・過剰な規制はしない…
• 過去の過ちはしっかり反省する
リスク評価 38
因
果
関
係
解
明
が
先
?
過去の反省(案)
• ダイオキシン規制は現在の知見に
照らして正しかったか?
– 少なくとも現在の知見では、小型焼
却炉撤廃は過剰反応だったと思う
• TBT規制は正しかったか?
– 正しかった。Champは費用対効果が
合わない規制というが、そうは思わ
ない
リスク評価 39
総量規制の必要性
• おそらく、生態系への負荷は、
個々の物質ごとではなく、総量
(加重総和)で決まる(必ずしも
相乗作用ではない)
• 個々の物質の基準値を決めるより、
総量を規制する指標と方法を考え
る
(リスク当量)
リスク評価 40
予防原則の統計学
•
•
•
•
予防原則は第2種過誤回避を優先する原則
制御しつつ順応的に検証実験しているか?
安全性を確認して規制を見直しているか?
規制見直しの実績を統計学的に検証
– 予防原則で規制したものが、その後にほとんど
規制が解けないのはおかしい
– 環境省植物RDBのCR種で絶滅したもの0種!?
– IWC商業捕鯨「モラトリアム」の永続
– ダイオキシン規制=その後の説明責任は?
リスク評価 41
ベイズ推計の応用の概念図
• 安全係数=モニタリングによって
データがたまれば、自然に低くな
(
るように
例:95%ile
例
え
ば
)
尤
度
事前分布
事後分布
環境基準値
リスク評価 42
4.順応的取組みとの整合性
順応的リスク管理(案)
要議論
標
準
の
決
め
方
が
必
要
• 予防的だが実行可能な基準値
• 貴重な生態系では独自基準を設ける
(Polluterを含めた社会の合意
何汚
これは法でなく、統治の問題)
ら染
か者
• 現地での生息実態調査
のは
指地
• 順応的な基準値の見直し(見直し方を針 元
が重
決めておく)
必視
見直し方の指針が必要
要?
リスク評価 43
リスクトレードオフ(案)
1.
2.
3.
4.
5.
6.
費用と生態リスクを比較する
異なる因子の同じ生物へのリスクを比較
化学物質リスクと他の生態リスクを比較
異なる生物へのリスクを比較する
生態リスクと健康リスクを比較する
生態リスクと災害リスクなどを比較
リスク評価 44
制約つき最適化とは
• 効用関数U=Σ経済便益Bj-Σmi [現状 ー目標]
• mi=ある環境負荷の (リスク因子間で共通の)
未定乗数
• U/Dj=dBj/dDj–SmiD現状/Dj = 0
• Dj=はあるリスク因子の大きさ
• 上記Uを制約付きで最大にする mi がきまる
リスク評価 45
要議論
4.順応的取組みとの整合性
見直しの問題点
• 化学物質規制の費用の大半は初期
費用。いったん厳しい基準値の後
緩めても、意味がない(岩崎君)
• 5年後に実施するという予告は悪
くない?
• 地方ごとに実施時期を変える?
リスク評価 46
課題
1. TBT(トリブチルスズ)規制、亜鉛の
環境基準などの具体的事例を例に、予
防原則の適用基準(どの程度の科学的
根拠とどの程度の事態の深刻さ、受益
者と損失者の乖離など)の案を考えよ。
2. 健康リスク、生態リスク、気候変動リ
スクなどについて、考えられるリスク
トレードオフ(あるリスクを下げる政
策が別のリスクを増やす)の例を挙げ、
その解決策を考えよ。
リスク評価 47