持続可能な漁業と 海洋生態系保全 • 松田裕之(東京大学海洋研究所) • 数理生態学・水産資源学 リスク評価 1 訂正などは http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/kyousei.html http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/enveco.html 参照 主な著書 リスク評価 2 人口とエネルギー消費の爆発 上、Kremer 1993, Cohen1995の資料から作図(松田「環境生態学序 リスク評価 3 説」) 乱獲され尽くした?水産資源 http://www.fao.org/fi/publ/circular/c920/intro.asp#A2 リスク評価 4 とっくに頭打ちの底魚類 (FAO1996) http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig5e.asp リスク評価 5 まだまだ獲れる浮魚類(FAO1996) http://www.fao.org/WAICENT/FAOINFO/FISHERY/publ/sofia/fig4e.asp リスク評価 6 浮魚資源は「諸行無常」 Catch (million tons) 5 カ タ ク チイ ワ シ サン マ マア ジ・ ム ロ ア ジ ニシ ン マサバ・ ゴ マサバ マイ ワ シ 4 3 2 1 0 1900 1920 1940 1960 1980 リスク評価 7 魚食を見直し、過食を避ける リスク評価 8 平均寿命、平均カロリー摂取量、 穀物依存度の関係 平均寿命(年) 摂取熱量 穀物依存 (kcal/日人) 度 男 女 米国 72.0 スウェーデン 75.3 76.6 日本 69.1 中国 78.9 80.8 83.0 72.4 3732 2972 2903 2727 21.7% 21.1% 39.7% 69.7% (Source: Britannica 国際年鑑 1997) リスク評価 9 魚食の功罪 米リスク学会1999 http://www.riskworld.com/Abstract/1999/SRAam99/ab9ab073.htm • 便益=不飽和脂肪酸 が多く、心疾 患による死亡を減らす • 毎日35gの魚食で統計的に有意 ω-3 – 40歳男性の心疾患死亡を38%低下 • ダイオキシンによる害を凌ぐ(注: 米国では心疾患が死因第1位) リスク評価 10 漁場の価値 農林水産資源(139兆円) 生態系サービス(1708兆 円) 干潟・サンゴ礁・藻場 快適さ(?) リスク評価 11 漁場の環境保全は漁業者の使命 • 漁業は、自然の恵みのごく一部を 持続的に利用しているだけ • 漁業は、漁業利益よりけた違いの 漁場の自然資産の賜物である リスク評価 12 ミナミマグロは回復するか? Mori et al. Pop.Ecol. 2001 逆ベビーブーム現象 リスク評価 13 乱獲をもたらす2つの誘因 • 成長経済 – 毎年少しずつ獲るよりも、根こそぎ とって他の部門に投資する • 共有の悲劇(the tragedy of the commons) – せっかく末永く大切にしても、他人 に獲られてしまう + 高齢化と後継者難 (クラーク 1983, 松田 1995) リスク評価 14 クジラは漁業の害獣か? • 鯨はカタクチイワシ、中深層性ハ ダカイワシなどを大量に摂食 • 必ずしも漁業とは競合しない • 大昔より鯨が増えてはいない • たくさんいる鯨を食べよう! リスク評価 15 マイワシの世紀末の真相 • 乱獲なら高齢魚からいなくなり、 漁獲物が小型化する • 加入の失敗による高齢化社会 • 加入失敗は環境汚染・生息地破壊 ではない(貝類) • 有史以前からの自然変動 リスク評価 16 問題点 魚種ごとの漁獲量は大きく変動 • 増えた魚を獲る – 魚種交替に備える • 子供を獲らず、大人を獲ること – 泳がせ捜査(成長乱獲) • 減った魚を保護すること – 種もみを残す(加入乱獲) • 選択性の高い漁業技術を開発 リスク評価 17 鹿熊管理は漁業管理の応用! ヒグマ春季管理捕獲 エゾシカ保護管理計画 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/deer.html リスク評価 18 予防原則 precautionary principle • 環境に対して深刻あるいは不可 逆的な打撃を与えるとき,科学 的に不確実だからという理由で 環境悪化を防ぐ措置を先延ばし にしてはいけない 1992年リオデジャネイロ宣言第15原則 http://www.unep.org/ リスク評価 19 生物多様性条約 1992 • “Noting also that where there is a threat of significant reduction or loss of biological diversity, lack of full scientific certainty should not be used as a reason for postponing measures to avoid or minimize such a threat, リスク評価 20 国連気候変動枠組み条約 1992 “Where there are threats of serious or irreversible damage, lack of full scientific certainty should not be used as a reason for postponing such measures, taking into account that policies and measures to deal with climate change should be cost-effective so as to ensure global benefits at the lowest possible cost. リスク評価 21 科学者のとるべき態度 後 • 1992年地球サミット前 –科学的証拠なしに社会にもの を言うことが歓迎される を言わない; 科学論争を多数決で決める。世 –世論に係らず、自らの見解を 論を味方につける 変えない 科学者の社会的提言につ いての学界基準が未確立. リスク評価 22 Galileo’s Inquisition 危険性riskの考え方 • リスクは確率である – 絶対安全なものはない=「杞 憂」 • リスク評価の前提は未実証 – シナリオ、悔いのない政策、予 防原理、説明責任accountability リスク評価 23 リスクを巡る二つの尺度 • 危険度(risk) –避けたい事件が起きる確率 • 確度(evidence) –リスク試算の確実さ 携帯電話・家電製品の白血病リスク、 飛行機などへの影響 リスク評価 24 リスクはゼロにできない (ロドリックス「危険は予測できるか」化学同人よ り) 行為または曝露 死亡率 行為または曝露 死亡率 モーターサイクリング 2000 ロデオ競技 3 すべての原因(全年齢) 1000 火災 2.8 喫煙による全死亡 300 塩素殺菌水(副生成物) 0.8 喫煙による発癌死 120 ピーナツバター大匙3杯/日 0.8 消火活動 80 炭焼ビーフステーキ85g/日 0.5 ハンググライダー 80 洪水 0.06 石炭採掘 63 落雷 0.05 -5 農作業 36 流星直撃 <10 自動車 24 落ち葉焚き ? *死亡率は対象10万人あたりの年間死亡者数 鬼憂 杞憂 生涯リスクは上記の数字が(松田注:年齢,年代により)大きく変わらないとすれば約70倍したものとなる. リスク評価 25 リスク評価の危うさ:外挿 リスク評価 26 岸本充生博士論文(京大経済研)より改変(松田「環境生態学序説」共立) リスク回避のコスト リスク評価 27 危険性の評価、管理、周知 • Risk assessment=異論の少ない 前提で未来を予測。予防原理 • Risk management=不確実性と説 明責任を考慮する • Risk communication=相対的な 安全を市民自身に選んで貰う リスク評価 28 損失余命によるリスク評価 • 日常的に食べて、10万人に1人がそ のために死ぬ=平均余命にして約1 時間(10年÷10万=0.9時間)の損失 • 発癌リスクも非癌リスクも同じ尺 度で評価する • Quality of Lifeで評価する? • 右利きと左利きでも寿命が違う? リスク評価 29 生物の絶滅リスク • 大量絶滅の時代(生物は1日数種以 上の勢いで絶滅しているらしい) • 人口増加、一人当たり消費の拡大 – 生息地破壊、乱獲(乱伐)、環境劣化 • 環境影響評価(assessment) • 生物多様性条約 リスク評価 30 内分泌攪乱化学物質 Endocrine Disruptive Chemicals (EDC) • • • • • • ホルモン作用をかく乱する ごく微量(ppt)で害をもたらす 天然に存在しない多数の化学物質 海・大気に遍在する 食物連鎖で濃縮される 母乳で母子感染する リスク評価 31 EDCによる人間の健康リスク • 環境中の濃度予測 • 食品中の濃度の予測 – 生物濃縮、脂肪 • 動物実験の致死量からの外挿 – 慢性毒性をどう推定するか • 繁殖毒性をどう評価するか リスク評価 32 海と大気のPCB汚染 宮崎信之『恐るべき海洋汚染』合同出版 リスク評価 33 海の汚染=2000年の負債 (高橋正征『海に眠る資源が地球を救う』あすなろ書房) • 海洋大循環、南氷洋での検出 • 人工有機化合物が世界の海を覆う リスク評価 34 食物連鎖と生物濃縮(宮崎信之 『恐るべき海洋汚染』合同出版) • 海水、浮遊生物、魚、海獣 リスク評価 35 母乳で母子感染する(宮崎信之、前掲 書) • 母親と父親の濃度 リスク評価 36 脂肪に蓄積する(田辺信介氏) • 分解酵素を欠く海獣、長寿、皮下 脂肪、魚食 リスク評価 37 TBT規制は成功だったか? • Imposex: 雌に 擬似ペニスが でき、不妊化 • 極端に高い絶 滅リスク • 全巻貝などに 影響 リスク評価 38 TBTは効果的船底塗料: 採算が合わない 世界で年7000億 円の節約 リスク評価 39 岩波「科学」10月号特集『リスク -その課題と問題』 • 中西準子 「リスク」は何をめざしてるのか • 松田裕之 リスクマネジメントの実際:野生 動物を例にして • 鬼頭秀一 社会的リンクとリスク • 金森修+科学編集相談委員「リスクは社 会においてどのように使われているのか」 • ・・・・ リスク評価 40 ゼロリスク論 対 低リスク容認 論(リスク便益論) • リスクも予防原則も、科学的定義が不明確 • 予防原則を広く適用し、きわめて低いリス クまでも避けるべきと主張する者 • リスクをゼロにすることは不可能とし、予防 原則を限定的にとらえる者 • 予防原則とリスク評価を統合的にとらえな ければ、妥当な環境政策は成り立たない リスク評価 41 リスクは自然状態の方が高い • リスクをゼロにすることは不可能 • リスクをどうとらえるかに、人間の価値観、 自然観そのものが問われている • ダイオキシンが危険だということで、落ち葉 を掃くのが問題ならば、その原因となる屋 敷林や雑木林も全部伐ってしまった方が すっきりしていいということになりかねない リスク評価 42 リスクは比較できるか? • そもそも、その「リスク」の内容は、評価し、 比較衡量できるほどに、明確に規定できる ものなのだろうか。 • リスク評価を客観的に比較衡量するため には、異なる種類のリスクを比較可能な形 で定義できなくてはならない。 • 交通事故と原子力発電所のリスクの比較 衡量の問題 リスク評価 43 リスクは代替事業で比較すべき • 人はいつか死ぬ。有限だからこそ尊い ×原発リスク<交通事故?<殺人犯?? ○原発リスク<>代替発電事業リスク 代替が可能か?そのコストは? 不可能なら、発電量を下げてもよい か? △携帯電話・家電製品(白血病リスク) リスク評価 44 不慮の事故のリスクは評価で きるか?(琵琶湖セタシジ ミ) PCP PCB, mercury 過去に起きた、将来想定できる 事故のリスクは評価できる。全 部は評価できない 45 Source: Japan Ministry of Agriculture, Forestryリスク評価 and Fisheries 岡敏弘「環境政策論」より • 通常の経済学 – 費用便益分析cost-benefit – 費用効果分析cost-performance • 環境経済学 – 切実に避けたいことのリスクを測る – リスク(純)便益分析 risk-benefit • 30歳代の人はX線検査を受けるべきか リスク評価 46 保険金は生命の経済価値か? ×生命自身の代償ではない ○生きていたら得られたであろう収 入の補償 リスク評価 47 リスクは経済価値ではない • 非経済価値と経済価値の比を取る • R1/B1>>R2/B2なら、事業2のリスク を軽視している(さまざまな意思 決定間の整合性を計る) • 二つ以上の種類の非経済価値は、 比較できない(健康リスクと生態 リスク) リスク評価 48 分配の不平等は未解決 • 周辺住民N人に広く薄くリスクrが かかる • 労働者n人に狭く高いリスクRがか かる • Nr<nRとして、広くばら撒けるか? • 途上国の開発を諦めよ? リスク評価 49 リスクとリンクの兼ね合い • 従来、リスクも便益を経済的に語らる。 普遍的で交換可能な価値を客観的に算 定することがその主眼にある • リスクや便益の評価に、地域構成員の 価値を反映させることができるか • 社会的リンク論「自然保護を問い直す」筑摩書房 – 経済的な側面(経済的・社会的リンク)と 精神的な側面(文化的・宗教的リンク)が 不可分な形で存在することの必要性 リスク評価 50 所沢ダイオキシン論争 読売新聞1999・2・21 中西準子 • 所沢農家は被害者 • 基準値でなく、他所 と比べるべき • 他所より早く調査し て結果を出せという のはいじめ • 魚介類の汚染の方が 問題 広井脩 • 「情報隠蔽」が疑 心暗鬼を招いた • 扇情的報道は問題 • 農家被害は予想外 • 報道は予防原則 • 政府の責任大 リスク評価 報道方法が不適切+野菜だけ取り上げるのは問題 51 1992年所沢ダイオキシン問題 • 所沢の問題は単にリスクではない • (所沢農家の一部が)持続型の農業にあえ てこだわってさまざまな実践を行っている 農家の地域に対する思い、・・・地域づくり の実践、市民による雑木林の清掃、自然 観察、落ち葉掃き、援農、農業トラスト等々 のさまざまな試みといった、精神的な側面 も存在していることを留意すべきである。 リスク評価 52 リスク評価は必要である • 環境を考えた農家でも、リスクを 出す可能性がある • 本当に早急に対策を立てるべき高 いリスクなら、気づいたときから リンクを断つべき • リスク評価は、社会的リンク論に 不可欠 リスク評価 53 原住民生存捕鯨問題 • 反捕鯨原理主義「一切の捕鯨反 対」 • 日本「原住民捕鯨は資源状態が太 地よりはるかに悪い。両方認め よ」 • 米国「原住民捕鯨は別格」 • 日本「太地を認めないなら、生存 捕鯨も反対」 • IWC下関総会:両方否決 リスク評価 54 その後の動き • 5月下旬:鬼頭氏、朝日新聞に投 書(6月半ばに却下される) • 6月18日:松田のサイトに掲載 http://cod.ori.u-tokyo.ac.jp/~matsuda/2002/whale2.html • 6月下旬:日本政府が見直しの動き (報道) リスク評価 55 結論 • • • • 危険性は相対的に評価すべき 未確立の評価法である 新たな知見を考慮(accountability) 危険性と社会的便益を比べて総合 的に判断すべき(戦略評価) • 悔いのない政策を合意形成で リスク評価 56
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