21世紀の自然科学 『エネルギーと熱』 第4部 原子力エネルギー 正確に理解するための最小限の材料を提供し、私の意見は最後に話しま す。 物質の構成 元素(element): 物質を構成する基本的要素の種類 水素,酸素,炭素,...カルシウム,...鉄,鉛,...ウラ ン,... 元素記号: H, O, C,… Ca,… Fe, Pb,… U,… 原子(atom): 各元素の構造の最小単位 大きさ: 『 パチンコ玉 : 鉄の原子 = 地球 : パチンコ玉 』 分子(molecule): 様々な物質の構造の最小単位 いくつかの原子の結合したもの 化学反応(化学エネルギー) 分子を構成する原子の組み替えがおきる現象 水素分子 + 酸素分子 水素原子 水の分子 酸素原子 炭素原子 メタン(天然ガス) + 酸素 炭酸ガス + 水 酸化反応: ほとんどの場合、発熱する。 燃焼(爆発) 激しく反応 『水素爆発』 鉄がさびる: これもゆっくりとした酸化反応 → ホカホカカイロ 燃料電池: 水素の酸化反応をゆっくりと起こさせ、電気エネルギーに変える。 原子の構造 (原子核と電子) 水素原子の原子核(陽子) 正の電気をもつ粒子 電子: 負の電気をもつ粒子 (電気量は符号はちがうが同じ大きさ) 電子は核の周りで広がった存在に近い。 原 子 原子 : 原子核 = 教室 : パチンコ玉 電子はさらにその1000分の1以下 (大きさも質量も) 原子核の構造 核子 陽子 p 中性子 1 水素 1 4 ヘリウム 2 n: 陽子と大きさ・質量は同じで電気的には中性 6 リチウム ... 3 核子の数 A : 質量数 陽子の数 Z : 原子番号 A Z 16 酸素 ... _8 X 23 ナトリウム 11 X=元素記号 電子の数は陽子の数と同じ 陽子の数で電気量がきまり、周りを回っている電子の数も決まる。 → 元素の化学的性質を決定する。 金属 原子核の周りにある電子のうち、外の方を回っている電子は原子 から離れやすい。 この性質をもつ原子が固体を作ると、これらの電子(自由電子) が固体の中を自由に動き回れるようになり電流を運ぶ。 電流 電圧(発電機) 電気エネルギーの利用のほとんどはこの電流から出発する。 発熱作用(電熱器、光源)、 磁気作用(モーターなどの動力利用) (電子そのものの利用: エレクトロニクス) 核融合エネルギー(太陽、水素爆弾) (基本粒子) 宇宙の始まり → クォーク 物質粒子の形成(ハドロン) → 陽子 電子 中性子 (レプトン) 陽子 クオーク グルオン 陽子 (正の電気どおしでも結びつく) 最初にできる元素が 水素 自己重量 太陽などの恒星 重力によって凝縮されて陽子が密集すると結合する ようになり、核融合反応がおき始める。 核融合反応: 水素など小さい原子核が融合して大きな核になっていく現象 銀河と星の誕生 ハ ド ロ ン 最初は 水素ガス が球状に集ってくる。 自己重力によって収縮し、水素原子が凝集して星ができ始める。 核融合 比較的軽い元素がぶつかって融合し、より大きな元素になる。 4 太陽(恒星) 1 1 4 2 H He + 2e+ 『陽電子』 (正の電子) 水素爆弾 2 3 1H + 1H 重水素 3重水素 4 2 He + n (普通の水素より中性子の数が多い) 重水素は天然(海水)に 0.015% 存在 3重水素はリチウムから製造する: 6 3 Li + n 3 1 H + 4 2 He 超高温状態(プラズマ状態)でないと融合反応が起きない。 核融合反応のエネルギー 1gの水素 から、2.4×109 kJ = 5.7×108 kcal 約1000トンの水が沸騰(気化)す る。 cf 水素の燃焼熱 (あるいは燃料電池) = 1 g で 142 kJ (34 kcal) = 核融合エネルギーの 1700万分の1 → 17 トン 必要 『水素爆発』は? 原子炉の高熱と放射線により 水の分子が分解して発生した 水素ガスが燃えた化学反応 太陽の莫大なエネルギー源 人工的には、水素爆弾(制御する必要なし)として実現されたが、 制御可能な核融合炉は実現できていない。「人工の太陽」 原子力エネルギー(核エネルギー)の話 (はじめに) 核融合反応によってできる物質は鉄や鉛などの金属で安定 するが、さらに大きな元素は不安定。 また同じ元素でも中性子の数が異なる核(同位元素、アイソ トープ)で不安定なものが存在する。 様々な放射線を出して崩壊し安定な核になる。(自然崩壊) またわずかな刺激で分裂して小さい核になる。(核分裂) 理解に必要な基礎概念 (1)同位元素、自然崩壊、半減期 (2)放射線、放射能、放射性物質、(ベクレル、シーベルト) (3)核分裂、原子炉、臨界(未臨界)、(増殖炉)... 同位元素(アイソトープ) 原子番号(陽子数)Zが同じで、質量数Aが異なるもの (したがって中性子数が異なるもの)を 同位元素 という。 水素の仲間 : p 水素 炭素の仲間 pn 重水素 pnn 3重水素 12 _6 13 _6 C 安定: 自然界で98.9% C 比較的安定: 自然界で1.1% 14 _6 C 放射性同位体 ごく微量、半減期 5730年 大気中 14 N _7 14 _6 C → + n(太陽宇宙線 ) → 14 _7 N + e- 電子 14 C _6 + p 陽子 半減期 非放射性元素(窒素) R(t) = R(0)×(0.5)t/τ 自然崩壊に よるC14の 比率の減少 (半減期 τ) 半減期 0 5730 11460 17190 年 放射線: 放射性物質から出る高速粒子線 α線 ヘリウム原子核 β線 電子であるが、高速(運動エネルギーの大きいもの)は人体に害を ___ 及ぼす γ線、X線 電磁波 (ガンマ) 細胞、遺伝子(染色体)を破壊する。 → ガンを誘発。 逆にガン細胞をねらいうちすることで治療にも利用される。 (中性子線) 強いものを一時に浴びると危険であるが、半減期が短い。 質量が陽子とほぼ同じで、電気的には中性の粒子 半減期 = 12分 n → p + e (β線=電子) 放射性物質 天 然: ラジウム、ラドン、ウラン 、...その他、微量な放射性同位体 原子炉廃棄物: ヨウ素131、セシウム137、ストロンチウム90などの放射性同位体 放射能の強さの表し方 ベクレル = 放射線源の強さを表す 「光源の明るさ」 1秒間に1個の原子核が崩壊したとき出る量が1ベクレル 「ある放射性物質 1kg からこれこれの量 」 という形で放射量を表す。 グレイ = 体が吸収した放射線量を表す。 (体重1kg _ ______ あたりで吸収した放射線のエネルギー総量) 「1時間あたりに これこれ」 という言い方で 強さ を表す。 「紙面の明るさ」 べクレル 吸収量 グレイ (シーベルト) 離れるほど弱くなる。 (注意) 同じ強さ(ベクレル)の放射線源であっても、 (1) そこからどれだけ離れていたか、 (2) どれくらいの時間にわたって被曝したか、 (3) 出された放射線がどのような種類のものか、 によって体組織が受ける影響は違ってくる。 シーベルト: 放射線の種類や粒子の速さによって体組織に 与える効果が異なるため、定められた重率をかけて換算する。 (←これが 『各種貨幣の枚数と総額の関係』 のたとえ) 放射線の強さを表すときには 「1時間あたり○○シーベルト」 と言うのに対し、被曝による身体への影響は、これに被曝時間 をかけた被曝総量(シーベルト)で表す。 (例) X線(レントゲン)撮影による被曝 1回あたりの被曝総量は 0.2ミリシーベルト 程度(年間自然被曝量の 1/10 程度) である。 放射線としてはかなり強いが被曝の時間が短いため、この程度になる。 内部被曝: 体内に入った放射性物質からは、離れるわけにはいかない! 例:汚染された野菜 = 放射線源(ベクレル) 体が受ける放射線の強さ(時間あたりシーベルト)は、線源から どれだけ離れているかによるが、放射能で汚染された野菜が食物 として体内に入った場合には、体外に出て 行くまでの時間の間に体の組織にどれだけ 影響を与えるかを考慮して、シーベルト (被曝総量)に換算して表すことができる。 ただし、この場合でも、汚染された野菜なら 「何kg食べたら」、水や牛乳なら 「何リットル 飲んだら」 という形で線量を表す。 出された放射線(ベクレル)は 全部、体の組織を通過する。 1マイクロ=1000分の1ミリ 自然放射線量 通常でも空や大気、鉱物などから1年間で 1~2ミリシーベルト (1時間あたりにして 0.2マイクロシーベルト) 程度の放射線を 受けている。この平常値は国や都道府県によって異なるが、 事故における人為的被曝の危険性を判断する目安 になる。 自然内部被曝 38 19 12 _6 K C (通常時の食物による摂取) の同位元素 の同位元素 40 19 14 _6 1kg の野菜(ほうれん草)で K 0.01%,半減期 12.5億年、γ線 C ごく微量 半減期 5700年 40 19 K は 約200ベクレル 体重60kgの体内には 約3300ベクレル が恒常的に蓄積されてい る。 「半減期が短いものは安全なのか?」 No! 同じ量なら、出される放射量(時間あたり)は、むしろ強い。 比較的短い期間で非放射物質に変わるから、しばらく避難して おれば安全になるということ。半減期が長いものは、いつまでも 放射を続ける。(除染が必要) 「ヨウ素剤について」 ヨウ素は体の中の必須元素の一つであり、体内に吸収され やすい(特に甲状腺)。そこで、放射性のヨウ素131(半減期 =8日)に曝される危険があるときは、あらかじめ安全な普 通のヨウ素を十分摂取して満杯にし、それ以上に吸収され にくい状態にしておけばよい。 自然放射能 と 人工放射能 出される放射線の種類や危険性は同じであるが、自然界の 放射性物質は、人類、生物が何十万年もかけて耐性を得て 適応してきた。 これに対して原爆や原子炉で人為的に発生する放射性物質 は生物にとっては未体験の新たな物質であり、これに対する 耐性はできていない。 ヨウ素135やストロンチウム90のように体に必要な元素の 放射性同位体やカルシウムに置き換わるものは、取り込ま れ蓄積されやすいという危険性がある。 微量放射線の影響についてはまだ定説はない段階であるが、 以上の理由から人為的放射性物質はゼロ(ND)であること が望ましいことは言うまでもない。 (原子力エネルギー) 質量数 Z の大きい元素は、比較的不安定 人工核分裂 → 核分裂 1938 ハーン(独) ウランの分裂に成功 1941 フェルミ等(米) 連鎖反応に成功 1945 広島、長崎に原子爆弾 陽子数 Z 中性子数 A-Z 例 ウランの仲間 濃縮 238 _92 U 99.3% 235 _92 U 0.7% 重い元素 安定 中性子が過剰 A > 2 Z 放射性、半減期 7億年 Cf 軽い元素 1 1 H 4 2 He 12 _6 C 14 _7 N 16 _8 O A=2 Z p と n が同数 原子炉 ウラン 中性子 235 _92 U + n → ストロンチウム 94 38 89_ 36 Kr + 144 _56 I , + 2n + 3n バリウム Ba ヨウ素 131 _53 発 電 キセノン Sr + 140 _54 Xe クリプトン 連鎖 沸騰水型、加圧水型 (分裂による生成物) セシウム 137 _55 Cs 放射性廃棄物 熱中性子 熱 ↑ 二次冷却水 ↑ 熱交換 ↑ → 一次冷却水 ガンマ線 原子爆弾 連鎖反応: 発生した中性子を水で減速して再度燃料にぶつける ことにより、次々に分裂反応が起きる。 物が燃える のも同じように連鎖反応である。 燃えるには気体になる必要がある。 可燃ガス になって燃える 蝋が融けて蒸発 熱 この連鎖を断てば、火は消え る。 江戸の火消し = 隣家の破壊作業 燃料を分散して隔離すればよ い。 連鎖反応: 発生した中性子が再度ウランにぶつかる ことにより、次々に分裂反応が起きる。 中性子 ↓有効中性子(別のウランにぶつかる中性子) 臨界量 : この有効中性子数が1以上になると、 連鎖反応が起きる。 (例えは悪いが、インフルエンザの流行に似ている。) 燃料の大きさがある限界を超えウラン原子が接近すると、 発生した中性子が、外へ出る前に別のウランにぶつか り、連鎖反応が起きるようになる。 未臨界 制御棒 臨界 燃料棒 停止 炉 中性子 この密度ではまだ、連鎖反応は起きない。 臨界に達すると連鎖反応が始まる。 制御棒が中性子を吸収し、連鎖反応 が止まる。 (メルトダウン) 燃料棒はまだ熱い。(余熱+放射性物質の崩壊) せっかく未臨界になって停止しても、冷却機能が止まる と燃料棒が熱により融けて大量に集まることにより 冷却水 蒸発 再び臨界に達して、連鎖反応が始まる。 注:天然にはU235はわずかの濃度でしか含まれな い。 _ 大部分を占めるU238は燃料にはならない。 高速増殖炉 水で減速して連鎖反応 通常の原子炉 U 235 _92 非燃料 238 _92 + n → 放射性元素+数倍の n 一部は U + 239 _93 n → 239 _92 U 倍増! 23分 Pu + 239 _94 Np β崩壊 残りは 239 _94 放射性プルトニウム = 原子炉の生成物 n → 分裂核種 + 3n Pu 2.4日 従来は核兵器に使用 新たな燃料 1個あれば連鎖反応の臨界 減速しない高速中性子が必要: このため、一次熱交換に 液体ナトリウムを使う。(これが水に比べて危険物) 原子力エネルギーはどこから出てくる? cf 化学反応(たとえば燃焼、酸化反応) 発熱 H 2O H2 H2 化学エネルギーの差 O2 > 化学エネルギー = 分子のエネルギー 原子核ー原子核 原子核ー電子 電子ー電子 H 2O H2分子 ー の電気的位置エネルギー (結合エネルギー) + + ー 原子核反応のエネルギーは 質量(差) で表される。 核反応エネルギー = 光速 (原料の総質量 - 生成物の総質量)×c2 『質量欠損』 ウラン 235 _92 U + バリウム n → 144 _56 Ba+ クリプトン 89_ 36 Kr E = m c2 中性子 + 3n (235.0439u + 1.0087u) – (140.9139u + 91.8973u + 3×1.0087u) = 0.2153u 1u = 普通の炭素原子の質量の1/12 = 1.66×10-27 kg 235.0439 : 0.2153 = 1 : 0.00092 ウラン235 1 g から 0.00092 g の質量欠損 = 830億 J(ジュール)のエネルギー ( c = 3.0×108 m/s) = 2 TOE (石油換算トン) :化学的エネルギー = 200億 カロリー = 約40 トンの水が沸騰(気化) する。 日本国内の平均発電量 = 約1.2 億キロワット (*) (1秒あたりのエネルギー 生成あるいは消費量) 3600秒×24時間 倍して 1日あたり平均発電量 = 1013 キロジュール (消費量) = 20万 TOE(~小型タンカー1隻に匹敵) = ウラン235 100 kg (~サッカーボール大) (*)現在、日本国内の原子力依存度は 約25% と言われている。 原料 『イエローケーキ』 「放射能発生域」 (X線なども含む) なぜ原発か?(設置者側の主張) 建設費用、ランニングコストが安い。 化石燃料の枯渇。 (最近の論調) クリーン=「CO2を出さない」 しかしぃ.....使用済み燃料は? いったん事故が起きると深刻な災害となる: 近隣住民の 「生存権」 の侵害が起きている。 国(=国民)による費用負担 「決して安くない」 原発事故は最高級の公害・環境汚染 自然エネルギー(太陽光、風力など)は採算がとれないのか?
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