大学院理工学研究科 2004年度 物性物理学特論第4回

工学系12大学大学院単位互換 e-Learning科目
磁気光学入門第6回 - 磁気光学効果の電子論(1):古典電子論-
佐藤勝昭
東京農工大学
復習コーナー
磁気光学Kerr効果

1.
2.
反射の磁気光学効果を磁気光学カー効果
(MOKE)という
通常の反射の法則を導く:電界に対する反
射率=複素振幅反射率(Fresnel係数)
右回り円偏光に対するFresnel係数と左回
り円偏光に対するFresnel係数の差を考え
る。位相の差からKerr回転が振幅の差から
Kerr 楕円率が導かれる。
復習コーナー
斜め入射の場合の反射

反射は界面における電
磁波の伝搬の境界条件
により決められる。
Kのx成分の連続性
K0sin0=K1sin1=K2sin 2
これよりSnellの法則が導かれる。
1 
法線
n02
E1p
K0
E0p
0
 0 1
sin 2 K 0
 1 Nˆ 1



sin 0 K 2
 2 Nˆ 2
K1
X
1
Y
2
 2  n  i 2
Z
E2p
K2
復習コーナー
複素振幅反射率(Fresnel係数)
P偏光の反射
E1P K 2 cos 0  K 0 cos 2
rp  P 
K 2 cos 0  K 0 cos 2
E0

S偏光の反射
K 22 cos 0  K 02 K 22  K 02 sin2  0
K 22 cos 0  K 02 K 22  K 02 sin2  0

tan 0   2 
tan 0   2 
E1S K 0 cos 0  K 2 cos 2
rs  S 
K 0 cos 0  K 2 cos 2
E0
sin 0   2 


2
2
2
sin 0   2 
K 0 cos 0  K 2  K 0 sin  0
K 0 cos 0  K 22  K 02 sin2  0
ここに、rp=|rp|eiδp、rs=|rs|eiδsである。
復習コーナー
エリプソメトリ(偏光解析)
rs
cos( 0  2 ) rs


exp(i )  tan  exp(i )
rp
cos( 0  2 ) rp



 azimuth (方位角)
 phase (位相差)
反射は方位角と位相差=p-sによって記述できる。反射光
は一般には楕円偏光になっているが、そのp成分とs成分の逆
正接角と位相差を測定すればrが求められる。(測定には
1/4波長板と回転検光子を用いる。)この方法を偏光解析また
はエリプソメトリという。
復習コーナー
P偏光反射率とS偏光反射率

第1の媒体が真空、第2の媒体の複素屈折率が Nˆ
の場合
Rp 
Rs 
2
2
2
ˆ
ˆ
N cos 0  N  sin  0
Nˆ 2 cos 0  Nˆ 2  sin2  0
cos 0  Nˆ 2  sin2  0
cos 0  Nˆ 2  sin2  0
2
2
復習コーナー
入射角に依存する反射率

P偏光とS偏光で
は反射率の入射
角依存性が異な
る。
復習コーナー
垂直入射の光強度反射率と位相

R=r*r=|r|2は光強度の反射率、は反射の際の
位相のずれ
R
(1  n)2   2
(1  n)  
 2
  tan1 2
n   2  12
2
2
n

1 R
1  R  2 R cos
2 R sin
1  R  2 R cos
復習コーナー
反射率と位相

Kramers-Kronig(クラマースクローニヒ)の関係
  ln R()

 ( )  P  2
d

2
 0   
復習コーナー
Kerr効果
K  
   
2


2
r  r
1 r 1 R
K 


r  r
2 r
4 R

磁気カー回転角Kと磁気カー楕円率Kをひと
まとめにした複素カー回転K

r
rˆ
1  rˆ 
 K   K  i K  
i
 i
 i ln 
2
2r
2rˆ
2  rˆ 
復習コーナー
複素カー回転
K 

 xy
1   xx 
 xx
この式から,カー効果が誘電率の非対角成分
xyに依存するばかりでなく,分母に来る対角成
分x xにも依存することがわかる.
磁気光学効果の電子論
今回:古典電子論(光と磁気第4章4.1、4.2)
 電子を古典的な粒子として扱い、磁場中の古典
的運動方程式を解いて電子の変位を求め、分
極や誘電率を計算します。
 次回は量子論にもとづく扱いをお話しします。

誘電率と電気分極

物質中の電束密度はDは、真空中での電束密度0Eに
物質の電気分極Pがもたらす電束密度を付け加えたも
のとなっています。
D  ~ 0 E   0 E  P

(4.1)
一般に、電気分極Pは印加電圧に依存し、電気感
受率テンソルを用いて、次式のように表せます。
~
P   0 E
比誘電率テンソルは
成分で書くと
~
~
  1 
 ij   ij  ij
(4.2)
(4.3)
(4.4)
電気分極は、電気双極子の総和

電気分極Pは単位体積あたりの電気双極子の総和
を表しているので、電気双極子(電荷q、距離u)密
度をNとすると、Pは次式であらわされます。
P  Nqu

(4.5)
したがって、電界Eを加えたときの電荷対の相対変
位uを見積もることができれば、電気感受率、ひい
ては、比誘電率を求めることができます。
電界・磁界のもとにおける荷電粒子の運動

古典力学の運動方程式を考えます。
荷電粒子の電荷 q [C], 質量 m [kg]
 荷電粒子の変位 u=(x, y, z) [m]
 慣性力 md2u/dt2
 摩擦力 mdu/dt
 Lorentz力 q(E+vB)=q(E+du/dtB)

B
運動方程式の振動解
運動方程式
m
d 2u
dt
2
 m
du
du


 m 02u  q E 
 B
dt
dt


(4.6)
B  (0,0, B) (磁界はz方向を向いているとします。)
E  E 0 exp i t  u  u0 exp(it ) (振動解を仮定します。)
 m 2u  imu  m02u  qE  iu  B


(4.7)
m  2  i  02 x  iqBy   qEx


iqBx  m  2  i  02 y   qE y


m  2  i  02 z   qEz
という連立方程式が得られます。
(4.8)
変位uを求める

x
連立方程式を解いて、変位u=(x, y, z)を求めます。
 2  i  02
i c
q
q

m  2  i
i c
q
y
m  2  i   2
0


2 2
 0

2
  2c2
Ex 

m  2  i

2 2
 0
  2c2
Ey
 2  i  02
q
Ex 
Ey
2
m  2  i   2   2 2
  2c2
0
c
q
1
z
Ez
2
2
m   i  0


電気分極Pを求める

P=nquにより分極Pを求めます。
 2  i  02
i c
nq 2
nq 2
Px  
Ex 
2
2
2
2
2
m   i  
m  2  i   2



0
c
0

i c
nq 2
Py 
m  2  i   2
0



2


2

c2
2
Ey
 2  i  02
nq 2
Ex 
Ey
2
2 2
2
2
2
2
m   i  
  c
  c
0
nq 2
1
Pz  
Ez
2
2
m   i  0


ここに c  qB m はサイクロトロン
角振動数です。
電気感受率を求める

P=0Eにより電気感受率を求めます。


Py   0   xy Ex   xx E y 
Px   0  xx Ex   xy E y
Pz   0  zz Ez
2
nq
 xx    

m 0
 c  qB m
  i  02
2
2 2
  i  0   2c 2
2


より、非対角成分は磁
界に比例することがわ
かります。
i c
nq 2
 xy    

m 0  2  i   2 2   2 2 (4.9)
0
c

nq 2
1
 zz    
 2
m 0   i   02

が得られます。
誘電率に変換する

ij=ij+ijを用いて、誘電率テンソルに変換します。
2
 2  i   02
nq
 xx    1 

m 0  2  i   2
0


2
  c
2
2
 c  qB m
i c
nq 2
 xy    

m 0  2  i   2 2   2 2 (4.10)
0
c


nq 2
1
 zz    1 
 2
m 0   i   02
伝導率テンソルであらわすと

(4.10)式をσで書き直すと
 2  i   02
nq 2
 xx    i

m  2  i   2 2   2 2
0
c


 2 c
nq 2
 xy   

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c


nq 2
1
 zz    i
 2
m 0   i   02
(4.11)
磁界ゼロの場合:ローレンツの式

B=0なのでc=0を代入するとLorentzの分散式が得られます。
nq 2
1
 xx     zz    1 
 2
m 0   i  02
 xy    0
(4.12)
 2   02
nq 2
 xx ( )  1 

m 0 ( 2   02 ) 2   2 2
nq 2

 ( ) 
 xx

m 0 ( 2   02 ) 2   2 2
(4.13)
磁界がなく,束縛項もない場合:
ドルーデの式

c=0, 0=0とおくとDrudeの式が得られます。
nq 2
1
 xx     zz    1 

m 0  (  i )
 xy    0
(4.14)
nq 2
1

 xx ( )  1 

m 0  2   2
p’=
(4.15)
nq

 ( ) 
 xx

m 0  ( 2   2 )
=p’のとき実数部はゼロを横切ります。
2
0のとき虚数部は発散します。
負の誘電率
プラズマ振動数

Drudeの式で、ダンピング項を0としたとき、εの実数部が0とな
る振動数を自由電子プラズマ振動数pとよび下の式で求めら
れます。
nq2 1
 xx ( )  1 
 2 0
m 0  p
p 
nq 2
m
ダンピングのある場合のDrudeの式をpを使って書き直すと
 xx ( )  1 
 ( ) 
 xx
 2p
2   2
 2p
 ( 2   2 )
 p   2p   2
においてゼロを横切ります
FAQ
金属中の電子はなぜ自由電子と見なせるのか
金属では、構成している原子が外殻電子を放出して
結晶全体に広がる電子の海を作っています。
 この電子の海による遮蔽効果で、原子核の正電荷か
らのクーロンポテンシャルは非常に弱められています。
 このため、電子はあたかも自由電子のように振る舞う
のです。実際、有効質量もほとんど自由電子質量と
一致すると言われています。

FAQ
金属結合




金属においては、原子同士が接近していて、外殻のs電子は互
いに重なり合い、各軌道は2個の電子しか収容できないので膨
大な数の分子軌道を形成しています。
電子は、それらの分子軌道を自由に行き来し、もとの電子軌道
から離れて結晶全体に広がります。これを非局在化といいます。
正の原子核と負の非局在電子の間には強い引力が働き、金属
の凝集が起きます。
この状態を指して、電子 + + + + +
+ + + + +
の海に正の原子核が浮 + + + + +
+ + + + +
かんでいると表現されま + + + + +
+ + + + +
す。
+ + + + +
+ + + + +
FAQ
自由電子とプラズマとの関係が分からない


金属は電子がたくさんありますが、全体としては中性
です。これは、電子による負電荷の分布の中心と原
子核の正電荷の中心が一致しているからです。
光の電界を受けて電子が+側に移動すると、-側に
は正電荷が残されます。この結果電気分極が生じる
のですが、このように正電荷と負電荷が空間的に分
離した状態をプラズマというのです。
電子の移動
+ -
+
-
電界
+
FAQ
金銀銅の反射スペクトル
波長表示
 
 
hJ  scm  s  6.62610
EeV 

EJ   hJ  s s
-1
hJ  sc m  s -1

 m
-1
 meC
エネルギー表示
 34
 2.998108
1240

 nm109 1.6021019  nm
佐藤勝昭:金色の石に魅せられて
FAQ
貴金属の選択反射の原因




光は電磁波の一種です。つまりテレビやラジオの電波と同じように電界と
磁界が振動しながら伝わっていきます。
金属中に光がはいると金属中に振動電界ができ、この電界を受けて自
由電子が加速され集団的に動きます。
電子はマイナスの電荷を持っているので、電位の高い方に引き寄せられ
ます。その結果電位の高い方にマイナスの電荷がたまり、電位の低い側
にプラスの電荷がたまって、電気分極が起きます。
外から金属に光の電界が進入しようとすると、逆向きの電気分極が生じ
て電界を遮蔽してしまって、光は金属中に入れません。光が入れないと
いうことは、いいかえれば、光が全部反射されてしまうということを意味し
ます。
磁界がかかっており束縛項がない場合:マグネトプラ
ズマ共鳴

0=0,=0を代入しますと
2=p2+c2で
ゼロを横切る
p
nq 2
1
 xx    1 

1 2
m 0  2  c 2
  c 2
2
 pc
nq 2
 ic
 xy   

 i
m 0   2  c 2
  2  c 2



p
nq 2 1
 zz    1 
1 2
m 0  2

2
= cで発散
2
マグネトプラズマ共鳴

マグネトプラズマ共鳴の伝導率表現
ij=-i0(ij-ij)によりに変換すると
 xx    i 0  zz  1 
 xy    i 0 xy 
i 2p 0
 2  c 2
 2pc
 2  c
 zz    i 0  zz  1 

2 0
i 2p 0

(4.17)
ホール効果
(直流において、自由電子のみを考え、磁界のある場合)

DCにおいては、→0とすることにより、次式を得ます。xyはx方向に電流
が流れたときy方向に電圧が生じることを表していますから、まさにホール
効果を記述するものとなっています。
0
nq 2

q
2
2
 xx 0 
 2
 nq
 nq 2

2
2
2
2
m c  
m c  
(c /  ) 2  1
c  

c
c / 
nq 2
q
 xy 0 
 2 c 2  nq
0
2
2
m c  
m c  
(c /  ) 2  1
(4.18)
nq 2 1
q
 zz 0 
  nq
 nq   0
m 
m
ここに0は直流伝導率です。抵抗率テンソルに変換すると次式になります。
 xx   zz 
 xy  RH B
1
0
(4.19)
0 
1 /  0  RH B


ˆ
   RH B 1 /  0
0 
 0
0
1 /  0 

磁界がかかっていて,束縛がなく,
散乱のない場合
 xx    1 
 xy    i
 zz    1 
 2p
N    xx  i xy
2
 2  c 2

 2pc
   c
 2p
2
2
2

 2p
  c   1 
1
2
2
   c 
   c

 2p

(4. 21)
Feの磁気光学効果は古典電子論で説明できるか?
i c
nq2
 xy    

m 0  2  i   2 2   2 2
0
c



比誘電率の非対角成分の大きさ:最大5の程度
n  1022 cm 3  1028 m -3
   0  2eV   0.1eV
キャリア密度
B=3000Tという非現実的な磁界が必要
磁気光学効果の量子論
スピン軌道相互作用によって初めて説明可能
と仮定
(4.10)
量子論に向けて
古典電子論では、電子が原子核にバネで結びついているイメー
ジで説明しました。
 しかし、実際には、電子は原子核の付近にクーロン力で束縛さ
れ、その軌道のエネルギーは、量子数で指定されるとびとびの
値をとります。
 誘電率とは、物質に電界が加わったときの分極のできやすさを
表す物理量です。分極とは、電界によって電子の波動関数の
分布の形がゆがみ、重心(負電荷)が原子核(正電荷)の位置
からずれることを意味します。
 波動関数の分布のゆがみは、量子力学では、基底状態の波動
関数に、励起状態の波動関数が混じり込むことによって生じま
す。この変化の様子を説明するのが「摂動論」です。

電子分極のミクロな扱い:対角成分
電界の摂動を受けた
波動関数
電界を印加
すると
+
E
+
-
 1 x 0 2
2 Nq  10

 0  102   2

2
無摂動系の
波動関数



2
2
  j 0   
2

 20 2 x 0







 202   2


2 Nq 2
 xx   
 j 0 j x 0
 0 j
2
1
|2>
<0|x|2>
<0|x|1>
+
-
摂動を受けた
波動関数
=
+
+
s-電子的
+・・・・
p-電子的
無摂動系の固有関数で展開
|1>
<2|x|0>
<1|x|0>
|0>
量子力学入門





量子力学では、電子は波動関数で表されます。
波動関数の絶対値の2乗||2が存在確率を与えます。
電子の状態を記述するには、運動方程式の代わりに、シュレー
ディンガーの波動方程式を用います。
シュレーディンガー方程式は、H=Eと書きます。
ここにHはハミルトニアン演算子、Eはエネルギーの固有値です。
ハミルトニアン演算子Hは、運動量演算子p、ポテンシャルエネ
ルギー演算子Vを用いてH=-(1/2m)p2+Vとなります。ここにpは、
p  i によって表される演算子です。
■ 運動量の期待値は、pを*とで挟み全空間で積分して求めます。
p
 * pd


  *d
課題
1.
2.
式(4.7)から式(4.9)が導かれることを確かめ
てください。
今回の講義の感想・質問等を書いてください。