LIBOR動向:疑問に答えて 2016年 9月12日 ゼーン・ E ・ブラウン パートナー、債券ストラテジスト 投資家からのフィードバックをもとに、基準貸出金利である LIBOR の昨今の急騰がもたらし ている影響について、以下にさらなる洞察を示していきます。 要旨 3 ヵ月物ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)のこのところの上昇は、投資家の間に多くの 疑問を生んでいます。 本レポートでは以下の疑問について検証していきます。 —米国融資における LIBOR の役割 —基準金利である LIBOR の昨今の急騰の原因と影響 —LIBOR がこの先も現在の水準で推移する可能性 —プライム・マネー・マーケット・ファンド(MMF)(主に社債へ投資)への潜在的な影響 —今後予想される銀行からの反応 —米連邦準備理事会(FRB)による利上げが LIBOR に影響を与える可能性 鍵となる論旨 — 10 月 14 日にマネー・マーケット・ファンド(MMF)への新規制が発効とな ることを受けて、当面の間、LIBOR 動向への関心は高い状態で推移することが予想され ます。 痛いところを突くとはこのことです。8 月 22 日付けマーケット・インサイツ「投資家にとって LIBOR の上昇が意味するもの」は投資家の間に大きな議論を巻き起こしました。実際、同リサーチで検 証した 3 ヵ月物 LIBOR の急騰は、証券担保融資のコスト上昇から変動金利ファンドにおける変 動金利バンクローンのクーポンへのプラスの影響に至る様々な重要な課題を浮上させました。 こうした事態の進展への理解を深めるため、予想外の LIBOR 急騰に絡んで我々が受け取った 最も一般的な疑問のいくつかについて、以下に見ていきたいと思います。 なぜ米国のローン、住宅ローン、証券担保ローンはロンドンで設定される金利に連動しているの か? LIBOR は世界的な主要短期基準金利です。LIBOR はロンドンで事業を行っているグローバルな 大手銀行の調達コストを示す指標です。LIBOR はその透明性の高い決定手法(最近の不正操作 は別として)から世界的に受け入れられ、基準指標金利の標準として発展しました。インターコン チネンタル取引所によれば、LIBOR は 350 兆ドルもの様々な期間の発行済取引の基準金利とな 1 っています。LIBOR は 5 つの通貨の 7 つの異なる期間で算出されており、米ドル建て 3 ヵ月(90 日)物 LIBOR が最も広く利用されている基準金利となっています。 短期金利に動きが見られなかった局面でなぜ 90 日物 LIBOR が急騰したのか、もう一度説明し てほしい。 通常、銀行の信用力に懸念が生じた場合、LIBOR を含む銀行調達金利は上昇に転じます。投資 家は銀行に資金を貸すのをためらうでしょう。そうした需要の減少が金融機関発行コマーシャル ペーパーや銀行預金金利を押し上げ、また銀行間での借入れ金利である LIBOR をも上昇させる のです。 しかし現在の LIBOR 上昇は銀行の信用力とは無関係で、むしろ需要の減少が原因となっていま す。10 月 14 日に発効する米国の MMF 規制改革では、米国債 MMF の基準価額(NAV)は 1.0(1 口当たり 1 米ドル)に据え置かれるものの、国債以外の証券に投資が可能なプライム MMF は変 動 NAV に移行します。1 米ドルの固定 NAV を求める投資家の確実性志向を受けて、多くのプラ イム MMF が国債ファンドに転換しています。さらにそれ以外のプライム MMF は NAV の変動を 抑えるため投資対象の平均償還期間を大幅に短くしています。例えばドイツ銀行は、大手金融 機関向けプライム MMF の加重平均償還期間を今年初めの 30 日超から 8 月半ばまでに 12.7 日 という過去最低水準へ短期化したと報告しています。 プライム MMF の資産の減少-国債ファンドへの転換と残りのプライム MMF による購入投資対 象の償還期間の大幅な短期化とが相まって-は、30 日超の銀行調達資金に対する需要を減少 させました。銀行が銀行間貸出市場へと動き、LIBOR、とりわけ基準金利である 90 日物 LIBOR は上昇したのです。基本的に、MMF 規制改革は LIBOR を指標とする何兆ドルもの資金の利回り を押し上げる可能性が高いと見られます。 こうした急騰はずっと続くのか? LIBOR がこの先どの程度の期間、高水準で推移し続けるかを予測することは誰もできないでしょ う。しかし需給要因が変化してきていることは確かです。プライム MMF が国債 MMF へと転換し、 残りのプライム MMF が平均償還期間を短期化したことを受けて、わずか数カ月間に数千億ドル のプライム MMF が減少し、それによって金融機関発行コマーシャルペーパーと 30 日超の銀行 預金への需要が大幅に減少したことで、銀行は LIBOR 調達コストの上昇を余儀なくされていま す。新たなまとまった買い手たちが出てこない限り、対 90 日物短期国債及び対フェデラル・ファン ド(FF)金利における現在の新たな 90 日物 LIBOR スプレッド拡大水準は、今後も続く可能性が 高いと言えるでしょう。 利率がより魅力的なものとなれば、他の投資家がプライム MMF にとって代わることはないので しょうか? 企業キャッシュアカウントのマネージャーたちは元来、魅力的な利回りの短期銀行調達資金に対 する投資意欲を持っています。しかしながら、アクティブな MMF 投資家としての彼らの継続的な 投資スタンスによっても、プライム MMF の資産減少による需要の空白は埋められていません。 企業からの投資流入継続にも関わらず、短期の金融機関発行コマーシャルペーパーの利回りと 90 日物 LIBOR は、ともに(10 月 14 日が近づくにつれ)着実に上昇を続けています。 こうした利回りスプレッドの拡大に歯止めをかける短期投資家は他にも存在するでしょう。投資マ ネージャーたちによる超短期デュレーションファンドの登場は、そのプライシングが他の代替投資 に比べて魅力的であるならば、銀行調達資金を含む短期投資への需要を徐々にもたらしてくれ る可能性があります。このような展開になれば、銀行調達資金と 90 日物 LIBOR の利回り上昇が 抑えられる可能性もあります。しかし、プライム MMF において国債ファンドへの転換や投資パタ ーンの変化を通じて減少した資産に置き換わろうとするならば、こうしたファンドは劇的に拡大す 2 る必要があるでしょう。したがって、 MMF 改革が招いた現在の利回りプレミアムを反転させられ るほどの需要増が生まれることは難しいと考えられます。 90 日物 LIBOR への圧力軽減に向けて、銀行は資金調達構造を変えることができるのでしょう か? 大きな転換が見られる可能性は低そうです。90 日を超える調達はコスト増となります。銀行は期 間の短い新たな資金を調達することができるかもしれませんが、プライム MMF の減少はこうした 期間の短い資金への需要を抑えることにもなります。加えて 30 日未満の調達では、その管理コ ストと借り換えの不確実性によって、90 日物 LIBOR に代わる効果的な調達戦略としての魅力が 減少しています。 銀行はドルの調達に米ドル LIBOR を使う代わりに円やユーロ建て LIBOR を使い、その後米ドル に戻すという為替ヘッジを行うことも可能ですが、クレディスイスによれば、ヘッジ後のコストは現 在 1.2%程度と 90 日物米ドル LIBOR の 0.83%を上回っています。 FRB が 9 月あるいは 12 月に利上げを行った場合、90 日物 LIBOR も上昇するのでしょうか? FRB による利上げはあらゆる短期利回りを押し上げる上げ潮となるはずです。2015 年 12 月に FRB が利上げを実施した際には、90 日物短期国債、90 日物金融機関発行コマーシャルペーパ ー、そして 90 日物 LIBOR は全て約 25bps 上昇しました。90 日物金融機関発行コマーシャルペ ーパーと 90 日物 LIBOR が FF 金利と 90 日物短期国債よりも一段高い上乗せプレミアムで取引 されている今、FRB による利上げは同程度の幅でほとんどの短期投資利回りを押し上げる可能 性が高いと見られます。投資家は、短期国債と FF 金利に対する 90 日物金融機関発行コマーシ ャルペーパーの上乗せ利回り-最近では 50bps 程度-を、この先も求めていくものと考えられま す。FF 金利と短期国債利回りが上昇すれば、90 日物金融機関発行コマーシャルペーパーと 90 日物 LIBOR でも同様の動きがみられると予想されます。 リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般 に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。債券はまた期 限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市場リスクといった他のリス クも伴う可能性があります。ジャンク債と時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動 性の低さ、適時の元利払い不履行リスクを伴います。ローン保証に利用される特定の担保価値が下 落する可能性や流動性が低くなる恐れがあり、ローン価値にマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。 通常では、より期間の長い債券は金利変動に対してより敏感に反応します。償還日までの期間が長 いほど、金利変動が債券価格にもたらす影響度は高くなります。低格付け債券は高格付け社債より 高いリスクを伴います。全ての市場変動を乗り越え、将来の成果を保証する投資戦略は存在しません。 マネー・マーケット・ファンド(MMF)とは、1 口当たりの純資産額(NAV)を 1 米ドルに維持する一方で、 持分の保有者に利息を支払うことを目的とした運用商品です。MMF のポートフォリオは、短期または 1 年未満の優良かつ流動性のある債券および運用手段で構成されます。投資家は、ミューチュアル・ ファンドや証券会社、銀行を通して、MMF の持分を購入することができます。主として企業が発行する 債券に投資する MMF を、プライム・ファンドといいます。MMF への投資は、連邦預金保険公社または その他の政府機関による保証の対象外となります。MMF では、1 口当たり 1 米ドルの投資価値の維 持に努めていますが、MMF への投資によって元本が棄損する可能性もあります。 見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。予想を保 証ととらえるべきではありません。 市場が将来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを示す保証は一切ありません。 1 ベーシスポイントは 1 パーセントの 100 分の 1 です。 3 フェデラルファンド(FF)金利とは預貯金取扱金融機関が即日利用可能な資金(FRB に預けている準 備預金)を他の預貯金取扱金融機関にオーバーナイトで貸し出す際の利率です。 LIBOR は、銀行がロンドン銀行間市場において他の銀行から市場性のある規模の資金を借り入れる ことができる金利を指します。LIBOR は英国銀行協会によって日々決定されます。LIBOR は翌日物 から 1 年間までの規模の大きいローンについて世界で最も信用力のある銀行間の預金利率のフィル ター後平均値を基に算出されます。 前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可能性 があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または一般的な 市場に関する予測、リサーチ、投資アドバイスとしての利用を目的として作成されておらず、また法的・ 税務上の助言を提供するものでもありません。本資料は当社が信頼できると思われる情報に基づい て作成されておりますが、当社はその正確性および完全性について保証するものではありません。 本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの勧 誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではなく、以上 のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引法に基づく開 示書類ではありません。 著作権 © 2016 by Lord, Abbett & Co. 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