大阪樟蔭 行動分析実習(5) 行動の記録・実験(実践)デザイン ●関連リンク:望月昭(1993)「行動変化の観察と評価(講座3回連 載)」、月刊実践障害児教育、21巻(10月号~12月号) http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/13-Mochizuki(1993).pdf 1 今回の内容 ・なぜ記録をとる必要があるのだろう? ・連続して生じる行動(=オペラント行動)を記録す る方法にはどんなものがあるか? ・課題分析(Task Analysis)はいつ行う? ・グループデータでも逸話記録でもない、 個人を対象にした単一被験者実験法とはどのよ うなものか? ・ABABデザインとマルチベースラインデザインの 使い方 2 1. 「報告も実践のうち」 臨床・対人援助活動そしてその研究とは、報 告言語行動に対する強化を以って完成する。 2.「具体的目標が決まっていない実践は、記録 がとれない」(望月,1993) 目標設定の定まらない実践、つまり、従属変 数が決まっていない実践では、それに対する独 立変数も決まらない。 =無責任 3 Ⅰ.記録と報告の意味は何か? =「実証的研究」をするとはどういうことか? 記 録 ・ 報 告 も 「 言 語 行 動 」 で あ る 。 とすれば その言語行動の機能はどういうものか? Ⅱ.行動の記録と課題分析 Ⅲ.実践のためのデザイン 4 Ⅰ.記録と報告の基本的意味 行動分析の基本的作業は「記述(記録)」であると言われる。 その内容 ・対象となる個人(あるいは集団)の行動(従属変数)と、それ を決定する環境設定(独立変数:教授内容・援助設定)の関係 を、公共的な形で表記すること 記録(記述):それは言語行動である このような内容を記述する行動の機能はどのようなものか? 機能:いったいどんな強化随伴性がそこにはあるか? 5 1.言語行動であるとすれば随伴性は? 先行状況刺激 対象の行動と環境 反応(行動) 行動記述 結果 ? 記述行動の「強化」を 決める先行状況 ? いったいどんな先行状況のもとで、誰に強化されるか? 6 先行状況 強化(結果)の内容 教員・学会 “A” 卒業論文提出規則 強化者 記述・報告者自身のプロモーションが中心 本人の「好奇心」 新発見 記述内容自体 これも、記述報告者中心の強化随伴性 発表者のプロモーションという随伴性関係が否定的なものであ るというわけではない。 対人援助という実践の記録・報告(=研究)行動には必ず含ま れるということを認識してもらいたいということ。 7 対人援助に含まれる「コミュニケーション」(人が人を(に)動か す(される)社会的行動)の内容と流れ 教授・援助の現場 (実践と)記述 援護の場 報告 望月(1997)「応用行動分析学入門」第1章 8 先の図と、この図(対人援助の機能)の関係を考えよ! 治療・教授 援助 行動成立のための 新たな環境設定 援護 援助設定の定着のため の要請 9 (報告の重要性) 対人援助場面における実践(分析)に伴う記述・報告 1)本人の行動(反応)を変えて社会的適応に「成功」 報告内容:適応のための教授(治療)の変数の記述 社会的成員(聞き手)が、本人の適応の為の作業を支 援者に求めている場合には社会的強化あり 2)行動成立のための環境設定(援助設定)の同定に「成功」 報告内容:社会成員に対して、必要な環境(援助)設 定を要請する(=援護 ) もし社会的成員が、あくまで本人の側の適応のため の作業を求めていた場合には強化されない 新たな社会的強化場面あるいは強化を受け るための環境変容行動を行う必要あり 10 1)の例として 狭義の「カウンセリング」事態 先行状況 対象者本人からの依頼 強化(結果)の内容 本人からの謝礼・感謝 強化者 本人 依頼が達成された場合には、特に「記録・報告」行動は必 要とされない場合もあり:記録・報告は援助者にとどまる 事も多い。 本人-報告者という狭い場面での随伴性 11 1)の例として 先行状況 被援助者をとりまく 関係者による依頼 (障害児の親、施設管 理者、学校運営者から の依頼) 強化(結果)の内容 強化者 クライエントからの 社会的強化(金銭・感 謝) 先行状況の 内容と同じ ただし、これは、課題解決内容がクライエントの依頼内容に一 致している場合 一般的な対人援助実践研究(記録報告)の随伴性 比較的狭い場面(クライエント-報告者)で 完結する 12 新たな環境設定(援助設定)を必要とせず、指導者(=支援者・実践 者)と本人との「コミュニケーション1」の中で完結するものは、その 「教授」「臨床的作業」そのものが社会的強化の対象となり、「報告行 動」は付加的なものである。 ここで! 2)「新たな環境(援助設定)」が必要であることが実証さ れた場合 ●報告は実践のために重要な作業(=援護)とな る ●1)までの文脈からすると、必ずしも社会的強化 を受けない場合もある 報告の説得力が求められる→そこでは記録・報告の質(クオリテ 13 ィ)が重要なポイント CAUTION! • 訓練室での要求言語行動の訓練の後、 日常での「般化」がみられなかった場合、 この事態は「教授」作業の失敗と表現されるかも知れない。 ・しかし、日常環境の中に、要求言語行動の自発を促進する援助 設定を見出すことができた場合、般化がなかったことは、訓練 室での訓練が失敗したのではなく日常場面に欠けていた「援助 設定」を見出すための成功事例と、捉えることもできる。(先の 「新たな環境設定の同定」) ↓ ・「パッシブシミュレーションとアクティブシミュレーション」 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/14-Mochizuki(19981999).pdf 14 ある場面 学校 S 地域 S アクティブ・ シミュレーション R パッシブ・ シミュレーション S R S Situation Situation AA Active Simulation and シミュレーションの Passive Simulation 場としての学校 Situation SituationBB 15 19 Ⅱ.記録の方法 記録をとる前に: これから記録をとろうとする行動(反応)について、客 観的な表現で定義できているか? 「まじめに作業できる」(???) ●決められた時間の中で休まないことか? ●開始時間になったらすぐに始めることか? ●単位時間あたりの作業量が多いのか? ●正確に作業をこなすということか? 16 Ⅱ-1:行動の記録の単位・表現 ある機会あたりの反応数(反応比率 ratio) 時間あたりの反応数(反応率 rate) 時間間隔記録法 時間サンプリング エピソード記録法 17 査定の選択 短い期間 対象反応 明確? YES 時間・場 所 長い期間 NO 定時観測 可能? 時間間隔 記録法 複数反応 対象可 YES NO 指導目標 反応形 野呂(1997) 「応用行動分析 学入門」(学苑 社) 反応比率 ratio 生起頻度 反応率 rate 時間サンプ リング エピソード記録 18 時間間隔記録法による記録 数十秒の間にある反応が出たか、出ないか? 19 時間サンプリングによる記録 比較的長い時間の中で、数分ごとの最後に出たか出ないか 20 行動が目標の形に変化しつつある場合(学 習:acquisition中)の記録・表現 ある作業についてどれくらいできているか どんな 部分について「教授」したり「援助」 が必要かを知 る(課題に対するアセスメント) ●誰もが同じ記録が残せるような具体的 な目標が設定されているか? ●その行動に必要な下位の行動を分解 どの部分ができているか どのくらいの援助でできるか その表現方法は? 21 課題分析 目標とする(複雑な)行動を、 時系列的に「教授」や「援助」を しやすい行動要素にわける。 22 スーパーで買い物をする課題分析(応用行動分析入門) 23 上昇方向で 「薄い」援助へ 各行動に必要な「援助」内容の表現 24 高齢者におけ るPC操作の支 援 (課題分析) 斉藤(2001) Mさんの課題分析 : メールを送信する 1 電源ボタンを右に引く。 2 スタートボタンの横にある「Outlook Express」のアイコンをクリックす る。 3 「ダイヤルアップの接続」の[オフライン作業]ボタンをクリックする。 4 [Outlook Express]の青い帯の端の×印をクリックする。 5 「新しいメール」アイコンをクリックする。 6 メッセージの作成が出るので「宛先:」の横の白い枠をクリックし、送信 先のメールアドレスを入力する。 7 キーボードの「半角/全角」キーを押し日本語入力ができる状態にす る。 8 「件名:」の横の白い枠をクリックし、メールのタイトルを入力する。 9 下の白い画面をクリックし、本文を入力する。 10 メールができたらツールボタンの「送信」アイコンをクリックする。 11 「送受信」アイコンをクリックする。 12 「オンラインに切り替えますか」で「はい」ボタンをクリックする。 13 「ダイヤルアップの接続」の[接続]ボタンをクリックする。 14 「送信済みアイテム」ホルダに移動したのを確認して、×印をクリック して「OutlookExpress」を終了する。 15 「今すぐ切断する」をクリックして回線を切断する 16 「スタート」ボタンを押し「Windowsの終了」をクリックする。「電源を切れ る状態にする」にチェックがついてることを確認して「OK」ボタンを押 す。 25 プロンプトの段階 1 2 全介助 部分介助 3 モデル提示 4 言語指示 5 斉藤(2001) なし 対象者の手を持って一緒に動かす キーあるいは画面を一つ一つ指し示す キーあるいは画面を一つ一つ指し示す 先に同じ動作をする 「人差し指で押したまま右にずらします」 対象者が自発的に行う 26 Mさんの結果 100 90 チェックリスト記入 チェック マニュアル チェックとフィードバック チェックリストとフィードバック 80 正 答 率 マニュアル 70 60 (%) 50 40 30 励ますだけ 20 10 課題分析 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 1 2 3 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 1 1 4 23 24 24 24 124 124 124 124 124 124 124 14 14 14 2 3 4 4 4 4 4 2 24 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 1 4 4 1 2 1 4 1 4 4 4 2 4 3 5 4 6 7 4 4 4 9 4 4 4 4 4 4 4 4 10 4 4 11 4 12 4 4 4 6 16 17 18 19 18 19 4 4 4 4 4 4 4 7 15 4 4 4 4 4 14 4 4 4 4 4 24 4 2 13 4 4 4 4 4 4 4 4 4 5 8 8 4 4 9 4 10 11 12 13 14 15 16 17 27 斉藤(2001) Ⅲ. 実験デザイン 独立変数としての教授方法や援助設定が、従属 変数である行動に対して影響を及ぼしているか を検討する。= 実験デザイン 「特定個人」において、行動の原因となっている 独立変数を特定していく →Single Subject Design 1回だけ独立変数をみるのでは信頼性が低い。独 立変数の導入を複数回繰り返してその効果を検 証する必要がある(=replication:追試) そこで「実験デザイン」というものが必要となる 28 デザインの基本:Baseline ある独立変数(教授方法や援助方法)と行動的結果 (従属変数)の間の機能的関係をみるためには、当 該の支援を導入する前の(導入しない時の)状態と 比較する必要がある。 「ベースライン」をとってみよう ベースライン:これから試してみるトリートメント(教授・ 援助)を導入する前に、現状での当該行動の出方(反 応率や反応比率など)を、数回(3回)とってみる。 29 ベースライン 行 動 の 変 化 ( 回 数 ・ 持 続 時 間 な ど ) 介入前の状態 介入(教授)スタート セッション(日数) 30 ベースラインと介入期(教授・援助)の比較をのた めのいくつかのバリエーション A期:ベースライン期(当該対応なし) る対応(介入)をしている時期 B期:あ 1)ABデザイン 2)ABABデザイン(逆転デザイン) 3)マルチ・ベースラインD 4)マルチ・プローブD 5)チェンング・クライテリオンD 6)オルタネイテイング・トリートメントD 31 ABABデザイン(援助設定の効果などに有効) 反応率・比率 など 同じ独立変数(B)の効果を、同一個人の中で反復検証する 32 Lee & Odom(’96) 社会的 相互行 動 周囲の子供の社会的行動 開始行動(initiation)が常 動行動にどう影響? ABABデザイン 常動行動 A:周囲の子供は単に一 緒に遊ぶことを指示され ている B:周囲の子供(peer) が話しかけなどの口火 を切る 33 ABA (BAB) D:ドラッグ P:ドラッグなし ドラッグの効果(chlorpromazine)があるか? 具体的な行動への効果を確認→投与不適切の例 34 ABA コカイン中毒への対処 尿検査が(-)なら商品券あり 35 ABA BAB 作業訓練の参加に 対するpayの影響 36 長期間のトリートメントの効果をみたABAB 偶発的にReversal条件(介入操作を抜く)操作が入り、ABABの実 験スタイルになった例 (Carr & McDowell, 1980, Behavior Therapy, 11, 402-409.) Baseline(A条件):トリートメントなし Treatment(B条件): ●独立変数:自傷(ひっかく)したらタイムアウト/ 傷口が減ったら正の強化(特定の場所へドライブ等) (傷の数が2個減った週に限って施行) ●従属変数:自傷による「ひっかき傷」の数 37 偶発的 A A B A B 38 16 9月 日 18 9月 日 19 9月 日 25 9月 日 26 9月 日 30 10 日 月 2 10 日 月 3 10 日 月 10 7日 月 1 1 0 0日 月 1 1 0 4日 月 1 1 0 6日 月 2 1 0 1日 月 2 1 0 3日 月 2 1 0 4日 月 2 1 0 8日 月 3 1 0 0日 月 3 1 1 1日 月 1 1 1 0日 月 1 1 1 1日 月 1 1 1 3日 月 1 1 1 4日 月 1 1 1 8日 月 2 1 1 0日 月 27 12 日 月 2日 9月 金山好美(2004)ADHD児の集団参加を促進する環境設定 実験の前半部:リタリンの投与が教室在室に及ぼす効果 薬投与期① 授 業 80 開 始 時 60 の 参 加 40 率 ( % 20 B 薬投与期② 100 A A B ) 0 図1 ADHD児におけるリタリン投与と在室率 偶発的A 39 マルチベースライン(反転不能な内容の場合 従属変数A 独立変数の導 入をずらす 従属変数B ある独立変数の効果を、異なる行動あるいは異なる個人に おいて(再)確認(replication)する 40 マルチ・ベースラ イン 子供に「大人の誘惑」から自分を守る行動(「遠ざかる、NO という、など」の訓練の効果 訓練内容:モデリング、リハーサル、社会強化 41 マルチベースライン 「空手の行動的コーチング」 (星野,2000) 標的行動:右下段廻し蹴り 従来の指導法(S) 「腰が入っていないの でもっと意識して」(抽 象的) 行動的コーチング(B) 教示・モデリング・ 具体的行動を強化 具体的フィードバック 42 行動分析の批判としてよく言われること: ABABデザイン: せっかく「B」で、学習したものを「A」に戻してしまう → 倫 理的に問題があるのでは? 本来、ABABデザインは、「特定」の環境(援助設定)が、行動成 立に対して有効かどうかを、長時間かけて調べるもの。個人の能 力アップの作業(教授)などの効果をみるものではない。 「これがあれば行動成立」という環境設定の同定に利用 43 参考文献 ●アルバート・トルートマン: 「はじめての応用行動分析」(二瓶社) ●望月(1997):コミュニケーションを教える” とは? 小林重雄(監修)山本・加藤(編) 「応用行 動分析学入門」(学苑社),2-25. ●Poling, Methot, and LeSage (1995): Fundamentals of Behavior analytic research. Prenum. ●望月昭:「行動変化の観察と評価(講座3回連載)」、月刊実 践障害児教育、21巻(10月号~12月号)、1993 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/kenkyu.html 上記URLの当該引用部分の左端「・」の部分で原典リンク 44 応用問題 • 自分の研究テーマについて、単一事例研 究法で実験的に行うとすれば、どういうデ ザインを採用すればよいか? • その仮想データを示すこと。 45
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