10 応用行動分析(その6) 行動の記録・実験(実践)デザイン なにがあれば「できる」のか? 継続的な「キャリアアップ」を継続的に支援するため の情報移行に不可欠な表現方法!! 行動分析は、対人援助(援助・援護・教授)につい て、報告までを含めた実践を行ううえで最適な方 法のひとつである。必要な対人援助の実践や情報 移行に必要な内容を、どう具体的に表現するのか。 1 この単元の目標 • 行動を記録したり表現したりする意味は? (なぜ、黙々と実践しただけではダメなのか) ・定量的なデータとはどのようなものなの か? ・行動の測定と表現の仕方 ・二つの代表的なデザイン(ABABデザイン とマルチベースライン・デザイン)はどのよ うに使用するのか? 2 (第3回復習) 対人援助作業の3つの機能の連環的発展 個人の行動(反応)形成 3 治療・教授 2 Instruction 1 援助 援護 assist advocate 行動成立のための 新たな環境設定 援助設定の定着のため の要請 3 (第3回復習)対人援助実践の3つの機能 1)「障害 impairment」があっても先送りすることなく 社会参加を可能にする人的・物理的援助システムの 設計・設定(援助的アプローチ) 2)それを環境に定着させるために周囲に要請する作業(援 護的アプローチ)、 3)援助設定を前提にして諸行動を可能にするための 教育・訓練する作業(教授的アプローチ) 新たな「対人援助」の学とよべるもの 3つの機能的アプローチの連環的「連携」が可能な実 4 践と研究(=言語表現化)を行う。 「助ける」は表現してナンボである 1)誰かが何か「できる」ようになるには、多くは社会へ の要請(援護=言語行動)が必要条件である。 2)援助・援護・教授という3つの仕事は、単独では行い きれない(連携が不可欠) であれば、共通言語を持つ必要がある。 3)「助ける」は、本来、人が自然に行う行為ではない かも知れない。であれば絶えずチェックしていないと アカン。 4)本当に、当事者が望んでいることなのか? それをどのように確認するか方法(=表現として)を 示す必要がある。 5 対人援助の実践には「表現」が不可欠 先の4つの表現はどうやれば? • その表現(=言語行動)のために、行動分 析学の表現方法を用いてみよう。 ・ 個人と環境との関係で表現する行動分析 学の特徴は、対人援助実践になぜ有効な のか? 6 「学」の特徴として • 当事者の「個人属性の記述」ではなく、 「これがあれば(=援助設定)、『でき る(=行動成立)』という条件について の公共的な表現を追及する ・ 「根性」「やる気」:公共的表現ではない 「発達」や「能力」といった一般的な個人属性 と同じである。 ・ 「当事者が『やりたい』行動の選択肢を拡大す る(できる)」結果のみならずプロセスも表現す る 7 1. 「報告も実践のうち」 臨床・対人援助活動そしてその研究とは、報 告言語行動に対する強化を以って完成する。 2.「具体的目標が決まっていない実践は、記録 がとれない」(望月,1993) 目標設定の定まらない実践、つまり、従属変 数が決まっていない実践では、それに対する独 立変数も決まらない。 =無責任 8 記録の方法 記録をとる前に: これから記録をとろうとする行動(反応)について、客 観的な表現で定義できているか? 「まじめに作業できる」(???) ●決められた時間の中で休まないことか? ●開始時間になったらすぐに始めることか? ●単位時間あたりの作業量が多いのか? ●正確に作業をこなすということか? 9 行動の記録の単位・表現 ある機会あたりの反応数(反応比率 ratio) 時間あたりの反応数(反応率 rate) 時間間隔記録法 時間サンプリング エピソード記録法 10 査定の選択 短い期間 対象反応 明確? YES 時間・場 所 長い期間 NO 定時観測 可能? 時間間隔 記録法 複数反応 対象可 YES NO 指導目標 反応形 野呂(1997) 「応用行動分析 学入門」(学苑 社) 反応比率 ratio 生起頻度 反応率 rate 時間サンプ リング エピソード記録 11 時間間隔記録法による記録 数十秒の間にある反応が出たか、出ないか? 12 時間サンプリングによる記録 比較的長い時間の中で、数分ごとの最後に出たか出ないか 13 行動が目標の形に変化しつつある場合(学 習:acquisition中)の記録・表現 「援助つきの行動成立」の過程を表現する。 ある作業についてどれくらいできているか どんな 部分について「教授」したり「援助」 が必要かを知 る(課題に対するアセスメント) ●誰もが同じ記録が残せるような具体的 な目標が設定されているか? ●その行動に必要な下位の行動を分解 ●その個人において、自立や自律に至る プロセスを表現できるか、 その表現方法は? 14 課題分析 目標とする(複雑な)行動を、 時系列的に「教授」や「援助」を しやすい行動要素にわける。 15 スーパーで買い物をする課題分析(応用行動分析入門) 16 上昇方向で 「薄い」援助へ 各行動に必要な「援助」内容の表現 17 高齢者におけ るPC操作の支 援 (課題分析) 斉藤(2001) Mさんの課題分析 : メールを送信する 1 電源ボタンを右に引く。 2 スタートボタンの横にある「Outlook Express」のアイコンをクリックす る。 3 「ダイヤルアップの接続」の[オフライン作業]ボタンをクリックする。 4 [Outlook Express]の青い帯の端の×印をクリックする。 5 「新しいメール」アイコンをクリックする。 6 メッセージの作成が出るので「宛先:」の横の白い枠をクリックし、送信 先のメールアドレスを入力する。 7 キーボードの「半角/全角」キーを押し日本語入力ができる状態にす る。 8 「件名:」の横の白い枠をクリックし、メールのタイトルを入力する。 9 下の白い画面をクリックし、本文を入力する。 10 メールができたらツールボタンの「送信」アイコンをクリックする。 11 「送受信」アイコンをクリックする。 12 「オンラインに切り替えますか」で「はい」ボタンをクリックする。 13 「ダイヤルアップの接続」の[接続]ボタンをクリックする。 14 「送信済みアイテム」ホルダに移動したのを確認して、×印をクリック して「OutlookExpress」を終了する。 15 「今すぐ切断する」をクリックして回線を切断する 16 「スタート」ボタンを押し「Windowsの終了」をクリックする。「電源を切れ る状態にする」にチェックがついてることを確認して「OK」ボタンを押 す。 18 プロンプトの段階 1 2 全介助 部分介助 3 モデル提示 4 言語指示 5 斉藤(2001) なし 対象者の手を持って一緒に動かす キーあるいは画面を一つ一つ指し示す キーあるいは画面を一つ一つ指し示す 先に同じ動作をする 「人差し指で押したまま右にずらします」 対象者が自発的に行う 19 Mさんの結果 100 90 チェックリスト記入 チェック マニュアル チェックとフィードバック チェックリストとフィードバック 80 正 答 率 マニュアル 70 60 (%) 50 40 30 励ますだけ 20 10 課題分析 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 1 2 3 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 14 1 1 4 23 24 24 24 124 124 124 124 124 124 124 14 14 14 2 3 4 4 4 4 4 2 24 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 1 4 4 1 2 1 4 1 4 4 4 2 4 3 5 4 6 7 4 4 4 9 4 4 4 4 4 4 4 4 10 4 4 11 4 12 4 4 4 6 16 17 18 19 18 19 4 4 4 4 4 4 4 7 15 4 4 4 4 4 14 4 4 4 4 4 24 4 2 13 4 4 4 4 4 4 4 4 4 5 8 8 4 4 9 4 10 11 12 13 14 15 16 17 20 斉藤(2001) 実験(実証)デザイン 独立変数としての教授方法や援助設定が、従属 変数である行動に対して影響を及ぼしているか を検討する。= 実験デザイン 「特定個人」において、行動の原因となっている 独立変数を特定していく →Single Subject Design 1回だけ独立変数をみるのでは信頼性が低い。独 立変数の導入を複数回繰り返してその効果を検 証する必要がある(=replication:追試) そこで「実験デザイン」というものが必要となる 21 デザインの基本:Baseline ある独立変数(教授方法や援助方法)と行動的結果 (従属変数)の間の機能的関係をみるためには、当 該の支援を導入する前の(導入しない時の)状態と 比較する必要がある。 「ベースライン」をとってみよう ベースライン:これから試してみるトリートメント(教授・ 援助)を導入する前に、現状での当該行動の出方(反 応率や反応比率など)を、数回(3回)とってみる。 22 使用前・使用後では、わからない 23 ベースライン 行 動 の 変 化 ( 回 数 ・ 持 続 時 間 な ど ) 介入前の状態 介入(教授)スタート セッション(日数) 24 ベースラインと介入期(教授・援助)の比較をのた めのいくつかのバリエーション A期:ベースライン期(当該対応なし) る対応(介入)をしている時期 B期:あ 1)ABデザイン 2)ABABデザイン(逆転デザイン) 3)マルチ・ベースラインD 4)マルチ・プローブD 5)チェンング・クライテリオンD 6)オルタネイテイング・トリートメントD 25 ABABデザイン(援助設定の効果などに有効) 反応率・比率 など 同じ独立変数(B)の効果を、同一個人の中で反復検証する 26 Lee & Odom(’96) 社会的 相互行 動 周囲の子供の社会的行動 開始行動(initiation)が常 動行動にどう影響? ABABデザイン 常動行動 A:周囲の子供は単に一 緒に遊ぶことを指示され ている B:周囲の子供(peer) が話しかけなどの口火 を切る 27 長期間のトリートメントの効果をみたABAB 偶発的にReversal条件(介入操作を抜く)操作が入り、ABABの実 験スタイルになった例 (Carr & McDowell, 1980, Behavior Therapy, 11, 402-409.) Baseline(A条件):トリートメントなし Treatment(B条件): ●独立変数:自傷(ひっかく)したらタイムアウト/ 傷口が減ったら正の強化(特定の場所へドライブ等) (傷の数が2個減った週に限って施行) ●従属変数:自傷による「ひっかき傷」の数 28 ゴミ袋配布 ゴミ袋+10セント ゴミ袋+「説得」 個別の行動に具体的随伴性 何もせず B A C A D A A 29 偶発的 A A B A B 30 16 9月 日 18 9月 日 19 9月 日 25 9月 日 26 9月 日 30 10 日 月 2 10 日 月 3 10 日 月 10 7日 月 1 1 0 0日 月 1 1 0 4日 月 1 1 0 6日 月 2 1 0 1日 月 2 1 0 3日 月 2 1 0 4日 月 2 1 0 8日 月 3 1 0 0日 月 3 1 1 1日 月 1 1 1 0日 月 1 1 1 1日 月 1 1 1 3日 月 1 1 1 4日 月 1 1 1 8日 月 2 1 1 0日 月 27 12 日 月 2日 9月 金山好美(2004)ADHD児の集団参加を促進する環境設定 実験の前半部:リタリンの投与が教室在室に及ぼす効果 薬投与期① 授 業 80 開 始 時 60 の 参 加 40 率 ( % 20 B 薬投与期② 100 A A B ) 0 図1 ADHD児におけるリタリン投与と在室率 偶発的A 31 マルチベースライン(反転不能な内容の場合 従属変数A 独立変数の導 入をずらす 従属変数B ある独立変数の効果を、異なる行動あるいは異なる個人に おいて(再)確認(replication)する 32 マルチベースライン 「空手の行動的コーチング」 (星野,2000) 標的行動:右下段廻し蹴り 従来の指導法(S) 「腰が入っていないの でもっと意識して」(抽 象的) 行動的コーチング(B) 教示・モデリング・ 具体的行動を強化 具体的フィードバック 33 手話の本:環境成員の手話の獲得のために34 A B 知的障害のある成人の手話獲得過程(Nozaki, et al. 1991) 35 設問 • (応用)行動分析学で、ある独立変数と従属変数 の因果関係を検討する際の実験デザインの特 徴は? • Single Subject Design (単一事例研究デ ザイン)の代表的なデザインを挙げよ。 • ABABデザインでは、せっかくB期で「できたも の」をまたA期を繰り返して元に戻してしまうのは 倫理的に問題がある、という批判に対して、どう 応えるのか? • 対人援助の実践において、行動分析学という方 法を用いるメリットを、行動の表現・情報移行の 必要性という観点から述べよ。 36 参考文献 ●アルバート・トルートマン: 「はじめての応用行動分析」(二瓶社) ●望月(1997):コミュニケーションを教える” とは? 小林重雄(監修)山本・加藤(編) 「応用行 動分析学入門」(学苑社),2-25. ●望月昭:「行動変化の観察と評価(講座3回連載)」、月刊実 践障害児教育、21巻(10月号~12月号)、1993 http://www.ritsumei.ac.jp/kic/~mochi/kenkyu.html 上記URLの当該引用部分の左端「・」の部分で原典リンク 37
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