スライド 1

健康管理支援による被保護者の
自立支援への取り組みについて
和歌山市健康福祉局社会福祉部
こども総合支援センター長
原 政代
(前 生活保護課 医療扶助適正化専門主幹)
和歌山市役所
面積
210.25km2
(平成20年3月4日現在)
総人口
369,088人
男:173,163人
女:195,925人
世帯数
151,948世帯
医療扶助対策へのきっかけ
 医療扶助費のうち施術等に係る費用の占める割合が
非常に高いという実態がありました。
医療扶助に占める施術療養費の割合
2.00
1.50
1.40
1.36
1.57
1.80
1.85
1.29
0.95
1.00
0.74
0.50
0.00
H14年度 H15年度 H16年度 H17年度 H18年度 H19年度 H20年度 H21年度
医療扶助費の適正化への取り組み
保護費総額に占める医療扶助費の割合の年次推移
56.9
54.5
55.3
55.2
54.3
52.2
52.5
52.0
H14年度 H15年度 H16年度 H17年度 H18年度 H19年度 H20年度 H21年度


和歌山市は、医療扶助の適正化対策として、平成20年度に健康管理支援事
業を立ち上げるため、医療扶助適正化専門主幹として保健師を配置すること
となった。
このことを受け止め、被保護者の健康管理支援として「生活の中での個々の
持てる力を見いだし、個々に応じた自立支援を行うことをめざして、医療扶助
の適正化を図っていくことを目的として、健康管理支援事業を立ち上げ、取り
組んだので報告する。
Ⅰ健康管理支援事業における
インタビュー調査の目的
1 生活保護被保護者のう
ち医療扶助を受給してい
る被保護者の受療状況
の実態把握及び自立支
援方法の検討
2 医療扶助適正化シス
テムづくり効果の検討
つ
つじ
くすのき
Ⅱ調査対象及び期間
対象:医療扶助を受給している被保護者5,500人のうち受
療状況を改善する必要があると認められる193人を選定
し、調査が可能であった168人を対象とした。
期間;平成20年8月から平成21年3月まで
Ⅲ調査方法及び内容
訪問による面接調査;ケースワーカーと医療相談員の同伴
訪問等による生活状況及び受療状況の実態把握及び支援と
質的調査を用いた検討
調査実施に至る過程の検討 ;医療扶助適正化システム
Ⅳ 調査結果
1医療扶助を受給している被保護者の実態把握
1)医療扶助を受給している被保護者の属性
対象者168人の内訳は、性別では男性66人(39.3%)、女性82
人(60.7%)であり、年齢階層別では、18歳~39歳が15人
(8.9%)、40~64歳が73人(43.5%)、65歳以上が80人(47.6%)
であった。
生活状況の把握ができた者の性別・年齢階層別状況
(n=168)
65歳以上
25
40~64歳
18~39歳
55
36
5
0
37
10
20
40
男
60
女
80
100
2)対象者の選定理由とその内訳
頻回受診、多重受診、多機関受診と思われる者 99人
(58.9%)
 医療費の高額など適正医療に関するもの 24人(14.3%)
 就労支援を要する者 10人(6.0%)
 長期入院・長期外来受診の者
9人(5.3%)
 病状または生活状況の把握を要する者 17人(10.1%)
 生活習慣病による生活改善を要する者
5人(3.0%)
 その他 4人(2.4%)

168人にインタビューを実施することができた。
3)医療扶助を受給している被保護者の受療実態
自立しにくい者の特性として以下の状況が示された。
 神経・精神疾患等を持っている者
 生活保護に対する考え方や利用の仕方に問題があり、こどもの将来の
生き方に影響を及ぼしかねない者(被保護の世代間連鎖)
 夫婦で月20回程度の頻回受診と多重受診している者
 生活保護における医療扶助の主旨が理解できていない者
 糖尿病のコントロールができていない者
多重受診者の特性として以下の状況が示された。
 精神安定剤や眠剤などの処方を専門医からも主治医からも重複して受
けている。
 毎日医療受診して点滴を受けないと気がすまない。
 糖尿病で低血糖を頻繁に繰り返している。
4)-①生活状況の実態
自立支援シートを活用して生活状況の把握を行い、 生活
の中から見えてきたものは次のとおりである。
 休職中に身体を治したいが何もしたいと思わないで、喫煙
が楽しみ。
 喫煙は喘息に悪いと分かっているが楽しみである。
など楽しみとしての喫煙
 近所の人に弁当を買ってもらって食べている。
 一日中コタツで寝たきりの生活をしている。
など意欲が持てない。
 買い物は、近所のスーパーで出来合いの物を買って 食べ
ている。全身悪臭が感じられる。
など生活が自立していない。

4)-②生活状況の実態
消化器症状がない状態に回復し内服治療中であり、受診以
外は家にいる状態である。
など療養はしているが、家での生活である。

糖尿病のコントロールについては、内服薬は飲めているが、
食事療法ができない
 食事は、ごはんとふりかけ、インスタントラーメンのみ。
 野菜の摂取習慣がないので,食べると胃の調子が悪くな
る。
などであった。

5)対象者の自立目標・役割及び社会参加の
実態



対象者が自立するためには、目標や役割を持つことが大切であ
ることから目標や役割及び社会参加の状況について聞き取りを
行った結果、54人に聞き取りを行うことができた。そのうち目標
や役割を見出せない者は19人で、18歳~39歳の者7人のうち4
人の者は「うつ、不安障害」など、40歳~64歳については、疾病
を持っていることを理由に目標や役割を持てないという者が
45%いた。
一方、65歳以上の高齢者については、25人中20人が「自分で出
来ることをしたい」、「筋力の低下を防ぎたい」、「他者との交流や
余暇などを楽しみたい」等の生活意欲や介護予防につながる意
欲が見られた。
このように精神的に満足できない者などに対して、心身の機能と
生活実態、環境因子と個人因子をみて本人の意欲・意識の聴き
取りを行い、対象者に応じた支援を行った。
6)医療扶助を受給している被保護者の実態把握及
び支援実施時の工夫




記録様式については、従来は自由記載方式であったことから記
載内容にばらつきがあることや画一的な援助方針になっているこ
と、具体的な支援計画や支援方法の記載に至っていない状況が
あった。
個人に応じた援助計画を作成するには、生活の場に出向いて生
活実態を十分に把握することと現状に対する本人の思いや自立
につながる目標を十分の聞き取ることで生活機能を把握すること
が重要であると判断した。
そこで、具体的な支援計画(いつ何をするか計画)の立案をめざ
して「情報と方針、判断、計画」など一連の流れを記載する記録
様式として、ICFの生活機能評価を使って「自立支援シート」を作
成した。
自立支援シートの構成は、個人の背景として環境因子、個人因
子、情報収集項目として「健康状態」、生活機能としての「心身機
能・身体構造、生活状況」、「社会参加の状況・自立への思い」と
した。
(2)支援チーム会議での改善事例の紹介
支援チーム会議では、改善した対象者の状況について担
当ケースワーカーと医療相談員が紹介し、改善の要因につ
いて話し合うことにより事例の共有化を図った。
2システムづくりの検討

1)組織図の検討
生活保護課における健康管理支援事業は、総括査察指
導員2人と医療扶助適正化専門主幹の3人編成の適正化・
支援チームと各班からの代表者9人と医療相談員2人から
なる生活保護適正化支援チームを立ち上げ、活き活きとし
た職場づくりをめざして、モチベーションをあげて円滑に運
営できる体制づくりを行った。
システムづくり
課
長
医療扶助適正化専門主幹
総括査察指導員
副課長
○適正化・支援グループ
3人
医療扶助適正化専門主幹
総括査察指導員
査察指導員
医療介護班長
○生活保護適正化支援チーム
14人
適正化・支援グループ
各班代表ケースワーカー
医療相談員
ケースワーカー
医療療相談員
○訪問チーム 2人1組
ケースワーカーと医療相談員
3)調査員への研修及びサポート体制
生活保護適正化支援チーム会議を8回開催し、医
療扶助適正化と健康管理支援の方法及び共通認
識を持つことをめざして検討を重ねた。
 また、生活実態に応じた個別支援の方策につい
て知識と技術を高めるため、保健・医療・福祉の学
識経験者による研修会を実施した。学識経験者の
アドバイスにより自立支援シートを作成することと
なった。

4)調査実施手順
(1)調査の実施手順
調査・・・結果
対象者の属性
現状の把握
調査時の健康管理支援事業の実施
健康管理支援の課題
①自立しにくい者の課題
②対象者の自立支援目標や社会参加への思いのききとり
③その他
考察
(2)今後の支援方針
課題及び今後の支援方針
(3)事業へのフィードバック
平成21年度事業及び活動方針の課内での合意
研修及び検討会の開催
内 容
生活保護適正化
支援チーム会議
回数
6回
議題
・ 医療扶助の適正化のすすめ方について
・ チームの役割について
・ 健康管理支援業務について
・ 医療券の発券について
・ 医療扶助費利用状況の通知
・ 医療相談員等の活用による健康管理支援プログラ
ムについて
・ 相談票と指導内容の検討
・ ケース検討(頻回受診者、多重受診者、医療費高
額者、長期入院者)
・ 下半期の健康管理支援事業のすすめ方について
・ 平成21年度の対象者の選定について等
学識経験者によ
テーマ;生活実態に応じた個別支援の方策について
2回
る研修
~心の交流を通したかかわりをするために~
医療相談員の
ミーティング
生活習慣の改善を評価する視点をもつための評価表の
6回 検討
平準化を図るための活動の枠組みの検討等
自立支援の具体例
健康管理支援事業と健康管理支援プログラムの立ち上げ
自立支援と医療扶助の適正化の観点から、稼動年齢層(65歳未満の
就労可能な年齢層)で糖尿病のコントロールができていない者を対象
として看護師、栄養士による生活改善を支援する。

精神障害者退院促進事業

ケースワーカーへの自立支援研修の実施と意識啓発

自立支援シートの作成と活用によるケースワーク 他
3 事業の成果と効果
168人の課題を明らかにすることができた
 対象者のうち5人(3.0%)の者に疾病予防につながる
行動変容が見られた。

多機関受診の改善により自己管理が可能となる
主治医との連携による食事管理の改善
就労時間延長への自信につながる関わり
精神的な安定による頻回受診の改善
医療機関との連携によりインシュリン自己注射の自立
Ⅴ-1 考察

医療扶助を受給している被保護者の実態把握から
みえてきたもの
・生活実態の中からみえてきたもの
孤独や不安で意欲や目標見出せない
・・・受容的態度で信頼関係づくり
・受療状況の中からみえてきたもの
孤独や不安
・・受診動機となっている
受診そのものが社会とのつながり
・支援方法
服薬管理の仕方、受療の受け方の支援など
関係機関との連携、キーパーソンの存在
Ⅴ 考察
 システムづくりの検討から明らかになったこと
(頻回受診の対応についての厚生労働省の通知)
・経験的なケースワークから新しいシステムへ
関係機関とのカンファレンスの機会
・日常業務化するための取り組み
適正化支援グループの編成
生活保護適正化チームづくり
活き活きとした職場づくりの職場改善提案
課の課題と改善策についての全体的な取り組み
・・・・組織改革のきっかけ
課題
(1)医療相談員の確保と教育の重要性
医療相談員は、非常勤の専門職であるが、医療的な知識等 が必
要なことから、人材確保と質の確保が課題となるととも
に、事業のスタイルが、医療相談員の確保の状況に左右されやすい
要素を持っている。
今後は、生活習慣病やメンタル面での支援の観点から、看護職のみ
ならず対応できる職種を拡大して対応することが考えられる。
(2)事業の継続性
ケースワークを行う上での重要な要素としては、「健康状況調
査」「援助目標と方針」「個別援助計画に基づいた支援」「支援
効果の評価」などであり、こうした援助過程は看護過程と一致
しており、福祉的な視点に保健・医療的アプローチを重ねること
で、より対象に応じた援助が行えるものである。
ケースワーカーが医療相談員をうまく活用してケースワークの
幅を広げて自立支援を展開していくことが重要な課題となる。
自立支援シートの活用についても課題である。
Ⅵ 終わりに
健康管理支援事業を活性化するためには、組織の中で事
業の理解を促すだけではなく、組織診断によってこれまで
培われてきた職場風土の改善を同時に行った。
 何よりもケースワーカーの働き方として、この自立支援のプ
ロセスでの学びの楽しさと元気に仕事ができていると感じら
れていることが、被保護者との人間対人間の良好な関係が
成立している現われであることを実感した。
 生活保護部門は、行政として母子から高齢者までの生活実
態を詳細に把握している部門であり、生活状況を関連部署
の施策につなげていけることを実感するとともに、改めて疾
病の悪化予防と介護予防の必要性を実感している。そこ
で、保健的アプローチによる自立支援が被保護者から脱却
することに有効であり、医療扶助の適正化につなげること
ができるということを提言いたしたい。

和歌山城オレンジライトアップ2010
11月4日(木)~11月7日(日)
Wish Your Smile !!
~ こどもに笑顔を!! ~
オレンジリボンキャンペーン
Wakayama City
健康管理支援プログラムの主な対象者
○傷病を理由に就労していない者(増収を望める者を含む)
のうち、病状の改善に向けた自己管理支援を希望する者
(または必要な者)
○糖尿病のうち生活改善のための支援を希望する者(又は
必要な者)
○頻回受診、多重受診、長期入院などで改善の必要がある
者
○その他、健康管理上の支援を希望する者(又は必要な者)