降下火山灰による道路機能 障害評価とその復旧順序決 定手法の提案 自然災害科学 J.JSNDS 33特別号 165-175(2014) 玉置哲也・多々納裕一 紹介者 教育学部総合科学教育課程総合科学専攻 夏目真帆 第1章 はじめに 1707年 宝永大噴火(富士山) 100km離れた江戸においても数cm程度の降灰を観測 有史以来 3度の大噴火(桜島) 文明大噴火・安永大噴火・大正大噴火 大正大噴火-火山灰や軽石などのテフラ量は0.6㎦ 降灰の範囲は鹿児島だけでなく全国で観測 火山灰、軽石等の火 山砕屑物の総称 火山噴火の規模・・・VEI(Volcanic Explosivity Index)を用いて分類←噴出物の量に基づく 宝永噴火はVEI5,大正噴火はVEI4 近年はVEI4以上の大噴火は発生していない 2011年 霧島新燃岳における噴火 交通機関の乱れや農作物の生育不良等の火山被害 2013年 桜島 5000m級の噴火を観測 将来予測される大噴火に向けた対策の必要性を再認識 火山噴火によって引き起こされる災害・・・火砕流、溶岩流、降下粉砕物 降下火山灰による影響・・・風向き次第でかなり広範囲に及ぼされる可能性がある 交通ネットワークが降灰によって被るであろう影響は、現代社会において甚大 降灰被害 交通ネットワーク 実際の事例 ★1980年 アメリカセントヘレンズ山の噴火 高速道路5日間の完全停止(堆積量: 7.5cm)、市内交通の5日間の規制(堆積量:1.3cm) ★1995年 桜島噴火 高速道路が約1日停止 桜島海岸付近で7-8mm程度の堆積 ★1974年 新潟焼山の噴火 1-2mm程度の降灰でも徐行運転になった ➡数mm程度の降灰の堆積でも道路交通に影響 しかし 降下火山灰に対する道路規制の基準がなく、どの程度の堆積で通行に支障が出る か議論されていない 道路交通の途絶による被害の軽減には早急な復旧が不可欠 ➡想定されている被害を十分に把握しておくこと 効率の良い復旧計画を立案すること 本研究 降下火山灰に対する道路途絶の可能性に対し、評価を行う手法を提案する 第2章 概要説明 第3章 道路規制に対して機能的フラジリティ曲線の概念を応用することで初期の道路途絶 確率を求める手段を提案する 第4章 2011年霧島噴火をケーススタディとして最適な復旧順序を検証 第5章 ここで得られた知見についてまとめる 2.提案する評価手法の概要 火山噴火によって大規模な降灰がもたらされた場合 における道路被害とその復旧を評価する手法を提案 ➡火山噴火による降灰シナリオを基に分析対象地域 のネットワークの復旧順序を評価することが可能に 1段階目:火山噴火によって降灰が観測された場合 の道路の途絶確率を推計する手法を提案 2段階目:効率的に道路を回復させるための除去順 序を提案 2.1 道路途絶確率の推計 1段階目の手法:機能的フラジリティ曲線 フラジリティ曲線・・・地震によって橋梁や建物などに及ぼされる被害を推計 構造物の地震に対する脆弱性に関する要素:地震動や地盤状況、構造物の種類、地震のタイプ…etc. →フラジリティ曲線を用いた推計・・・地震動以外の要因=不確実性 大きな空間的広がりを持った災害が発生した場合に、全体的な被害を推計する画期的な方法 機能的フラジリティ曲線を2つの点について拡張を行う 1つは地震動の強度ではなく降下火山灰を要因とする点、もう1つは道路交通規制に適用させる点 今までは広範囲に観測される地震動のみに適用→大規模な噴火による広範囲の降下火山灰への適用を試みる 交通量低下の要因・・・巻き上げられる灰による視界不良やスリップ事故の危険性による交通規制、道路の位置や地形的な傾 斜etc →機能的フラジリティ曲線を用いることで、降灰量以外の要因=不確実性 第一段階である道路の途絶確率の推計手法として機能的フラジリティ曲線を提案する。 2.2 道路ネットワークの効率的回復 順序の推計 2段階目:機能的フラジリティ曲線によって推計され た交通ネットワークの低下率を基に、どのようにネッ トワークが復旧されていくかを分析する方法を提案 →道路整備順位決定問題の考え方を適用 目的関数:逸失道路サービス水準 逸失道路サービス水準・・・被害にあわなければ失 われることのなかった水準。道路における低下交通 量と低下していた期間の積 除灰効率の高い道路を選別できる ➡目的関数にこの逸失道路サービス水準の総和 を置き最小化させることで降灰除去順序の優先 順位の把握が可能に。 3.機能的フラジリティ曲線を用いた道 路途絶確率の推計 2011年1月19日 新燃岳において小規模な噴火発生 1月26日以降 連続的な噴火 26~27日 大量の軽石や火山灰が噴出し、 鹿児島県、宮崎県において一部交通規制がとられた 本研究 この噴火によるデータを用いることで初期の道路途絶確率を推計する 3.1 使用するデータ 機能的フラジリティ曲線推計のため、交通状況及び降灰量のメッシュデータが必要 降灰状況のデータ:産業技術総合研究所・地質調査総合センターによる2011霧島 噴出調査報告書 →1月26日~27日の爆発的な噴火によってもたらされた降灰の堆積量 交通状況:鹿児島県危機管理局による被害状況の報告書 ★方法 4分の1地域メッシュを用いて、降灰が観測されたエリアを250mメッシュに分割。 メッシュごとに降灰量、主要道路の有無、途絶状況を与える。道路のあるメッシュの 途絶状況を用いて機能的フラジリティ曲線の推計を行う。 得られたデータを用いて推計を試みる。 降灰量は9段階 表2を基に機能的フラジリティ曲線を推計した 結果。ヒストグラムは実際のデータによる割合 4 2011年霧島新燃岳を対象とした道路復旧 4.1 噴火による交通量の初期低下率 2011年霧島新燃岳の噴火に適用させることで、ここで提案した手法を検証する。 三角形:噴火位置、円:そこから4km圏内。2月 1日以降、立ち入り禁止。 交通量の低下率が0.9以上の道路、4km圏内 にある道路・・・実際に規制されている。 低下率が0.3~0.5の道路・・・実際に 規制されている道路とされていない道路がある ➡規制にまでは至らなかったが実際には降灰の 影響で徐行運転や渋滞が見られた可能性。 機能的フラジリティ曲線を用いれば、道路規制 は行われていないものの、現実には多少の影響 が出ている道路を見つけ出すことが可能に。 また、今後より詳細なデータをとれるようになれ ば、より精度の高い推計が可能に。 4.2 道路降灰の除去プロセス 降灰が観測された後の除去作業:ロードスイーパによる清掃 ロードスイーパによって吸い込まれた灰→搭載されているホッパに溜められ→ホッパが満タン →たまった灰をダンプカー等に移しかえ→処分地に運ばれる ロードスイーパの速度をv[km/h]で一定,たまった灰をダンプカーに積み替える時間をt[min], ホッパ容積をM[㎥],一回の清掃可能幅をw[m]とおくと、降灰量がx[mm]の場合の実質走行速 度y[km/h]は 走行速度:3km/h, ホップ容積:2.2㎥,清掃幅:3.2mと仮定して降灰量と実質走行速度をグラフ で表す=図6。本研究では、この試算方法を基に完全に除灰が可能となる時間を求める。 4.3 降灰除去にかかる期間 都内で10mmの降灰が観測された場合、全ロードスイーパ(68台)を用いて4日弱かかる試算 2011年霧島新燃岳噴火の場合で推計。 最大で10cmほどの堆積。都城市を中心に鹿児島県、宮崎県において降灰を観測。また、今回用 いた道路ネットワーク上で、降灰が観測された道路リンクの数は207本。除灰が必要。 平成22年道路交通センサスを用い、対象地域の交通ネットワークの道路長、道路幅、車線数を 決定。この地域で活動できるロードスイーパの総数を、鹿児島県の全保有台数21台(平成25年4 月現在)とした場合、3.6日ほどですべての灰を除去できるという結果に。 実際には、一度通行止めとなった区間は一か月以上たっても交通規制が解除されていなかった。 →火口4km圏内として規制されたもの及び、規制された道路周辺には住居がなく、主に観光道路 として利用されてるため。 復旧活動を始めてからどの程度の期間で復旧を終えられるかという指標として、この分析は有用 5 おわりに 2011年霧島新燃岳の噴火データを基に、道路の途絶確率に関する機能的フラジリティ 曲線を作成 ➡降灰が1cm程度・・・機能停止になる道路が出てくる可能性が高くなる 4cm以上・・・ほとんどの道路が機能停止になる 1980年のセントヘレンズ山の噴火では、7.5cm積もった高速道路が5日間完全停止 している等の報告→いくつかの事例と比べてもこの推計方法は的外れな結果ではない。 ただし、霧島新燃岳の噴火による降下火山灰のみで機能的フラジリティ曲線を作成して いる。今後は噴火と交通状況に関するより詳細なデータの収集や実験等の検討も必要 どのような順序で回復されていくかあらかじめ推測できることは、火山災害後のレジリエ ンシーを高めることにもつながる。 今後の課題 巨大な噴火発生➡噴火火山から遠く離れた大都市においても降灰の可能性がある。 大都市においても降灰が観測される場合、交通ネットワークの寸断は甚大な経済損失につな がる。一刻も早く効率の良い降灰除去作業が必要となるだろう。 本研究では、逸失道路サービス水準を定義することで、除去効率の高い道路を順序付けした 実際の道路ネットワークでは道路の代替性などを考慮しなくてはならない。さらに、道路の清 掃方法では、複数車線がある場合にはすべてを啓開せずに1車線のみを啓開する等の処置 がとられる可能性もある。しかし本研究ではこれらの点に重点的に取り組まず、除灰順序の目 安を出す程度でしか分析を行っていない。 ★今後の課題 こうした点を考慮した最適除灰順序決定問題
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