偏光分離 ・合成用 人 工 光学異方性媒質 の作製 白石 和 男 宇都宮大学 工 学 部 電気電子 工 学 科 助 教 授 1 . は じめに ― 任意 の 偏光状態 の 光を直交す る 2 つ の平行 な偏光 亡 ム に分 離 あ いは逆 に合成す ることは、光 一 通信、光 セ ンシング、光交換 、光情報 ・画像処理等 に不可欠 で重要 な技術 の つで ある。 この 作 一 用を もつ偏光素子 を ウ ォー クオフ ( W a l k o f f ) 偏光子 と呼ぶ。 この偏光分離 は光 学的 な 軸異方 性媒質 が 有 して い る特徴であ る。 この 一 軸異方性 とは、特定 の 一方向 ( 主軸) に 対す る屈折率が 他 の 2 方 向 と異な る性質を いい、良 く知 られた材料 と して方解石や ルチルが あ るc 方 解石 の 小 さ なブ ロ ックを文字 の書 かれた紙 の上 に置 くと、文字 が 二重 に見え るとい う実験 は良 く知 られて い るこ これ は、電界 の 向 きが直交 した 2 つ の光 に分離す ることに依 る ( 等位相面 に対 して垂直 に伝 搬す る偏波を常光、斜 めに シフ トしなが ら伝搬す る偏波を異常光 と呼 ぶ ) c 一 従来、 ウ ォー クオフ機能 は自然界 に存在す る結晶の 軸異方性 を利用 して きた。透明度や硬度、 耐環境性 な どの点 を考慮す ると利用可能 な結 晶は実質上、 ルチル と方解石 の 2 つ の結 晶 に限 られ て きたを しか しヽ 自然界 に存在す るこれ らルチルや方解石 の偏光分離角 は高 々5 . 6 °に過 ぎない とい う問題があ った。空 間光交換器や光 アイソ レー タな どの光部品 に高機能性 を付加 した り、小 型 ・高性能化 を もた らすた めには、よ り大 きな偏光分離角 が必要であ る。 この 問題を解決す るた 一 め、先 に筆者 らは屈折率が互 いに大 き く異 な る 2 種 の誘電体薄模 か ら成 る交五多層膜が大 きな ー 軸異方性 を示す ことに着 目 し、 これを適 当 な方位 で切 り出す ことによ り、高 いウ ォ クオ フ特性 を有す る新素子が人工的に合成 可能 で あることを初 めて 明 らかに した 1 1 , 2 , . 本研究 で は、 この新偏光子 を実際に合成 し、 自然界 に存在す る結 晶で は得 られ ない、大 きなウ ォー クオフ特性 を もつ偏光子 の実現を 目標 に した。構成材料 であ る 2 種 の誘電体 には石英 ( S l o 2 ) と水素化 したアモル フ ァス状態 の シ リコ ン ( a S i : H ) の組 み合わせを検討 した。作製 は高周波 ス ー パ、 ソタ リング法 に依 った。 この試作 における最 も重要 なパ ラメ タは スパ ッタ中の 全ガ ス圧、水 素 のガス分圧、お よび基板温度で ある ことがわか ったG 試 作 の結果、波長 1 . 5 5 μm で偏光分離角 1 5 . 5 °を得 た. こ の 値 は、 自然 に産す る結 晶を用 いた従来 の 素子 の値 の約 3 倍 であ る。 2 . 構 造 と理論 的光学特性 ー 筆者 らによ って考案 されたウ ォ クオフ偏光子 の構造 を図 1 に 示す。図 1 ( a ) は 図 ( b ) は これを 下面 か ら見た図である。屈折率 が n l と n 2 ( n i 卜 鳥取図 で 同 n 2 ) の 2 種 の誘電体 ( 透明 ー 体) を 交互 に積層 した構造であ り、その各層厚 は光の波長 よ りも十分薄 い。 この ウ ォ クオ フ偏 光子を以下、 L P S ( L a m i n a t e d P o l a r i z a t i o n S p l i t t e r ) と呼 ぶ 。 L P S は 、微細構造 に起 因 し、図 の θ方向を主軸 とす る光学的一 軸異方性を もつ。 q を 2 種 の膜 の 周期 に対す る高屈折率材 ︱ ︱ 料 ( n l ) 層 の模厚割合、即 ち充填率 とす ると、常光 E o 及び異 常光E e に対す るこの媒質 の実効的 屈折 率はそれ ぞれ、 =陣虫1-の 耽 を V 十 / / れ 〓 q F I L れ 律ω イツ と表わす ことがで きる 〔1 , 3 〕 。図 2 は 、高屈折材料 しとてア モル フ ァス シ リコ ン ( a S i 、屈 折率 は3 . 5 と仮定) を 、低屈折材料 として石英を仮定 した時 の n 。とn e を 充填率 に対 して プ ロ ッ トした もので あ る。 この構造 が非常 に大 きな屈折率異方性 を示す ことが分 か る。例えば充填率 q = 0 . 6 の 時 には0 . 8 4 にも達す る。因み に、異 方性 が大 きい結 晶 と して知 られ るル チルで も高 々 0 . 2 9 6 に過 ぎない ( 方解石 で は0 . 1 7 2 ) 。 1 残 OE。 nl (a) (b) 図 1.LPSの 構造 (a)鳥 欧図 ( b ) 底 面側 か ら見 た図 0 q 図 2 . LPSの 光学異方性 ( 複屈折) 充 填率依存性 - 8 - 一 軸異方性媒質 が有す る偏光分離 角 φは、 つ0 = φ で表され る。 φは q = 0 . 5 か つt a n =θn e / n 。 の時 に最大値をとる。構成材料の屈折率を用 いて この条件を表せば、 θ= t a n 判 2r/(r2+1)〕 の時に最大値 〔 φ_r= (r2_1)2 4r(r2+1) (4) 40 30 ︵ 0 0 0 ︶ n ︶ 20 10 0 -10 -20 -30 -40 0 10 20 30 40 50 60 70 θ 図 3.LPSお (deg.〕 よび従来 の結 晶の光学的主軸 の傾 き角に対す る偏光分離特性 を とることにな る。 ただ し、r=n2/nlと お い た。図 3は LPSと 他 の結晶 の偏光分離性能 を、 光 の 入射方 向 に対す る主軸 の傾 き角 θを変化 させて比 較 した もので あ る。 LPSで して い る。a Siと石英 の組み合わせか ら成 るLPSは は q=0.5と 従来 の結 晶よ りもはるか に大 きな偏光分離 角を有す ることが分か る⑥尚、 同図 に示 したSiと空気 の組み合わせか ら成 るLPSは 、実際 の作 製 には困難が予想 され るが、理論 的 には35°近 い分離角 も可能である ことを示 している。 3.作 製 と評価 本研究 で は屈 折率 の 大 き く異 な る 2種 の 材料 と して石英 とシ リコ ン (Si)を 選んだ。石英 は 屈折率 の 小 さ い光学材料 と して 良 く知 られ、 一 方 Siは半導体基板 の代表 で あ り可視域で は不透 明で あ るが、長波長域で は屈折率 の大 きい (結晶で3.5程度)透 明体 で もあ る。 これ らの材料 は CVD法 や高周波 スパ ッタ リング法で成 膜す ることがで きる。本研究で は、 素子 の構造上、長時 間 にわた る連続 作製が必要 な ことか ら、安全性 を考慮 して図 4に 示す構造 の 高周波 スパ ッタ リン グ装置を用 いて 作製 した。 本装置 は、石英 とSiを交互 にスパ ッタ リング し、基 板を交 互 に移動す ることによ り多層膜を形成す る ものであ る。成膜 プ ロセスは計算機制御 され、装置 は自動運転が 可能 にな って い る。 - 9 - heater substrate target RF generator 図 4.Iッ PS作 製 に使用 した高周波 スパ ッタ リング装置略図 本研究 で は以下 に示す した。 L P S を 一連 の実験を計画 し、実用可能 な特性を有す るL P S の 作製条件 を探究 スパ ッタ リング法で作製す るためには、特 にS i の成膜 に際 して解決 しなければ な らな い問題 が大別 して 3 つ あ る。 吸収損失 の低減化 、高屈折率化、 及び低応力化 で ある。S i をス パ ッタ リング法で作製す ると、一 般 にはアモルフ ァス ( a S i ) にな る。 この 際、未結合手 の存在 のために光 の 吸収 が増加す る。 これを防 ぐにはスパ ッタ用 のガスに水素 を添加 ( 水素化) す ると 一 良 い ことが知 られて い る。 しか し、 方 で水素 の添加 は屈折率 の低下 をまね く。 さ らに、積層数 が多 くなると、蓄積 した膜応力 によ って 素子 が基 板 ごと割れ て しま う問題があ る。 0 ︼LL回0 0 Z O ︼卜住 伍O の 臼 < ︵c∼ヾmO︶ 卜z 口 ︼ 100 2 mTor,H2=0ツ° R工 ′ 1。 2 4 mTorr,出 2・57.lRi 3 10‐ /。 2 mTor,H2=5。 lR T ′ 。 C 4 miori H2=5・ ,140° 1.0 1 2 1 4 1.6 1 8 20 22 WAVELENGTH(μ m) 図 5.種 々の作製条件 に対す るa Si膜の波長 に対す る吸収損失 ー パ 図 5は 、a Si膜の吸収係数 の波長特性 を水素添加量及 び全 ガス圧、基板温度を ラメ タと し て調 べ た結果であ る。水素 の添加 によ って 吸収係数 が激減す る ことがわか る。 また同 じ水素添加 も全 ガ ス圧が低 いほど、 また基板温度が高 いはど吸収係数 が小 さい ことが分か る。 ー パ 図 6は 同様 にa Si膜の屈折率 の波長特性 を水素添加量及 び全 ガス圧、基板温度を ラメ タと 量 (5%)で して調 べ た結果であ る。水素 の添加 量が増加す るにつれて屈折率 が低下す ること、及び同 じ水素 -10- 5 . .︲ . 3 卸 研 3 3 3 4、1 X 口 O Z ︼ 回 > 中卜 O < 任 L 回 任 2 mTorr,H2・0ツ。 ,R■ 2 rnTor,H2・1° /° ,RI 2 rnTor,H2=5°′ 。 , 的℃ が普戸 4「nTorr,H2i5°/。 lRT 2 . 9 │ .0 1,2 1.4 1,6 1.8 2.0 2.2 WAVELENGTH(μ m) 図 6 . 種 々の 作 製 条 件 に 対 す るa S i 膜の 波 長 に 対 す る屈 折 率 添加量 ( 5 % ) で も全 ガス圧が高 いほ ど屈折 率 が低下 し、 また基板温度を 高 くす ると屈折率が増 加す ることが分か る。 一 方、膜応力 の低下 のためには、全 ガス圧を 高 く、基板温度を高 くす るこ とが 有効 であ ることが分か った。 以上 の種 々の実験結果 よ り、最適 な作製条件 と して、全ガス圧 4 m T o r r 、 水素濃度 5 % 、 基板 温度 1 4 0 ℃を得 た。 この 時 のa S i : H 膜の特性 は、 屈折率3 . 1 8 、吸収損失 7 × 1 0 4 d B / μ m 、圧縮応 であ った。 力 1 . 3 ×1 0 ' d y n / c ポ 以上 の基 礎実験を もとに、 L P S の 作製を開始 した。石英基板上 に、 石英 と水素化a s i : H を交 互 に成膜 した。各層 の厚 さは6 7 n m で、全積層数 は1 4 4 0 層に達 した。図 7 に 作製後 の 断面を電子顕 substrate 2 H 0 i 批 S ド肝 微鏡で観察 した結果を示す。交互 に規 則的 に積層 されて い るのが分か る。 1[μ m] 図 7.作 製 したLPSの 断面の電子顕微鏡写真 基板上に積層 した膜を基板 ごと斜 め (33°)に 切断 して l Hlm程 度の厚さに切 り出 し、両面を66 と mの光を入射 させて、偏 μmまで研磨後、無反射 コーテ ィングを施 して LPSと した。波長1.55た 光分離特性を調べ た。図 8に その様子を示す。常光 (Eo)と異常光 (3e)に分離 しているのが分 かる。分離角 は15.5°であ った。 この値 は、 ルチルや方解石の 3倍 近 い値である。 これを用 いれ - 1 1 - LPS l e β OE。 卜 66pm引 図 8 . 作 製 した L P S の 偏光分離特性 ー ば、光通信や光↑ 青報処理用 デバ イスの小型 ・高性能化 がで きる。特 に、光 アイ ソレ タや フ ァイ バ型 スイ ッチな どには直ちに応用可能である。 これによ って、当初 の研究 目標を達成す ることが で きた。尚、 L P S 作 製 の ために開発 した、高屈折率 ・低損失 ・低応力 の 薄膜作製技術 や1 0 0 0 層 以上 にわた る超多層積層技術 は、広 い分野 に応 用 で きる工 学上 の重要な基礎技術 と言え る。 4 . お わ りに 本研究 で は、大 きな光学異方性を もつ新素材 を人工的に合成す ることに成功 した。得 られた L P S 素 子 の偏光分離特性 は、従 来 自然界 に存在 して いた結晶の約 3 倍 の特性 を有 して い ることが ー 明 らかにな った。本研究 で開発 した L P S は 、今後 その高効率性を活か して光 アイソ レ タ、 ス イ ッチ、光磁記録用 ヘ ッ ドな どの種 々の 光 デバ イ スに利用 され るであろ う。他 のいかな る素材 よ ー りも優れた偏光分離特性 を有 して いる事実 は、 これを利用す る分野で のキ デバ イスといえ る。 最後 に、本研究 の遂行 にあた り多大 な ご支援 を賜 った働高柳記念電子科学技術振興財団 並 びに ・ 関係各位 に深 く感謝致 します。 また、共同研究者 の東北大学 川上彰 二郎教授 お よび同研究室 の 諸兄 に深謝致 します。 参考文献 〔1〕 K. Shiraishi and S. Kawakami, 4spatial walk―off polarizer utilizing a r t i f i c i a l anisotropic dielectrics, Opt. “ Lett,, vol. 15, no. 9,516(1990). 〔2〕 K. Shiraishi, T. Sato, and S. Kawakami, “ Experimental verification o f a f r o m 一 Phys. Lett., vol. 58, no. 3 , 2 1 1 ( 1 9 9 1 ) . birefringent polarization splitter, Appl. “ 〔3〕 M. Born and E. Wolf, Principles of Optics, Pergamon, Oxford, Oxford, 1 9 7 5 . -12-
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