通訳翻訳論 現代の翻訳論 翻訳通訳研究 ことばと思考について 獨協大学 国際教養学部言語文化学科 永田小絵 柳父章『近代日本語の思想』 起点言語Aのテクスト ↓<翻訳による言語と文化の移入> 目標言語Bのテクスト → AでもBでもない 新たな言語と文化Cの創造 新たな言語と文化C AとBの特徴や要素を残しつつ AにもBにも道で異質な要素を持つもの 西欧語から日本語への翻訳 → 三人称代名詞など、日本語・文化の変化 村上春樹・柴田元幸『翻訳夜話』 村上 ◦ 創作には右脳を使うが、翻訳には左脳を使う (創作は感性的な作業で翻訳は理性的な作 業) ◦ 原作の文章の呼吸やリズムを自然な形で和訳 に移し替えようとする 柴田 ◦ 原語を正確に読むことが大切 ◦ 読者として読み取ったときの感覚をいかに別 の言語で再生するか 藤井省三『故郷/阿Q正伝』訳者あとがき 竹内好による魯迅翻訳に対する批判 ◦ 魯迅を土着化しすぎた竹内訳 原作者の複雑な思考と文体が明快な訳文に 主人公のイメージを伝えきれない訳語 異質化と受容化 ◦ 日本語の訳文を「魯迅化」する ◦ 時代の転換期を生きた魯迅の苦悩を 伝える訳文にしようと試みた 『翻訳研究への招待』 日本通訳学会・翻訳研究分科会による論文集、webジャーナルとして公開され、下記からアーカイブ参照可 http://honyakukenkyu.sakura.ne.jp/archive.html 翻訳研究は広大な分野にまたがる interdiscipline である。研究対象には文学、思 想、歴史、科 学、ノンフィクション、児童文学、字幕と吹き替え、マスメディ ア(放送や新聞など)、マルチメディア (DVD、ゲーム、マンガなど)、ソフ トウェア等のローカリゼーション、翻訳メモリー、機械翻訳、翻訳 教育など、 言語の変換・転移・媒介に関するほとんどあらゆるものが入る。研究方法・アプ ローチも 翻訳研究固有のものに加え、伝統的な文学研究をはじめ比較文学研究、 解釈学、言語哲学、言 語学諸分野(語用論、FSP、テキスト言語学、選択体系機 能文法、認知言語学、コーパス言語学、 談話分析、批判的談話分析など)、心 理学、認知科学、人類学、社会学、歴史的研究、ポストコロ ニアル研究、ポス トモダニズム、フェミニズム研究などの分野の方法が利用され、各分野で蓄積さ れた研究の富を利用できるのである。 通訳研究の現在 日本通訳学会『通訳研究』アーカイブ http://jaits.jpn.org/home/Kaishi_Archive/Jaits10-on-index.html 日本通訳翻訳学会 The Japan Association for Interpretation and Translation Studies は、「通訳と翻訳の理論と実践および教育に 関する科学的・多面的研究を促進することとともに、この分野の 社会的理解の増進に寄与することと」を目的とした学会です。 日本通訳翻訳学会(旧:日本通訳学会)は2000年9月23日に創立 されました。学会の前進は、1990年11月18日に発足した「通訳 理論研究会」という集まりでした。『通訳理論研究』を17号まで発 行しました。 日本通訳学会は通訳理論研究のこうした実績と成果をふまえ、一 層の飛躍とよりひり広い社会認知をもとめて、学会への脱皮をは かりました。2002年には日本学術会議の登録学術研究団体 (2004年に広報協力学術団体と改名)となりました。2008年9月 から、本学会は「日本通訳翻訳学会」と名称を変更しました。 翻訳通訳研究の関連学問領域 比較言語学 記号論、 認知言語学 談話分析 翻訳通訳研究 認知心理学 読みの研究 言語情報処理 哲学 思想 論理学 社会学 教育学 コミュニケーション論 通訳翻訳は必要悪なのか バベルの塔の伝説 世界共通語への希求 英語=国際語なのか 通訳翻訳の存在理由 世界には多くの言語がある バベルの塔の伝説(旧約聖書) 人類はもともと一つの言葉を使っ ており、言葉が通じない苦労をし たことはなかった。しかし、シンア ル平野に住み着いた人々が煉瓦 とアスファルトを使って、天まで 届く塔を建てようと企てた。神はこの地に降りて彼らの建てた 塔を見て言った。「おなじ一つの言葉を話しているから力を合 わせてこのようなことができるのだ。今すぐに互いの言葉が 聞き分けられないようにしてしまおう」。そして神は人々の言 葉を混乱させ、その地から各地へ散らした。 世界共通語への希求 エスペラント語 ◦ 眼科医ザメンホフ (L.L.Zamenhof) ◦ 1887年に考案した国際共通語 言語による差別をなくす 世界中の人々にとっての第二言語 自国中心主義と利害関係を排除する言語 ◦ 2007年の使用人口は100万人(日本はその うち1万人)、世界人口の0.03%を占める に過ぎない ◦ 日本エスペラント学会 http://www.jei.or.jp/hp/esp_kai.htm 英語は国際語なのか? 英語の使用人口 ◦ 母語と第二言語の合計で約10億人(うち母 語話者は3億8千万人) 使用人口が拡大 ◦ 近現代において英米 両国が世界の経済や 産業をリードした ◦ 実用性のある言語 ◦ 運用レベルに格差 ◦ 日本も英語使用国? USA UK 言語と思考の関係 サピア、ウォーフの仮説(言語相対性仮説) 言語は話者の世界観に差異的に関与する 言語の多様性=世界観の多様性 ≠文字や音声の多様性 周囲の環境に左右される生活様式の多様さ →言語様式の多様さ 言語は異なる文化を持つ人々の生活観と世界観を反映する 「現実の世界」は言語習慣によって形成される 言葉に表せないものは見えない? ◦ 「虹は何色?」 「七色の虹」という言葉があるから? http://matome.naver.jp/odai/2136348699728273201 外国語を使うということ 第二言語話者の不利 ◦ ◦ ◦ ◦ 習得に膨大な時間と努力を必要とする 母語話者の運用力には容易に達し得ない 抽象的、哲学的な議論の難しさ 母語話者との対話における不利 価値観、文化、発想への影響 ◦ その言語が用いられている文化や価値観が 刷り込まれる ◦ 英語の全世界的な普及にともなう英語圏文 化の世界的拡大 言語には優劣はない 言語に価値の優劣はない ◦ 世界には6000もの言語がある ◦ どの言語もその母語話者にとってはかけが えのないもの ◦ どの言語でも必要十分なコミュニケーショ ンが可能 英語母語話者と非英語母語話者のコミ ュニケーション ◦ 言語は道具ではなく世界観 ◦ 非母語で話すことの制約 ◦ 通訳者を使うことで解消する「言葉の壁」 非英語母語話者と英語通訳者 英語の発言しか認めない「国際」会議 ◦ 英語は世界共通語という幻想 ◦ 通訳料金節約のため 各国に特有な社会状況を知らない英語通訳者 ◦ 日常的な事柄であればあるほど理解できない 第二言語あるいは外国語を話す困難 ◦ なまり、不適切な語彙、破格な文法 英語の強制による非英語通訳市場の縮小 ◦ ドイツ語、フランス語通訳者の受注減 英語と通訳にまつわる実例 内容:某企業のアジア地域管理者セミナー ◦ 隔年に一回、日本で開催され、アジア地区系列各社 の管理職が参加 参加国:インドネシア、マレーシア、タイ、 台湾等 通訳サービス: ◦ 英語 → インドネシア、マレーシア ◦ タイ語 → タイ ◦ 中国語 → 台湾 形態:ウィスパリングおよび逐次(質疑応答) セミナー会場のレイアウト例 英語通訳者 インドネシア マレーシア 講師 (日本語) タイ タイ語通訳者 台湾 中国語通訳者 英語通訳者の困難 英語の通訳者はインドネシア、マレーシアの企 業文化や社会状況に関する知識を持っていない ◦ 質疑応答の際に参加者の提起する問題点がよく理解で きない ◦ 相手の状況にあわせた説明の仕方、適切な補足などは 行えない インドネシア、マレーシアの英語に不慣れ ◦ 聞き取りに苦労する 理解されているかどうか自信が持てない ◦ 参加者にとって英語はあくまでも外国語 マレーシアの参加者 マレーシアの華人社会出身 ◦ ◦ ◦ ◦ ◦ 家庭内言語は潮州語 コミュニティ内での言語は広東語 華人社会の共通語は北京官話 日常生活はマレー語で(他民族とも通じる言語) 英語は教育によって習得したもの 英語よりは中国語を聞く方が理解しやすい ◦ 実際は台湾側の通訳を聞いていた? 日常生活で最も使用頻度が高いのはマレー語 伝達効果の改善 改善案 ◦ インドネシア語、マレー語通訳者の手配 デメリット コストは高くつく 英語1名体制 → 二名体制に変更 優秀な通訳者を確保することが難しい もしレベルの低い通訳者なら英語のほうがまし。 メリット 母語で自由にリラックスして質問できる 聞き手の社会状況、風俗習慣を理解している通訳者 何といっても理解しやすい 通訳・翻訳者の存在価値と使命 世界の人々に、自らの母語を用いて自由 闊達に意見を述べる機会を提供 ◦ 国際会議での意見交換などに通訳は不可欠 言語による不便、不利益、差別を排除 ◦ コミュニティ通訳による社会的弱者への奉仕 個別言語の地平を拡大 ◦ 翻訳通訳による新たな思想や概念、表現形式 の導入
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