第Ⅰ部 社会ネットワーク分析への招待 第1章 社会ネットワークを導入する Social Network Seminar 内容 1.1 ある社会ネットワークからの出発 ザンビアの電解作業所の例より、社会ネットワークを考える 1.2 社会をどう見るか 社会構造の捉え方を整理する 1.3 社会構造はどうモデル化されるか 複雑性やカテゴリを考慮したモデルの表現 1.4 社会ネットワーク分析の研究態度 分析における種々の思想 1 1.1 ある社会ネットワークからの出発 2 ザンビアの亜鉛精錬工場において(Kapherer 1969) 工場内組織図 班長: ジャクソン(48) 剥膜係 アベル(44) 剥膜係 ダミアン(57) 剥膜係 アブラハム(58) 剥膜係 ロトソン(37) 剥膜係補佐 ドナルド(36) 剥膜係補佐 ソフト(33) 剥膜係補佐 ベンソン(52) 剥膜係補佐 マクスウェル(66) 計量取次係 ジョシュア(34) 計量取次係 計量取次係 スチーブン(50) 計量取次係 ノア(26) ゴッドフリー(34) 乾燥係: ヘンリー(31) 洗浄係: アンドリュー(52) 3 ザンビアの亜鉛精錬工場において 席に戻りなさい ある日の口論 アベル(44) 妖術をかけると アブラハムが脅してくる ドナルド(36) 怒り おい、せっかち野郎!俺達 その通り。年上の者を尊敬 ジャクソン(48) アブラハムが妖術を に合わせてゆっくりやれ。 いなければ、お前は術にか 仲裁 かけるって・・・・ せっかち野郎! けられるぞ! 職場委員 ダミアン(57) アブラハム(58) ロトソン(37) ドナルド(36) 口論 抗議 ソフト(33) ベンソン(52) ドナルドは酔っぱらってる まあまあ、あんたのこと おしゃべり のさ。でなきゃ、あんなこと 俺達、若い者は妖術を 言ったわけじゃないから あだ名で呼ばれる かけられないように気を 戻って戻って。 言うわけない 筋合いはない! つけなきゃな! ゴッドフリー(34) ジョシュア(34) スチーブン(50) マクスウェル(66) ノア(26) ヘンリー(31) アンドリュー(52) 4 ザンビアの亜鉛精錬工場において アブラハム?うそでしょ?? 休憩時間に・・ ドナルドの振舞いに 酔っぱらいって言われたからって 弁解の余地はないな そんなに怒ることじゃないじゃん 職場委員 ロトソン(37) 事情聴取 事情聴取 酒じゃなくて、あだ名とか妖 術とかアブラハムが悪い ドナルド(36) ほら、行けって。 説明 ゴッドフリー(34) スチーブン(50) ソフト(33) 年下に批判されたか ドナルドが悪い ら怒ったんだ アブラハム(58) ドナルド、こっちに来いよ この仕事を頼める? 頼まれた仕事を終え、元の通りへ、、、と思いきや 後日、ドナルドは妖術の件を蒸し返し、他の部門へ 5 社会ネットワーク分析に基づく説明 •エゴを点 •相互作用(交換関係)のリンクを線 (会話、仕事援助、金銭援助など) 4:ロトソン 9:アベル 11:アブラハム 15:ドナルド 多重送信性のリンクのみ抽出 (2種以上の交換関係) •リンク数 アブラハム3 vs ドナルド1 •アベルはロトソンと結節 ⇒アブラハムはアベルでなく、ドナルドを非難 そして、ドナルドは敗れ去る 6 社会構造の表現 ① ネットワーク構成員としてのアクターの集合 ② そのアクター間に定義される結合関係 ③ 数学的に記述し、分析するためのグラフモデル の3つから社会構造を表現 要素アクターをpで示すと、 P={pi | pi はアクター} と示される。 アクターの間で取り結ばれた関係をRとすると、 R={<pi、 pj> | アクター pi が アクターpj に関係をもつ} 社会構造のオブジェクトSは、P、Rの順序集合 S=<P、R> とそれぞれ示す。 pi とpj の間に関係がある場合 xi,j=1、 xi,j=0で表す。 全ての値をまとめて行列の値で示すことができる。 7 1.2 社会をどうみるかー社会構造の4つの概念 8 社会の2つの相 マクロな 社会観 下向きの混同 社会的 ポジション 「社会の相」(マクロ) 社会空間 「個人の相」(ミクロ) ミクロな 社会観 行為を 制御する 上向きの混同 4つの概念 Ⅰ.ミクロな社会観 時間的に安定した集成的行動パターンとしての構造 Ⅱ.マクロな社会観 社会的事実間の法則的な規則性としての構造 Ⅲ.社会的ポジション 社会的なポジション間の諸関係システムとしての社会構造 Ⅳ.行為を制御する社会 諸規則と諸資源としての社会構造 9 Ⅰ.ミクロな社会観 (George C. Homans, Randall Collins) 社会を「自分の目線」にあるミクロな角度から、見上げるようにして社会をみる ↓ 個人の相だけがよく見える ↓ 人間の観察により個人の「集成的行動パターン」を理解する 観察可能な行為と社会関係への注目し、 アクター間の相互作用を研究 社会はただ単に個人の集合として見るのみ 10 Ⅱ.マクロな社会観 (Durkheim, Blau) 「構造社会学」: 個人の行為を「内的なもの」に求めるのでなく、「社会の形態」に求める ↓ 社会の相から個人の相を見下ろし、個人の相に投影 社会的諸関係への視点はなく、単なるマクロパラメーターとして理解 個人の「点」、行為の「ベクトル」、関係の「矢印線」、 すべてが社会の相にかき消される もはや 批判の対象でしかない 11 Ⅲ.社会的ポジション (Marx, Bhaskar) どちらか一方ではなく、社会と個人の両者を見る―構造とエージェンシーの二重性 社会的諸関係の独立性、社会的諸関係の総体としての人間 ↓ 社会構造を社会システムの組織的な特性としてみる ポジション:客観的に捉えられる社会カテゴリー ↓ アクターは意識の有無によらず、埋め込まれる ↓ 社会的なポジションの相互作用からネットワークをみる 12 Ⅳ.行為を制御する社会 社会構造を、共有された規則、資源の観点から定義 ↓ 個人の規則・資源として「外在」しているのみ 社会構造を概念化し、 個人の行為の条件づけ、資源を利用し再生産するといった形 ↓ 結局、Ⅰ同様に人間行動の末梢的な現象を追う (構造を個々の人間関係の先に定義することが難しい) 13 1.3 社会構造はどうモデル化されるか ~変数に何をとるか、どう拡張するのか。 14 社会の複雑性を考慮する ◆多変量化 リンクの有無でなく、強度を数値化 Ex.会話の頻度 ◆複合関係化 違う種類の関係を同時に扱う →社会関係相互の関係を考察 Ex.会話+仕事の援助 ◆ダイナミック化 時間軸を導入し、ネットワーク変化を扱う メンバー規模が変化するとモデル構築難しい ◆モードの導入 モードとは‥何によって社会ネットワークが定義されるかの参照軸 Ex.(アクターが組織に所属)組織群をもうひとつのモードとする ◆社会関係のカテゴリー化 社会ネットワークが属性によって組織される 詳しくは↓ ↓ ↓ 15 社会的カテゴリーを考慮する 社会カテゴリー:個人が分類される個人の共通の属性 Ex.日本人である、男である、鹿児島出身である 社会運動組織の強さはカテゴリーの強さ(catness) ネットワークの強さ(netness) による。 両軸から考えたモデルを“キャットネットモデル”という。 社会カテゴリーと社会ネットワークの相互関係をモデル化 →ネットワークの成員がカテゴリーによって分けられていると想定。 →カテゴリーによってわけられたクラスターとして表現。 アクターの属性からも社会構造を研究していくべき。 16 1.4 社会ネットワーク分析の研究態度 (Wellman 1989 を参考に) 社会的ネットワーク分析の思想的バックボーン 17 社会ネットワーク分析の思想1 1.社会的構造主義 「心的相互作用」に限定せず、あらゆる相互作用による社会的諸関係のパターンに より、人間行動にアプローチする。 2.関係主義 分析の焦点は、アクター間の社会的諸関係であり、内的な属性による分類ではない。 3.多重コンテキスト主義 集団所属関係の網の目(多重的な社会諸関係)を前提に、それらの関係がどのよう にアクターの行動に影響を与えるかが考察の対象の中心である。 4.階層的な世界観と非還元主義 社会構造はネットワークのネットワークといえ、分割不能である。 また、アクター・クラスター・社会ネットワークと階層的な構造をもっており、上の階層 との関係性から考察される。 cf.化学の塩―分子―イオン 18 社会ネットワーク分析の思想2 5.分析単位非独立性の仮定 独立的な個別的な単位を要求する主流的な統計技法を補う、 社会構造のパターン化した関係的性質を扱う。 ■変数-志向的アプローチ 「変数構造」のパターンが問題 相互作用の無視できるデータを用いる 6.構造的説明様式 ■事例-志向的アプローチ 非独立的で、クラスター化された 社会単位の結合=「社会構造」のパターン を問題にしている →非独立性を保ったまま、統計的なモデルへ 社会科学の目的: 特定の社会的なイベントの発生や過程を説明し、そのメカニズムを明らかにすること。 相関を示すことではない。 ■相関因果的な説明様式 ■構造的な説明様式 時間的に先行する変数が「原因」、後にくる 変数が「結果」となる。 「規則性パターンの継起」を捉える。 構造分析:密度、クリークなど構造特性を測る 構造的説明:「構造」を具体的な「イベント」、その 発生・過程の「メカニズム」と連結させ、推論する。 19 END →第2章 社会ネットワーク分析はどこからきたか へ 20
© Copyright 2024 ExpyDoc