巨大地震発生域周辺の地震活動に見られる静穏 期から

巨大地震発生域周辺の
地震活動に見られる
静穏期から活動期への移り変わり
Transition from Quiet to Period of Seismicity Around
Source Regions
of Great Interplate Earthquakes
堀 高峰
紹介者 小山研究室 芹澤沙季
地震のサイクル
プレート境界の巨大地震が繰り返し発生する地域では…
静穏期
活動期
1サイクル中に、地震活動度が低い静穏期から地震活動の活発
な活動期へと変化していくことが指摘されてきた。
南海地震
南海トラフ沿いの地震発生前50年か
(b) ら発生後10年を示す。
(a)
図2 (a)868年から2000年における西日本での被害地震の震央分布
(b)(a)で示した赤枠内で発生した被害地震の時系列(Hori and Oike,1996)
南海地震の前数十年から後十年程度の間は、地震活動が活発な活動期、
それ以外は地震活動の低い静穏期であることが知られている。
つまり…
南海地震後10年程度経つと、西南日本は地震活動が静穏化し、そ
の後次の南海地震の数十年前になると活動期に入るといえる。
研究目的
ここ数年、西南日本ではM6~7の地震がいくつか発生
しており、活動期に入った可能性が指摘されている。(尾
池、1995)
また、サンフランシスコ湾地域では、1950年代からM5
クラスの地震の発生頻度が高まり、活動期に入ったと指
摘している。(Ellsworth et al.1981)
本研究では、ある時期の地震活動が、静穏期にある
のか、活動期にあるのかを判断する基準を設け、その
基準を現在の西南日本およびサンフランシスコ湾地域
に適用することで、両地域が活動期に入っているかど
うかを調べる。
静穏期と活動期とを区別する基準
もともと、静穏期と活動期は、地震発生頻度が高いかどうかに基づいて定性的に用いら
れてきたが、大地震後に周辺の地震活動が静穏化し、その後活発化するメカニズムは明
らかなので、そのメカニズムに基づいて静穏期と活動期とを区別する基準を設ける。
巨大地震が発生
→応力場の変化が生じる。
図4 大地震震源域の周辺の断層での応力変化の模式図
(南海トラフの地震によってせん断応力が減少する場合)
(Shimazaki,1987を一部変更)
応力が強度に達すれば、地震が発生する。強度に近
づいたところで南海地震が発生したことで、点線で示
した時点で起こるべき地震の発生が遅れる様子。こ
の際、南海地震後に減少した応力が回復するまでの
期間には、少なくとも地震が起こらない。
応力変化によって地震が生じ
る場合のすべりの向きのせん
断応力が増加したり減少した
りする。
増加する場合
地震が発生しやすくなる。
減少する場合
断層がstress shadowに入る
という。( Harris and
Simpson,1996)
静穏期と活動期を区別する基準
stress shadowに入った断層に働くテクトニックな応力の蓄積等によって減
少分が回復するまでは、少なくともその断層を震源断層とするような地震
は発生しない。このようなことがある地域の主要な断層の多くに生じる。
静穏期
巨大地震によってstress shadowに入っていた地域の断層で地震が発生
するようになる。
活動期
例外
地震発生頻度を基準にして活動期に入ったと判断される場合の中には、活動期の
生じる物理的なメカニズムとは無関係に、偶発的に地震活動が高まった場合が含ま
れる可能性があるが、その場合を取り除く。
1994年東南海・1946年南海地震前後の西南日本の地震活動に対して適用
した場合に、その静穏期と活動期がどのように区別されるかを確認する。
東南海・南海地震前後における
地震活動度の評価
糸魚川-静岡構造線以西、中央構造線以北である西南日本内帯の地震に着目。
表1 1944年東南海・1946年南海地震の前後に西南日本内帯に発生したM7以上のリ
スト。
南海トラフ沿いの地震との前後関係および各断層面における南海トラフ沿いの地
震による応力変化の符号。濃尾地震については、1854年東海・南海地震後の年
数を()内に示した。
発生年
東南海・南海地震発生
地震名
前後関係[年]
応力変化
-53 (+37)
+
1891年
濃尾地震
1927年
北丹後地震
-17
-
1943年
鳥取地震
-1
-
1948年
福井地震
+2
+
1961年
北濃尾地震
+15
+
1891年の濃尾地震を除けば、1944年以前に発生した地震はすべて、1854年の東海・南海
地震のstress shadowに入っていた断層で発生。また、1946年以後20年間に発生した地震
は、 1944年東南海・1946年南海地震によって地震が起こりやすくなる断層で発生。
また、1961年の北濃尾地震以降、1995年に至るまでM7クラスの地震は発生していない。
東南海・南海地震前後における
地震活動度の評価
糸魚川-静岡構造線以西、中央構造線以北である西南日本内帯の地震に着目。
表1 1944年東南海・1946年南海地震の前後に西南日本内帯に発生したM7以上のリ
スト。
南海トラフ沿いの地震との前後関係および各断層面における南海トラフ沿いの地
震による応力変化の符号。濃尾地震については、1854年東海・南海地震後の年
数を()内に示した。
発生年
活動期
東南海・南海地震発生
静穏期
地震名
前後関係[年]
応力変化
-53 (+37)
+
1891年
濃尾地震
1927年
北丹後地震
-17
-
1943年
鳥取地震
-1
-
1948年
福井地震
+2
+
1961年
北濃尾地震
+15
+
よって、1891年濃尾地震の発生は西南日本内帯の活動期の開始を示すもので
はないが、少なくとも1927年には西南日本内帯は活動期に入ったと考えられる。
また、1946年以降少なくとも1995年までは静穏期であったといえる。
最近の地震活動の評価
1)西南日本内帯
1995年兵庫南部地震以降から現在までの地震活動を評価する。
表2 西南日本内帯で最近発生した地震のメカニズムと南海トラフ沿いの地震による応力変化
地震名
M7クラス
1995年兵庫県南部地震
2000年鳥取県西部地震
Strike
dip
rake
M
応力変化
233
152
86
88
167
-3
7.3
7.3
-
+
EIC地震ノートによる広帯域地震波形を用いたメカニズム解析結果
1995年はSagiya and Thatcher(1999)の震源断層モデルを使うと、 stress shadowに
入っているが、Hori and Oike(1999)の震源断層モデルを使うとstress shadowに入
るかどうか変わってしまう。2000年はモデルに依存することなく、東南海・南海地震
によって応力が増加する断層で起こっている。
この断層では、東南海・南海地震によって地震が起こり難い状態に
なっておらず、静穏期・活動期とは関係がない。
最近の地震活動の評価
1)西南日本内帯
1995年兵庫南部地震以降から現在までの地震活動を評価する。
表3 西南日本内帯で最近発生した地震のメカニズムと南海トラフ沿いの地震による応力変化
地震名
M5クラス
2001年兵庫県北部地震
2001年京都府南部地震
Strike
dip
rake
M
応力変化
90
331
89
26
172
29
5.4
5.3
-
-
防災科学技術研究所Freesia Projectによる広帯域地震波形を用いたメカニズム解析結果
どちらも、 モデルに依存せず、stress shadowに入っていた。
stress shadowから抜け出す断層が徐々に増えつつあることを示してお
り、西南日本が活動期へ移行しつつあると考えられる。
最近の地震活動度の評価
2)サンフランシスコ湾地域
1980年代以降のこの地域におけるM6以上の地震活動を評価する。
表4 サンフランシスコ湾地域で最近発生した地震のメカニズムと1906年サンフランシ
スコ地震による応力変化
地震名
strike
dip
rake
M
応力変化
1984年モーガンヒル地震*
1989年ロマプリエタ地震⁺
330
132.4
80
75.8
190
138.5
6.2
6.9
-
+
*Oppenheimer et al (1990) , ⁺Arnadottir and Segall (1994)
1984年は、1906年サンフランシスコ地震のstress shadowに入っている。
すでに1911年にstress shadowから抜け出してM6クラスの地震が発生し
ていて、1984年の地震は同じセグメントでの地震の再来と考えられる。
サンフランシスコ湾地域が活動期に入ったとはいえない!!!!
1989年は、stress shadowの外で起こったものである。
活動期とは関係ない!!!!
最近の地震活動度の評価
2)サンフランシスコ湾地域
1906年サンフランシスコ地震から1970年代までは、M6クラスの地震はわずか
1回しか発生していない。それに比べて、1980年代には2回のM6クラスの地
震が発生しており、それに先立つ1950年代からのM5クラスの地震活動度の
上昇を合わせて考えると、この地域がすでに次のサンフランシスコ地震に向け
た活動期に入っている可能性が考えられた。
サンフランシスコ湾地域では70年間以上の静穏期を経て1980年代にM6クラス
の地震が立て続けに発生したが、これはこの地域が活動期に入っていたこと
を示すものではなかった。
1906年以来の静穏期は現在も続いている。
まとめ
活動期への移り変わりは、大地震によってstress shadowに入っていた断層
で地震が発生しはじめることで判断できる。
この基準を1944年東南海地震と1946年南海地震の前後数十年の地震に適
用すると、1927年以降には活動期に入っており、南海地震後の静穏期は少な
くとも1995年兵庫県南部地震より前まで続いていたと考えられる。
また、西南日本では、活動期に入ったという確証は得られないが、活動期に
入りつつあることを示唆している。
一方、1980年以降のサンフランシスコ湾地域の地震に適用すると、現在も、
1906年サンフランシスコ地震以来の静穏期が続いていると考えられる。
西南日本については、今後本格的に活動期に入り、M6あるい
は7クラスの地震の発生危険度が高くなる可能性がある。
サンフランシスコ湾地域については、1980年代の地震活動の活
発化に基づいて、M6クラス以上の地震の発生危険度を予測する
べきではない。