第8講 マルクス経済学の エッセンス 「私がこの著作で研究しなければならな いのは、資本主義的生産様式と、これ に照応する生産諸関係および交易諸関 係である。」 「近代社会の経済的運動法則を暴露す ることがこの著作の最終目的である。」 (『資本論』第1巻初版「序言」より) 1.経済学と社会主義 知識人の理想社会論⇒ユートピア サン・シモン派の産業主義 民衆の生活防衛⇒協同思想オーウェン派 経済学の発見: ホジスキン『労働擁護論』 プルードン『所有とは何か』『経済的矛盾の体系』 ドイツにおける初期社会主義 モーゼス・ヘス、ワ イトリング アナキズムと共産主義 『共産党宣言』(1848年)の古典的ビジョン 2.唯物史観と再生産論 「人間は、その生活の社会的生産において、一定の、必然 的な、かれらの意志から独立した諸関係を、つまりかれら の物質的生産諸力の一定の発展段階に対応する生産関係 をとりむすぶ。この生産諸関係の総体は社会の経済的機構 を形づくっており、これが現実の土台となって、そのうえに、 法律的、政治的上部構造がそびえたち、また一定の社会的 意識諸形態は、この現実の土台に対応している。」(『経済 学批判』岩波文庫) 「社会は、消費することをやめ得ないと同様に、生産するこ ともやめ得ない。ゆえにあらゆる社会的生産過程は、不断 の関連とその更新の絶えざる流れとにおいてこれを見るな らば、同時にまた再生産過程である。生産の諸条件は同時 に再生産の諸条件である。いかなる社会も、その生産物の 一部分を絶えず生産手段または新生産の諸要素に再転化 することなくしては、絶えず生産すること、すなわち再生産 することはできない。」(『資本論』岩波文庫4向坂訳) 資本家階級 再 生 産 表 式 図 解 I:生産手段 生産手段 II:消費手段 生産部門 生産部門 C2 ( 記 号 は 単 純 再 生 産 の 場 合 ) M2 M1 V1 V2 労働者階級 消費手段 3.貨幣の必然性と資本への発展 商品生産は社会的な分業を基礎としているが無政 府的な私的生産である⇒交換価値が貨幣として自 立化する⇒市場の貨幣による支配⇒貨幣的バイアス を含む市場価格の変動をつうじて再生産が進行する。 自己増殖(利潤獲得)を目的とした貨幣の運動(Gー WーG’)が、継続的な基礎(生産)を得たとき、資本 が成立する。 生産を基礎にした産業資本(GーW・・・P・・・W’-G’)、 流通部面で活動する商業資本(G-W-G’)、貸し付 け資本(G・・・G’)の成立。 4.労働価値説による 剰余価値の説明 商品の価値=生産手段の価値+生きた労働による付 加価値=不変資本(C)+可変資本(V)+剰余価値 (M) 可変資本(賃金費用)=労働力の再生産費=標準的 消費水準を構成する消費手段の価値 剰余価値率(M/V)=剰余労働/必要労働 賃金と労働の関連からみると剰余価値論=搾取論が 成り立つ⇒投下した資本額に応じて利潤を期待する 資本家的生産者の視点に立つと調整が必要になる⇒ これが「価値」の「生産価格への転化」 剰余価値論 生産手段の価値 t1=a1t1+λ1 ⇒ t1=λ1/(1-a1) 消費手段の価値 t2=a2t1+λ2 ⇒ t2=a2t1+λ2 1日分の労働力を再生産するために必要な消費 手段をB量とすると、1日分の労働力の価値は Bt2である。1日にL時間労働するとすればL-Bt2 が剰余労働時間。 生活水準Bが不変とすれば、剰余価値率を上昇 させるには、Lを増大させるか、t2を減少させるか しかない。 5.資本家的生産の蓄積 拡大再生産=蓄積は階級調和を生み出すか? 資本の競争⇒生産・流通機構の不断の革命⇒機 械の充用=生産力の拡大⇒資本の有機的構成 (C/V)の上昇 有機的構成の上昇⇒労働需要の弱化・機械によ る労働の代替⇒相対的過剰人口(産業予備軍) の形成⇒労働者に不利な労働市場⇒貧窮増大の 可能性 有機的構成の上昇⇒生産性上昇を打ち消す不変 資本の増大⇒利潤率の傾向的低下 狭隘な消費需要のもとでの金融市場と固定資本 投資の相互作用⇒恐慌をともなう景気変動 6.マルクスの階級論 資本家(階級)は、利潤追求の衝動のもと に、旧来の生産方法と社会関係を変革す る革命的な存在であるが、自らの解放した 生産力を統御できない⇒社会的な生産様 式の必要性 資本家的な生産関係は、生産の支配者で ある資本家と直接的生産者である労働者 の利害が対立する敵対的な性質をもって いる⇒労働者のアソシアシオンによる敵対 関係の克服 分配における私的所有の 三位一体的世界 資本 利潤 (利子) 土地所有 労働 地代 賃金 剰余価値の搾取 『 資 本 論 』 の 結 論 目標:社会的生産と 個体的所有の実現 生産諸関係 労働者と生産諸条件(生産 手段および土地)の分離 7.マルクスの弟子たち 『共産党宣言』の修正 エドゥアルト・ベルンシュタイン『社会主義の諸前 提と社会民主党の任務』 カール・カウツキー『農業問題』ほか ローザ・ルクセンブルク『資本蓄積論』 ルドルフ・ヒルファーディング『金融資本論』 レーニン『帝国主義』 ブハーリン M・ドッブ、P・スウィージイ 日本のマルクス経済学者
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