心理学各論 A – II 行為 第5回 注意・注意障害 2010年9月14日(火曜日) 第2時限目 B307教室 参考文献 脳研究の最前線(上)(講談社ブルーバックス、2007) – 第1章 脳のシステム(谷藤 学) ヒルガードの心理学(第14版、ブレーン出版、2005) – 第5章 知覚 バイオサイコロジー:脳-心と行動の神経科学(ピネル、西村書店、2005) – – 第7章 認知、意識、注意の機構 第10章 脳の障害と可塑性 脳神経心理学(朝倉心理学講座4、利島保編、朝倉書店、2006) – 第4章 認知と注意の神経心理学 前頭葉は脳の社長さん?(坂井克之、講談社、2007) 脳のメモ帳:ワーキングメモリ(苧阪満里子、新曜社、2002) – 第8章 言語理解の神経基盤 The Anterior cingulate cortex mediates processing selection in the Stroop attentional conflict paradigm. (Pardo, et. al., Neurobiology: Proc. Natl. Acad. Sci. USA Vol. 87, pp. 256-259, January 1990) 注意と意識 私たちの行動には目的がある 1.作業記憶 (ワーキングメモリ 電話を掛けるまでの間 電話番号を覚えておく 2.情報の選択 9 取締役 前頭前野 音楽を聴きながら 本を読む 本に集中 音に集中 文章情報 音程・リズム 必要な情報の選択を 臨機応変に行う 3.作業の切り替え タクシーを止める 作業の切替 (出典:脳研究, p.19) 目的地を告げる 注意の3つの働き、2つの機構 注意の3つの働き – 持続的注意 (sustained attention): 長い時間にわたって注意を一定レベルに維持する注意の働き 例、空港の管制塔で計器の異常を検出するとき – 分割的注意 (divided attention): 一度に複数の対象の処理を可能にする注意の働き 例、クルマを運転しながら助手席にいる人と会話をするとき – 選択的注意 (selective attention): 状況と関連した特定の対象に注意を向け、それとは無関連な対象 については注意を抑制するような、認知すべき情報の取捨選択に圧悪注意のはたらき 例、カクテルパーティー効果 前頭葉機能と深く関係 – – 持続的注意 ⇒ 右前頭前野が特別や役割を果たしている可能性 分割的注意、選択的注意 ⇒ 左前頭前野が特別な役割を果たしている可能性 注意の2つの機構 – 内部認知過程(内因性注意 endogenous attention) • • – 鍵を探しているときに机の上に集中される トップダウン (top-down) の神経機構が関与 外部機構(外因性注意 exogenous attention) • • ネコがランプにぶつかっても机の上に注意が向く ボトムアップ (bottom-up) の神経機構が関与 (出典:脳神経, pp.80-82) カクテルパーティー現象 (cocktail-party phenomenon) 周囲の他の会話はまったくわからないほど自分の会話に集中 – – 選択的注意 内因性注意 他の会話の中に自分の名前が出てくると、途端にそちらの方へ意識が向かう – – 選択的注意 外因性注意 ! ○ × (出典:ピネル, pp.143-145) ヤマダ くんは、、、 小ネタ1: 意識と注意は同じものか? 向きの異なる2つの立方体 おじいさん と 青年 おばあさん と 少女 片方が図(figure)となるとき、もう一方は地(ground)となる 両方が同時に見えることはない 切り替わりがあるという点で 「意識」 と 「注意」 は似ている しかし、両者が脳内メカニズムとしてまったく同じとは考えにくい 小ネタ2: 前頭前野は意識の切替役 (PETの結果) ストループ課題 (出典:Pardo, et. al., 1990:257) 早い 遅い (出典:苧阪 2002:161) (出典:脳研究, 口絵) 眼球運動と視覚的注意 変換盲 (change blindness) これら2つの画像が短い間隔(0.1秒)を置いて交互に被験者に見せられ、 気づいた変化を報告させる。中心の写真が出たり消えたりすることに気づくのに、 何秒間もかかる。 私たちが画像を見たとき、注意していない部分の記憶はまったくないために生じる 多くのヒトは、写っている人物に注意を向け、間の写真には注意を向けない (出典:ピネル, pp.143-145) 情報は選択されている(選択的注意) 顔中の目、鼻、口、輪郭に注意が向いている様子がわかる (出典:脳研究, p.39; 元: Yarbus, 1967) 眼球運動 固視 (fixations) – 眼球が比較的静止している短い期間 サッカード (saccades) – ある場所から次の場所へ素早く跳び移る これを観察することにより、ヒトの視覚的注意の流れについて調べることができる 図中の文字に順に注意が向いている様子がわかる:軌跡(左)、停留点(右) (被験者:AK061211、機材協力:NAC、映像:NHK高校講座生物より) 凶器注目 (weapon focus) ヒトは場面の中の凶器に注意を集中させる 当たり障りのないもの(小切手帳) 脅かすもの(ナイフ) 比較的全体的にオブジェクトの 詳細を再認することができた (出典:ヒルガード, p.193) ナイフ以外のオブジェクトの 詳細を再認できなかった 眼球運動を伴わない注意の移動 (隠れた注 意) 中心の+に集中し、視線を動かすことなく、周囲の一文字に注意を向ける。 そして、順に注意を向ける文字を変化させる ⇒ 眼球運動を伴わない注意の移動 (出典:ピネル, pp.143-145) 選択的注意の神経基盤 前部帯状回 (ACC: anterior cingulate cortex) BA 24 BA 32 (出典:Pardo, et. al., 1990:257) ストループ課題 (出典:苧阪 2002:161) ACCは基底核と共に 「注意のネットワーク」 の 一候補である (Posner & Raichel, 1994) 早い 遅い 網様体 (reticular formation) 覚醒を制御 例、ネコやイヌの網様体に埋め込んだ電極 – – 一定の電圧の電流を流す ⇒ 眠ってしまう 急速に変化する波形の電流刺激 ⇒ 起きてしまう 特定の刺激に対する注意の集中に寄与 感覚受容器は網様体に通じる神経線維を持っている 網様体がその感覚情報を大脳に送るかどうかのフィルタになる 視床 中心核 小脳 網様体 延髄 (出典:ヒルガード, p.55、ピネル, p.52) 前頭前野背外側部 (dorsolateral prefrontal cortex) 前頭眼野 BA 8 空間保持 BA 7 体性感覚連合野 前頭前野背外側部 BA 46 9 3 操作 物体保持 BA 47/12 下前頭前野 眼窩前頭野 「何?」 経路 2 BA 37 紡錘状回 DPCは選択的注意と関連して活動するという見解もあり、 ワーキングメモリの候補の一つでもる (出典:坂井, pp.98-103) 「どこ?」 経路 種々の注意障害 William James 氏 アメリカの心理学者 1875年には、アメリカでは初めて心理学の実 験所を設立。米国史上初の心理学の教授となる。 やがて、スペンサーの哲学に興味を抱き、生理 学だけでは、人間の精神状態を説くのに十分で ないと疑問を抱きはじめ、哲学の道を歩むこと になる。 William James 心理学の研究と並行して、1880年には、ハー バード大学で哲学の助教授に。1885年に同教 授に。 (1842 - 1910) 1890年には、『心理学原理』、1897年には 『信ずる意志』、1901年には『宗教的経験の 諸相』をそれぞれ刊行。1904年には『純粋経 験の世界』、1907年には、『プラグマティズ ム』を刊行。 ⇒ 注意概念を重要視 (出典: http://en.wikipedia.org/wiki/William_James) (出典: ウィキペディア ) 注意の障害:半側空間無視 注意障害の関心 – – – 注意障害が脳損傷の後遺症として高頻度に出現すること 運動障害や言語障害、記憶障害といったほかの脳機能障害のリハビリテーションや、復職・復学など の社会復帰を妨げる阻害要因として、注意障害が強く影響 統合失調症や双極性障害などの研究において、鍵となる障害である可能性 空間的注意 (spatial attention) – – 選択的注意のうち、処理すべき空間の選択 にかかわるもの 頭頂葉との関係性が示唆されている 半側空間無視 (unilateral spatial neglect) – – – – 頭頂葉後部の一側性損傷に伴って生じる 空間的注意のはたらきが強く障害される 患者は障害を受けた大脳半球の対側空間内 にある対象に気づかない 損傷と対側空間に向けて行動することが傷害 される (出典:脳神経, pp.82-83) 観察者中心無視 (viewer-centered neglect) – 自分を中心としてその左側を無視する 対象中心無視 (object-centered neglect) – 対象の中心軸を基準としてその対象の左側を無視する (出典:脳神経, p.84) 注意の神経心理学的モデル 目覚め 網様体賦活系 警告ネットワーク (alerting network) – – 網様体抑制系 眠り 注意の持続や反応準備の維持にかかわる 右前頭葉、右頭頂葉、脳幹にある青斑核 実行的注意ネットワーク (executive-control network) – – – 刺激の意識化や資源の配分、葛藤状態の解決のような実行的側面と関連 帯状回前部が中心的役割 前頭前野や大脳基底核と密接に連携 視覚的方向定位のネットワーク (orienting network) – – – – – 半側空間無視の責任病巣 頭頂葉を中心、中脳上丘、視床枕(ししょうちん) 頭頂葉後部 = 注意の解放 (disengage) 中脳上丘 = 注意の移動 (move) 視床枕 = 注意の増幅 (enhance) – 半側空間無視は注意の解放に失敗しているという説 (Posner & Raichle, 1994) (出典:脳神経, p.85) (出典:苧阪 2002:161、ピネル p.52, 55, 57, 福永 2006:155) Quiz1: よ 警告ネットワークに関わる部位を答え (C) (A) (B) Quiz2: よ 実行的注意ネットワークに関わる部位を答え (A) (C) (B) Quiz3: 答えよ 視覚的方向定位ネットワークに関わる部位を (C) (A) (B)
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