10.固有値とその応用 1 固有値と固有ベクトル 2 行列による写像から固有ベクトルへ m ´ n 行列 A によって線形写像 m ´ n f A : Rn Rm が表せることを見てきた。ここでは、2次元平面の行列に よる写像を調べる。 2 1 2 2 A f : R R とし、写像 A を考える。 1 2 A まず、単位ベクトルの像を求める。 u 2 1 x v 1 2 y u1 2 1 1 2 u2 2 1 0 1 v 1 2 0 1 , v 1 2 1 2 2 1 3 y 2 1 A 1 2 v f A : R2 R2 u u x この事から、線形写像の性質を用いると、 次の格子上の点全ての写像先が求まる。 4 y 2 1 A 1 2 v f A : R2 R2 u x b1, b2 このように、写像 f A によって、基底 Ae1, Ae2 の座標系が得られる。この座標系の事を、斜交座標系と 呼ぶこともある。 ここで、これらの写像を重ねてみる。 5 y v このように、ほとんど のベクトルは、 写像後に方向を変える。 u x 6 行列 A に対して、変換後もベクトルの方向を変えない ものがある。そのようなベクトルを行列 A に対する 固有ベクトルと言う。(正確な定義は後で与える。) 例えば、下の計算からわかるように、 1 2 1 に対しては、 1 等が固有ベクトルである。 1 A 1 1 2 2 1 1 2 1 1 1 2 1 1 2 1 2 1 1 2 1 3 1 2 1 1 2 3 7 y v 2 1 A 1 2 に対して、 u 1 1 は写像元と 写像先が同一。 x 8 y v 2 1 A 1 2 に対して、 1 1 は写像元と 写像先が同じ方向。 u x この場合は3倍 だけ変化する。 この倍率のことを 固有値という。 9 固有関係式 ここでは、行列 A に対して固有ベクトル すべき関係を示す。 ベクトルの方向が 等しいことを意味する。 x0 が満た 固有値には、 慣用的に の 文字が用いられる。 Ax x 行列 A による ベクトルの写像 ベクトルのスカラー倍 ここで、 はスカラーであり、固有値と呼ばれる。 この式が、固有値と固有ベクトルにおける 一番重要な関係式である。この関係式を本講義では、 固有関係式と呼ぶことにする。 10 線形写像に対する固有値、固有ベクトル 定義(線形写像に対する固有値、固有ベクトル) 線形空間 V から V 自身への線形写像を f : V V とする。 スカラー に対して固有関係式、 f ( x) x を満たす 0 でないベクトル x V があるとき、 スカラー は写像 f の固有値であるといい、 ベクトル x は固有値 に属する(写像 f の) 固有ベクトルという。 1.零ベクトル 0 は任意のスカラー に対して、 固有関係式をみたすが、固有ベクトルではない。 2.固有値は、一般には複数あるが、dimV 個以下である。 3.一つの固有値に属する固有ベクトルは1つとは限らない。 11 行列に対する固有値と、固有ベクトル 次正方行列 Α は、線形写像 f A : R R を定めてい た。ここで、線形写像 f に対する固有値と固有ベクトルと同様 に、行列に対する固有値と固有ベクトルを定める。 n n 定義(行列に対する固有値、固有ベクトル) n nの正方行列を A とする。 スカラー (実数または複素数)に対して、 Ax x 固有関係式 を満たす 0 でないベクトル x R n があるとき、 スカラー は行列 A の固有値であるといい、 ベクトル x は固有値 に属する(行列 A の) 固有ベクトルという。 正方行列に対してしか、固有値や固有ベクトル は定義されないので注意すること。 12 固有空間 13 固有ベクトルから固有空間へ1 2 1 A の固有値に 1 2 1 がある。 1 を満たすベクトルとしては、 1 Ax 1x 2 1 2 や 等がある。 1 y v の他にも、 実は、1次元空間(直線上)の 全てのベクトルが固有ベクト ルになる。 y u x v u x 14 固有ベクトルから固有空間へ2 2 1 A 1 2 とし、 3 とする。 1 Ax 3 x を満たすベクトルとしては、 1 2 1 2 や 1 等がある。 y v の他にも、 実は、1次元空間(直線上)の 全てのベクトルが固有ベクト ルになる。 y u x v u x 15 固有空間 定義(線形写像の固有空間) が線形写像 f : V V の固有値であるとき、 V {x V | f ( x) x} を写像 f の固有値 の固有空間という。 言い換えると、固有空間 V は の固有値 に属する固有ベクトル全体に零ベクトル えた集合のことである。 0 を加 16 行列の固有空間 定義(行列の固有空間) n 次正方行列 A の固有値を とするとき、 n V {x C | Ax x} を行列 A の固有値 の固有空間という。 言い換えると、固有空間 V は の固有値 に属する固有ベクトル全体に零ベクトル 0 を加 えた集合のことである。 例 A 2 1 1 2 間 V1 の固有値 l 1 = 1, l 2 = 3 V2 は、次のようになる。 に対する固有空 1 V k 1 | k R V1 k | k R 2 1 1 17 固有空間の性質 (固有空間の性質) 線形写像 f : V V の固有値 は V の部分空間である。 の固有空間 V 証明略 18 固有ベクトルの一次独立性 (固有ベクトルの一次独立性) 線形写像 f : V V の相異なる固有値 l 1, l 2, L , l r に対して、各固有値 l i に属する固有ベクトルを x i と する。このとき、 {x , x , L , x }は一次独立である。 1 2 r 証明 固有値の数 r に関する帰納法で示す。 基礎 r = 1 このときには、 のとき。 x1 ¹ 0 であるから命題が成り立つ。 19 帰納 r > 1 とする。 r - 1 個の固有ベクトル {x 1, x 2, L , x r - 1} が一次独立と 仮定する。(帰納法の仮定) k1x 1 + k2x 2 + L + kr x r = 0 L (1) とおいて、係数の組 {k1, k2, L , kr } を調べる。 線形性と固有値の定義より、 f (k1x 1 + k2x 2 + L + kr x r ) = f (k1x 1 ) + f (k2x 2 ) + L + f (kr x r ) = k1 f (x 1 ) + k2 f (x 2 ) + L + kr f (x ) = k1l 1x 1 + k2l 2x 2 + L + kr l r x r また線形性より、 f (0 ) = 0 20 よって、(1)の両辺に線形写像 f を適用すると、次式が得られる。 k1l 1x 1 + k2l 2x 2 + L + kr l r x r = 0 L (2) 一方、(1)によって得られる式 kr x r = - k1x 1 - k2x 2 - L - kr - 1x r - 1 L (1)' を(2)に代入する。 k1 (l 1 - l r )x 1 + k2 (l 2 - l r )x 2 + L + kr - 1 (l r - 1 - l r )x r - 1 = 0 帰納法の仮定より、 {x 1, x 2, L , x r - 1}は一次独立なので、 k1 (l 1 - l r ) = k2 (l 2 - l r ) = L = kr - 1 (l r - 1 - l r ) = 0 また、 l 1, l , L , l r は相異なるスカラーであったので、 li - lr ¹ 0 2 よって、 k1 = k2 = L = kr - 1 = 0 L (3) 21 よって、 (1) ' より kr x r = 0 \ kr = 0 (Q x r ¹ 0 ) 以上より、(3)と合わせて、 k1 = k2 = L = kr = 0 であり、 {x 1, x 2, L , x r } は一次独立。 QED 22 固有値の求め方 23 固有値の求め方(重要) ここでは、固有値の求め方を示す。なお、固有ベクトルは、固 有値を求めた後で求められる。固有値を求めるためには、固 有多項式と固有方程式の概念が重要である。 固有多項式の定義を与える前に、慣用的な単位ベ クトルの表記を与える。(主に工学系では、Iを用いる。) n (単位ベクトル) 次元の単位ベクトルは、 é1 ê ê ê I = ê ê ê êO êë Où ú ú 1 ú ú O ú ú 1ú ú û とも表す。 24 固有多項式と固有方程式 (特性多項式と特性方程式) 定義(固有多項式と固有方程式) A = [aij ] を n 次の正方行列とする。 スカラー の n 次の多項式 l j A (l ) = det (A - l I ) = a11 - l a12 a 21 a 22 - l M L a1n O an 1 ann - l を行列 A の固有多項式(あるいは特性多項式)という。 また、方程式 det (A - l I ) = 0 を行列 A の固有方程式(あるいは特性方程式)という。 25 固有値と固有方程式 (固有値と固有方程式) が行列 A の固有値であるための必要十分条件は、 の解であること が固有方程式 det (A - l I ) = 0 である。 証明 Ax = l x Û Ax - l x = 0 Û A x - l Ix = 0 Û (A - l I )x = 0 Û det (A - l I ) = 0 が自明でない解 x (¹ 0 ) を持つ。 が自明でない解 x (¹ 0 ) を持つ。 が自明でない解 x (¹ 0 ) を持つ。 が自明でない解 x (¹ 0 ) を持つ。 スカラー QED 26 例1 次の行列の固有値を求めよ。 (1) 2 1 A 1 2 解) この行列に対する固有多項式は、 A det( A I ) 2 1 1 2 (2 )(2 ) 1 3 4 2 よって、固有方程式 3 4 0 2 を解く。 (1 )(3 ) 0 1,3 以上より、行列 A の 固有値は、 1 1, 2 3 である。 と表せる。 27 例2 次の行列の固有値を求めよ。 (2) 1 2 A 3 4 解) この行列に対する固有多項式は、 A det( A I ) 1 2 3 4 (1 )(4 ) 6 2 5 2 と表せる。 よって、固有方程式 2 5 0 2 を解く。 5 33 2 以上より、行列 A の 固有値は、 5 33 5 33 1 , 2 2 2 である。 28 よって、固有方程式 例3 次の行列の固有値を求めよ。 (3) 2 1 1 A 1 2 1 1 1 2 (1 )2 (4 ) 0 A det( A I ) 2 1 1 1 2 1 1 2 (2 )3 2 3(2 ) 4 9 6 2 3 と表せる。 3 を解く。 解) この行列に対する固有多項式は、 1 4 9 6 0 2 1, 4 以上より、行列 A の 固有値は、 1 1 (2重根), 2 4( 単純根) である。 固有方程式の解 i が mi 重根 であるとき、固有値i の 代数的重複度が mi であると 29 いう。 練習 次の行列に対して、固有方程式を解き、固有値を求めよ。 (1) 2 3 A 1 4 (2) 1 0 1 B 1 2 1 2 2 3 30 固有ベクトルの求め方(重 要) 固有値がわかれば、各固有値に属する固有ベクトルを定 義に基づいて求めることができる。 具体的には、固有値 i に対する固有ベクトルは、 同次連立一次方程式 (A - l i I )x i = 0 の非自明解を求めればよい。 (実は、この方法によって、固有空間も求まる。) 31 例1 次の行列の固有ベクトルを求めよ。 (1) 2 1 A 1 2 解) この行列の固有値は、 1 1, 2 3 である。 1 1 éx 11 ù に対する固有ベクトル x 1 = êêx úú ë 21 û を求める。 (A - l 1I )x 1 = 0 é2 - 1 1 ù ê úx = 0 ê1 ú 1 2 1 êë ú û é1 1ùéx 11 ù é0ù \ êê úúêx ú= êê úú ê ú êë1 1úûë 21 û êë0úû é1 1ùéx 11 ù é0ù úê ú= ê ú Û êê úx êú êë0 0úûêë 21 úû êë0úû Û x 11 + x 21 = 0 é- 1ù éx 11 ù \ êx ú= x 21 êê úú êë 21 úû êë 1 úû よって、任意定数 k 1 を 用いて é- 1ù x 1 = k1 êê ú ú 1 êë ú û と表せる。よって、例えば é- 1ù ê ú ê1 ú êë úû 32 が 1 1 の固有ベクトル。 2 éx 12 ù 3 に対する固有ベクトル x 2 = êêx úú ë 22 û を求める。 (A - l 2I )x 2 = 0 よって、任意定数 k 2 を 用いて é1ù é2 - 3 1 ù ê úx = 0 ê1 ú 2 2 3 êë ú û と表せる。よって、例えば é- 1 1 ùéx 12 ù é0ù úê ú= ê ú \ êê úêx ú ê ú êë 1 - 1úûë 22 û êë0úû é- 1 1ùéx 12 ù é0ù úê ú= ê ú Û êê úêx 22 ú ê0ú 0 0 êë úûë û êë úû Û - x 12 + x 22 = 0 x 2 = k 2 êê úú êë1úû é1ù êú ê1ú ëê ûú が 3 の固有ベクトル。 2 é1ù éx 12 ù \ êx ú= x 22 êê úú êë 22 úû êë1úû 33 例2 次の行列の固有ベクトル を求めよ。 (3) 2 1 1 A 1 2 1 1 1 2 解)この行列の固有値は、 (A - l 2I )x 2 = 0 é2 - 4 1 1 ê ê 2- 4 1 ê 1 ê ê 1 1 2êë 1 1 (2重根), 2 4( 単純根) ù ú ú úx 2 = 0 ú 4ú ú û である。 2 4 に対する固有ベクトル を求める。 éx ù ê 12 ú x 2 = êêx 22 ú ú ê ú êëx 32 ú û 34 é- 2 ê ê ê1 ê ê1 êë é1 ê ê ® ê0 ê ê0 êë 1 - 2 1 1 1 3 1 ùú ú 1 ú® ú - 2úú û - 2ùú ú - 1ú® ú - 3úú û é1 ê ê ê1 ê ê- 2 êë é1 0 ê ê ê0 1 ê ê0 0 ëê é- 2 1 ùé ù 1 ê úêx 12 ú ê úê ú ê 1 - 2 1 úêx 22 ú= 0 ê úê ú ê1 úêx 32 ú 1 2 ú ëê ûë û éx ù ê 12 ú \ êêx 22 ú ú= ê ú êëx 32 ú û ただし、 k2 - 2ùú ú - 2 1 ú® ú 1 1 úú û - 1ùú ú - 1ú ú 0 úú û 1 é1 1 - 2ù ê ú ê ú ê0 - 3 3 ú ê ú ê0 3 - 3ú êë úû ìï x 12 - x 32 = 0 Û ïí ïï x 22 - x 32 = 0 î é1ù é1ù éx ù ê ú êú 32 ê ú ê ú êx ú= x 1 = k ê1ú 32 ê ú 2 êú ê 32 ú ê ú êú ê ú x ê ú ê1ú êë 32 ú û êë1ú êë ú û û は任意定数。 35 1 1 éx ù ê 11 ú に対する固有ベクトル x 1 = êêx 21 úú ê ú êëx 31 úû を求める。 (A - l 1I )x 1 = 0 é2 - 1 1 1 ê ê 2- 1 1 ê 1 ê ê 1 1 2êë ù ú ú úx 2 = 0 ú 1ú ú û é1 1 1ù ê ú ê ú ê1 1 1ú® ê ú ê1 1 1ú êë ú û é1 1 1ù ê ú ê ú ê0 0 0ú ê ú ê0 0 0ú êë ú û 36 (A - l 1I )x 1 = 0 éx ù ê 11 ú êx ú= ê 21 ú ê ú êëx 31 ú û Û x 11 + x 21 + x 31 = 0 é- 1ù é- 1ù é- 1ù é- 1ù é- x - x ù ê ú ê ú ê ú ê ú 31 ú ê 21 ê ú ê ú ê ú ê x ú= x 1 + x 0 = k 1 + k ê 0 ú ú 31 ê ú 11 ê ú 12 ê ú 21 21 ê ê ú ê ú ê ú ê ú ê ú ê ú ê1 ú ê1 ú ê0 ú ê0 ú êë x 31 ú û êë ú êë ú êë ú êë ú û û û û ただし、 k11, k12 は任意定数。 このことより、 1 1 に対する固有空間は、 1 1 V1 k11 1 k12 0 | k11 , k12 R 0 1 であり、その次元は、 dimV1 2 である。 固有空間の次元を、 幾何的重複度という。 37 練習 次の行列に対して、固有ベクトル、固有空間を求めよ。 (1) (2) 2 3 A 1 4 1 0 1 B 1 2 1 2 2 3 38 固有値の性質 39 固有値の性質1(複素数の固有値) (複素数の固有値) 行列の要素がすべて実数であっても、固有値は 複素数になることがある。 例 é0 - 1ù ú の固有値を求める。 A = êê ú 1 0 êë ú û 固有多項式は、 j A (l ) = -l - 1 1 -l = l2+1 よって、固有方程式l 2 + 1 = 0 より、 l = i, - i 40 固有値の個数 n 次正方行列 A に対する固有方程式 a11 - l a12 a 21 a 22 - l M an 1 L a1n = 0 O ann - l は n 次の代数方程式だから、代数的重複度まで含めると 複素数の範囲で丁度 n 個の解がある。 41 練習 次の行列の固有値を求めよ。 (1) (2) é3 - 1ù ú A = êê ú 2 1 êë ú û écos q - sin qù ú B = êê ú sin q cos q êë ú û (3) é0 ù 1 0 ê ú ê ú C = ê- 1 0 0ú ê ú ê0 ú 0 1 êë ú û 42 固有値とトレース、固有値と行列式 固有値とトレース、固有値と行列式には次のような関係がある。 (固有値とトレース、固有値と行列式) l 1, l 2, L , l n を A の固有値とする。 このとき、次が成り立つ。 (I) l1+ l2 + L + ln = a11 + a 22 + L + ann = t rA (II) l 1 gl 2 gL gl n = A この関係があるので、トレースのことを 固有和ということもある。 これら2つの式は、固有値の値のチェックに利用するこ 43 とができる。 証明 固有多項式を計算する。 j A (l ) = a11 - l a12 a 21 a 22 - l M L a1n O an 1 ann - l 行列式の定義より、 l n とl l n n- 1 の部分は、 n Õ (a ii - l ) = (a11 - l )g(a22 - l )gL g(ann - l ) i= 1 の展開からしか生成できないことがわかる。 44 一方、固有値は固有方程式の根だから、固有多項式は、 次のようにも表現できる。 j A (l ) = (- 1)n g(l - l 1 )g(l - l 2 )gL g(l - l n ) = (- 1)n l n よって、 l + (- 1)n - 1 (l 1 + L + l n )l n- 1 n- 1 + L + (l 1l 2 L l n )l 0 の項の係数と、定数項を比較して次式を得る。 l 1 + l 2 + L + l n = tr A l 1 gl 2 gL gl n = A QED 45 例1 2 1 A の固有値は、 l 1 = 1, l 2 = 3 である。 1 2 trA 2 2 4( 1 2 ) A 4 1 3( 12 ) 46 例2 2 1 1 B 1 2 1 1 1 2 の固有値は、 l 1 = 1, l 2 = 1, l 3 = 4 である。 代数的重複度を考えて、同じ値を持つ 固有値を2つにしている。 trB 2 2 2 6( 1 2 3 ) B 8 11 (2 2 2) 4( 123 ) 47 例3 é0 - 1ù ú の固有値は、 l 1 = C = êê ú 1 0 êë ú û i, l 2 = - i である。 trC 0 0 0( 1 2 ) C 0 (1) 1( 12 ) 48 固有値と正則行列 (固有値と正則行列) 行列 A が正則であるための必要十分条件は、 0を固有値として持たないことである。 証明 A が0を固有値として持つ。 Û A x = 0x となる固有ベクトル xが存在する。 ¹ 0 Û 同次連立一次方程式 A x = 0 が非自明解 x ¹ 0 を持つ。 Û A は正則でない。 よって、対偶をとることによって、 A は正則 Û A が0を固有値として持たない。 QED 49 相似な行列 50 相似な行列 定義(相似な行列) n 次の正方行列 A に対して、 n 次の正則行列 P の逆行列 P - 1 を用いて とそ B º P AP - 1 と表した行列 B を A と相似な行列という。 - 1 P AP 正則行列と、 その逆行列で サンドイッチ状にする。 51 相似な行列の性質1 (相似な行列間の行列式の相等) 相似な行列は行列式が等しい。 すなわち、 A を正方行列、 P を正則行列とすると、 A = P - 1A P 証明 -1 P AP = P = A P = A -1 -1 A P スカラーなので 交換可 P P-1 P = 1 に注意する。 QED 52 相似な行列の性質2 (相似な行列間のトレースの相等) 相似な行列はトレースが等しい。 すなわち、 A を正方行列、 P を正則行列とすると、 - 1 tr A = tr( P A P ) 証明 t r( P - 1A P ) = t r(( P - 1A )(P )) = t r((P )( P - 1A )) = t r((P P = t r( IA ) = t rA - 1 )(A )) トレースの性質で、 tr (A B ) = tr( BA ) を思い出す。 QED 53 相似な行列の性質3 (相似な行列間の固有多項式の相等) 相似な行列は固有多項式が等しい。 すなわち、 A を正方行列、 P を正則行列とすると、 j A (l ) = j 証明 j P P - 1A P (l ) - 1 ( l ) = det ( P AP - l I) AP - 1 = det (P - 1A P - l P - 1IP ) = det (P - 1A P - P - 1l IP ) = det (P - 1(A - l I )P ) = P - 1 AP - l I P = det (A - l I ) = j A (l ) QED 54 相似な行列の性質4 (相似な行列間の固有値の相等) 相似な行列は固有値が等しい。 証明 固有多項式(固有方程式)が等しいので、明らかに 成り立つ。 QED 55 例 3 2 2 1 正方行列を A とし、正則行列を P とする。 1 2 7 5 まず、 P の逆行列 P 1 を求める。 5 2 P 7 3 1 56 次に相似な行列 1 P AP を求めておく。 5 2 2 1 3 2 P AP 1 2 7 5 7 3 5 2 13 9 17 12 7 3 1 31 21 40 27 57 まず、行列式について、 2 1 A 4 1 3 1 2 1 P AP 31 21 40 27 837 (840) 3 次にトレースについて, 2 1 trA tr 22 4 1 2 31 21 tr P AP tr 31 27 4 40 27 1 58 最後に、固有多項式と固有値について。 2 1 A ( ) det( A I ) 2 4 3 1 2 31 21 P 1 AP ( )=det P AP I 2 4 3 40 27 1 よって、 A, P 1 AP 固有値は 1,3 の両方ともに、 59 固有値の応用(行列の対角化) 60 正則行列による対角化 固有値や固有ベクトルを利用すると、正方行列 を対角化することができる。まず、必要な記法や概 念を説明する。そのあとで、行列 A に対する固有 値や固有ベクトルをから行列A を対角行列に変 換する方法を与える。また、対角化された行列によ る応用をいくつか示す。 61 対角行列(重要) 定義(対角行列) n 次正方行列 A に対して、対角成分以外が全 て0である行列を対角行列という。 すなわち、 ìï a i aij = ïí ïï 0 î ここで、 a i Î C i= j i¹ j である。 62 対角行列のイメージ n a1 a2 O n O an 63 対角化可能 定義(対角化可能) A を 次の正方行列とする。 A に相似な対角行列 D が存在するとき、 すなわち、正則行列 P によって、 D = P - 1A P が対角行列になるとき、 行列 A は正則行列 P で対角化可能であるという。 n A 逆行列と、正則行列でサンドイッチ にすることで、対角化する。 実は、 P としては、固有ベクトルを 並べたものにすればよい。 このとき、対角成分として、固有値 が並ぶ。 64 幾何学的重複度と代数的重複度 定義(幾何学的重複度と代数的重複度) n 次の正方行列 A の全ての異なる固有値を l 1, l 2, L , l r とする。 (1)固有値 l i に対する、固有空間V l i = {x | A x = l ix } の次元 dimV l i を固有値 l i に対する 幾何学的重複度(geometric multicilicity)といい m g (l i ) とかく。 (2)固有値を用いることで、固有多項式 は j (l ) = (- 1)n g(l - l 1 )m1 g(l - l 2 )m 2 gL g(l - l r )mr と表せる。このとき、 m i を各固有値 l i に対する 代数的重複度(algebric multicilicity)といい とかく。 m a (l i ) 65 幾何的重複度と代数的重複度の関係 (幾何的重複度と代数的重複度) n 次の正方行列 A の固有値を l とする。 また、固有値 l に関する幾何的重複度を m g (l ) とし、代数的重複度を m a (l )とする。このとき、 次の式が成り立つ。 m g (l ) £ m a (l ) 証明略 この式より、幾何的重複度を、固有値全てに対 して総和をとっても、 n にならないことがあると いうことがわかる。(なお、代数的重複度を固有値 全てに対して総和をとれば n である。) 66 対角化の判定法 (対角化可能性) n 次の正方行列を A とし、A の相異なる固有 値を l 1, l 2, L , l r とする。このとき、A が対角化 可能であるための必要十分条件は、次式を満たす ことである。 m g (l i ) = ma (l i ) i = 1,2, L , r 証明略 67 対角化手順(重要) これまでの議論より、 n 次の正方行列 A の対角 化手順が構成できる。 (1) A の固有多項式 j A (l ) を求め、 n 次の固有多方程式 jを解く。これにより、すべての固有値 とその代数的重複度 li A (l ) = 0 m a (l i ) を求める。もし、実数で対角化を行いたいにもかかわらず、固 有方程式の解に実数でなもの(複素数)が現れたら、実数では 対角化できないことがわかる。 (2)各固有値l i 毎に、同次連立一次方程式 (A - l i I )x i = 0 を解いて、 l i の固有空間 V l iの基底と次元を求める。この次 元が幾何的重複度 m g (l i ) であり、この値と代数的重複度が 異なれば対角化できないことがわかる。 (3)(2)で求めた V l i の全ての固有ベクトル x i を順番に並 éx L x ù P = P は正則 べて行列 nú êë 1 û を作る。このとき、 行列である。この行列 P で相似な行列 P - 1A P を求める と対角行列となる。(なお、対角成分は、各固有ベクトルが重 68 複度に応じて現れる。) 例 2 1 A 1 2 の固有値は、 l 1 = 1, l 2 = 3 である。 (各固有値の代数重複度はそれぞれ1) また、l 1 = 1 に対する固有空間 V l は、 1 ìï é 1 ù ü ïï ï dim V V l 1 = í k êê ú | k Î R ý l1 ú ïï ê- 1ú ïï ï îï ë û þ また、l 2 = 3 に対する固有空間V l 2 は、 Vl 2 ìï é1ù ü ï ïý = ïí k êê ú | k Î R ú ïï ê1ú ï ï ïþ îï ë û =1 dimV l 2 = 1 69 よって、全ての固有値で、代数的重複度と幾何的重複度が等しい。 よって、対角化可能。 固有ベクトルをならべて正則行列P を作る。 ここでは、 é 1 1ù ú P º êê -ê 1 1ú ú ë û とする。このとき、P - 1は P-1 1 éê1 - 1ù ú = ê 2 êë1 1 ú ú û 70 ここで、 2 1 A と相似な行列 P 1 AP 1 2 を求める。 1 1 1 2 1 1 1 P AP 2 1 1 1 2 1 1 1 1 1 1 3 2 1 1 1 3 1 1 2 0 2 0 6 1 0 0 3 71 練習 次の行列を対角化せよ。 (1) é2 1 1ù ê ú ê ú ê1 2 1ú ê ú ê1 1 2ú êë úû é0 ù 1 0 ê ú ê ú - 1 0 0ú (2) ê ê ú ê0 ú 0 1 êë úû 72 対角行列の累乗 D を n 次の対角行列とする。すなわち、 éd1 0 L 0 ù ê ú ê0 d ú M 2 ê ú D = ê ú êM O 0ú ê ú ê0 L 0 d ú nú êë û とする。また、 k を自然数とする。このとき、行列 D の k 乗 D k は次式で与えられる。 éd1k 0 L 0 ù ê ú ê ú k Mú ê0 d2 k ú D = ê êM ú O 0 ê ú ê kú êê0 L 0 dn ú ú ë û 73 同値な行列の累乗 (1) (2) P AP P A P PAP PA P k 1 1 1 k 証明 1 k P AP P 1 AP P 1 AP (1) P 1 A PP 1 A PP 1 AP P 1 AIAIA k k 1 P 1 AP P 1 AP AP P 1 AP (2) も同様。 QED 74 行列の累乗 これまでの議論より、対角化可能な行列では以下の 手順で累乗を求めることができる。 (1)行列A を対角化して、対角行列 éd1 0 L ê ê0 d 2 ê P - 1A P = D = ê êM O ê ê0 L 0 êë 0ù ú Mú ú ú 0ú ú dn ú ú û を求める。 (2)両辺の k 乗を求める。 k P - 1A k P = (P - 1A P ) éd1k 0 ê ê 0 d1k ê = Dk = ê êM ê ê êê0 L ë L O 0 0ù ú ú Mú ú 0ú ú ú dnk ú ú û 75 - 1 P (3)両辺の左から P を右から を掛ける。 P P - 1A k P P - 1 = P D k P - 1 éd1k 0 ê ê k 0 d ê 1 k \ A = P ê êM ê ê êê0 L ë L O 0 0ù ú ú Mú úP - 1 0ú ú kú dn ú ú û 76 例 2 1 A とし、 Ak を求めてみる。 1 2 é 1 1ù ú P = êê ú êë- 1 1ú û このとき、 よって、 とする。 P - 1 1 éê1 - 1ù ú = ê 2 êë1 1 ú ú û 1 0 P AP 0 3 1 k k 1 0 1 P AP 0 3 1 0 1 k P A P k 0 3 77 1 0 1 A P P k 0 3 1 1 1 0 1 1 1 0 3k 2 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 1 1 3k 3k 1 3k 1 3k 1 k 2 3 1 3k 1 3k 1 3k 1 2 2 k k 3 1 3 1 2 2 k 78 練習 次の行列を求めよ。 k (1) é2 1 1ù ê ú ê ú ê1 2 1ú ê ú ê1 1 2ú êë úû n é0 ù 1 0 ú (2) ê ê ú ê- 1 0 0ú ê ú ê0 ú 0 1 êë úû 79
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