所有権

所有権
今日の講義の内容
• 所有という概念について
– シナリオを通して考えてみる
• (ソフトウェアの所有を考えた上での)ソフト
ウェアの保護について
– シナリオを通して考えてみる
– 帰結から考えてみる
– コピーレフトという考え
今日の講義の内容
• 所有という概念について
– シナリオを通して考えてみる
• (ソフトウェアの所有を考えた上での)ソフト
ウェアの保護について
– シナリオを通して考えてみる
– 帰結から考えてみる
– コピーレフトという考え
シナリオの前に
• 違法コピーは何故減らないのか?
– どんな理由が考えられるか?
– コピー行為に対して罪悪感を感じにくい理由は?
– 直観的倫理に合わない何かがあるのか?
シナリオ1
• あなた自身生きるために食糧が必要で、あなた
は作物を育て収穫した
• ところが誰か(それをAと呼ぼう)が勝手に、あな
たの所有していた作物を食べてしまった
• Aの何がいけない行為なのであろうか?
– あなたから作物をうばったからか?
– 作物をうばうと何がけないのか?
→ 「食糧を食べる」を出来なくしたからか?
– 上記が解決すれば、問題が解決するか?
→ “労働を盗む“という考え方につながる
ソフトウェアの所有とは?
(抽象単純モデル化でのアプローチ)
作物を育て収穫することで、
育て収穫した人がその作物の所有者となりえる
別の人が許可なく作物をとったら不正
物に労力を注ぐことにより、
労力を注いだ人がその物の所有者となりえる
別の人が許可なく物をとったら不正
ソフト開発することにより、
開発した人がそのソフトの所有者となりえる
別の人が許可なくソフトをとったら(?)不正
ソフトウェアの所有とは?
(ソフトウェアが持つ複雑さ)
• ソフトウェアは無対物で複製可能
– 作物は複製できず、誰かが作物を生産者から
取ってしまうとことで、生産者から作物そのものが
失われてしまう
– ソフトは複製でき、誰かがソフトを複製しても、製
作者がソフト“そのもの“を失うことはない
• “有形無形の違い“は問題を難しくしているの
か?
シナリオ2‐1
しているが気付かれていない ≒ していない?
• 科学進歩により、物質コピー機が開発された
• あなたが苦労して育てた作物を、Aがこっそり物質コ
ピー機を使ってコピーしていた
• あなたはコピーされていることを知らない
• Aの何がいけない行為なのであろうか?
–
–
–
–
あなたは作物を失っていない
あなたは自分で育てた作物を食べることができる
あなたは何か被害を受けたのか?
次の状況の違いがあなたの生活に変化をもたらすか?
• Aがコピー(悪いこと?)をしていて、あなたは気付いていない
• Aはコピー(悪いこと?)をしていない
シナリオ2‐2
しているが気付かれていない ≒ していない?
• A君が不正アクセスしてB君の環境に入り込
んだ
• A君はただB君の環境にあるファイルをのぞき
見するだけで、ファイルを壊したり、ウィルスを
感染させたりなどの危害は加えなかった
• 次の違いがあなたの生活に変化をもたらすか?
– A君の不正アクセスにあなたは気付いていない
– A君は不正アクセスをしていない
今日の講義の内容
• 所有という概念について
– シナリオを通して考えてみる
• (ソフトウェアの所有を考えた上での)ソフト
ウェアの保護について
– シナリオを通して考えてみる
– 帰結から考えてみる
– コピーレフトという考え
ソフトウェアの保護はどの程度必要か?
• シナリオからの考察
– シナリオ(アイディアの盗用)
– シナリオ(単純なアイディアと新規性)
– シナリオ(ソフトのコピー)
– シナリオ(フリーソフト)
• 帰結からの考察
• コピーレフト
知的所有(財産)権
• 知的財産権
– 著作権:アイディアではなく、その表現に対する権利
(アイディア≒アルゴリズム;表現≒ プログラム)
–
–
–
–
特許権:アイディア(発明)に対する権利
その他:意匠権、商標権、実用新案権
特許や著作権は排他的・独占的性質を持つ
著作権による保護はデッドコピー(またはそれに近い
もの)に限られていて、著作権による保護の限界が
認識されつつある
– ソフトとハードの分離が曖昧な今日では、従来の法
整備の限界が認識されている
シナリオ(アイディアの盗用)
• ソフトウェアに対する法整備がほとんどなされていなかった時代を
想定する
• A社が莫大な資金と年月をかけて画期的なシステムを開発した
• そのシステムの開発では、以下の性質があった:
– ある方法論の確立が非常に重要(そこが全て)
– その方法論を確立することは非常に難しいが、
– 分かってしまえばまねることは容易
• しばらくして、B社が非常によく似たかつさらに洗練されたシステム
を販売しだした(どうやらB社がA社のシステムを解析し、改良した
ように思われる)
• A社のシステムの売り上げが伸びず、しばらくしてA社は倒産してし
まった
• ここにどんな問題があるのか?
– リバースエンジニアリングや改版を禁止すべきか?
シナリオ(進歩性と新規性)
• A社があるシステムで特許を申請してきた
• その申請では、以下の性質があった:
– 2つの新技術αとβを組合わせた点がポイント
– αとβ自体が新しかったので、両者を組合わせたシステムは過去にな
かった
– αとβを組合わせることは容易に思いつく自然な発想かもしれない
– ある処理をするためには、 αとβを組み合わせることがベストな方法
• A社は新規性を盾に、特許申請の妥当性を主張している
• 一方A社以外の同業者は、以下を盾に反対している:
– 組合わせの発想は誰もが思いつく自然な発想(進歩性)
– 組合わせを行わずにある処理を実現するにはコストがかかりすぎる
• ここにどんな問題があるのか?
進歩性と新規性
カシオ・ソーテック間の「マルチウィンドウ表示制
御装置」での判決(平成15年)
– 複数のウィンドウをタイトル表示領域が識別でき
るように少しずつずらして表示する方法
– 被告:MACアプリケーションのマニュアルに既に
記載されていたもので,新規性がないか,少なく
とも 進歩性がない旨主張
– マニュアルとの差は「表示優先順位の有無」
– 原告カシオの訴えは退けられた
シナリオ(ソフトウェアのコピー)
• ソフトウェアに対する法整備がほとんどなされていなかっ
た時代を想定する
• A社が莫大な資金と年月をかけて画期的なシステムを開
発した
• しかし多くの顧客(システムを購入した側)はシステムを1
セットだけ購入し、あとは内部でコピーして使用しているら
しい
• A社は売り上げが伸びず、しばらくして倒産してしまった
• ここにどんな問題があるのか?
– コピー防止のプロテクトの不十分さが問題?
• プロテクト技術の開発費は? 価格に上乗せ?
• プロテクトが破られたらしょうがない?
シナリオ(フリーソフト)
• フリー:
– 「自由」なのか「無料」なのか、両方なのか?
• 自由:コピー、改良、再配付等に制限がない
• 無料:無料で使用
• A君があるソフトウェアを開発し、フリーとした
• フリーにすることにより、様々な人がそのソフトを
改良し、誰もがそれを自由に使えるため、そのソ
フトは非常に使いやすく、誰もが使うようなソフト
に成長した
• ここに何があるだろうか?
ソフトウェアの保護
どんな帰結が考えられるか?
• 保護しないことが及ぼす悪影響は?
– シナリオ(アイディアの盗用)や(ソフトのコピー)のような望まし
くない状況が起きる可能性がある
– 技術開発への投資のにぶりが、技術革新のスピードを減速さ
せる
• 保護することが及ぼす悪影響は?
– 自由なソフト開発の阻害
– 一部企業による技術の独占、他の企業の排他
– 企業が負う様々なコスト・リスク
• 特許侵害のチェック → 消費者が負担
• 存在を認識していなかった特許の浮上
• 特許管理の複雑化
– 国際化、価値観の相違
事例:特許訴訟が長引くことによる影響
ベンチャー企業の経営危機データベース
~83社に学ぶつまずきの教訓~経産省
• No.36 "取引先が訴訟問題を抱えていたため製品の販売
に支障が発生した
• 海外企業取引先が特許について訴訟問題を抱えていたが、
早期に有利に解決すること、特許に関しては取引先が責
任を持つことを条件に取引を開始したが、一向 に解決しな
かった。さらに特許裁判で、装置開発にマンパワーと開発
費を投入できなくなり、取引当時は装置性能が優れていた
ので販売実績をあげることができ たが、徐々に競合他社
に優位性を侵食され、販売実績が出せなくなってしまい、
契約を解消した。
• 情報収集や相手先の信用力調査が不足。ベンチャー企業
にありがちな知財戦略失敗例の一つ。
コピーレフト
• 背景(ストールマン)
– X Window がMIT で開発され、使用許諾条件付でフリーソフト
ウェアとしてリリースされた
– すぐに多くのコンピューター関連企業が採用し、独占的なバイ
ナリ形式で組み込み、非開示契約によって覆ってしまった
• コピーライト(著作権)に対する言葉
• 二次的著作物も含めて、すべての者が著作物の利用・再
配布・改変できなければならない(著作権は保持 )
• 永久的な自由
• ストールマン(Stallman)
– フリーソフトウェア財団:ソフトウェア特許は技術の進歩を阻む
– GNUプロジェクト
以降部品
所有そしてコピーライトとコピーレフト
ソフト(特許問題)
人間(奴隷制度)
自然(環境保護)
所有者
シナリオ(エベン・モグレン氏の例え)
• もしニュースの所有が認められたとする
• ニュースを所有者以外は、放送することがで
きなくなったら?
• “ニュースが誰のものか”は問題でなく、“独自
の記事を書いたかどうか”が問題
何かを知った後で状況が変わる
• ガラガラくじがあり、98個の白い球と2個の金色の玉の
合わせて100個の玉がある
• 金色の玉があたりで、金色の玉にのみ文字が書かれ
ていて、一つはα、もう一つはβと書かれている
• A君がガラガラくじを4回引いた
• A君に金色の玉を引いたかどうか尋ねたら、A君は「金
色の玉を当てたよ」と答えた。このときA君が金色の玉
を2つ持っている確率は?
• さらにA君は、「その玉にはαと書かれていたよ」と言っ
た。このときA君が金色の玉を2つ持っている確率は
は?
進歩性と新規性
• カシオ・ソーテック間の「マルチウィンドウ表示
制御装置」での判決(平成15年)
• 松下電器・ジャストシステム間の「ヘルプアイ
コンに関する特許」での判決(平成17年)