第Ⅲ部・全体主義 ● これは歴史的事実を追いかけた考察ではない。 ↓ 「ありえない!」という感覚を言葉にしようとしたもの。 数々の政治的・思想的遺産とどこが違うか、 その見慣れなさ、新しさ、不気味さを追求 ● ふたつの全体主義 ナチズム・・・最初はミュンヘン一揆で議会外から攻勢 それが失敗すると選挙をつうじて議会へ進出 第2次大戦をつうじて崩壊 スターリニズム・・・ロシア革命後、後継者争いのなかから成立 戦後半世紀も生き残る 条件1:モッブとエリートの同盟 それまで社会の周辺にいたモッブが社会の中心へ踊りだしてくる。 ブルジョアや芸術家、哲学者などのエリートが、それを新たな可能性と 思い違いをして、よろこんで招き入れる。(→エリートとモッブの同盟) ↓ これが全体主義運動の推進力に。 (しかし、いちばん踊った人間がのちに切り捨てられる) 条件2:一定の人口規模 全体主義の中核 = テロルの制度化 (単に一回ごと政敵を排除するのでなく、殺すことそのものがシステム化している) ↓ 継続的に誰かを殺している状態であるためには、 小さな国ではダメ、一定以上の大きな国でないと全体主義は成立しない 映画「シンドラーのリスト」の構図 ・・・・・破壊の自己目的化 全体主義の 真の問題 ・・・・・・民族差別(人種主義) ・・・・・・労働力の徹底的管理 (生物学的次元での管理) 近代社会、そして 植民地における 人種社会の実験 ロバート・N. プロクター 『健康帝国ナチス』 宮崎 尊(訳) 草思社 1999→2003年 モ ダ ン タ イ ム ス ● アメリカにも羨望された「科学者の天国」 ● がん撲滅運動、タバコ撲滅運動 ・・・がんやタバコはユダヤ人と同じ! ● 徹底した健康管理 ∽ 労働力管理 ∽ 軍事統制 現代のほうがむしろ<ナチスの夢>に近い・・・? 新しい国家形式の登場 国家を破壊する国家(反国家) ↓ ・・・通常、国家は、それがどんなに抑圧的なものであれ、 安定した秩序をつくりあげるもの。 しかし、全体主義はそうではなく、たえず<運動>するもの。 ↓ 解決不可能な問題を解決すると豪語し、 法や道徳の彼方をめざして突き進む無限の過程。 ふつうは現実にぶつかって現実と妥協するが、全体主義は現実を変えようとする。 現実のほうを変える実験の運動 ● 法の断続的な変更 →だんだん<<無法状態>>に近づき、何を信じたらいいかわからなくなる。 ダブルバインド状態に陥る。(G.ベイトソンの言葉) ● 権力の消滅、暴力の突出、総統支配へ 1 フ ィ ク シ ョ ン の 世 界 党員とシンパサイザー 威嚇 党 内 外 員 現実をさ えぎる壁 となる シンパサイザーの壁 (モッブ、ならず者) 広 大 な リ ア ル フィク ションに 浸食され るリアル ● 暴力団と警察の癒着構造に似ている・・・ ● ドストエフスキーの小説「悪霊」について 2 プロパガンダ = 政治宣伝、ウソ、フィクションの体系 大衆社会では、メディアの発達によってひとびとは操られや すくなったというが・・・それは事態の半面にすぎない。 (あのシンドラーの仕事は宣伝だった) (1) あらゆる階級からこぼれ落ちた没倫理的なモッブたち (2) 総力戦の焼け跡、そして勝利した列強が課した罰 → 自然発生的な<<無法状態>> (3) となりの国での<<リハーサル>>、そして遠い国での<<実験>> (4) 汎民族主義運動のデタラメな神話をすすんで信じたひとびと (5) 全体主義における断続的な法の変更 → 人為的につくりだされた<<無法状態>>、ダブルバインド (6) そして党員とシンパサイザーの配置 シニシズム =啓蒙された野蛮(「だから何?」と居直る精神) 3 増殖する組織ー秘密警察 国家を超える党(超国家) 法を超える法(法の断続的な変更) 警察を背後から監視する秘密警察 そもそも警察とは、公的な秩序を守る存在のはず。 それが秘密の存在になるとはどういうことか? → いったい何を守るのか? 誰も知らないものを誰のために守るのか? そして、秘密警察は本当に最終的な機関なのか? 秘密警察を、さらに背後から監視する組織はないのか? → 疑心暗鬼、正当な公的空間の消滅。 信じられるものは何もない。 だが、絶対に自由には動けない金縛り状態に陥ってしまう。 4 中核的組織 = 強制収容所 監獄研究の系譜 ・・・ゴッフマン『アサイラム』、イリッチ『脱病院化社会』 フーコー『監獄の誕生』、ネグリ:反精神医学運動・・・etc ドイツ国民は知らなかったという説 ホントはみんな薄々知っていたという説 罪があるから収容されるのでなく、 収容されているから罪があるという倒錯した論理 収容所 = 実験室 人間を動物以下の塊にかえ、人間などゴミでしかないを確認する実験 ゴミ処理だから殺人ではない、死体も記憶も残らない単なる処理 戦争が終わっても、焼却炉をまわす作業は黙々とつづけられた・・・ 5 イデオロギー ● ナチス:生存闘争の歴史と理論 ●スターリニズム:階級闘争の歴史と理論 近代社会 = たえざる変動 ↓ (近代だからこそ全体主義は登場しえた・・・) 全体主義は不定形な<<運動>>としてのみ存在する =組織がたえず増殖し2重化していく・・・その先に<<無法状態>>が現れる・・・総統の支配 ↓ 全体主義の その<<運動>>を貫いている<<法則>>は何か? → イデオロギー 対立 人間の<<法>> = 人間相互が権力をつうじて自由に創造するもの 法則は、A・B・C・・・必然的な過程があるだけで、 新しいαが創造されることはない。 法則がさし示す真理を実現する過程に参加せよ!(ただし歯車となって) 単に政敵を殺すことではなく、 6 テロル = 人間の<<自由な創造力>>と<<法>>を破壊すること 政敵を殺すだけ = 不完全なテロル ∵ その者の精神はまだ生きているから 真のテロルは「敵」がいなくなったあと、「味方」に対して始まった! ● ナチス:殺人を単なるゴミ処理プロセスに変える 殺される側: 精神が破壊 / 殺す側:思考停止 ● スターリニズム:相手にテロルを受け入れさせる 無実の者が「自分の罪」を認めて喜んで刑を受ける モスクワ裁判 / オーウェルの小説「1984」のラストシーン 哲学者・ドゥルーズ 「管理社会と全体主義はちがう。 全体主義は、国家全体が自殺をめざすようなもの」 (これは実際のヒトラーの発言に即したもの) アーレント 残された課題 途方もなさ への驚き ● アイヒマン問題 (誰が、どんな人間が全体主義を担ったのか?) ● 監獄のなか (被害者はどのような経験をしたのか?) ● アーレントの思想的応答 日本は? 戦後は? 過程的思考から<<はじまり>>の思想へ アーレントは、憎むべき敵が何であるかを考察しながら、 その裏側で、何が守るべきものかをあわせて考えていた。 (1) 暴力ではなく権力を (2) 一方向的な法則ではなく相互的な法を (3) 動物ではなく人間を (4) 単一の真理ではなく複数の意見を (5) 必然ではなく自由と創造を (6) 私的な欲望ではなく公的な議論を (7) 最初と最後が決まっているのでなく、今・ここから始めることを (8) たえず新しい人間が参入し、それを迎え入れる民主政を 古代ギリシャが理想? ・・・古典古代の時代への回帰は不可能。 すでに過程の時代に突入したのであって、自由な過程こそ。
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