ALS患者の在宅独居移行支援に関する調査研究(3) ――

ALS患者の在宅独居移行支援に関する
調査研究(3)
――在宅移行の困難――
○立命館大学大学院先端総合学術研究科 仲口 路子(2416)
立命館大学大学院先端総合学術研究科 長谷川 唯(2418)
立命館大学大学院先端総合学術研究科 山本 晋輔(2419)
立命館大学衣笠総合研究機構ポストドクトラルフェロー
北村 健太郎(241
日本学術振興会特別研究員
堀田 義太郎(2415)
2008年日本地域福祉学会
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目的
筋委縮性側策硬化症(以下ALS)の療養者K
氏が、長期入院を経て在宅生活に移行する
プロセスの報告と検討
 退院後の生活支援体制の整備に関して生じ
た困難・要因・必要な解決方法を明らかにす
る
 とくに医療と福祉の双方にニーズを持つ人に
必要な制度的な連携に焦点を当てる

(調査期間:2007年1月~同8月13日の退院まで)
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K氏の病歴等

ALS

喉頭分離術を受け、発声は不可能

水分は胃ろうで摂取するが、刻み食は経口で摂取
可能(経口食を要望)

発症後転院しつつ4年弱の病院生活

家族とは別離
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ポイント
K氏は、日本の福祉施策において、介護の「
含み資産」とされている家族をあてにせずに、
地域で在宅生活を営むため、福祉諸制度を
フルに活用する必要があった
 だが、医療機関主導の退院支援においては、
福祉諸制度を活用するための準備が十分に
整備されなかった
 それによって生じた諸問題とその要因の検討
は、医療的ケアを必要とする重度身体障害者
が長期入院を経て在宅生活に移行するため
に、いかなる資源とサポート体制が必要かを
明らかにするのに役立つ

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主な症状と必要な援助

(1) 痰づまりや誤嚥

(2) 全身硬直発作

(3) コミュニケーション障害
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在宅移行に至った契機
2007年1月、東京都で、障害者福祉制度を
利用して「24時間他人介護」によって地域
生活を実現している人の存在を知る
 これではじめてK氏は家族介護によらず、
単身で住み慣れた地域で住居を探し、社
会生活を営みたい、という意志を持つに至
る
 当時の入院環境に不満もあった

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K氏が2007年1月時に利用していた制度
① 身体障害者:四肢機能障害1級認定(2005
年1月) 障害基礎年金を受給
② 特定疾患治療研究事業:特定疾患医療受
給者重症患者認定
③ 2005年6月、会話機能喪失に伴い、市の情
報バリアフリー化支援事業 意思伝達を容
易にする障害者向けの支援ソフトを導入し
たパソコン購入に対して、10万円の支給
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在宅移行に至った経緯
長期療養A病院を退院 ⇒ B病院に入院




(07年1月~3月)
A病院のソーシャルワーカーに在宅移行の意向を伝
える ⇒ 「転院や退院はかまわないが、再入院は現
在の入院待機者が優先となるので、いったん病院を
出るとベッドの保障はできない」
診察と症状に対する対処を最優先し、以前入院してい
たB病院の神経内科医の診察を受ける
2007年3月に喉頭分離術を受け、A病院に退院の意
向を伝え、退院準備のための転院を要望する
B病院からは、手術後3か月をめどに退院することを
条件に引き受けてもよいとの回答を得る
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B病院(3月末~6月)
3月
B病院

4月末


K氏/支援者
地域生活移行・退院調
整を行うMSW(看護師
資格と介護保険ケアマ
ネージャー資格を持つ)
が支援に入る

気管切開後B病院に入院
⇒ 居住先も福祉制度活用
の見通しもないまま、8月13
日という在院期限を約束
4月20日 障害者自立支援法介護給
付費支給申請書を提出
MSWの支援により介護保険
4月27日 障害認定調査
の居宅サービス申請
 MSW・市障害者地域生活支援セ
ンター・自立支援センター、患者
障害者自立支援法の申請、
会などに照会し、在宅時に利用
支給時間、支給決定時期等
可能な制度の把握につとめた
については見通しは示され
6月5日 障害認定調査完了
なかった
⇒ 障害企画課送付
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6月下旬 要介護認定 5決定
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障害施策を複合的に?
「自薦ヘルパー」育成?
 「介護保険制度が優先で、ケアプランをケアマネ
ージャーが作成する。足りない介護量を障害福
祉サービスで補う。市に問い合わせた」
 以前は、ALS患者は介護保険が障害サービスに
優先だったが、今春、国から優先関係を見直す
通達が出た。柔軟に対応
できるはずだ

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2007年6月~7月 生活保護
6月

住居地を早期に定める必要があり、敷
金礼金計20万円、家賃45000円の賃貸
の平屋建ての住居を6月までに契約
入院時から家賃や転居費用が発生。
 障害基礎年金では日常生活必需品の購
入も困難
 生活保護申請を決意する。(入院中は
「生活実態がない」として受理されず)


B病院に対して生活保護申請の意向を
伝える
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生活保護申請と介護保険に関する混乱
(6月~7月)
6月
B病院ワーカーから、


生活保護受給開始により介護保険2号被保険者ではな
くなり、介護保険サービスが使えなくなるがどうするか
退院後即生活保護を申請すると現在のケアプラン調整
を破棄せざるを得ないので、退院時に支える公的サー
ビスがなくなる
と言われる

これに対し、居住予定地を担当する障害者地域生活支
援センターに相談すると、生活保護を受給しても、介護
保険は介護扶助として利用可能と説明を得る
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病院外に支援を委託(7月~)
7月中旬

7月に至っても、障害者自立支援法に基づく介護サービ
ス支給量が示されない状況にあったため、同法のケア
プラン作成や福祉行政等との交渉を障害者地域生活支
援センターに委託
7月24日  B病院のMSW 介護保険サービス利用票
を提出
7月27日  地域生活支援センターが作成したサービス利用計画表
を、福祉事務所に提出
 支給決定 651時間(内、介護保険分が62h) ・・・・・・
7月31日
B病院が介護保険のケアプランの調整をしていた段階で
支援者のネットワークを駆使してヘルパーを雇用登録す
る障害福祉の事業所(NPO)を探し当てていた
8月13日
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制度利用の経緯

6月5日には障害認定調査は完了していた
 だが、障害者自立支援法のサービス利用計画
表は、地域生活支援センターに支援者が支援
を要請してから作成され、提出されたのは7月
27日(介護保険のケアプランの提出も退院二
週間前)
 ALS療養者に特有のニーズを満たすための事
実上のパーソナルアシスタンスを得ようとして
いたが、利用可能な自立支援法の支給量が決
まらなかったため、退院直後の生活支援者が
限られることになった
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問題点とその要因
問題点
 退院一週間前まで障害福祉サービスの支給量
が決定されなかった
 時給や労働時間等の見通しを示すことができ
ず、ヘルパーを募集できなかった。
⇒ 退院時には、入院時から支援していた5人
の男女で24時間を埋めなければならなかった
要因
 介護保険優先という病院のスタンスにより、自
立支援法のサービス利用計画が遅延した
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介護保険プランの限界
介護保険優先の支援プラン
「介護保険制度が優先でケア
プランはケアマネージャーが
作成する。足りない介護量を
障害福祉サービスで補う」
(MSW)
生活保護を受給し、障害者
自立支援法のサービスを受
けると介護保険(扶助)は後
回しになる。
⇒ ケアプラン見直し業務が
生ずる。
障害者自立支援法 > 介護
扶助というプランに消極的
介護保険では量が足りな
い
痰吸引など医療的ケアを
引き受けてくれる事業所
が介護保険では極めて
少ない。 ヘルパーの作
業内容も硬直的
介護の質量ともに明ら
かに限界がある
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
病院の介護保険優先の支援パッケージでは
独居生活は量的・質的に不可能
だが、 病院は介護保険優先を崩さない。
⇒ K氏のような人が退院し地域生活を営むこ
と自体が想定されていなかった


障害福祉サービスを別途用意することが当
事者に課される

しかし、医療を必要とするため、障害の制度
に完全にゆだねることもできない
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医療的ケアを必要とする重度障害者が独居でも生
活できる権利を保障するために

介護保険の枠組みでは量的に不可能・質的にも
困難

自立支援法を最大限に活用することで介護・介
助の量(時間数)は確保できる可能性がある

医療的ケアを要するため、往診・訪問看護との
連携が必要。緊急時に受け入れ先になってくれ
る病院が存在している必要がある

医療と福祉をミックスした支援体制をコーディネ
ートでき、在宅移行にとって必要な資源を提供で
きる制度が必要
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