難病患者の地域生活支援における 諸課題 ―退院から在宅へ- 立命館大学大学院先端総合学術研究科 仲口 路子 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 1 障害者自立支援法 と医療制度改革 • 障害者自立支援法:2005年10月31日成立 • 2006年度医療制度改革:2006年6月成立 • 経済財政改革の基本方針2008(いわゆる 「骨太の方針2008」):2008年6月閣議決定 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 2 研究の目的・期間・方法 • [目的]:「ALS患者」A氏が「療養生活者」A 氏となるまでの専門職のかかわりを考察 すること • [期間]:2007年1月から9月 • [方法]:支援者らがまとめたレポートを元 に分析する 2008.岡輝秋「長期療養ALS患者の在宅独居移行支援に伴う諸課 題の明確化およびその要因の分析―アクションリサーチに基づく調 査研究」(ALS/MNDサポートセンターさくら会 『在宅療養中のALS 療養者と支援者のための重度障害者等包括支援サービスを利用し た療養支援プログラムの開発』) 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 3 発病からの変化など • 2002年11月ころ~易疲労感を感じる • 2004年2月ころ~構音障害、四肢運動機能 低下 • 2004年10月 ALSと診断される • 2005年1月 胃瘻造設術 • 2007年4月 気管食道分離術 • 現在 頚部と左手関節を少し動かすことが できる 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 4 A氏の転院歴 • A大学医学部附属病院:2004年10月ALSと 診断され入院 • B病院:2005年1月~ 胃瘻造設 • C病院:国立病院(当時) • B病院:2005年9月~2006年3月 • D病院:療養病床 • E病院:2007年3月~ 気管食道分離術 • B病院:3ヶ月を目途に入院 • 在宅移行:2007年8月13日~ 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 5 主な症状と必要な援助 • (1) 喀痰困難や誤嚥 • (2) 全身硬直発作 • (3) コミュニケーション困難 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 6 在宅移行に至った契機 • 2007年1月、東京都で、障害者福祉制度を 利用して「24時間他人介護」によって地域 生活を実現している人の存在を知る • これではじめてK氏は家族介護によらず、 単身で住み慣れた地域で住居を探し、社 会生活を営みたい、という意志を持つに至 る • 当時の入院環境に不満もあった 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 7 A氏が2007年1月時に利用していた制度 ① 身体障害者:四肢機能障害1級認定(2005年1 月)障害基礎年金を受給 ② 特定疾患治療研究事業:特定疾患医療受給者 重症患者認定 ③ 2005年6月、会話機能喪失に伴い、市の情報 バリアフリー化支援事業 意思伝達を容易にす る障害者向けの支援ソフトを導入したパソコン 購入に対して、10万円の支給 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 8 在宅移行に至った経緯 長期療養A病院を退院 ⇒ B病院に入院 (07年1月~3月) • A病院のソーシャルワーカーに在宅移行の意向を伝える ⇒ 「転院や退院はかまわないが、再入院は現在の入院 待機者が優先となるので、いったん病院を出るとベッドの 保障はできない」 • 診察と症状に対する対処を最優先し、以前入院していた B病院の神経内科医の診察を受ける • 2007年3月に気管食道分離術を受け、A病院に退院の意 向を伝え、退院準備のための転院を要望する • B病院からは、手術後3か月をめどに退院することを条件 に引き受けてもよいとの回答を得る 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 9 MSW:Aの意見 療養病床 D病院のMSW:A 「転院や退院はかなわないが、再入院は現在の入 院待機者が優先となるので、一旦病院を出ると ベッドの保障はできない」 他の地域では「自薦ヘルパー」などで在宅生活を 行っていると聞いているのに・・・? まずは次の病院への引継ぎ・・・ 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 10 MSW:Bの意見 • 看護師資格と介護保険ケアマネージャー資格を 持つ女性が地域生活移行や退院調整などの ソーシャルワークを専従で行っていた • MSW:Bは介護保険のケアマネージャーであり、 障害者自立支援法における訪問系サービス・事 業等の連携や、重度訪問介護制度については 活用経験が極めて乏しかった • 「介護保険が優先される」 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 11 障害施策を複合的に? • 「自薦ヘルパー」育成? • 「介護保険制度が優先で、ケアプランをケアマ ネージャーが作成する。足りない介護量を障害 福祉サービスで補う。市に問い合わせた」 • 以前は、ALS患者は介護保険が障害サービスに 優先だったが、今春、国から優先関係を見直す 通達が出た。柔軟に対応できるはずだ 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 12 2007年6月~7月 生活保護 • 住居地を早期に定める必要があり、敷金礼金計 20万円、家賃45000円の賃貸の平屋建ての住居 を6月までに契約 • 入院時から家賃や転居費用が発生。 • 障害基礎年金では日常生活必需品の購入も困 難 • 生活保護申請を決意する。(入院中は「生活実態 がない」として受理されず) • B病院に対して生活保護申請の意向を伝える 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 13 生活保護申請と介護保険に関する混乱 (6月~7月) B病院ワーカーから、 • 生活保護受給開始により介護保険2号被保険者ではなく なり、介護保険サービスが使えなくなるがどうするか • 退院後即生活保護を申請すると現在のケアプラン調整を 破棄せざるを得ないので、退院時に支える公的サービス がなくなると言われる • これに対し、居住予定地を担当する障害者地域生活支 援センターに相談すると、生活保護を受給しても、介護保 険は介護扶助として利用可能と説明を得る 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 14 病院外に支援を委託(7月~) • 7月になっても、障害者自立支援法に基づく介護 サービス支給量が示されない状況にあったため、 同法のケアプラン作成や福祉行政等との交渉を 障害者地域生活支援センターに委託 • B病院が介護保険のケアプランの調整をしてい た段階で支援者のネットワークを駆使してヘルパ ーを雇用登録する障害福祉の事業所(NPO)を 探し当てていた 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 15 退院と支給決定 • 退院日が1週間後に迫った段階で、福祉 事務所から障害福祉サービス支給量が決 定したことが伝えられ、また介護保険によ る居宅サービスなどを含めたケアプランが 示された 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 16 多くの制度を輻輳させる問題 • • • • 介護保険法 医療保険法(特定疾患研究事業) 障害者自立支援法 生活保護法 などを適用・併用せざるをえないが、 「介護保険」のケアマネはそういったことは困難 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 17 問題の所在 • 「ある専門職」が〔個人の力量の多少にか かわらず〕「一定範囲:限度以上の問題」で あっても、それについて「何らかの具体的 な方策を打ち出さねばならない」、といった 事態はむしろ「日常的」に見られることなの ではないだろうか? 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 18 できないときにできないと言える ‥‥か? • 困難であるときに、「次の段階へ」いきにく い問題 • 「明確なことは、これらの規制が、すべて何 らかの個人的利害の配慮によってではなく、 よきにせよあしきにせよ、とにかく同業組合 的利害の配慮によって鼓舞されているとい うことである。」(Emile Durkheim 1893= 1989:41) 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 19 責任感・誇り そして、それらしく振舞うこと • MSWにも • 患者/療養者やその支援者にも 介護保険に限定されない「ケア・マネジメント は「評価」しずらい 「善意の囲い込み」のなかで抜き差しならな い状況が叢生されうるという問題がある 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 20 解決策として‥ • あるひとが「すべてできるようになること」 一種の限界がある • もっと別のひとに「繋ぐ」ことが容易にでき るようになること 地域の中で「資格は何であれ」そういう複合 的な調整が可能な制度/施策と「思索」が 必要なのではないか? 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 21 ご静聴ありがとうございました! ご意見/連絡先 仲口 路子 [email protected] 日本保健医療社会学会定例研究会 (関西地区例会)2009/03/14 22
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