肝吸虫 肝吸虫(かんきゅうちゅう) Clonorchis sinensis は、ヒトを含む幅広い哺乳類を終宿主とし、肝臓 内の胆管に寄生する吸虫の一種。古くは肝臓ジ ストマと呼ばれてきた。日本列島、朝鮮半島、中 国、台湾と東アジア一帯に広く分布し、東南アジ アではベトナムに分布するが、タイには似た生態 で別属のタイ肝吸虫 Opisthorchis viverrini が 分布して地域によってヒトに濃厚に感染しており、 これと同属の猫肝吸虫 Opisthorchis felineus が、シベリアからヨーロッパにかけて分布し、ヒト にも感染する。 病 原 体 肝臓内の胆管に寄生している成虫は 平たい柳の葉のような形をしており、体 長10~20mm、体幅3~5mm。雌雄同 体であるが、多くの吸虫で貯精嚢、前 立腺、射精管、陰茎を収めている陰茎 嚢はた持ない。精巣は樹枝状に分枝し、 分葉嚢状となるタイ肝吸虫などの Opisthorohis 属との識別点となる。口 を取り囲み摂食を助ける口吸盤は体の 前端腹面にあって直径0.4~0.6mm。 体を寄生部位に固定する腹吸盤は体 の前半4分の1の腹面に位置し、口吸 盤とほぼ同大。 卵はこの類の寄生虫のものと しては最も小型の部類で、長 径27~32μm、短経15~ 17μm。とっくり型で口の部分 に陣笠のような形の蓋があり、 これの周囲の縁取り部分が横 に突出している。これらの形 の特徴から横川吸虫や異形 吸虫の卵と区別できる。色彩 は淡黄色で、産出された時点 で既に内部でミラシジウム幼 生まで発生が進んでいる。 第1中間宿主から第2中間宿主へ移行するときのセルカ リア幼生は頭部に長い尾部が付属しており、頭部には2 個の眼点が、尾部には鰭状のひだがあって活発に泳ぐ。 第2中間宿主体内のメタセルカリア幼生は長径0.135~ 0.145mmで、内部の幼虫は体を曲げて収まっており、 体内には黄褐色の色素顆粒が、排泄嚢の中には大型 の黒色の顆粒が満ちている。この幼虫の口吸盤と腹吸 盤の大きさは50μmと60μmとほぼ同大で、両者に大き な差がある横川吸虫との識別点となる。 生活史 第1中間宿主 マメタニシ 第2中間宿主 モツゴ、ホンモロコ、 タモロコ、ゼゼラ、ヒ ガイ、ヤリタナゴ、バ ラタナゴ、カネヒラ、 ウグイ、フナ、コイ 終宿主 ヒト、イヌ、ネコ、ネズミ、ブタ 疫 学 伝 染 源 患者と動物 伝 染 経 路 コイ科魚類を流行地で生食する 臨 床 所 見 肝吸虫は、成虫が寄生する胆管枝に塞栓してし まうため、多数個体が寄生すると、胆汁の鬱滞と 虫体の刺激によって胆管壁と周囲に慢性炎症を きたす。さらに肝組織の間質の増殖、肝細胞の 変性、萎縮、壊死が進行し、肝硬変へと至る。そ のため食欲不振、全身倦怠、下痢、腹部膨満、 肝腫大をきたし、やがて腹水、浮腫、黄疸、貧血 を起こすようになる。ただし、少数個体のみの寄 生では無症状に近い。 診断・検査 胆管の拡張、肥厚が起こるため、逆行性膵胆管 造影、CT、エコーなどで診断すると、肝内胆管 の拡張像、異常が認められる。確実な診断には 虫卵の確認が必要であるため、糞便検査(ホル マリン・エーテル法やAMSIII法などの沈澱集卵 法を利用)や十二指腸ゾンデ検査が行われる。 免疫学的診断法もかなり有効である。 治 療 感染した場合、古くは塩酸エメチン、クロロキン、 ジチアザニン、ヘキサクロロフォン、ヘトール、ビ レボンなど副作用の強い薬を用いざるを得な かったが、1980年代以降プラジカンテルの登場 によって1日の投与のみで根治が可能になった。 予 防 モツゴやホンモロコ、タナゴ類のような小型のコ イ科魚類を流行地で生食するのが最も危険であ る。フナやコイはモツゴやホンモロコなどに比べ るとメタセルカリアの保虫率ははるかに低いが、 刺身などにして生で食べる機会が多いため、用 心しなければならない。 肺 吸 虫 症 日本ではウェステルマン肺吸虫(P. westermanii)、大平 肺吸虫(P. ohirai)、宮崎肺吸虫(P. miyazakii)、小形大 平肺吸虫(P. iloktsuenesis)、佐渡肺吸虫(P. sadoensis)の5種が原因となる。ただし、ウェステルマン 肺吸虫の3倍体個体群を生態や感染性の違いにより、 別種のベルツ肺吸虫(P. pulmonalis)として扱うこともあ り、その場合は日本産の肺吸虫は6種となる。うち、ヒト に感染して肺まで到達しうるのはウェステルマン肺吸虫、 ベルツ肺吸虫、宮崎肺吸虫の3種、ヒトの肺で成虫にま で発育し、普通に生活環を完了することができるのはベ ルツ肺吸虫1種である。世界では28種が独立種とされて おり、少なくとも11種の人体寄生が報告されている。 病 原 体 肺吸虫症(はいきゅうちゅうしょ う、英:paragonimosis)とは住 胞吸虫科Paragonimus属に属 する吸虫の寄生を原因とする寄 生虫病。 虫卵は黄金色の左右不 対称、一端は丸みを帯び 小蓋を有し他端はやや 尖っている。 生活史 肺吸虫の虫卵は気管、消化を経て糞便とともに 排出あるいは喀痰とともに排出される。虫卵は 水中で発育してミラシジウムとなり、ミラシジウム は第一中間宿主である貝の体表から侵入し、体 内でスポロシスト、レジア、セルカリアへと発育す る。 第一中間宿主の体内から脱出したセルカリアが第二中 間宿主であるカニ(たとえばベルツ肺吸虫ではモクズガ ニでウェステルマン肺吸虫ではサワガニ)の関節部の体 表から侵入することで体内へ移行し、セルカリアからメタ セルカリアへと発育する。かつてはカニが第一中間宿主 を摂食することで体内に移行するとされたが実験的に否 定された。終宿主がカニ類を摂取することにより終宿主 の小腸へ移行し、小腸で脱嚢、腹壁を穿孔して胸腔を へて肺に移動し、ペアを形成して虫嚢を作る。 第1中間宿主 第2中間宿主 臨 床 所 見 喀血 血痰 発熱 胸痛 倦怠感 自然気胸 胸水貯留 脳・・・てんかん、半身麻痺 肺に寄生した場合の主な症状は、咳(せき)と血 の混ざった痰(血痰(けったん))です。胸水がた まったり、空気やガスがたまった状態の気胸を 起こしたりした場合には肺が苦しくなります。 肺吸虫は、先に述べたマンソン孤虫(こちゅう) と同じように、ほかの場所にも寄生します。とくに、 脳に寄生した場合は脳腫瘍(のうしゅよう)に似た 症状を引き起こし、重症になります。 診断・検査 症状は創傷性肝炎、腹膜炎、胸水貯留、気胸、 発熱、発咳、血痰などであり、血液所見は好中 球数増加を伴う白血球数の増加を示す。人体寄 生例では脳へと侵入した場合、頭痛、嘔吐、てん かん様発作、視力障害などを示し死亡すること がある。肺で成虫になっている場合、糞便や喀 痰を材料としてMGL法やAMSIII法などの沈澱 虫卵法により虫卵を検出することによって診断 することができる。 治 療 治療にはプラジカンテルやビチオノールが有効。 予 防 予防としては、モクズガニやサワガニ、イノシシ 肉などを生で食べないようにします。同時に、そ れらを調理した包丁やまな板はよく洗うようにし てください。
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