【日本心理学会第68回大会ワークショップ】 社会精神生理学への招待 ―ストレス・感情と社会的要因との関係― 感情の持続に及ぼす認知的評価の影響 同志社大学文学研究科 手塚 洋介 1 発表の概要 1. はじめに:内的過程としての認知的評価 2. レビュー:感情喚起に及ぼす認知的評価の影響 3. 研究報告:感情持続に及ぼす認知的評価の影響 4. まとめと展望 2 1. 内的過程としての認知的評価 3 内的過程としての認知的評価 • 日常体験する感情は,客観的には同じ状況下であっても,必ずし も同一とは限らない • 状況に対する個人の意味づけはその時々で異なり,個人と状況 との関係性が常に一定でないことが一因 S 評価 O R 状況に対する意味づけ=認知的評価 (cognitive appraisal) さまざまな感情体験をもたらす過程 (Lazarus, 1999) . 4 S-R v.s. S-O-R “認知的評価は感情の生成に必要か” Lazarus-Zajonc 論争 S R < Zajonc > 必ずしも認知的評価を媒介しない S 評 価 R < Lazarus > 認知的評価は必要条件 5 S-R v.s. S-O-R R S S 評 価 R 4msec Zajoncは,数ミリ秒という非常 に短い期間で生じる反応 (感 情) に焦点 Lazarusは,適応反応としての感情に焦 点を当て,一過性~慢性反応が含まれ, 時間軸が長い ※感情=“好き・嫌いの印象” 6 感情の喚起過程および持続過程 感情喚起過程 (刺激呈示中) S R 評価 R 感情持続過程 (刺激除去後) 7 2. 感情喚起に及ぼす認知的評価の影響 感情喚起過程 (刺激呈示中) S 評価 R 感情持続過程 (刺激除去後) 8 認知的評価の実験操作 • 手術や事故などの嫌悪映像を採用 • 刺激呈示に先立ち,「教示」を用いて映像の内容に関 する情報を与えて認知的評価を操作 教示 認知的評価 嫌悪映像 • ネガティブ感情喚起時の,主観評定および生理反応の 軽減に焦点 9 ネガティブ感情軽減効果の有無 生理指標 効果 (生理) 効果 (主観) Speisman et al. (1964) HR, SC ○ △ Lazarus & Alfert (1964) HR, SC ○ ○ Lazarus et al. (1964) HR, SC △ ― Dandoy & Goldstein (1990) SC ○ ― Steptoe & Vogele (1986) HR, SC, 呼吸 × × Gross (1998) HR, SC, 皮膚温 × ○ 手塚他 (2002, 2003) BP, HR, CO, TPR × (BP↑) ○ ○ 効果あり △ 効果一部あり × 効果なし ― 測定なし 10 先行研究の問題 • 映像など,視覚的注意を要するヴィジランス課題では, HRは減少する (Lacey & Lacey, 1978) → “課題要求”の少ない刺激を用いる必要 • HRは,刺激の性質に強く規定され,単独では感情の強 弱を弁別しにくい • 心臓血管系を捉えるには,血圧を中心とするヘモダイ ナミクスを測定することが望ましい 11 3. 研究報告 感情持続に及ぼす認知的評価の影響 感情喚起過程 (刺激呈示中) S 再評価 評価 R 感情持続過程 (刺激除去後) 12 刺激除去後の感情持続 • 日常場面においてしばしば,原因となる状況が物理 的に解消した後でも,ネガティブ感情が持続する • これまでの研究は,刺激呈示中の反応軽減に焦点 • 刺激が取り去られた後 (刺激除去後) の反応 (感情の 持続) について一切検討されていない 13 再評価によるネガティブ感情の軽減 • 個人と状況との関係性が変われば,感情の持続の 仕方に変化が生じる可能性が考えられる ↓ 状況に対する意味づけの変容 (再評価: reappraisal) が 感情の持続に及ぼす影響について検討する必要 14 方法 • 実験参加者 大学生男女36名 • 観察評価を伴うスピーチ課題 テーマ 「日常生活に心理学はどのように活かせるか」 ①ビデオカメラに向かって話す ②スピーチの様子は録画され評定される ③評定結果を実験の最後にフィードバックする 15 条件設定:再評価の操作 スピーチ終了直後に,実験状況について説明を与えた • 統制群 : 特別な説明をせず,しばらくそのまま待つよう 指示 • 軽減群 : 実際には録画も評定もしておらず,結果の フィードバックがないことを告げた • 持続群 : しばらくしたら,録画した映像を見ながらスピー チの内容について質問すると伝えた Nummenmaa & Niemi (2004) 実験参加者の課題パフォーマンスに関す るフィードバックを利用することで,自然な形で認知的評価を操作できる 16 測定指標 MBP CO TPR HR SV 主観評定 心臓血管系指標 • ネガティブ感情 • 心拍数 (HR) • ポジティブ感情 • 血圧 (MBP) • 安静状態 • 心拍出量 (CO) (一般感情尺度:小川他,2000) • 全末梢抵抗 (TPR) 各指標について,ベースラインからの変化値を分析に採用. 生理指標は1min毎に平均を求めた. 17 手続き 再評価の実 験操作 軽減群 持続群 統制群 課題説明 ベース 準備 スピーチ 課題後 (刺激除去) 5min 3min 3min 5min 主観① 主観② 主観③ 生理反応連続測定 18 統制 軽減 持続 主観評定結果 (1) 3 14 2 12 1 ネガティブ感情 10 0 8 -1 6 -2 4 -3 -4 ポジティブ感情 -5 pre post 2 0 pre post 0 -2 -4 -6 -8 -10 安静状態 -12 全ての下位尺度で,軽減 群が最も大きな回復. -14 pre post 19 主観評定結果 (2) • ポジティブ感情 軽減群のみ,課題後に増加 • ネガティブ感情 課題後において,軽減群と持続群に差が認められた 軽減群において,再評価によるポジティブ感情の増大と, 他群よりもネガティブ感情の減少がみられた 20 統制 軽減 持続 MBP CO TPR 生理反応結果 (1) HR SV ( bpm ) ( mmHG ) 25 25 HR 20 MBP 20 15 15 10 10 5 5 0 speech post1 post2 post3 post4 post5 0 speech post1 post2 post3 post4 post5 (dynes/s/cm-5) ( l/min ) CO 1.2 TPR 200 1 150 0.8 100 0.6 50 0.4 0 0.2 -50 0 speech post1 post2 post3 post4 post5 speech post1 post2 post3 post4 post5 21 MBP CO TPR 生理反応結果 (2) HR SV • 血圧の変化から,軽減群は他の2群よりもベースライン 方向への素早い回復がみられた → ネガティブ感情の軽減 • COおよびTPRの変化から,群ごとに異なる反応パタンを 示した (統計的にはn.s.) 統制群・・・TPRに起因するMBP変動 (post1) → パタンⅡ 持続群・・・COとTPRの両方に起因するMBP変動 → パタンⅠ的 ↓ 状況に対して,異なる再評価を示した可能性 22 4. まとめと展望 23 まとめと展望 (1) 《感情喚起と認知的評価》 • 感情喚起に及ぼす認知的評価の影響について,いまだ 一致した見解は得られていない → 課題の整備 (社会的要因を組み込む必要性) • 認知的評価の動的影響の検討 従来の実験手続きでは,課題前に実験操作を実施 課題中の実験操作によって,力動性を検討する必要 24 まとめと展望 (2) 《感情持続と認知的評価》 • 感情持続に及ぼす認知的評価の影響について,研究成 果を蓄積する段階 • 実験室において,感情持続状況を作り上げる困難さ 心臓血管反応は,観察評価などの社会的負荷がない課題では 2~3分でベースレベルに戻る (Christenfeld et al., 1997) → 社会的要因を含む課題を用いることが効果的 • 感情の持続因と認知的評価との関係 e.g) 反すうによるネガティブ感情の持続 (Glynn et al, 2002) 25 ご清聴ありがとうございました 26
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