目白大学大学院 修了論文概要 所属 心理学研究科 現代心理学専攻 修士課程 修了年度 平成 26 年度 氏名 船渡 綾 指導教員 (主査) 原 裕視 論文題目 ネガティブ感情制御方略における表情操作の効果―感情伝染を中心に― 本 文 概 要 表情とこころの関係については,多くの研究がされてきた。近年の表情が自己に及ぼす影響の研究で は笑顔表情の効果が取り上げられ,精神的健康促進のための有用な手段であることが示されている。 日常生活において精神的健康が阻害される要因としては,感情伝染が挙げられる。これは「他者の特 定の感情表出を知覚することによって自分自身も同じ感情経験をする」現象であり,ネガティブ感情の 伝染が精神的健康を低める要因であることが示されている。しかしながら,日本においては感情伝染に ついての研究が十分になされているとは言い難い。 一方,精神的健康の促進要因としては自らが笑顔表情になることが挙げられる。これは「笑うから楽 しい」といった行動から感情への働きかけであり,自己が笑うことや笑顔表情になることでポジティブ な気分変容が狙えると報告されている。しかしながら,これまでの笑顔表情に関する研究では精神的健 康を阻害するような特定の特性を持つものに対しても効果が見られるのかは明らかにされていない。 そこで,本研究の目的を他者感情の伝染性を測定する項目を新たに加え,感情伝染の包括的な尺度を 作成し,ポジティブ感情伝染とネガティブ感情伝染が精神的健康に与える影響を検討することと(研究 1) ,ネガティブ感情の伝染性が高い者に対して笑顔表情による介入が感情制御方略の手段になることを 示すこととした(研究 2) 。 研究 1 では,ポジティブ感情伝染尺度で喜び伝染,愛情伝染,高揚伝染が抽出された。また,ネガテ ィブ感情伝染尺度で悲しみ伝染,怒り伝染,不安伝染,嫌悪伝染,緊張伝染が抽出された。さらにネガ ティブ感情の伝染性が精神的健康に及ぼす影響を検討したところ,女性は男性に比べネガティブ感情の 伝染性が高いにも関わらず,精神的健康を低める要因として説明ができなかった。しかし男性はネガテ ィブ感情伝染が女性に比べて低いが,他者のネガティブな感情が伝染された場合には精神的健康を悪く する可能性が示された。この性差は共感性とストレスコーピングの相違にあると考えられる。男性は自 らの感情をネガティブな形で表出することを制御するため精神的健康が阻害されるが,女性は他者と共 感し,ネガティブな感情を共に表出することができるため,精神的健康が阻害されるまでに至らなかっ たと考えられる。 研究 2 ではネガティブ感情の伝染がされやすい者を対象とし,実験を実施した。実験条件として,笑 顔表情のみ「スマイル群」 ,笑顔表情を知覚する「ミラー・スマイル群」 ,積極的に楽しい感情を生起し ながら笑顔表情になる「スマイル・感情生起群」 ,および表情操作を行わない「統制群」の 4 条件を設 定した。実験協力者にネガティブな内容の映像を提示し,質問紙で映像刺激を提示する前,映像刺激を 視聴した後,表情操作後の 3 時点の感情状態を測定し,笑顔表情による介入が気分変容に及ぼす効果を 検討した。 その結果,ミラー・スマイル群において表情操作によりネガティブ感情が緩和される傾向が見られた。 本研究では他者のネガティブな感情の影響を最小限に留めるためには,鏡を見て口角を上げるという操 作が気分変化に有用な効果を与えている可能性が示唆された。
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