自然学校におけるボランティア活動の教育的効果~サービスラーニングの

46 Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果
【原著】
自然学校におけるボランティア活動の教育的効果~サービスラーニングの視点から~
The educational effect of a volunteer activity in nature school,
analyzed from the viewpoint of service-learning
野田
恵
NODA
Megumi
グリーンウッド自然体験教育センター
齋藤
新
SAITOH
Shin
グリーンウッド自然体験教育センター
キーワード
サービスラーニング
キャンプボランティア
大学生
要旨
本稿の目的は自然学校におけるボランティア活動がもつ教育的意義について、成人教育
分野で注目される「サービスラーニング」の観点から明らかにすることにある。
「サービス
ラーニング」とは、コミュニティへの貢献活動を通じた学習のことであるが、従来のボラ
ンティア活動や実習と異なり、社会奉仕と学習の両方を目的とした構造化された活動であ
る点に特徴がある。本稿では、長野県泰阜村の自然学校が主催する小中学生を対象とした
キャンプにボランティアで参加した大学生を対象に、参加前後で質問紙調査を行った。参
加前は消極的であったグループにおいて9項目で有意な差がみられ、意欲や自信を高め行
動力やコミュニケーション能力の向上が示唆された。また参加後1か月以降の自由記述に
よる追跡調査より自己の価値観や感情面での変化がみられた。
Ⅰ.はじめに
近年、自然学校に対して、持続可能な地域づくりの主体として関心が高まっている (1)。
自然学校には、多数の子どもや若者、家族連れが参加者として訪れ自然体験を楽しみ、同
時にさまざまな人々が指導者としてかかわる。自然学校では、専任スタッフだけではなく、
地元住民や都市部の若者などがボランティアとして参画している実態がある。自然体験は
野外での活動のため安全管理やフィールドの管理で人手を要する。そのためボランティア
の参画の機会が生まれている。
本稿の目的は、このような自然学校におけるボランティア活動がもつ教育的効果につい
て明らかにすることにある。近年の環境教育及び成人教育の理論から「サービスラーニン
グ」と呼ばれるコミュニティでのボランティア活動を通じた学習の効果が確認されている。
このサービスラーニングの観点から、自然学校におけるボランティア活動をとらえなおす
ことで、これまであまり論じられてこなかった自然学校が持つ新たな教育的側面を明らか
にすることができる。
Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果 47
本稿は次の順序で論述を行う。まず、Ⅱで先行研究からサービスラーニングの概要につ
いて述べる。Ⅲでは調査対象となったボランティア事業について概説し、調査方法につい
ても説明する。Ⅳにおいて結果を提示しⅤで考察を述べる。Ⅵでは、自由記述の分析を行
い、Ⅶの総合考察においてキャンプボランティア活動の教育的効果を明らかにする。
Ⅱ.サービスラーニングとは
サービスラーニング(service-learning)とは「学生の学びや成長を増進するような意
図を持って設計された構造的な機会に、学生が人々や地域社会のニーズに対応する活動に
従事するような経験教育の形式である」 (2) 。サービスラーニングは、社会貢献活動(サー
ビス)を通じて学び、成長する(ラーニング)教育手法であり、アメリカでは大学など高
等教育機関において取り入れられている一種の体験学習法である。Jacoby(1996)によれ
ば、学習目標に重点を置きサービスは副次的な「service-LEARNING」も、逆にサービスに
重きをおき学習は副次的であると考える「SERVICE-learning」も、サービスと学習が切り
離されている「service learning」とも異なっていることを強調し、
「省察 reflection と
互恵 reciprocity は、サービスラーニングのキー概念である」と述べている。つまり、従
来の体験的な実習やボランティア活動とサービスラーニングは区別され、社会貢献と教育
の両輪で成り立つプログラムである点に特徴がある。
サービスラーニングを通じて学生は人間性や社会性を身に付けると期待される。また、
学習の動機づけ、自尊感情の向上、市民責任意識の増大などにも効果が期待される。
このようにサービスラーニングの効果は多面的であり、その効果を測定・評価しようと
いう試みもなされている。中村ら(2012)及び冨田ら(2009)が、大学生や高校生を対象
とした調査について包括的に報告している (3) 。先行研究で示された結果はそれぞれの事業
の多様性や調査項目の相違により、単純な比較はできないが、自己意識や地域貢献意識、
学習意欲などに一定の効果があることが示されている。
サービスラーニングに関する調査は、いずれも事業の内容や目的が多様である上にそれ
ぞれの学習目的に沿った項目を立てたアンケートや感想文の分析などの方法によって行わ
れている。また活動内容についていえば、このような自然学校でのキャンプボランティア
活動をサービスラーニングとして着目した調査は管見の限りなかった。しかし、サービス
ラーニングの一形態として位置づけることができれば、キャンプボランティアの新たな社
会的意義や価値を見出すことができるといえる。
本稿の目的である、自然学校におけるボランティア体験の教育的意義を明らかにするに
は、その活動内容や目的にふさわしい調査方法を開発することが必要であると考えられる。
以上の先行研究を踏まえて、本稿では質問紙を用いてその教育的効果を明らかにする調査
を行った。
Ⅲ.調査の方法と対象
1.ボランティア活動の概要
本稿では、グリーンウッド自然体験教育センターが主催する「子ども山賊キャンプ」の
ボランティア活動を対象とした。グリーンウッド自然体験教育センター(以下グリーンウ
ッド)は、1980 年代から長野県泰阜村で年間を通じた活動をしている。現在は NPO 法人で、
48 Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果
約 15 名の常勤スタッフを有し、年間を通して自然体験活動を行っている。農山村に所在す
る自然学校の代表的な事例として紹介されることもある。
子ども山賊キャンプは、グリーンウッドの代表的な主催事業である。小中学生を対象と
したフリープログラムのキャンプ活動で、3泊のコースから2週間の長期間宿泊するコー
スなど複数のコースがある。夏休み期間を通して参加する子どもは 1,136 人(2013 年)で
ある。
いずれの日数のコースでも、子ども達 10 人につき「相談員」と呼ばれるスタッフが2
~3人割り当てられ子どもたちの活動をサポートする。この「相談員」の多くが大学生ら
のボランティアである。2013 年の夏の子ども山賊キャンプには 345 人のボランティアが参
加した。ボランティアは、首都圏及び中京圏の高等教育機関やボランティアセンター、イ
ンターネットなどで情報を得て自主的に参加する若者や大学のカリキュラムに実習として
組み込まれていたり、所属している研究室から紹介を受けて参加している学生からなる。
「相談員」という呼称が象徴的なように、ボランティアとしてかかわる若者は子ども達
を「指導」するのではなく、むしろともに活動する仲間としてキャンプを通じて自然体験
を楽しむこと、子どもの悩みや希望に対して自らも悩みながら、模索しながら答えを考え
だすことが求められている。主催者はキャンプボランティアに対して、主体性や社会性、
多様性を尊重する態度、感性や意欲の育成を意図している。また、経験したことが大学で
の専門教育に還元・応用されることも期待している。
相談員として参加するボランティアは、キャンプ参加前の研修会に参加する。研修会は、
講義とワークショップを組み合わせたものである。初めて参加するボランティアは、この
研修会の参加が必須となっている。その後、指定のあったコースのキャンプに参加する。
キャンプでは毎晩ミーティングが行われ、その日一日に起きた出来事を報告しあう。また
子どもへの対応についてお互いに相談しあったり、自分の思いなどを振り返る場面ともな
る。特に最終日は全員がキャンプ期間を振り返る機会となり、中には涙ぐみながら感想を
述べるものもみられる。
基本的にキャンプボランティアは、NPO が主催する子どものためのキャンプ事業を支え
る「奉仕活動」としての性格を持つ。しかし、丁寧な研修や振り返りの機会には「学びと
省察」の機会が十分にみられる。そのためサービスラーニングの定義に照らしても、キャ
ンプボランティアは分析対象とするにふさわしいと考えられる。本調査では、
「主体性」
「社
会性」
「多様性を尊重する態度」、
「環境への感性」
「意欲の育成」
「大学での専門教育への還
元・応用」という目的を踏まえた質問紙を作成し、キャンプボランティアに初めて参加す
る大学生らを対象に調査を行い、ボランティアを通じた教育的効果を明らかにする。
2.対象者
平成 24 年7月~8月に実施された「子ども山賊キャンプボランティア」に初めて参加し
た男女を対象に質問紙調査を行い、欠損値のあったものを除いた 155 名を対象とした。
3.質問紙の作成
本稿の目的とサービスラーニングの先行研究及びすでに開発された心理尺度を参考に
山賊キャンプの特性も加味した質問紙を作成した。なお、4及び 11 は意欲に関して鉄島
Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果 49
(1993)を参照した (4)。すべての質問項目は、表1のとおりである。
各項目は、とても当てはまるを1、まったく当てはまらないを5の両端とし、5段階で
評価し、各評点を得点とした。
表1
質問項目
1.私は自分とは異なる思想や価値観を尊重することができる
2.私は必要な場合に人に頼ることができる
3.体験活動によって大学の学びは深まると思う
4.私はなんとなく授業を休むことがよくある*
5.私は地域や社会の課題に関心がある
6.私は将来仕事を通じて人の役に立ちたいと思う
7.私は自分で人生を切り開いていける
8.大学で学んでいる事は、私の人生で役に立っている
9.私は相手の希望に配慮しながら自分の希望を伝える事が出来る
10.私は自分の事は自分で決められる
11.私は卒業に必要な単位を取得していても、関心のある授業は
とるようにしている
12.私は周りの意見を集約し、調整しながら物事をすすめていける
13.私は、困難に見える課題にも挑戦してみようと思える
14.見通しと計画性を持って行動することができる
15.自然の中で過ごすことは心地よい
16.経済的に自立している事は重要だ
4.集計と分析方法
キャンプ参加前(PRE)とキャンプ参加最終日(POST1)に表1の質問項目による調査を、
キャンプ参加最終日(POST1)とキャンプ終了1~2か月(POST2)に自由記述による調査
を実施した。また、キャンプボランティアの特性の有無を確認するために比較群にも同様
の質問紙調査を行った。
参加前(PRE)調査は、6月に東京、7月に名古屋で実施された研修会で行った。山賊
キャンプ主催スタッフが用紙を配布・回収する集団調査法を用いた。最終日の調査(POST1)
は、各コースの現場責任者が用紙を配布、回収する方式で活動最終日の夕方に行った。質
問項目1に加えて自由記述記載欄を設けた。POST2 は、9月に東京及び名古屋の2会場で
行われたキャンプの報告会で実施した。キャンプ期間が7月下旬から8月末まで1か月半
あるため参加したキャンプの時期によって報告会までの日数には幅がある。
キャンプボランティアの特性を明らかにする比較対象として、1月に都内の大学生 118
名対象に質問紙調査を実施した。
表2
PRE
キャンプ参加前
調査時期
6月 29、30 日
調査期間
POST1
POST2
キャンプ最終日
報告会
7月 22 日~8月 31 日
9月 23 日、29 日
1月7日
質問項目+自由記述
自由記述
質問項目
比較群
7月6日
調査方法
質問項目
50 Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果
Ⅳ.結果
1.キャンプボランティアの特性
前述したように、ボランティアは自分で情報を入手し自主的に参加しているものが多い。
そのため、社会性や行動力といったサービスラーニングで培いたい力をすでに身に付けて
いる可能性がある。キャンプ PRE と比較群と比較した各指標の平均及び標準偏差の結果を
表2に示す。なおデータ分析にはエクセル統計を用いた。
その結果、キャンプ PRE の方が、16 以外のすべての項目で1(そう思う)に近い回答を
していた。また、過去にボランティア経験がある割合もキャンプ PRE の方が高かった(図
1)。
表3
ボランティアの特性(キャンプ PRE と比較群の結果)
キャンプPRE n=155
1.私は自分とは異なる思想や価値観を尊重することができる
2.私は必要な場合に人に頼ることができる
3.体験活動によって大学の学びは深まると思う
5.私は地域や社会の課題に関心がある
6.私は将来仕事を通じて人の役に立ちたいと思う
7.私は自分で人生を切り開いていける
8.大学で学んでいる事は、私の人生で役に立っている
9.私は相手の希望に配慮しながら自分の希望を伝える事が出来る
10.私は自分の事は自分で決められる
12.私は周りの意見を集約し、調整しながら物事をすすめていける
13.私は、困難に見える課題にも挑戦してみようと思える
14.見通しと計画性を持って行動することができる
15.自然の中で過ごすことは心地よい
16.経済的に自立している事は重要だ
ボランティア経験あり
0.43
0.57
キャンプPRE
図1
M
1.99
1.85
1.43
2.30
1.47
2.48
1.87
2.21
1.99
2.34
2.16
2.66
1.56
1.92
SD
0.69
0.76
0.75
0.96
0.71
0.92
0.90
0.76
0.88
0.81
0.90
0.96
0.79
0.86
ボランティア経験なし
0.56
0.44
比較群
ボランティア経験の有無
比較群 n=118
M
2.12
2.25
1.97
2.42
1.87
2.64
2.64
2.41
2.39
2.40
2.52
2.79
2.08
1.88
SD
0.70
0.90
0.97
0.91
0.92
0.90
0.93
0.48
0.86
0.62
1.06
0.85
1.05
0.93
**
**
**
**
*
**
**
**
Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果 51
2.ボランティア活動による効果
PRE と POST の平均及び標準偏差の結果を表4に示す。
表4
キャンプ参加前後の平均及び標準偏差
PRE
n=155
1.私は自分とは異なる思想や価値観を尊重することができる
2.私は必要な場合に人に頼ることができる
3.体験活動によって大学の学びは深まると思う
4.私はなんとなく授業を休むことがよくある*
5.私は地域や社会の課題に関心がある
6.私は将来仕事を通じて人の役に立ちたいと思う
7.私は自分で人生を切り開いていける
8.大学で学んでいる事は、私の人生で役に立っている
9.私は相手の希望に配慮しながら自分の希望を伝える事が出来る
10.私は自分の事は自分で決められる
11.私は卒業に必要な単位を取得していても、関心のある授業は
とるようにしている
12.私は周りの意見を集約し、調整しながら物事をすすめていける
13.私は、困難に見える課題にも挑戦してみようと思える
14.見通しと計画性を持って行動することができる
15.自然の中で過ごすことは心地よい
16.経済的に自立している事は重要だ
POST
天井/
床効果
M
SD
M
SD
1.99
1.85
1.43
1.88
2.30
1.47
2.48
1.87
2.21
1.99
0.69
0.76
0.75
1.07
0.96
0.71
0.92
0.90
0.76
0.88
2.03
1.93
1.43
1.94
2.16
1.45
2.34
1.74
2.23
1.86
0.77
0.96
0.85
1.22
0.92
0.72
0.87
0.84
0.79
0.83
2.10
1.13
1.90
0.95
*
2.34
2.16
2.66
1.56
1.92
0.81
0.90
0.96
0.79
0.86
2.26
2.08
2.58
1.69
1.85
0.77
0.85
0.99
0.83
0.95
*
*
*
*
*
*
なおデータ分析にはエクセル統計を用いた。参加前後の得点変化については、増えたり
減ったりしている。前後の変化があると仮定して t 検定を行ったが、キャンプ参加前後で、
有意な差は出なかった。天井効果/床効果が生じた項目もあった。
これは、山賊キャンプボランティアの特性からみて、一般の学生よりももともと1(と
てもあてはまる)の回答をしていた者が多く、その結果、得点が高いので数字的な変化が
出なかった可能性が考えられる。そこで、5(まったくあてはまらない)に近い回答をし
た「消極層」を抽出し、その人たちのキャンプ前後の変化を比較した。
分析手順としては、床効果・天井効果に該当する項目は削除し、キャンプ参加前に中央
値より1ポイント以上得点が高い人を「消極点」層とした。その結果を表5に示す。
「消極
層」の参加前後を比較すると、すべての項目で有意な差があった。
表5
消極層のキャンプ参加前後の平均値及び標準偏差
1.私は自分とは異なる思想や価値観を尊重することができる
4.私はなんとなく授業を休むことがよくある
5.私は地域や社会の課題に関心がある
7.私は自分で人生を切り開いていける
9.私は相手の希望に配慮しながら自分の希望を伝える事が出来る
10.私は自分の事は自分で決められる
12.私は周りの意見を集約し、調整しながら物事をすすめていける
13.私は、困難に見える課題にも挑戦してみようと思える
14.見通しと計画性を持って行動することができる
n=28
n=35
n=65
n=19
n=52
n=46
n=59
n=49
n=29
PRE
M
SD
3.14
0.36
2.40
0.69
3.26
0.54
4.05
0.23
3.12
0.32
3.13
0.34
3.22
0.46
3.29
0.46
4.17
0.38
POST
M
SD
2.07
0.94
4.43
0.78
2.02
0.93
2.58
0.69
2.21
0.78
1.96
0.87
2.36
0.85
2.20
0.93
2.55
1.09
P
*
*
*
*
*
*
*
*
*
52 Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果
14.見通しと計画性を持って行動することができる
13.私は、困難に見える課題にも挑戦してみようと思える
3.3
2.2
12.私は周りの意見を集約し、調整しながら物事をすすめていける
3.2
2.4
10.私は自分の事は自分で決められる
3.1
2.0
9.私は相手の希望に配慮しながら自分の希望を伝える事が出来る
3.1
2.2
7.私は自分で人生を切り開いていける
4.1
2.6
5.私は地域や社会の課題に関心がある
3.3
2.0
4.私はなんとなく授業を休むことがよくある
2.4
1.6
1.私は自分とは異なる思想や価値観を尊重することができる
3.1
2.1
0.0
1.0
PRE
図2
4.2
2.6
2.0
3.0
4.0
5.0
POST
消極層のキャンプ参加前後の変化
Ⅴ.考察
今回分析したキャンプにボランティアとして参加した若者は、比較群と比べて自然の中
での活動に好意的であり(質問項目 15)、新たな活動に挑戦したり(質問項目 13)、社会に
貢献しようという意識(質問項目 16)が高い傾向にあった。また、大学の学びは自分の人
生に有意義で(質問項目8)、体験活動が大学での学習にも意義があると考えており(質問
項目3)、それが自主的なボランティア参加の背景でもあると考えられる。そのような考え
方は、過去のボランティア経験から培われた可能性もある。
このように、サービスラーニングで培いたい能力を一定程度すでに身に着けている様子
がうかがえた。そのため、全体でのボランティアの変化に有意な差は現れなかったが、キ
ャンプボランティアの参加に教育的意義がなければ、消極層においても得点の変化は見ら
れないはずである。しかし、消極層において分析した9項目について、有意な変化が現れ
たことからキャンプボランティア活動を通じて若者たちが、意欲や自信を高め行動力やコ
ミュニケーション能力を身に着けた可能性が示唆された。
Ⅵ.自由記述の分析
1.分析の目的と方法
続いて、自由記述の分析を行った。分析対象は、子ども山賊キャンプに参加したボラン
ティアを対象に行った「最終日アンケート」に記述された 221 名分(POST1)及び、キャン
プ終了後1~2か月に相当する9月に行った「キャンプの思い出会」での自由記述アンケ
ート 83 名分(POST2)である。思い出会は、自由参加のためサンプル数が少なくなってい
る。
分析には自由記述をテキスト形式にデータ化しテキストマイニングソフト KHcoder にて
行った。
その結果、POST1 では 651 語が抽出された。うち、78.1%の語は出現回数が2回以下であ
った。POST2 では 281 語が抽出され、うち 85.1%の語は出現回数が2回以下であった。POST1
及び 2 の頻出上位 20 語を表6に示す。
Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果 53
表6
自由記述における頻出上位 20 語
POST1(キャンプ最終日)
抽出語
子ども
思う
自分
出来る
言う
考える
見る
キャンプ
少し
接す
注意
たくさん
学ぶ
分かる
感じる
大切
行動
子
声
気づく
出現回数
126
45
42
27
21
20
18
16
15
14
13
12
12
12
11
11
10
10
10
9
POST2(思い出会)
抽出語
出現回数
子ども
思う
自分
大切
考える
キャンプ
感じる
生活
見る
使う
自然
人
接す
考え方
子供
好き
学ぶ
今
思いやり
持つ
20
15
12
12
11
9
8
8
7
7
7
7
7
6
6
5
4
4
4
4
続いてそれらの頻出語が出現する文脈を明らかにするために、該当する語句の前後の文
脈を抜き出した。その際、表記のゆれがみられたので明らかに同じ意味の語句も含めて扱
った。具体的には、「子供」「こども」も「子ども」と合わせて検索し、文脈からその特徴
を考察した。また、特に意味もなく一文の中に同じ表現が繰り返されている場合もみられ
た。この場合は複数回としてカウントされてしまうので、分析の対象から外した。POST1
及び2の分析対象語のうち、文脈から判断してキャンプボランティアの特性をとらえられ
ると思われる語について取り上げ、結果と考察を述べる。
2.POST1 の結果と考察
POST1 における上位 20 語のうち「子ども」が最も頻出していた。「自分」は一人称表現
として使われており、
「思う」は自由記述の性格上多用されていた。特徴的であったのは「出
来る・できる」
「考える」
「学ぶ」
「わかる・分かる」の4語であった。この4語について結
果と考察をのべる。
「出来る・できる」には「自分がまだまだだと気づくことが出来た」「まわりのキャンプ
リーダーの姿を見て、改めて自分の姿を見直すことが出来ました」
「 周りに気を配ることと、
自分でやりすぎないようにすることが出来るようになった」といった自分自身に関する記
述があった。また、「少しは教えることや注意することが出来るようになった」「すぐに注
意してしまう性格であったが見守るという行動が出来るようになった」のような子どもと
のかかわりについての記述、「子どもの想像力の豊かさや素直さを直接感じることが出来
た。」といった子どもへの気づきの記述がみられた。
「学ぶ」からは、「子どもが自ら「してみよう」という気持ちになるまで待つことを学ん
だ」や「何日も生活することで、子どもとの接し方や注意の惹き方などを学んだ」のよう
54 Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果
な子どもとのかかわり方を学んだという記述が多かった。ほかには、
「積極性を持てた。責
任を持つ事を学んだ」という包括的な記述もあった、また「本部の方の子どもとの接し方
を見るのもとても学びになった」のように、他のスタッフからの学びがあったことがうか
がえた。
「こども自身に最後までやらせることの大切さを知りました。子どもから学ぶこと
がたくさんあった」という言葉が象徴的であるが、全体的に子どもとのかかわり方を学び、
子どもとのかかわりを通じて責任感やコミュニケーションなどを学んでいったと考えられ
る。また、ほかのボランティアや NPO スタッフから学ぶ点もあったと考えられる。
「考える」では、「どんなところで注意するべきか考えるようになった」「(こどもは)自
分たちで考えさせるといろいろなアイデアを出す」、「こども達が自分自身で今何をすべき
か考えさせるように質問できるようになった」など、子どもについての気づきや子どもと
のかかわり方についての思考がうかがえる。
最後に、
「わかる・分かる」からは「子どもとの接し方が以前よりわかるようになった」
という子供のかかわり方の理解に加えて、
「 本当に色々な子どもがいて一人一人違うことが
わかった」
「子どもの考えている事が、少しわかってきた」といった子供の内面への理解の
深まりも見えた。
全体として、子どもとのかかわり方・接し方について理解を深め、出来るようになった
ことに加え、子どもの内面や子どもという存在について理解を深めた様子がうかがえる。
そういった理解の深まりや行動の変化が直接的に記述されている点に特徴があった。それ
は「子ども・子供」表記が頻出していることからも裏付けられる。総じて、キャンプを通
じて子どもとのかかわりを学ぶとともに、子どもとのかかわりを通じて自己意識や子ども
への理解を深め、子どもへの適切なかかわり方を学んだといえる。
3.POST2 の結果と考察
POST2 における上位3つの語句は、POST1 と変わらなかった。その一方で、POST1 では頻
出した「出来る・できる」の記載がすべての記述からなくなり、「大切」「生活」「考え方」
といった語句が新たに登場した。
「子ども」については、「以前よりも自発的に子供と接するようになった」「大人との接
し方だけでなく子ども(学年も異なる)の接し方も考えられるようになった」という子供
に対するかかわり方についての記述がみられ、キャンプでの変化がその後にも影響を与え
ている様子がうかがえる。また「子どもを好きになった」
「子どもにかかわる仕事をしたい
と思うようになった」といったより抽象度の高い記述が増えている。
「大切」については、「人とのかかわりが改めて大切なものだと思った」「子供たちの意
見を尊重する大切さを知った」のほか、水や物、時間を大切に使うようになったという記
述が複数みられた。ここから何を大切に思うのか、という価値観の変化が生まれてきてい
ることが推察される。例えば、
「水を大切に使うようになった。家は水道代がただなので前
までは無駄遣いしていた」という表現がある。これは、従来は「お金がかからないからも
ったいなくない、無駄にしてもよい」という市場主義的な考え方から有償無償にかかわら
ず、無駄に使うことはもったいないと考えるようになったといえる。
POST2 の記述には「大切」に加えて「感謝」という表記も出ていた。そこには、「感謝す
る大事さを学び今までより「ありがとう」と言うようになった」
「食べ物への感謝の気持ち
Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果 55
は今まで以上に強くなりました」
「 キャンプの生活なので普段の生活の中で無い物とかもた
くさんあり日常生活で普通に使えているということに感謝の気持ちをもてるようになりま
した」という記述があった。キャンプという野外におけるシンプルにそぎ落とされた生活
には、人間の生活に何が必要なのか改めて考えさせる機会があるのかもしれない。
同じように、「考え方」においても「考え方が前向きになった」「考え方・視野が広がっ
た」といった考え方の変化に関する表記が目立った。類似の「考える」は、POST1 でも頻
出していたが、POST2 の特徴は異なっている。POST1 では、前述のように直接的な子どもへ
の対応についての問題解決的な思考であった。POST2 の記述は「自然のことについて考え
るようになった」「周りのことをより見て、考えられるようになった」「相手の立場になっ
て物事を考えられるようになった」のように、自分自身の変化について表現している点に
特徴がある。
また、「生活」については「自分自身がまったく自立していなかったなと感じて家での
自分の生活が凄く変わった」
「時間ばかり気にして生活することが少なくなって、伸び伸び
過ごすようになった」のように、より多方面における日常への変化がみられた。
POST1 でみられた直接的に子どもとかかわる場面から離れた POST2 では、全体的に自己
の変化についての記述が増えている。特に、視野の広がりや感情面の変化についての記述
が増えている点に特徴がみられた。
Ⅶ.総合考察
アンケート調査から、キャンプボランティアに参加する若者は比較群と比べて、過去に
ボランティア経験を持つものが多く、サービスラーニングで培いたい学習意欲やコミュニ
ケーション能力、自主性といった一定の能力をボランティア参加前から身に着けている傾
向にあった。そのような能力が消極的であった者を抽出した結果、キャンプでのボランテ
ィア活動を通じて、主体性や意欲、多様な他者とのコミュニケーション能力に関する9項
目で有意な差がみられた。また自由記述の分析によって、キャンプ期間中、子どもとの関
わり方を学んだり考えたりという「相談員」としての役割を通じて自己意識や子どもへの
認識に変化が現れた様子がうかがえた。キャンプ参加から1か月以上たった自由記述には、
主体性や自立に向けた意識、他者への配慮など主体性や社会性の変化をうかがわせるよう
な記述、価値観や考え方の変化といった、より包括的な自己認識への変化がみられた。自
由記述の結果から、アンケート調査の結果は裏付けられたと考えられる。
Ⅷ.おわりに
本研究では、質問紙の開発には課題もみられたが、一定程度キャンプボランティアの意
義を明らかにできた。特に、キャンプボランティア活動における教育的効果を具体的に明
らかにすることができた。今後は、「自己への探求」「社会課題の理解」「学習成果の応用」
といった観点から質問紙を再整理し、より精度の調査によって本結果を裏付けることが課
題である。
また、自由記述による振り返りでは、ボランティア活動直後はキャンプで子供とうまく
かかわれたか、できたか出来なかったかという直接的な自己評価が多かったが、1か月以
上たつと自己の価値観や感情面での変化を振り返るようになっていたことも明らかになっ
56 Ⅲ 投稿原稿/自然学校におけるボランティア活動の教育的効果
た。
省察はサービスラーニングの不可欠な要素であるが、実習直後に振り返りを行ってもそ
れは状況にうまく対応できたかどうかという直接的で表面的な自己評価にとどまる可能性
がある。実習場面への実践的適応という点においては、振り返りは直後に行った方がよい
といえる。しかし、体験を通じたより包括的な成長を望むのであれば、むしろいったん体
験の場面から離れて時間を置いたのちに振り返りを行うことで、より自己の内面と向き合
いながら振り返ることが出来ると考えられる。これは、実習の目的に応じて振り返り時期
を設定するという形で、今後のカリキュラム開発に応用できる可能性がある。
本研究の実施においては、地球環境基金より助成を受けた。また、本論文の内容の一部
は、グリーンウッド自然体験教育センター、
「地球環境基金報告書
山村における大学生の
サービスラーニング~泰阜村の自然と地域を生かした社会貢献と学び~」、2014 に掲載し
た。
引用文献、参考文献、注
(1)
例えば、阿部 治・川 島直編、『ESD 拠点 として の自然学校―持続 可能な社 会づくりに果たす 自然学
校の役割―』、みくに出版、2012、及び西村仁志、
『ソーシャルイノベーションとしての自然学校―成
立と発展のダイナミズム―』、みくに出版、2013 参照。
(2)
Jacoby Barbara、「 こ ん に ち の 高 等 教 育 に お け る サ ー ビ ス ラ ー ニ ン グ 」, 山 田 一 隆 訳 、 経 済 学 論 集
Vol.47、No.1・2、2007、pp.43-61
(3)
冨田沙樹、近森 節子 、徳永寿老、真田睦 浩、「 立命館大学における 『サー ビスラーニング』モ デル
の構築」、大学行政研究、4 号、2009、pp.33-48、及び中村知子、藤原由美、三浦智恵子、伊藤敦、
「サ
ー ビ ス ラ ー ニ ン グ が 卒 業 生 の 行 動 に 及 ぼ す 学 習 効 果 に 関 す る 研 究 」、 自 由 が 丘 産 能 短 期 大 学 紀 要 、
no.45、2012、pp.17-27
(4)
鉄島清毅、「大 学生の アパシー傾向に関す る研究 ―関連する諸要因の 検討」、教育心理学研究、41、
1993、pp.200-208