Carver, C. S., & Scheier M. F. (2012). A Model of Behavioral Self-regulation In P. A. M. Van Lange, A. W. Kruglanski, & E. T. Higgins (Eds.), Handbook of theories of social psychology: volume 1. (pp. 505-526). London: SAGE Publications Ltd. 14/01/14 RRM Rep. 櫻井良祐 1 AUTHORS • Charles S. Carver – University of Miami – University of Texas, Ph.D., 1974 • Michael F. Scheier – Carnegie Melon University – University of Texas, Ph.D., 1975 2 ABSTRACT 行動と感情の自己制御研究の展開を概観 目標志向的行動を階層的なフィードバックループ として捉える 目標達成への確信(confidence)と疑念(doubt)が 目標の継続か目標からの離脱かを規定する 現状と基準とのズレ(discrepancy)と、基準が接近か 回避の対象かによって生起する感情が異なる ポジティブ感情は目標からの離脱を促し、 ネガティブ感情は目標の継続を促す 3 INTRODUCTION • 自己制御(self-regulation): 「必要に応じて個人内で生起する自己修正的な調整」 “self-corrective adjustments taking place as needed, which originate from within the person” • *自己統制(self-control):「衝動の抑制」 – 自己制御の下位分類とみなす 4 INTELLECTUAL HISTORY • 筆者らの精神史は多岐に渡る – mechanical governors / computing machines (e.g., Ashby, 1940; Rosenblueth et al., 1943; Weiner, 1948) – homeostatic mechanisms within the body (Cannon, 1932) – 動機づけの期待価値理論 (e.g., Bandura, 1986; Feather, 1982; Rotter, 1954) – 一般システムモデル(Ford, 1987; von Bartalanffy, 1968) • 本章はこれらアイデアの内容の詳細な記述ではなく、 筆者らの精神史上への位置づけを目的とする 5 SELF-AWARENESS AND CYBERNETICS • 客体的自覚理論 (objective self-awareness theory; Duval & Wicklund, 1972) – 自己に注意が向くと、ある正しさの基準との比較により評価さ れる自己側面が意識される – このような比較は現実の自己の状態と顕現化した基準との ズレ(discrepancy)を明らかにする – このズレはネガティブな自己評価とネガティブな感情を生む – これらは、ズレを知覚している状態、あるいは自己を知覚して いる状態から抜け出すよう駆り立てる 6 SELF-AWARENESS AND CYBERNETICS • 客体的自覚によるネガティブな状態から抜け出す方法 – 自覚を引き起こす刺激を避ける • ズレを知覚しなければネガティブな状態は生じない – 基準を満たすために現状を変える • ズレがなければ自覚はネガティブな状態を生じさせない • 自覚は攻撃行動を促進/抑制する (Carver, 1974; Scheier et al., 1974) – 自覚は状況に応じて正反対の効果を行動に与えうる 7 Scheier, M. F., Fenigstein, A., & Buss, A. H. (1974). Self-awareness and physical aggression. Journal of Experimental Social Psychology, 10, 264-273. 8 Scheier et al.(1974) • 参加者:男性42名 • 手続き: 1. 2人の参加者が同時に実験に参加する(一方は女性のサクラ) 2. 学習実験と称して、参加者に教師役、サクラに生徒役を割り振る 3. 生徒役が問題を間違えたとき、罰として教師役が電気ショックを 与えるよう教示する 4. 自覚操作 鏡の有無 – あり条件:鏡がある – なし条件:鏡がない *電気ショックを与えるとき自身の姿が映る 5. 電気ショックの強さを測定 9 Scheier et al.(1974) • 結果 • 電気ショックの強さ:自覚あり<自覚なし 自覚により「女性に身体的攻撃を与えるべきではない」 という基準が顕現化し、その基準を満たすよう行動した – 電気ショックの強さが減った • 電気ショックが強いほど成績が良くなるという教示を行う と自覚は電気ショックの強さを増加させた(Carver, 1974) – 良い成績のため身体的攻撃を与えるべきという基準が顕現化 自覚は状況に応じて正反対の効果を行動に与えうる 10 SELF-AWARENESS AND CYBERNETICS • 古典的な動因理論(drive theory)は不快な動因が行動 を動機づけると想定 – 認知的不協和理論(Festinger, 1957): 2つの両立不可能な認知の葛藤⇒葛藤の解消 – リアクタンス理論(Brehm, 1966): 自由の損失の経験⇒自由の回復 – 客体的自覚理論(Duval & Wicklund, 1972): 自覚によるズレの知覚⇒ズレの低減/自覚の回避 • 1950年代から60年代にサイバネティクスが全盛を迎える – 行動の原因として不快な動因を想定しない 11 SELF-AWARENESS AND CYBERNETICS • TOTE(Test-Operate-Test-Exit; Miller et al., 1960): 目標志向的行動をフィードバックループとして記述 – – – – Test:現状と基準を比較 Operate:現状を変える Test:現状と基準を比較 Exit:次に行うべきことへ移行 • TOTEモデルは、行動の大半 は楽しいから行われるという 筆者らの直観と整合 – 行動の原因は不快な動因だけではない 12 SELF-AWARENESS AND CYBERNETICS • Powersのモデル(1973):人間の行動はフィードバッ クプロセスの階層性を反映すると想定 – 単一のフィードバックループではなく、複数のフィードバッ クループから人間の行動を説明 – これらのフィードバックループは階層性を持ち (e.g., 最下層:筋繊維の張力の制御)、各レベルにおいて 基準とのズレを解消するための制御が同時進行 13 SELF-AWARENESS AND CYBERNETICS • 最上層のフィードバックループ – Principles:Programsの上層に位置するフィードバックループ。 価値観(Values; Schwartz & Bilsky, 1990; Schwartz & Rubel, 2005)と類似。 Programsにおける選択の基礎となる – Programs:TOTEと類似したフィードバックループ。 連続的・規則的。制御には注意を必要とする – Sequences:Programsが自動化したフィードバックループ。 Programsの下層に位置する • 上層の抽象的な目標は下層の具体的な目標の 達成により達成されていく 14 CONFIDENCE AND DOUBT, EFFORT AND DISENGAGEMENT • 自覚がズレを低減するよう動機づけるかは、ズレが低減 可能だという確信を持っているかに依存すると想定 – ズレが低減可能だという確信(confidence)があるとき、 自覚はズレを低減させるための努力を促進する – ズレが低減不可能だという疑念(doubt)があるとき、 自覚はズレの低減させるための努力を抑制する • 目標が達成可能だと認知している人は、 自覚により目標志向的行動が促進されたが、 そうでない人は自覚により目標志向的行動が抑制された (Carver & Scheier, 1981; Carver, 2003b) 15 CONFIDENCE AND DOUBT, EFFORT AND DISENGAGEMENT • 期待理論(expectancy theory)の共通の想定 – 成功の期待は、努力の投入を促進し、実際に成功を導く – 失敗の期待は、努力の投入を抑制し、実際に失敗を導く • 期待の認知によって生じる行動 – Klinger(1975):commitment vs. disengagement – Brehm & Self(1989):資源の投入 (動機づけ強度理論;Motivational Intensity Theory) 16 Roets, A., Van Hiel, A., Cornelis, I., & Soetens, B. (2008). Determinants of task performance and invested effort: A need for closure by relative cognitive capacity interaction analysis. Personality and Social Psychology Bulletin, 34, 779-792. 17 Roets et al.(2008) • 参加者:大学生75名 • 手続き: 1. 意志決定課題:スクリーン上に呈示された数字(1-6)が何かを答 える課題 2. 呈示された数字がわからなかった場合はボタンを押すことで何度 でも数字を表示させることができる。 この数字の再表示の回数を資源投入量(行動指標)と定義 3. 課題の難しさ操作:数字の呈示時間により操作 – 低条件:50 ms・中条件:40 ms・高条件:30 ms・不可能条件:20 ms 4. 練習試行(50 ms)と比較した本試行での資源投入量(自己報告)を測定 18 Roets et al.(2008) • 結果 • • 資源投入量(行動指標):低≒中≒不可能<高 資源投入量(自己報告):低≒不可能<中<高 • 課題が難しいほど資源が投入 されたが、その達成が不可能 だと資源が投入されなくなった • 目標追求における資源投入は 「節約原理」に基づく 19 CONFIDENCE AND DOUBT, EFFORT AND DISENGAGEMENT • 目標からの離脱は善か悪か? – 諸刃の剣 • 目標からの離脱の否定的な効果 – 目標をすぐに諦めていては何事も成せない • 目標からの離脱の肯定的な効果 – 親密な他者を喪ったとき(e.g., Cleiren, 1993; Weiss, 1988) – 自己に深く関わる複数の目標が葛藤や苦悩を生むとき (Pyszczynski & Greenberg, 1992) – 子供のときの目標が達成不可能となったとき (Baltes et al., 1979; Heckhausen & Schulz, 1995) – 目標に投入するエネルギーの節約(Nesse, 2000) – 他の目標の追求の準備(Klinger, 1975) 20 DISCREPANCY ENLARGEMENT • 基準がポジティブであるとき、 現状とのズレを縮小しようと動機づけられる • 基準がネガティブであるとき、 現状とのズレを拡大しようと動機づけられる • 自覚によって上記の傾向は強まる – 自覚があると、キューバ系アメリカ人はカストロ政権 (=ネガティブな基準)と自らの意見をより差異化した (Carver & Humphries, 1981) 21 AFFECT • 感情はどこから来るのか? – 感情はフィードバックループの結果生じると想定 *ここではズレの縮小のみを扱う • 基準と比較した目標の進行度により 生起する感情の感情価が決まる – ズレの縮小の進行度が基準を上回った場合 ポジティブ感情が生起 – ズレの縮小の進行度が基準を下回った場合 ネガティブ感情が生起 – ズレの縮小の進行度が基準と同程度の場合 いずれの感情も生起しない 22 AFFECT • 逆に、生起した感情の感情価は基準と比較した目 標の進行度をシグナルする – ポジティブ感情は目標の進行度が基準を上回っている ことをシグナル – ネガティブ感情は目標の進行度が基準を下回っている ことをシグナル – 無感情は目標の進行度が基準を上回りも下回りもしてい ないことをシグナル 23 AFFECT • 現状とネガティブな基準とのズレの拡大の場合も同様 – ズレの拡大の進行度が基準を上回った場合 ポジティブ感情が生起 – ズレの拡大の進行度が基準を下回った場合 ネガティブ感情が生起 – ズレの拡大の進行度が基準と同程度の場合 いずれの感情も生起しない 24 AFFECT • 感情の“質”はズレの縮小とズレの拡大で異なる • ズレの縮小(ポジティブな結果への接近) – ポジティブ感情:高揚(elation)・熱意(eagerness)・興奮(excitement) – ネガティブ感情:落胆(frustration)・怒り(anger)・悲しみ(sadness) • ズレの拡大(ネガティブな結果からの回避) – ポジティブ感情:安堵(relief)・平静(serenity)・満足(contentment) – ネガティブ感情:恐れ(fear)・罪悪感(guilt)・不安(anxiety) 25 AFFECT ISSUES • 感情は現状の目標の進行度と基準とのズレを反映し、 目標への資源投入を規定する (Mizruchi, 1991; Louro, Pieters, & Zeelenberg, 2007; Fulford, Johnson, Llabe, & Carver, 2010) – ネガティブ感情 ⇒現状の目標の進行度が基準より低い ⇒目標に資源をより投入する – ポジティブ感情 ⇒現状の目標の進行度が基準より高い ⇒目標に資源を投入しなくなる(惰行; coasting) • 資源の節約 • 複数の目標の遂行の最大化 26 Louro, M. J., Pieters, R., & Zeelenberg, M. (2007). Dynamics of multiple-goal pursuit. Journal of Personality and Social Psychology, 93, 174-193. 27 Louro et al.(2007) • The Multiple Goal Pursuit Model: 1. 目標関連感情 2. 目標の達成/失敗の有無 3. 目標の近さに基づき、 複数の目標への資源投入をモデル化 1. 目標の進展が基準を上回るか? – – 2. 目標は達成/失敗したか? – – 3. a. Yes⇒焦点目標から離脱 競合目標に全投入 No⇒3へ 目標の達成は近いか? ポジティブ感情 – – b. Yes⇒ポジティブ感情 No⇒ネガティブ感情 Yes⇒高期待⇒焦点目標↓競合目標↑ No⇒中期待⇒焦点目標↑競合目標↓ ネガティブ感情 – – Yes⇒中期待⇒焦点目標↑競合目標↓ No⇒低期待⇒焦点目標↓競合目標↑ 28 Louro et al.(2007) • 参加者:女子大学生165名 *ダイエット目標を持つと想定 • デザイン:目標関連感情(ポジ vs. ネガ)×目標の近さ(近い vs. 遠い)×目標の種類(ダイエット vs. その他) • 手続き: 1. ダイエット目標を活性化 2. ポテトチップスを好きなだけ食べ、味や購入意図を測定 目標関連感情操作 他の参加者のレビューの内容を操作 ポジ条件:チップスを食べすぎるのはしょうがない ネガ条件:チップスを食べすぎるのは良くない 3. 参加者の情報を基にPHI(Personalized Health Index)を算出 目標の近さ操作 適正なPHIの値との差を操作 近い条件:適正な値よりも2pt高い&1~2週間で修正可能 遠い条件:適正な値よりも11pt高い&8~9週間で修正可能 4. 目標の種類操作 課題の種類を操作 ダイエット条件:苦いがダイエットに効くリンゴ酢を飲む課題 その他条件:解くことが不可能なパズル課題 29 Louro et al.(2007) • 結果 • リンゴ酢を飲んだ量(ダイエット条件) ポジ条件:近い<遠い ネガ条件:近い>遠い • パズルの持続時間(その他条件) ポジ条件:近い>遠い ネガ条件:近い<遠い 低 中 中 高 ダイエット 目標達成 の期待 モデルの予測通り の結果が得られた 30 AFFECT ISSUES • 複数の目標を追求するとき、感情は目標の優先順位づけに影響を与える • 接近*ポジティブ感情(happiness, joy):優先順位を下げる • 回避*ポジティブ感情(relief, tranquility):優先順位を下げる – いずれも目標達成が十分に行われたことをシグナルするため • 接近*ネガティブ感情:感情の質により優先順位づけが異なる – frustration, anger:優先順位を上げる 目標達成が不十分であることをシグナル – sadness, depression, despondency, hopelessness:優先順位を下げる 資源を投入しても目標が達成されないことをシグナル • *回避*ネガティブ感情については記述なし 31 AFFECT ISSUES Carver (2005) Emotion 32 APPLICABLITY TO SOCIAL ISSUES • 苦痛の低減方略を提示 – 現状と基準とのズレが苦痛を生む • ズレの縮小(あるいは拡大)を目指す • 目標達成を諦め、新たな目標へ移行する • 楽観主義・悲観主義の指標の開発 – これらは身体的・精神的健康と深く関わる 33 Relation to Limited Resource Model • 制御資源モデル(Muraven & Baumeister, 2000) 自己制御の発揮は有限かつ共通の制御資源を消費する 先行の自己制御の発揮は後続の無関連な自己制御の遂行を低下 (ego depletion; 自我枯渇) • 自我枯渇効果は概ね頑健(d+ = 0.62; Hagger et al., 2012) 自 我 枯 渇 操 作 Task 1 ― 自 己 制 御 課 題 Task 2 34 Relation to Limited Resource Model 感情との関連 • 自我枯渇がポジ/ネガ感情に与える効果は小さい (ポジ d+ = -0.03, ネガ d+ = 0.14; Hagger et al., 2012) • 自我枯渇は感情反応を鋭敏にする (Vohs et al., under review) • 自我枯渇状態では・・・ 目標の進展の知覚により生起する感情が極化? 結果、感情に基づく目標への資源配分も極化? 35 Relation to Limited Resource Model 資源配分との関連 • 制御資源の節約(e.g., Muraven et al., 2006) • 自我枯渇時に、後続の自己制御の必要性を高く認知すると、 先行の自己制御において制御資源を節約する – 先行の自己制御の遂行は低下 – 後続の自己制御の遂行は上昇 • 「自我枯渇」と「後続の自己制御の必要性」が 2つの目標(焦点目標・競合目標)への資源配分を規定 • 相互補完的 – 資源の有限性を仮定する点で共通 – 両者の欠けている視点を補い合うことでより統合的なモデルへ C&S:資源が枯渇した状態や自己制御の必要性の考慮 LRM:感情や目標の達成期待の考慮 36
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