資料1

03/08/07 社会精神生理学
研究会発表スライド
認知的評価の感情制御機能に
関する精神生理学的検討
手塚 洋介
(同志社大学文学研究科)
認知的評価の感情制御 (emotion regulation) 機能
日常体験する感情は,個人と状況との関係性が大きく関与.
↓
状況に対する意味づけが感情体験を規定.
認知的評価 (cognitive appraisal) とは,状況に対する意味づけ
を担う機能 (Lazarus, 1999) .この機能がさまざまな感情体験をも
たらす.
従来の認知的評価の実験的検討
ネガティブ感情の軽減効果に注目.
• 「教示」によって特定の認知的評価を直接的に誘導.
• 主観評定や生理反応を用いて効果を検証.
教示
認知的評価
嫌悪刺激
→ 一致した見解は示されていない.
先行研究の問題点
① 直接的に認知的評価を操作することの困難さ (神村,1996) .
→ 単なる注意操作でしかない (Steptoe & Vögle, 1986) .
② 研究ごとに扱う指標が異なる.
→ 生理指標の組み合わせに一貫性がない.
③ 個人の自発的な変化を捉えていない.
→ 認知的評価を強引に誘導しようとしている.
先行研究の問題点
① 直接的に認知的評価を操作することの困難さ.
→ 個人の側ではなく,状況そのものを操作するべき.
② 研究ごとに扱う指標が異なる.
→ 生理指標の組み合わせに一貫性がない.
③ 個人の自発的な変化を捉えていない.
→ 認知的評価を強引に誘導しようとしている.
先行研究の問題点
① 直接的に認知的評価を操作することの困難さ .
→ 個人の側ではなく,状況そのものを操作するべき.
② 研究ごとに扱う指標が異なる.
→ 体系だった指標を用いるべき.
③ 個人の自発的な変化を捉えていない.
→ 認知的評価を強引に誘導しようとしている.
先行研究の問題点
① 直接的に認知的評価を操作することの困難さ .
→ 個人の側ではなく,状況そのものを操作するべき.
② 研究ごとに扱う指標が異なる.
→ 体系だった指標を用いるべき.
③ 個人の自発的な変化を捉えていない.
→ 文脈の途中で認知的評価を操作する必要がある.
認知的再評価 (cognitive reappraisal)
日常場面においては,問題となるような状況で感情を調節す
ることが困難である.むしろ,状況が取り払われた後に,そ
の状況に対して新たな意味づけをしていくことで,感情が変
化していくと思われる.
↓
再評価による速やかな回復こそが重要.
目的
回復期に認知的再評価を操作することで,主観評定および
生理反応の回復にどのような影響を及ぼすのか検討する.
また,従来扱われてこなかった反応の持続という現象を取り
上げ,認知的再評価が反応の持続に及ぼす影響について
併せて検討を行う.
実験参加者・課題
• 実験参加者
大学生56名 (男34,女22; 19-21歳) を,統制群,軽減
群,持続群にランダムに配置.
• スピーチ課題 「日常生活に心理学はどのように活かせるか」
①ビデオカメラに向かって話す.
②スピーチの様子は録画され評定される.
③評定結果を実験の最後にフィードバックする
条件設定:認知的再評価の操作
スピーチ直後に実験状況について説明を与えた.
• 統制群 : 特別な説明はなく,しばらくそのまま待つよう指示.
• 軽減群 :実際には録画も評定もしておらず結果のフィード
バックがないことを告げ,後でデブリーフィングを
行うことを伝えた.
• 持続群: 録画した映像を見ながらスピーチの内容について
質問したいので,しばらくしたらそちらに入室する
と伝えた.
測定指標 (主観評定)
• 一般感情尺度 (小川他,2000)
①肯定的感情
e.g 「活気のある」 「愉快な」
②否定的感情
「緊張した」 「恐ろしい」
③安静状態
「平静な」 「ゆっくりした」
各8項目,4件法 (まったく感じていないー非常に感じる)
安静期からの変化値を分析に用いた.
測定指標 (心臓血管系指標)
•
心拍 (HR) : 胸部誘導によるECG波形をもとに算出.
•
血圧 (MBP, SBP, DBP): トノメトリ方式連続血圧計を使用.
•
一回拍出量 (SV) : 胸部インピーダンス法を用いて推定.
•
心拍出量 (CO) : HR×SV
•
全末梢抵抗 (TPR) : MBP/CO
測定指標 (心臓血管系指標)
•
心拍 (HR) : 胸部誘導によるECG波形をもとに算出.
•
血圧 (MBP, SBP, DBP): トノメトリ方式連続血圧計を使用.
•
一回拍出量 (SV) : 胸部インピーダンス法を用いて推定.
•
心拍出量 (CO) : HR×SV
•
全末梢抵抗 (TPR) : MBP/CO
1min毎の平均を算出.安静期からの変化値を分析に用いた.
MBP
予想される心臓血管反応
CO
TPR
HR SV
パタン1
パタン2
(心拍出量の増大に起因する血圧上昇)
(全末梢抵抗の増大に起因する血圧上昇)
30
25
% 20
30
25
20
10
5
0
15
% 10
変 5
化 0
変
化 15
MBP
CO
TPR
積極的に取り組むような
状態=スピーチ時を反映
MBP
CO
TPR
じっと耐えなければならな
い状態=回復期を反映?
手続き
統制群
軽減群
持続群
認知的評価の操作
課題説明
安静期
準備
スピーチ
回復期
5min
3min
3min
5min
主観①
主観②
生理反応連続測定
主観③
結果 (主観評定)
否定的感情
肯定的感情
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
12
10
8
6
4
2
0
pre
recovery
pre
recovery
0
-2
-4
統制
軽減
持続
-6
-8
安静状態
-10
-12
pre
recovery
結果 (主観評定)
①肯定的感情
回復期に軽減群のみ増加.
②否定的感情
回復期に軽減群と持続群に差が認められた.
※③安静状態では有意な交互作用認められず.
統制
軽減
持続
結果 (HR, MBP, CO, TPR)
( bpm )
( mmHG )
HR
8
MBP
12
7
10
6
8
5
4
6
3
4
2
2
1
0
0
rec1
rec2
rec3
( l/min )
rec4
rec2
rec3
rec4
rec5
TPR
(dynes/s/cm-5)
CO
0.9
0.8
0.7
rec1
rec5
80
60
40
0.6
0.5
0.4
0.3
20
0
-20
-40
0.2
0.1
0.0
-60
-80
rec1
rec2
rec3
rec4
rec5
rec1
rec2
rec3
rec4
rec5
結果 (HR, MBP, CO, TPR)
• 全体的に,軽減群において速やかな減少が認められた.
• 統制群と持続群は異なる反応パタンを示した.
統制群・・・TPRに起因するMBPの持続.
→ 反応パタンの変化 (パタン1→パタン2) .
持続群・・・COに起因するMBPの持続.
→ スピーチ時の反応 (パタン1) が持ち越されたか.
考察
認知的評価のネガティブ感情軽減効果に関する実証的な根
拠は少ない (Gross ,1998) .→ 従来の実験操作に起因.
本研究では,回復期に状況要因を操作することで,主観評
定と生理反応から軽減効果を確認できた.また,認知的評
価の質的違いによって反応が異なる変化を示すことが明ら
かにされた.
考察
従来の実験室での感情研究やストレス研究には生態学的妥
当性 (ecological validity) が欠如している (Waldstein et al., 1998) .
↓
本研究は,スピーチ課題後の回復期に焦点を当てることで,
従来よりも実際場面に即した状況を再現できたと考えられる.
ある状況が物理的に解消された後でも,その状況に起因し
たネガティブ感情の持続という現象は存在し,本研究はその
ような事態における認知的評価の機能を説明できた.
ご清聴ありがとうございました.
参考資料 (SBP, DBP)
(mmHG
)
(mmHG
)
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
rec1
rec2
rec3
rec4
DBP
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
SBP
rec5
rec1
rec2
rec3
rec4
rec5