9効果

こばりみずお
氏名(本籍)
小針瑞男(福島県)
学.位の種類
'医学博士
学位記番号
医第2061号
学位授与年月日
平成元年2月22日
学位授与の要件
学位規則第5条第2項該当
最終学歴
昭和54年3月
秋田大学医学部医学科卒業
学位論文題目
トリプシン膵間質注入膵炎におけるプレドニゾロ
ン及び高脂肪食の影響とトリプシンインヒビター
9効果
(主査)
論文審査委員
教授豊田隆謙
教授松野正紀
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教授石森章
論文内容要旨
【はじめに】
トリプシンを膵間質に注入すると,注入領域に限局した出血性壊死性膵炎が形成される。著者
はあらかじめプレドニゾロン投与な'いし高脂肪食で飼育したウサギを用いこのトリプシン膵間質
注入膵炎を作成し,これらの前処置が本膵炎に及ぼす影響を観察した。またトリプシンインヒビ
ターの効果をヒト尿中トリプシンインヒビター(UTI)を用いて評価した。以上の方法でトリ
プシン膵間質注入膵炎の膵炎モデルとしての特徴を明らかにすることを試みた。
【対象と方法】
雄ウサギ63羽を普通食飼育群(N),高脂肪食飼育群(F),普通食飼育プレドニゾロン投与
群(P)の3群に分け,次にそれぞれをC:Contro1群とT:Trypsin注入群のsubgroupに分け
6群とし,NT群でUTI投与を行った群(NT+UTI)を加え合計7群とした。飼料は普通食
で4.0%,高脂肪食で15%,17%及び30%の脂肪を含み,3週間以上投与した。プレドニゾロン
は1mg/kg体重の量をトリプシン注入7日前より連続8日間投与した。膵組織のアミラーゼ,リ
パーゼ,トリプシノーゲンの酵素活性,タンパク濃度を測定し,タンパク11hg当たりの膵組織酵
素活性をNC,FC,PC群で比較した。ウサギを無菌的に腹部正中切開にて開復し,膵間質に
トリプシン注入群では濃度1mg/0,1m1のトリプシンを6ケ所(6mg),対照群では,生食を注
入し,絶食,補液にて48時間まで経過を観察した。補液と採血は頚静脈より挿入したカテーテル
より行った。NT+UTI群では合計30万単位のUTIを投与した。トリプシン注入24時間後,
無麻酔下でIV-GTTを施行しK値を算出した。48時間後,麻酔下でセルレイン30ng/kgを静
注後,4CHRU/kg/hrのセクレチンを持続静注し,膵管より直接採液し膵外分泌機能を評価
した。膵外分泌機能検査終了後屠殺し,'膵臓を組織学的に検討した。NT,FT,PT群では画
像解析装置を用い障害部位面積を測定した。24時間後,NC,NT,NT+UTI群で血漿アミ
ノ酸濃度を比較した。
【結果】
1日平均飼料摂取量は,高脂肪食飼育群より普通食飼育群で多かった。プレドニゾロン投与群
では投与前より投与中に多くを摂取した。週齢で比較すると普通食飼育群より高脂肪食飼育群で
体重の増加が大きく,またプレドニゾロン投与により体重の増加は低下した。膵組織酵素活性は
NC群に比べFC群,PC群で差はなく高脂肪食飼育ないしプレドニゾロン投与による膵組織単
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位タンパク当たりの酵素含量の比率に変化は認められなかった。
NT群ではNC群に比べ血清アミラーゼの上昇,一過性のヘマトクリットの上昇,血漿インス
リンの上昇を認めたが,血糖の変動は認めなかった。IV-GTTK値にては耐糖能の低下は
なく,膵外分泌機能検査にては膵潅量,タンパク分泌量,アミラーゼ分泌量,重炭酸塩分泌量の
低下,重炭酸塩濃度の減少を認めた。組織学的にはトリプシン注入部位に一致した限局性の出血
性壊死性膵炎を認めた。
PC群ではNC群と比べ血漿インスリンは上昇し,また耐糖能の低下はなかった。膵液量,ア
ミラーゼ分泌量は低下したがタンパク分泌量はわずかに増加した。PT群ではNT群に見られた
トリプシン注入による膵液重炭酸塩濃度,タンパク分泌量の低下が改善された。また組織学的に
は障害の認められる領域の範囲が縮小した。
FC群ではNC群に比べ膵液量,アミラーゼ分泌量の低下を認めた。FT群では血清アミラー
ゼ,ヘマトクリット,血糖,血漿インスリン及び外分泌機能の反応はNT群の変化に類似してい
た。組織学的には,出血,壊死の範囲は拡大し浮腫の範囲は縮小した。
NT+UTI群ではNT群に比べ血清アミラーゼの上昇は軽減し,血漿インスリンは漸減した。
膵液量,重炭酸塩分泌量の低下は改善し,タンパク分泌量はNC群より増加した。しかし,組織
学的にはNT群と同様に出血,壊死,浮腫が認められた。
NT,NT+UTI群ではNC群に比べ血漿総アミノ酸濃度の低下を見た。またグルタミン,
セリン,アスパラギンの減少を認めたがアルギニンの変動は認められなかった。
【考察】
トリプシン6mg/6ケ所の膵間質注入により作成された本膵炎では,膵外分泌障害が認めら
れたが,著しい内分泌障害は認められなかった。組織学的には限局性の出血性壊死性膵炎を認め
た。脂肪食飼育の本膵炎に対する影響は少なかった。プレドニゾロン投与により本膵炎に認めら
れる膵外分泌障害は改善され,組織の障害部位面積も縮小した。UTI投与にても膵外分泌障害
は改善され,本膵炎は薬剤によく反応するモデルと考えられた。
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審査結果の要旨
本論文はトリプシンを膵間質に注入して生じる,限局した出血と壊死の膵病変が観察される膵
炎モデルの特徴を明らかにすることを目的に,プレドニゾロン前投与,高脂肪食飼育,ヒト尿中
トリプシンインヒビター(UTI)投与の膵組織,膵内外分泌機能への影響を検討したものである。
著者は雄ウサギ63羽を普通食飼育群,高脂肪食(15-17%脂肪含有3週間)飼育群,普通食飼
育しプレドニゾロン(1mg/kg体重/日静注1週間)投与群の3群に分けた。さらに各群を生理
食塩水注入の対照群,トリプシン注入群の2群とし,トリプシン注入普通食飼育群に総計30万単
位のUTIを投与した群を加え合計7群として検討を進めた。トリプシンは1mg/0.1mlを膵間
質6ケ所に注入し,絶食下で補液を行いながら,48時間まで血清アミラーゼ濃度,血糖,インス
リン,ヘマトクリットなどの変動を観察した後屠殺し,膵を組織学的に検討し,また画像解析装
置を用い傷害部位面積を算出した。この間トリプシン注入24時間後に無麻酔下でIVGTTを施行
しK値より耐糖能を,48時間後に麻酔下でCaerulein30ng/kg-Secretin4CHRU/kg/hr
の静注下で膵管より直接採液し膵外分泌機能を評価した。
普通食飼育ではトリプシン注入により生食注入の対照群と異なり,血清アミラーゼの上昇,血
糖とヘマトクリットの一過性の上昇を認め,膵のトリプシン注入部位に一致した限局性の出血性
躍
壊死性膵炎と認め得る所見を観察した。またIVGTTのK値から耐糖能低下は示されなかった。
膵外分泌では液量,重炭酸塩濃度と分泌量,アミラーゼ濃度と分泌量と全ての因子が障害されて
いた。トリプシン注入前の膵組織の単位蛋白量当りのアミラーゼ,リパーゼ,トリプシノーゲン
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含量は,高脂肪食投与やプレドニゾロン前投与では変化していなかった。蛋白合成,膵酵素合成
の促進は明かでなかった。トリプシン処置後の病態はプレドニゾロン前投与により膵液重炭酸塩
濃度,蛋白分泌量の低下が改善された。組織学的にも傷害部位面積が縮小した。また高脂肪食群
はトリプシン注入後の経過および膵機能は普通食群と違いがなかった。傷害面積に差はなかった
が,出血,壊死の範囲は拡大し浮腫の範囲は縮小した。
この結果本実験モデルは出血性壊死性膵炎と考えられたが,病変部位は限局性であり,膵外分
泌への障害に比し膵内分泌機能は保たれていた。
またUTI投与では血清アミラーゼの上昇も軽度であり,膵外分泌障害は改善した。しかし組
織上の改善は明らかとはいえなかった。ド
以上,本論文はトリプシン膵間質注入による新しい急性膵炎実験モデルを確立し,膵機能の評
価および組織計測し,脂肪食,プレドニン,UTIの影響を検討して,新しい知見を得た研究で
あり,学位に値するものと考えられる。
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