しばともこ 氏名(本籍) 柴智子(宮城県) 学位の種類 博士(医学) 学位記番号 医博第2023号 学位授与年月日 平成15年3月24日 学位授与の条件 学位規則第4条第1項該当 研究科専攻 東北大学大学院医学系研究科 (博士課程)外科学系専攻 学位論文題目 ヒスタミンH,受容体欠損マウスを用いた行動解 析による受容体機能の解明 (主査) 論文審査委員 教授玉井信 教授谷内一彦 教授飯沼一宇 教授福土審 一453一 論文内容要旨 脳内におけるヒスタミンは神経伝達物質として働くことが知られている。今回我々はヒスタミ ンH2受容体の中枢神経系における機能解明を目的に,H2受容体欠損マウス(以下H2受容体 ノックアウトマウス=H2KOと略)を用いて行動実験を行った。行動実験は,1.Circadian rhy嶺mを知る指標となる,Homecage,Activitywheelでの行動量測定とHomecage内で の飲水量測定。マウス固有の日内リズムを測定するための恒暗条件下Free-runningの測定。2. Open-fieldおよびElevatedplus-mazetest(高架式十字迷路試験)を用いた不安状況下での行 動量の測定。3.マウスの攻撃性を表すResident-intruderaggressiontest。4.学習・記憶機 能の指標となるPassiveavoidancetest(受動回避試験)。5.モルヒネ投与後の痛覚刺激反応 (hot-platetest,tai1-flicktest,tai1-pressure七est,paw-withdrawaltest)を測定した。 結果は,1.Homecage,Activitywhee1での活動量は野生型に比べH2KOで昼間自発運動 量の増加・夜間自発運動量の減少を認め,日内リズムの乱れを示した。Homecage内での飲水 量も,H2KOで昼間飲水量の増加・夜間飲水量の減少を認め,日内リズムの乱れを示した。恒 暗条件下でのFree-runningは,H2KOで位相の前進が認められ,体内リズムとH2KO受容体 との関連が示唆された。2.Open-fieldにて測定した新規環境下での探索行動は,H2KOの行動 量が野生型(以下WTと略)よりも明期測定時,有意に増加し,過活動あるいは易不安性を示 唆した。Open-field内のrearing回数は時期測定時H2KOで有意に減少した。Elevatedplus- mazetest(高架式十字迷路試験)では,H2KOはopenarmよりも,壁のある閉鎖的なアーム にとどまる時間が有意に長かった。これらより,H2KOが不安を感じていることが示唆された。 3.Resident-intruderaggressiontestにおいて統計学的有意差は認められなかった。4.Passiveavoidallcetest(受動回避試験)では2グループ間の有意差を認めなかった。5.モルヒネ 投与後の痛覚刺激反応は全てのテスト(hot-platetest,tai1-flicktest,tail-pressuretest, paw-withdrawaltest)でモルヒネ投与後の痛覚閾値の有意な上昇がH2KOで認められ,WT よりもH2KOの方が痛みを感じにくかった。 これらの結果は,脳内ヒスタミン猛受容体が生理機能に関与していることを示し,不安を含 めた情動,自発運動量,日内リズム,飲水,学習・記憶,痛覚等,多くの機能で作用しているも のと思われた。 一454一 審査結果の要旨 本研究はヒスタミンH!受容体遺伝子を選択的,先天性に欠損させたH、受容体欠損マウス (H,受容体ノックアウトマウス)を用い,中枢神経系におけるヒスタミンH!受容体の機能解明 を行動実験で明らかにすることを試みたものである。 行動実験は様々な中枢能力を見る目的で 1.Circadianrhythmの指標:Homecage,Activitywhee1 2.恒暗状態での行動量:Free-rumillg 3.不安の指標:Open-field,Elevaむedplus-mazetestによる行動量 4.攻撃性の指標:Resident-intruderaggressiontest 5.学習・記憶能力lPassiveavoidancetest 6.痛覚刺激反応:Morphhle-inducedantinociceptivetesst(hot-platetest,tai1-flicker test,tai1-pressuretest,Paw-withdrawaltest) の諸種類を行った。その結果H2受容体ノックアウトマウスで1.から昼間自発運動量の増加, 夜間自発運動量の低下による日内リズムの振幅減少,2.より位相の前進,3.から易感受性,易不 安性,6.より痛覚に対する反応の遅延が示された。4-5でははっきりした結果は得られなかっ たという。 これらの結果から今まではっきりしなかったヒスタミンH,受容体の中枢神経系機能が探索行 動,情動,不安,学習・記憶,痛覚などの関与していることが示された。ヒスタミン神経の脳内 分布等は明らかにされてきたが,その機能がはっきりしていなかった。その点で今回の行動によ る研究はひとつの解決の方向を示すもので大変面白い意義のある研究であり,博士論文に十分に 値する。予備審査で指摘された点についても的確に処理されている。 一455一
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