麻酔学と麻酔臨床ーー 薬物の話を中心に

麻酔の話ーー
医師以外の方々を対象に
諏訪邦夫
2001年千葉市
麻酔の勉強をしましょう
役に立つことを 1/3
 面白いことを
1/3
 学問的なことを 1/3

麻酔器の基本構造
1. 流量計:酸素と笑気の混合気をつくる
2. 気化器:他の吸入麻酔薬を加える
大抵はセヴォフルレン
3.呼吸回路:一方弁,二酸化炭素吸収,
ガス流入、バッグ,排気調節など
なぜ吸入麻酔か
「作用が切れる」必要
 吸入麻酔はコントロール可能
 吸入麻酔のファーマコキネティクス

- 「切れる」ことの重要な薬は希れ
- 研究の進んだ理由
効かない薬の代表が吸入麻酔薬
「効かない」を「大量必要」と定義すれば
 吸入麻酔薬はメカニズム不明
 おそらく神経伝達の遮断:間接的
 「効く」静注薬は受容体を塞ぐ形の遮断

- 麻薬は判明
表:麻酔薬および関連薬物の
有効血中濃度と質量数
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分子量
イソフルレン(吸入) 184
サイオペンタル(静注)264
プロポフォル(静注) 178
ディアゼパム(静注) 284
ケタミン(静注)
238
モルフィン(静注) 375
フェンタニル(静注) 528
有効血中濃度
100000ng/ml
20000ng/ml
5000ng/ml
300ng/ml
100ng/ml
65ng/ml
1ng/ml
「麻酔薬」ではないが「麻酔」に
必要な薬:筋弛緩薬

代表的筋弛緩薬(神経筋遮断薬)
- 代表はクラーレ(トボクラリン)



•
パンクロニウム
ベクロニウム
トボクラリン
分子量
732
637
771
有効血中濃度
250ng/ml
370ng/ml
600ng/ml
「全身麻酔」と「区域麻酔」
区域麻酔の例:脊椎麻酔,硬膜外麻酔
 局所麻酔薬で神経を広くブロック
 局所麻酔薬の例:キシロカイン,プロカイン
 局所麻酔薬はメカニズム判明
 神経伝達の遮断:イオンの遮断

生体管理としての麻酔臨床
呼吸のとまる多彩なメカニズム
 気道閉塞:普遍的
 胸郭
:開胸手術
 横隔膜 :筋弛緩薬
 横隔神経:高位脊椎麻酔
 呼吸中枢:全身麻酔薬
 対応:気管内挿管と人工呼吸
麻酔の安全基準




担当者が「常時」その場に存在
血圧と脈拍を5分以内毎にチェック
心電図:常時
呼吸と循環の「連続」モニタ-
- 呼吸:バッグの動き,気道内炭酸ガス
- 循環:動脈波形,プレティスモグラフ


体温のモニター
パルスオキシメータとカプノグラフの要件
パルスオキシメーターとカプノグラフ
実物を手術室で確認して下さい
 パルスオキシメーター:光で血液中の酸素を測る

- 「血液中に酸素が十分ある」証拠

カプノグラフ:光で気道のCO2 を測る
- 「たしかに呼吸している」証拠
挿管が絶対安全ではない
挿管してあっても危険はいろいろ
 チューブが抜ける,折れる,つまる
 カフがもれる
 回路がはずれる
 特に,チューブの確認しにくい手術
緑は危険! 過誤は根源を絶て!

事件:酸素投与に緑のボンベをつなぐ
- 「緑」は通常は「酸素」をあらわす
• 流量計の酸素は緑
• マスクの管も緑
ところがボンベだけは緑は二酸化炭素!
 うっかりすると間違える
 「緑のボンベはCO2 」の規定は変更不能
 したがって,ここは個別に対応

終わりに
手術室になれて下さい
 手術はいろいろな人,いろいろな器具の
組み合わせ
 自分一人ではできません
 他の人の協力を
 器具や機器も上手に使うように

溶けにくい薬が速く効く!
吸入麻酔薬の不思議な事実
 「血液に溶けにくい薬」:速いが弱い
 「血液に溶けやすい薬」:遅いが強い
 制約因子は換気量
 実際のやり方:静脈麻酔→吸入麻酔に

「麻酔状態」と「臨床麻酔」の差

1×MACはすでに一番深い意識障害
- 臨床では1.3~2×MACを使用
3ー3ー9度の300:深い「昏睡」
 睡眠は30~100

麻酔と睡眠の差:昏睡評価とMAC

ED50:脳で達成する分圧を大気圧の
濃度で表現

指標:「強い痛み刺激に体動で反応しな
い」
不思議な吸入麻酔薬

キセノン(ゼノン):不活性気体
- 優秀な吸入麻酔薬,高価で臨床使用できず

クリプトン:これも不活性気体
- 臨床使用は少し弱い.ゼノンより安価

窒素:30気圧で1×MAC
- われわれも少し麻酔状態(0.8/30×MAC)?
- 臨床にはまったく使えないけれど