慶應義塾大学 経済学史学会・第73回大会 日本における ロビンズの導入過程: 1930年代と1950年代 小峯 敦 龍谷大学 2009年5月30日(土) 1 目次 I. 導入 動機、論題、時代背景、調査雑誌 II. 一般均衡理論 (1)安井、(2)中山、(3)杉本 III. 経済体制論 (1)山田、(2)気賀 VI. まとめ 3つの反応様式 2 安井琢磨 熊谷尚夫 福田徳三 中山伊知郎 辻六兵衛 山田雄三 野村兼太郎 気賀健三 杉本栄一 末永隆甫 高田保馬 河上肇 豊崎稔 柴田敬 武村忠雄 3 I. 導入 動機a:2標準像「稀少性」「保守」? – 潜在的な多面性と、表面的な一面性 動機b:一般均衡理論と経済体制論 – 1930年代の新潮流、1940年代の統制経済へ 時代背景:明治維新以来、5つの局面 – ミル、ドイツ、マルクス、ワルラス、政治経済学 調査対象:学術雑誌、教科書、伝記 – 経済系学術雑誌の確立 4 II-1. 安井の受容様式(1) 書評:安井(1933a) – 最初期の反応、早坂(1971: 47)の指摘。 「経済学の与へるところは選択の合理性」 – 「限界効用学説による理論経済学の基礎づけがロビンズの立場であ る」(安井 1933a: 125-6) ほぼ紹介のみ – 希少なイギリス方法論、ドイツ思想の優位、資源の合理的配分 多くの参照:ワルラスへ、GEの彫琢へ – 安井(1933b)、安井(1934)、安井(1940) 5 II-1. 安井の受容様式(2) 戦時中:純粋経済学を貫く – 「いまに見ていろという気持ち」(安井編 1980: 93)、「近代経済学への 理解と関心とは次第に失われていき…」(安井 1979: 170) ロビンズと対談(1973年) 「助手の初めのころに、シュンペーターの著作[『本質と主要内容』]とあなた の『経済学の本質と意義』を読みました。…この本で非常に大きな感銘を受 けたことを覚えております。ですから、あなたは私にとって、いわば先生だ ったと思っています。…ところで、1930年代初期のロンドン・スクールは、 私にとって大変に興味を起こさせました。」(安井編 1980: 212) 弟子・熊谷尚夫→「標準像」へ – 「本質的でゆらぐことのない観点」(熊谷 1972: 13) 6 II-2.中山の受容様式(1) 中山(1933a)「経済理論と経済社会学」 – 最も早い言及(1932.9.21)。「与件の変動の経済に及ぼすところの影響 を追求」(中山 1933a: 87)、「倫理的判断は…生じて来ない」(94)。 中山(1933b)『純粋経済学』 – 形式・手段として一般均衡理論(相互依存で安定した関係を記述)。 – 静態と動態に本質的な区別はなく、いずれも均衡理論。 – しかし、目的には動機・因果が別に必要。「何等か」の合計。 認識のコア、しかし別の接合を – 「安定と進歩」。マクロ的経済現象(ケインズ+資本理論)。 – 実践的政策への道。 7 II-2.中山の受容様式(2) 翻訳『本質と意義』、監修 「この比較は1つの点で十分ではない。その点を考えるとこの書の方がもっ –と本質的なものをもっている。…/ここにある根本理論は、簡単にいえば希少性 –原理によって貫かれた一本のものである。そこには静態理論と動態理論の本質 –的な区別はない。…この1つの理論的武器をもって複雑で変動的な経済現象の –根本をつかむことが出来る…。」(中山 1957: iv) – 折衷様式 – 「理論的な骨格を自分の経済学のために求める」(中山 1979: 48) – 静態と動態を貫く稀少性=理論的コア。安定と進歩をどう両立? – 弟子や政策を通じて、ロビンズの普及 「日本のロビンズ」(安井 1981: 266) –同年。政府の要職、学界の長老。 8 II-3.杉本の拒絶様式(1) 初期研究:統計学、ローザンヌ学派批判 「静態経済学の破綻」、「たえざる発展の過程を…均衡の状態に於て把 握しようとするのは、論理上不可能なる企て」(杉本 1947/1939: 2) – – 弾力性による把握。戦時中はこの係数を主体的に動かす。 『近代経済学の解明』(1950) – 均衡ではなく、富・厚生の研究を。 – 価値判断論争。価値・分析の峻別をすべきか。 – 「個々の市民が独立の人格者として…等しく認め合う」(杉本 1950:上巻207) –「ロビンズは、主観的に思う主体を市民社会的な個人と考えていませんか –ら、その経済学も単純に個人主義的であって、社会的な要素を欠いてい –ます」(ibid.: 上巻208) 9 II-3.杉本の拒絶様式(2) 末永隆甫(1918-2004) –杉本理解の流布:もう1つの標準像 「この派の統率者ロビンズが経済科学においては価値判断 –の導入を終始拒否しつつ一般均衡理論こそ科学としての経 –済学の典型であると考えながら現実の経済問題について極 –端な自由主義の立場をとったことはきわめて示唆的である。 –けだしそれは…保守党的な見解…であり、イギリス産業資本 –よりはむしろ銀行資本・金融業者および輸出産業を基盤とす –る貿易商業資本の利益に合致する…。」(末永 1953: 420) – 10 III-1. 山田雄三 『経済計画と国際秩序』(1937)をめぐって –価格理論に基づいた比較経済体制 –「中枢機関は消費・生産の反応を充分に考慮して価格を修正してゆかな ければならない」(山田 1938a: 56) –「私の到達した結論は、自由主義経済の「不安定性」と社会 –主義経済の「恣意性」との間に、投機の抑制と協同の計画と –に基く一種の組合主義的な経済形態の可能性を導くことに –あつた。」(山田 1942: 3) –自由主義は部分的に正しい。 –しかし財貨・資本・人間の完全な移動はない。 11 III-2. 気賀健三 親子二代の慶應義塾大学教授 –ミーゼス、ホブハウス、ピグー、ハイエク –『経済政策原理』(1938):自由主義の堅持 ロビンズをめぐって –「国際的自由主義が、如何に国際的分業の効果を実現し全世界の経 –済的幸福と平和とに貢献し得るとしても、之と正反対の方向に進む滔 –々たる世界の大勢に対して如何に役立つであろうか…。」(気賀 1937: 135) –自由主義の基調には賛成する。 –しかし連邦主義など、経済を守る政治機構の構築を非現実と斥ける。 12 安井琢磨 熊谷尚夫 福田徳三 中山伊知郎 辻六兵衛 山田雄三 野村兼太郎 気賀健三 杉本栄一 末永隆甫 高田保馬 河上肇 豊崎稔 柴田敬 武村忠雄 13 IV. まとめ 受容A:安井、積極的な摂取 – GEへ、熊谷とともに「稀少性のロビンズ」(標準像)、普遍性。 受容B :中山・山田・気賀、限定的 – 「経済の本質」という理論コアのみ受容、様々な日本的折衷様式。 – 中山:マクロへ、政策へ。山田:協同・組合へ。気賀:自由主義。 拒絶:杉本、市民社会論 – 機械論・個人主義を拒否、「保守」(もう1つの批判イメージ) 無視(無関心):高田・柴田・武村 多様なロビンズ思想の再評価へ 14 福澤諭吉旧家、大分県中津市 http://www.pref.oita.jp/10500/postcard/nakatu/index.html 15
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