診療性癖腺癌ノ剖検例

蜘4ブ
診療性癖腺癌ノ剖検例
金澤門門大學病理學教室(主任中村教授)
專攻生中曾根包吉
(昭和11年9月1日受附 特別属載)
次
目
第1章 緒 言
1 綾生母地考察
II原因的考察
第2章 検査塗筆:二検査方法
第3章顯微鏡心検査所見
第5章 結
第4童 総括亜二考按
引用文獄
第1章緒
論
言
Simmonds(17)ガ胸腺腫瘍ノ命名ニハ大ナル困難ヲ伴フト言ヘル如ク,胸腺ノ悪性腫瘍二二
スル命名ハ種々ナル見解ノ下=ナサレ,胸腺皮質細胞ヲ上皮性ト認ムルSchridde(16)ハモト
胸腺肉腫トセラレシモノニ悪性胸腺腫瘍(b6sartige Thym−usgeschwttlste)ナル名四ヲ用ヒ,19
13年Simmonds (i7)ハ胸腺皮質細胞ヨリ稜生セルモノ昌Thymomナル名樗ヲ附シ,葉間結
締織ヨリ獲スルモノヲ肉腫,髄質上皮細胞ユ獲スルモノヲ癌腫トシテ分類セリ.然ル.鼻繭後
ノ文献ニアリテモ胸腺腫瘍ノ命名ハ之ニー・致セザルモノ勘カラズ種々ナル名稻ヲ用ヒラル.
斯クノ如ク統一ヲ訣ケル所以ノモノハ主トシテ胸腺ノ三生學及ビ組織學二品スル二者ノ意見
ニー vセザル所アレバナリ.:Largiader ( 9 )ハ悪性胸腺腫瘍ハ大抵淋巴肉腫ニシテ稀二紡錘形
細胞肉腫叉ハ癌腫ナリト言ヘリ.街腫瘍ニシテ胸腺原護性ナルヲ確認シ得ルコト必ズシモ容
易ニアラザルベキハ種々記載=モ現ハル・所ナリ.
偶當教室=於テ野送セラレタル前縦隔甕腫瘍例ヲ槍索シ,胸腺髄質上皮細胞ヨリ襲生シタ
ル癌腫ナルコトヲ確認シ得タルモノアルヲ以テ,鼓二之ヲ記載セントス.
第2章検査例並呂槍査方法
暫槍査例
65歳男
製ホォ業〔剖瞼番暑虎1655)
lA臨床上事項
診漸 縦隔膜責腫瘍(昭和4年12月14日入院,昭和5年1月15日死亡)
家族歴 爾親ハ高齢ヲ以テ老衰皇テ死亡:シ,癌睡性遺傳關係無・」.
既往歴 生來健康ニシナ著患ヲ識ラズ性病二罹リシコトナシ.
現病歴 昭和4年IO月中旬風邪ノ氣昧アリテ以來咳蹴ヲ來シ,仕事ノ際心臓部= pa痛ヲ壁エ血癖ヲ喀出
セシコトアルそ約1遍間ニテ止ミ當時咽喉加答児ト診セラル.次デ夜申仰臥位二於デ屡々呼吸困難ヲ畳ユ
[ .217 ]
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申
曾 根
ルコトアリ.爾志頸部s輕度ノ腫脹ヲ來セリ.11月中旬二至リ頸部ノ腫脹ハi欠第二増シ豊夜ヲ分賦ズ呼吸
困難ヲ感ジ,嚇下障碍ヲモ來シ漸次増悪スルニヨリ圭治欝ハ其ノ原因ノ判断二苦シ㍉途二12月14日當大
回附議署院ヲ訪レ縦隔膜蜜腫瘍ト診断セラレ直チニ入院ス.
主訴 呼吸困難
入院時現症 燈藤壷,骨酪,筋肉,皮下脂肪織ハ殆ド尋常,自嚢的仰臥位ヲトリ,顔貌ハ浮腫状,ロ唇
二二度ノ『チアノーゼJヲ示シ,眼球結膜充血,二面頸部ハ著明二腫脹セリ。胸部ノ皮膚ハ赤青色ノ調ヲ帯
ピ,頸部及ピ胸部二俘腫アリ爾側腋窩腺腫大セリ.一壷 敏ハ尋常ナルモ稚不規則ニシテ緊張ハ正常ナリ.
呼吸 激ハ22回ナルモ胸式ニシテ規則正シク,一寸喀疾ナシ.
左胸上部ハ前後面面二著シ’キ濁昔ヲ呈シ,呼吸昔微弱ニシテ胸骨部ニチハ氣管枝昔ヲ賠ク.横隔膜ノ高
サバ正常,肺肝ノ境界ハ右乳線=於テ第7肋骨ニアリ.心臓濁音界ハ下降シ,臨界ハ右胸骨縁ヨリ1横指
径右方ニアリ,心界ハ略左乳線ニー・致ス.心書ハ第2肺動脈晋ノ充進セル外著攣ナシ.食慾ハ尋常ニシテ
尿二痕跡ノ蛋自アリ,廉二異常ナシ.
血液検査所見 「ヘモグロビン」93%(Sahli),赤血1球6,050,000,白血球8,70⑪,血色素係tW O.77,中性嗜
好白血球79%,大軍核球7%,移行型4%,大淋巴球5・5e/a,小淋巴球3・5%,「エナジン嗜好白血球1%.
Wassermann氏反慮,村田氏反臨Meinicke氏反懸ハ何レモ陰性.
「レントゲン二親所見 胸骨三二約手拳大ノ陰影ヲ認メ,境界一般二鋭利ナルモ上方ハ分明ヲ訣キ搏動
ヲ認メズ.
入院中二三及ピ二品
12月17日胸骨申央部a「レントゲン照射25分間.血液樵査所見 『ヘモグ冒ビソ」90%,赤血球5,150,000,
自血球8,800,中性嗜好白血球75%,大軍核球10%,移行型5%,大淋巴球2%,小淋巴球6%,「エオジ
ン嗜好白血球2%.
12月19目頚部ノ腫脹ハ稽減退シ呼吸困難モ亦輕減セリ・
12月27日第2回「レントゲン照射三三.
昭和5年1月15日死亡.
臨床記録ノ掲載ヲ許シ之が校閲ヲ賜ハリシ谷野二二二三ミテ感謝ノ意ヲ表ス.
8 病理解剖上事項
病理四割畢的所見摘要
身長155cm,腿重50.8kg,睡賂榮養中等,皮膚ノ色一般二品ク,左上肢及ピ前胸壁殊二左側=於テ浮腫
賦ヲ呈シ,腹部ハ右側=於テ皮下自脈怒張ス.
腹腔 腸間膜淋巴腺ハ粟粒大乃至大豆大ニシテ,ソノ割面灰白色ヲ呈ス,其ノ他著攣ナシ.
左胸腔 肺ハ上方二二4肋骨ノ高サ迄墜排セラレ肺ト横隔膜トノ間ノ部二面1,SOOccノ灰白線黄色ノ梱
濁セル濃様液(比et t・O 16)ヲ容レ,其ノ部内壁ハ灰白緑黄色ノ脆キ物質ヲ以テ蔽ハル.肋膜ハ前ノ部二癒
着存シ肺ト腿壁肋膜トノ恵贈約600ccノ珈躰油画ヲ容レタリ.
右胸腔 其ノ上部二癒着存シ其ノ他ノ部ハ李滑,内二赤色ノ液約400ccヲ容ル.
心嚢 内=約1食匙ノ赤色ノ液ヲ容レ内面ハ玉高ナドレモ稽光澤ヲ失ヘリ.
喉頭,氣管,心肺,心臓山鼠二連績ノ艦之ヲ言出セリ.
心臓 外面、・李滑ナレドモ稽光澤ヲ失ヒ,暗室前面二於テ栂指頭面大ノ腱斑1個月認ムル他著攣ナシ.
胸腺並二大動脈起始部及ピ弓ノ存スル位置=於テ大サ約手拳大ノ硬度輩ナル腫瘤存S,其ノ割面灰白色
[ 218 ]
原護性胸腺癌ノ剖樵例
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ニシテ留縫賦構造ヲ認メシム,而シテ常態ヲ呈セル胸腺ハ認メラレズ.
左回 大サ小,外面ハ繊維性索賦物質及ビ灰白色ノ脆キ物質ヲ以テ被ハル,硬度バー般二輩ニシテ殊二
上三二於テ然リ,上ee =テハ歴ニョリ捻髪昔ヲ聞カシメズ,割面李滑,色暗赤,厘iニヨリ泡沫ヲ含メル液
ヲ出サズ,散在性二粟粒大乃至衣粟粒大茨白色ノ結節ヲ認メシム,
肺門部淋巴腺 大サ大豆大ノモノ轍個アリ,割面黒茨色ヲ呈ス,此上迄前記腫瘤ノ存スルヲ認ム.
右近 大サ形態略尋常,外面卒滑,色一般二三シ,歴ニヨリ捻髪普ヲ聞カシムルコト少キ方,硬度ハ彊
力性軟ナリ.下葉上部肋膜ノ部二於テ孚米粒大灰白色ノ結節ヲ認メシム.割面上葉ハ淡紅,下葉ハ赤シ,
堅ニヨリ泡沫ヲ含メル液ヲ出スコト上葉ハ少ク下葉ハ僅ご多シ.下葉ノ肺門部二近キ部二豆大ノ灰白色結
節ヲ認メシム.
肺門部淋巴腺ハ大豆大乃至栂指頭大ノモノ勲個,ソノ大ナルモノニアリテハ割面黒灰色ナレドモ中二灰
白色ノ部存スルヲ認ム.
甲状腺22・09,大サ左5・Ox2・5×1・Ocm.右S・O x 3・0×1・Ocm,峡部ノ幅1.5cm,厚サO.5cm,割面膠檬
ヲ呈ス.
副腎左8.・、,大サ5.・x A
繍:二;_ア含急搬、
ズ.
l
『 i 3 0巴レ…ノ/頸動脈
l
’無名動脈
野輔聾鳴異常 B
前
ヲ認メシメズ.
爾他諸臓器二關シテハ病理
解剖上診断ノミヲ記スニ止メ
後 /麗働脈
大動版
1
1
1
之が記載ヲ省略セントス.
1
醐割上闘
4
2 i3i
胸腺癌.肺臓及肺門淋巴腺
l
i
轄移癌・左側繊維素性漿液性
化膿性肋膜炎,左肺膨脹不全・
漿液性繊維素性心嚢炎.肝,
C
右肺動脈
腎,脾ノ轡血.小腸粘膜轡血
4
コ宜出血.胃当占膜;欝血二二靡i瀾.
右腎臓結石.副脾.横行結腸
1
大動脈
3
ポリープ」.
II検査方法
2
胸腺部腫瘍組織ヲ上申下3
箇所=於テ水李断(A,:B,C)ヲ
[i219 ]
申
3esff,
曾
根
施シKaiserling血液二貯藏S ptルモノヨリ各断面=於テ全面国民ル組織片ヲ探り上二示ス要圖(盛物大)
ノ姐タ尋乃至6僻二切り売分呂水洗シ「V7・.tロイヂン包埋切片ヲ作製シ,「ヘマ塾キシリソ」一「エオジン』
嶺染色法,W舜ige疋t−vap Gigson豪富染色法,淺井氏格子状繊維染色法ヲ施シ,各割面全部二亙り隈ナク
鏡検セリ.叉諸所ノ肺臓轄移竈及ビ虫下血盟,甲状腺,副腎,睾丸ヨリ組織片ヲ探り上記ト同檬ノ染色法
ヲ施シテ鏡検シ∫前記内労泌臓器二7リテハ他ノ組織片ヲ以テ幅士三法二從ヒ「ゲラチソ包埋凍結切片ヲ
悸ザズダソm一「へatトキシリソ」重複染色法ヲ施シ含有脂質ヲ樵索セリ。
第3章 顯微鏡的検査所見
璽腫瘍組織
各藏片ノ細微鏡町橡査所見ヲ順ヲ追テ記載セソトス(要圖参照).
A 腫瘍上;部
(1)右背部 略一檬ノ組織豫ヲ示シ,腫瘍組織ノ實質ト間質トノ境界一般二鏡利ニシテ胞榮賦構造著
明ナリ.間質結締織バー一一・me = em剛ニシテ細胞成分二乏シク索状ヲナシ綱眼ヲ作りテ走行シ,結締織細胞ハ
ー般二紡錘形ナノLモ所ニョリ繊維ノ稽霧粗ナル部二於テハ圓形ヲ帯ビ,核ハ胞歌ヲ呈スルモノ比較的多
シ.間質ニハ所ニヨリ小圓形細胞浸潤アルモ著明ニアラズ,血管ニハ著シク充盈セルモノナク概ネ正常ナ
ルモ稀二申等大ノ血管壁二腫瘍細胞ノ浸潤シタルモノアルモ,神経,淋巴管等ニハ著璽ヲ認メジメズ,唯
淋巴隙二浸潤三二存スルモノハ所k二二メラル.
腫瘍實質ハ實性細胞群ヨリ成り何庭ニモ管腔ノ形成ヲ認メシメズ,腫瘍細胞個々ノ大サニハ可ナリノ蓋
異アレドモーre =ハ淋巴球ノ約2−3倍大ニシテ,核ハ大,一般二圓形若シクハ儲圓形盈シテ,核膜ハ鮮
明,内=「工才ジン」二紅染セル核小盟ヲ藏シ,其ノ数概ネ1個=シテ甚ダ小ナリ.核染色質ハ疎ニシテ胞
賦ヲ呈スルモ胸腺綱状織細胞二見ル如クニハ疎ナラズ,原形質ハ核ノ周團二淡紅ノ調ヲ帯ビテ存シ其ノ量
少ク細胞間ノ境界二分明ナラザルモノ多シ.
腫瘍細胞ノ携列ハ密通ニシテvan Gieson氏染色及ビ格子駄繊維i染色標本ヲ精査スルニ細胞闇ニハ繊維
性物質ノ存在スルコトナク,大ナル或ハ小ナル群團ヲ成シテ結締織間質ノ作レル綱眼ヲ充シ以テ形朕雑多
ナル胞巣賦構造ヲ示セリ.葱根賦ノ重層盟ヲ形成セル如キ:HaSSall氏小髄ハ存セザレドモ,稀;細胞核二
長味ヲ加へ其ノ排列が棚状或ハ重暦状トナリ集合セルモノアリ,叉稀二肥大シタル胞盟ガ『エオジン」二稽
濃染シタル細胞核シテ其ノ核小姫ノ紅染幽明カナルモノヲ中心トシテ周團細胞が之ヲ團緯スル如ク梢不規
則二排列セルモノアリテ寡細胞性小盟ノ像ヲ思ハシムルモノアリ.
睡瘍細胞二甚ダ屡々間接核分剖像ヲ認メシメ疎孫二期,母星期,娘星期ニー致セルが如キモノ等種々階
梯ノモノアリ多クハ双極相封性ノモノナレドモ多少非椙射性分剖ヲ示スモノアリ,稀二三極性ノ核分剤像
ヲ示スモノヲモ観ラル.叉核染色質ノ崩竣シタルモノ,核膜濃染シタルモノ等退行性攣化ヲ示スモノ殆ド
到ル威二認メラレ,所ニヨリテハ核ノ一国セル羊ノノ集レル部アリ.
申法大ノ亘副管壁外膜壷口モ腫瘍細胞浸潤シ往々胞榮状ヲナシテ存スル部アリ,或」・血1面壁ヲ強ク侵シテ
内es =侵入セントスルモノアリ,涙管腔内二赤血球ト共二腫瘍細胞塞ヲ形成セルモノアリテ其ノ叡慮ハ浸
潤性彊ク破壊性ナリ.
(2) 右前部 腫瘍組織像ハ大腿二於テ(1)ト同論ナルモ胞榮ノ形画論シク不整ニシテ増殖血塊ナリ,
細胞モ亦(1)二於ケルト同様ナリ.護育状態ハ(1)ヨリモ更二侵潤性ノ強キモノアリテ血管壁ヲ侵シ内腔
[ aee ]
原硬性胸腺簸ノ剖樵例
3051
ニモ腫瘍細胞ヲ認メシムルモノアリ,又紳経鞘淋巴際二腫瘍細胞浸潤アルヲ認メラル.
(3)中背部 本部分ニハ頸動脈,鎖骨下動脈ノ横二面ヲ認メシメ目所々二脂肪組織アリ,腫瘍組織ノ
性状ハ(1)酒盗ケルト略同檬ナルモ血管二i討スル浸潤性増殖ノ著明ナルモノアリ,師チ頸動脈ニアリテハ
外膜部二腫瘍細胞密二排列シ榮養血管ノ充盈著明ニシテ竈状口出i血ヲ來セル部アリ,無二 一一 wa著明ナルハ
鎖骨下動空風シテ外膜ハ腫瘍細胞ノ浸潤ニヨリテ破竣セラレ,中膜ノ榮養血管中二上膳ク腫瘍細胞ノ浸潤
セルアリ,内膜肥厚シ石灰沈着ヲ來セル部アリテ繊維粗トナリ其ノ走行蹴レ細胞ノ染色性著シク不良ニシ
テ「アテローム感性ノ像ヲ見ルアリ.
(4)申前部 後方二無名動脈,前方二胸壁筋アリ,腫瘍細胞ハ前述セルモノト大差ナク脂肪組織内及
ビ胸壁ノ横紋筋繊維間ニモ浸潤セリ,無名動脈壁ニハ硬化性攣着駅著明ニシテ内膜ニ一溜血脈結締織繊維
肥厚シ中膜三助テ稽廣汎二核染色性ヲ失ヒ組織ノ竣死状ヲ示セルアリ.紳経鞘淋巴隙二腫瘍細胞浸潤シ甚
ダシキハ坤脛ノ全周二亙リテ輪状二腫瘍細胞血相ヨリ園毒消ラル・アリ.
〔5)左背部 著シク不規則ナル胞巣状ヲ呈シ浸潤性噌殖旺盛ナリ,間質ニハ所ニヨリテ黄褐色ノ色素
穎粒ヲ有スル細胞アリ,大ナル翻脈二混合血栓アリ,ソノ榮養血管ノ充盈ハ可ナリニ強シ.
(6)左前部 小血管腔二腫瘍栓ヲ作レルモノ可ナリニ認メラrV,大ナル忌辰腔二混合血栓ノ形成セラ
ル・アリ,外膜所k=tw瘍細胞浸潤アルヲ見ル,又前胸壁筋内覧モ可ナリ大ナル腫瘍細胞巣アリ.
:B腫瘍中部
(1) 右後部 此部ノ右縁ハ肺ト癒着シ肋膜ハ著シク肥厚シ,淋巴管腔ニ脳腫瘍細胞充満ス,又血管腔
内ニモ腫瘍栓ヲ作ルモノアリ,腫瘍組織ノ構造,細胞ノ性状ハ上部ノモノト大ee一一致シ可ナリニ退行性饗
化ヲ現ハシ核二尊ノ像著シキモノ多シ.
(2)右前部 間質ノ細血管バー般二充盈セルモノ多ク,中等大ノ動脈二内膜ノ肥厚アリ,内弾力板蔵
著シク不正ナル大波賦二轡曲シ蜥績的国振ク「ヘマトキシリン」二染着シ,外膜ハ著シク肥厚シテ籟粗トナ
リ腫瘍細胞ノ浸潤著シキモノアリ,之ヨリ榮養血管二浸潤性二腫瘍細胞ノ進メルアリ,或ハ内彊力板二著
シク石灰ノ沈着シタル部悪癖二存スルモノアリ.大動脈壁面ニソノ外膜ハ著シク肥厚シ霧粗トナリ腫瘍細
胞ハ昏々竈状二浸潤シ,榮養血管ノ充盈強キモノアリ,高大ナル出而竈ヲ詔メシムル部アリ.
(3)中部 大動脈外壁二於ケル腫瘍組織ノ浸潤ハ(2)ヨリモ著シ,叉南瓦大ノ歯式横断面二於テ全
周,至三二亙り腫瘍細胞ノ浸潤著明ナルモノアリ.
(4)左部 概ネ(2)二於ケル所見二似テ特記スペキ事項ナシ.
C 腫瘍下部
(1〕右後部 腫瘍組織ハ上部及ピ中部二於ケルト略同感ナリ,所相ヨリ細胞索中二核小感ノ袖無著シ
キ核が分葉状ヲナシ:奇態細胞ノ状ヲ示スモノアリ,一部分二面廣キ脂肪組織アリ,恰モ第3期偶護性退行
胸腺=於テ観ル如ク小葉間乃至濾胞間結締織ノ遺残ヲ思ハシムル如キ結締織索ニョリテ匠劃セラレタルモ
ノナリ.
(2)右前部及ピ中部 此部二於テハ所々二士死朕ヲ呈セル部存シ,脂肪織内ニモ腫瘍組織ノ浸潤埆殖
アリ,所々二恰モ偶護性退行第3期胸腺二観ル如キ實質嶋及ビ白質索ヲ有スル脂肪組織存シ,虚語嶋二心
ナル嚢胞性小腿ヲ存スルアリ,叉肥大,増生シタル上皮細胞ノ集合セルアリ,カ・ル細胞核ノ血忌ハ上來
記セル腫瘍細胞ノ核ト相似ノ職多キハ注意スペキ所見二面ス,小血管両日腫瘍細胞浸潤シ腔内二腫瘍細胞
栓塞ヲ認メシムルモノ比較的多ク,脂肪組織内ノ小血管ニモカ・ルモノ2−3存スルヲ襯ル.
(3)左前部 所々二退行胸腺内二観ラル・ト同檬ノ脂肪組織存在シ其ノ中二生理的構造アル上皮小膣
[ 221. ]
3052
中
曾 根
ノ小組織1個周回トハ境界点利二存スルヲ詔ム,該組織二心テ核ノ性賦瓦全ク腫瘍組織ト異ナレルモノナ
リ.二三ハ嶋演状紙ハ索状ヲナシテ遺残セルラ認メ,中心部二些ノ硝子灘墜性ヲモ幽静シメザル小ナル寡
細胞性小膿2個ヲ存スル遺残實質嶋アリ,叉他ノ實質嶋内二小ナル嚢胞性小盟2個ヲ認メ其ノ附近遺残實
質組織二腫瘍細胞ノ浸潤増殖セリト認メラル・部二於テ其ノ腫瘍組織内二嚢胞性小盟1個認メラル,3ζ他
ノ遺残實質二二二丁肥大叉三生セル上皮細胞十敷個集合シアルモ核分剖像ハ之ヲ認メシメズ,其ノ性状ハ
上述(2)ノ標本=見ルト相似タリ.
(4)左後部 特二記載スペキ事項ナシ.
1冨肺臓及ビ氣管支淋巴腺二三癌
二三竈二三ケル所見ハ回護腫瘍組織ト大差ナシ,唯退行性攣化ヲ呈スルモノ少ク從ツテ腫瘍細胞一般二
染色性良好ナリ,
Ifl内分泌臓・器
謄下垂艘
前 葉
腺細胞 「エオジン染色細胞ハ二二ニシテ,盤基性染色細胞モ面面敷塗師ラル.
主細胞ノ厳ハ略尋常ナルモ,胞燈二二激ノ室胞ヲ有スル大ナル去勢細胞二念タル細胞ヲ散在性二二メシ
メ,通常高年者二於テ稀ニカ・ル細胞ヲ認ムルコトアルニ比シ可ナリニ多シ.
間質結締織ノ増生ハ之ヲ上下ズ,膠様質少シ.血管ノ充盈度ハ略尋常ニシテ小動脈壁肥厚シ脂質ヲ認メ
シムルモノアリ.腺細胞,膠様質:及ピ間質結締織内二脂質:ヲ含有スルコト可ナリニ多シ.
中間部
1個ノ嶋娯賦ヲナセル扁平上皮竈ヲ認メシム.
後 葉
盟基性染色細胞ハ中間部二近キ部分二比較的多敷認メラレ,脂質:ヲ含有スルコト少シ.硝子檬三山紀聞
部二近キ部分二散在ス.「ズダンIII二淡燈黄:色二染着セル温血結晶物ノ面心ハ後葉二廣ク散在ス.
凱歌腺
實質 濾胞ノ形吠バー般二圓形又ハ儲圓形ナルモ稽不正形ナルモノ亦少ナカラズ.濾胞ノ大サバ概シテ
申等大ナルモノ多ク,著:シク大ナル濾胞ハ之ヲ認メズ.濾胞バー般二膠様質:ノ充盈強キモノ多ク從テ其ノ
上皮細胞ハ概シテ扁李ナリ,然レドモ周縁部二於テ膠様質ノ少キモノアリテ其ノ上皮細胞ハ般子形乃至圓
柱状ヲ呈セリ,一部二三テ染色質二二メル核ヲ有スル圓二二細胞が密二排列セル上皮細胞三生アル濾胞ア
リ.上皮細胞ニハ稽粗大ナル穎粒状ヲ呈スル「ズダン∬1二染着セル脂質認メラル,而シテ脂質穎粒ノ胞盟
内分布ハ扁牛ナル上皮細胞=アリテハ核ノ爾側二,圓柱状ノモノニアリテハ濾胞内腔二近キ部二存ス,稀
二膠様質ノ中央部亦ハ壁二近ク室胞朕二「ヘマトキシリソ」二淡染セル「ムチン標物質或ハ「ズダンエII二染着
セル脂質ヲ容ル・濾胞アリ.
間質 小葉間結締織二多少増生ハ認メラル・モ著シカラズ.血管壁ハ稚肥厚シ,血管ノ充盈弱シ.
副
腎
被膜ハ主トシテ膠基繊維ニシテ格子賦繊維ハ僅少,1梢肥厚ス,結締織細胞内及ピ繊維ノ鮎合憲ノ部二微
細穎粒状ノ「ズダンIH二染着セル脂質ノ乱焼シキ沈着アルヲ雪隠シメ,小動脈ノ内膜ニモ亦稚著シク脂質
ノ沈着セルラ観ル.
[ 2za ]
原護性胸腺癌ノ剖検例
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皮質ハ精測キ方ニシテ麗質ハ厚シ.
皮質細胞ノ萎小ハ線毬暦二可ナリ認メラル・他,束状層及ビ網二二二三テモ認メラル・モ少シ.亦核濃
縮セルモノヲモ認メラル.綱状騒ノ細胞内二褐色ノ色素穎粒ヲ認メラル・モ多カラズ.被膜二近ク副皮質
結節アリ,臆質:内ニモ皮質嶋及ビ中心皮質ヲ認メラル.
皮質細胞内脂質ハ多カラズ,其ノ分布バー般二不卒等ナルモ概シテ綜毬層及ピ束状層ニハ少量ニシテ綱
1伏層ニハ多量ナリ.而シテ各細胞二就キテ観ルニ脂質願粒ノ大サバ其ノ含量二略比例ス.即チ脂質多量ナ
ルモノaアリテハ粗大ナル滴状ヲナシテ全細胞ヲ充シ目屡針状結晶檬ヲ呈ス,含量梢少キモノニアリテハ
小滴状ヲナシ,著シク少キモノニアリテハ微細肝胆賦ヲ呈ス.
髄質細胞ハ退行性貸下ヲ示スモノ皮質細胞二比シ少ク,稀二核ノ「ヘマトキシリン」ニヨリ濃染セラレ亦
「エォジソ」ニヨリテ染着セラル・モノアリ.髄質ノ表層皮質二選キ部二細胞髄内二「エオジン」二紅染シ多
少光澤ヲ有スル硝子様ノ滴状物ヲ有スルモノアリ.髄質細胞内二「ズダソm三染着セル細穎粒朕ノ脂質可
ナリ多量二認メラル.亦髄質内国動脈亜試適心静脈ノ内膜二脂質ノ沈着ヲ認メシムルモノナリ.
結締織繊維ハ皮質ニアリテハ埆加シアルモ著シカラズ,紅染繊維ハ東状層ノ深部二於テ止マリ以下黒染
繊維二移行スル部アルモ紅染繊維が中黒層迄達セル部アリ.髄質ニアリテハ紅:染繊維ノ護達強ク之二四シ
テ黒塗繊維ハ少シ.血管ノ充盈ハ略尋常ナリ.
皮質及ビ髄質ノ間質二淋巴球様細胞が本方暁叉ハ竈状ヲナシテ存スル部アリ,カ・ル部位ノ實質細胞ニ
ハ退行性饗化ヲ認ムルコトナキカ罫引認ムルトモ概シテ著シカラズ.
睾
丸
萎縮荒蕪セル即興管群アル部アリ.細精管壁殊二硝子膜少シク厚シ,各種精細胞ヲ認メシメ分化ヲ帯下
ルモ精綜ノ籔少シ.各種精細胞二多少退行性攣化ヲ示スモノ多キモ精租細胞及ビSertoli氏細胞ハ殆ド正
常ナリ.細精管内二「ズダンIII染色二陽性ナル穎粒多ク存シ其ノ周邊部二多シ.一部ノ細精管二於テハ中
央二脱落セル細胞集リテ群臣ヲナスモノアリ.間質狡ク間細胞少クシテ,間細胞内二「ズダンIII染色二陽
性ナル穎粒状乃至滴賦ノ脂質詔旨ラtz一一般二各細胞集籏毎二其ノ染色度二可ナリノ差異ヲ詔メ,同一間細
胞集籏二於テモ亦然リ,尚細胞内焼色色素運棒ハ可ナリニ多シ,血管壁梢肥厚シ内膜二脂質沈着アリ血管
ノ充盈度ハ稽強シ.
以上ノ内分泌諸臆器ニハ癌腫ノ轄移ヲ認メシメズ.
第4章総括並二考按
本甲ハ65歳ノ男子ニシテ臨床上 前縦隔餐腫瘍ノ診断ノ下二呼吸困難,咳漱,喀疾,勢半
時心臓部ノ疹痛(血疾),前胸部浮腫等ノ症状アリ「レントゲン照射療法=ヨリ,呼吸困難梢
輕快シタルコトアルモ護病後約3ケ月ニシテ死ノ轄婦ヲトリシモノニシテ,剖検上前縦隔甕
ニー vシテ約手拳大ノ硬度輩ナル腫瘍認メラレ心嚢,三三,氣管支,大動脈,無名動脈,頸
動脈,鎖骨下動脈等ト癒着(包園)シ,割面バー般二友白色ヲ呈シ胞巣状構造認メラレ,肺臓
諸所及ビ二二支淋巴腺二轄移竈アリ.
晶晶鏡的ニハ可ナリ豊富ナル結締織性聞質ヲ有シ二二欣構造著明ニシテ彊ク浸潤性増殖ヲ
示シ,腫瘍細胞ノ淋巴腔内侵入増殖,血管壁浸潤強ク,叉血管内=腫瘍栓ヲ作り,祠1維鞘淋
巴隙ヘモ亦腫瘍細胞浸潤ノ攣化ヲ呈セル悪性腫瘍=シテ,其ノ腫瘍細胞ハ園形叉ハ橋園形ノ
[ 223 ]
申
・3e54
曾
根
胞欣核ヲ有シ「エオジン」二紅染スル小ナル核小謡ヲ藏シ,其ノ核ノ性状ハ残存胸腺髄質昌於
テ肥大,増生セル上皮細胞ノ核ト甚ダ酷似セルモノアルモ細胞ノ大サ,形態,核染色質ノ量
及ビ構i造が不規則不同ニシテ形態ノ総デノ鮎二面テ不規則性ヲ示セルモノナリ.細胞相互ノ
排列ハ愚心ニシテ細胞間ニハ細繊維ノ介在スルモノ無ク,間質バー般二細胞成分二乏シキ旧
基繊維ヨリ成レリ.
忌日注目スベキハ腫瘍細胞二於テ核分剖ヲ示スコト甚ダ多ク,概シテ双極性相封性ナルモ
腫瘍上部=於テ一説相肩性核分画像或ハ稀二三極性分剖像ヲ呈セルモノアリ.又腫瘍細胞が
稀二柵状垂目重暦状ヲナシ集合セントスル傾向アルヲ窺ヒ得ルノミナラズ,腫瘍細胞聞二寡
細胞性小艦叉ハ互恵細胞ヲ作ルモノアリ.又主トシテ腫瘍下部二於テハ退行胸腺二観ルト同
様ナル脂肪組織内二遺残胸腺塗扇が油送歌若クハ索歌ヲナシテ存シ寡細胞性小燈及ビ嚢胞性
小心並二上皮細胞増生竈ヲ認メシムルモノアルコトナリ.
如上ノ記載ニヨリ本例ハ前縦隔餐胸腺ノ位置二嚢生セル上皮細胞性腫瘍ニシテ實性癌ト看
徹スペキモノナリ.而シテ其ノ獲生母上等二士シ考究スベキモノアリ,依テ以下項ヲ分チテ
柳力記載スルトコロアラントス.
1輪生母地考察
本例腫瘍が胸腺ノ位置二存スルモノニシテ其ノ母地が胸腺ナリヤハ先ヅ起ル問題ナリ.着
意胸腺原獲性腫瘍出定ノ條件トシテ論議セラレシ重貼ヲ総括スレバ,1)獲生位置 前縦隔
貴二面シ大面生理的胸腺ノ位置ニー一致スルコト,2)形態略胸腺様ノ形態アルコト,3)
腫瘍内二感温胸腺組織殊二Hassa11氏小髄ノ存スルコト,4)組織構造ノ特性 ノ4ニシテ
其ノ童話的描絵二就テハ相當考慮ス可キモノアリ.
1)獲生位置ハ何レノ冠者モ必要條件トシテ學グルトコロナルモ前縦隔貴二占居スル腫瘍
必ズシモ胸腺ヨリ獲生スルモノニアラザル以上,本譜件ノミヲ以テ決定スベキニ非ザルハ凄
然ナリトス.
2)吹下露2ノ要約タル胸腺様形態アルコト=關シテモ腫瘍ノ未ダ著シク大ナラザル時期
ニアリテハ或ル程度迄其ノ形態が母地タル胸腺二類似スルコトアランモ相當ノ大サ以上二達
シ,而カモ悪性ナルモノニアリテハ既二其ノ形態ヲ保持スルコト無キコト屡ナリ,從ツテ本
曲件ノ意義日吉メテ少キモノト言ハザルベカラズ.
3)第3ノ要約タル遺残胸腺組織殊二Hassa11氏小息ヲ腫瘍内=認メ得タリトスルモ直二
以テ該腫瘍が胸腺ヨリ原論セシモノナリト断ジ得ベキモノナラザル五明カニシテ,浸潤性増
殖ヲ螢ム悪性腫瘍二二肉腫=アリテハ前縦隔淋巴腺二原護シテ胸腺ノ部ヲ占ムルモノ稀ナラ
ザルヲ以テナリ。Rubaschow (ii )川前縦隔貴腫瘍ヲ胸腺原獲性ナリトスル根忌中,決定的債
値ヲ有スルモノハ該腫瘍組織中=:Hassall氏小盟ノ存スルコトナリト主張シ, Largiader ‘9)ハ
縦隔餐腫瘍ヲ胸腺腫瘍ナリト確定スル=ハ腫瘍内=疑ハシカラザル胸腺遺残一二Hassa11氏
小燈ヲ見出スコトナリト記セリ.然レドモ從來胸腺ノ原嚢性癌腫トシテ報告セラレシ例申
:Hassa11氏小艦ノ存在s就キ記載ヲ敏クモノ無キニアラズ. Schmidtmann ‘ 15), Parabutschew
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原護性胸腺癌ノ剖槍例
f3055
(13),石橋〔5),市川(4),岩下及永野。7) ¥ハHassall氏小派ノ存在ニヨリテ胸腺原稜性ヲ確定
シ得ル場合ノ多カラザルベキヲ記シ,石井(6)等ハH:assall氏小釣ノ存在が胸腺原獲性ノ根撮
トシテ極値テ有力ナルモノナリト主張セリ.上述セル如ク:Hassall千山盟ノ存在ノミ=依り
胸腺温存性ヲ決定シ得ベカラザル場合アルト共=,Hassall細小髄ヲ認メズトモ胸腺原基性ヲ
否定セシメザルモノトセザルペカラズ.Schmidtmann(15)ハ胸腺癌ノ多クノ例=於テハ街認
下歯ベキ遺残胸腺組織中二網歌織ト淋巴球トガ存在スルノミニシテHassa11氏小禮ヲ謹明シ
得ザルコトアルハ斯カル年齢期ニアリテハ正常ノ場合ニアリテモHassall氏小禮ハ極メテ減
少シアルカ或ハ全ク鉄如セル=鑑ミ首肯シ得ラル・トコロナリトセリ.從來原軸性胸腺癌ト
シテ報告セラレシ例玉盃トシテ40−65fi =シテ斯カル年齢期二於ケル正常胸腺二Hassall氏
溢泌ヲ全然飲如スルコトァリヤニ就テハ}laniinar C 2)(3〕並二面Cll)ノ亡国成績ヨリ推シ甚ダ疑
問トスルトコロナルモ,Hammar c 3⊃ガ数量的分析ヲ行ヒタル成績中ノ癌腫屍18例二於テ宵暁
バー般二著シク溝退シ,其ノ4例=於テハHassa11比高膣ヲ訣如シ内1例=ハ實質全ク漕退
シ認メ得ザルモノアリト記セルニ観テモ腫瘍内二遺残胸腺山勘ノ存在ヲ鋏ク場合ト難モ該癌
腫ノ胸腺鼻塞性ヲ否定スルノ根擦タリ得ザルモノナリト言フヲ得ベシ.要スル=癌腫組織内
=遺淺胸腺組織が淺存シ癌腫組織ト密接ナル關係=アルコトハ胸腺原嚢性ヲ決定スルニハ憤
値アル條件ナルモ,其ノ債値タルや誌上的=非ズ.帥チ胸腺以外ノ臓器二原嚢シタル腫瘍=
胸腺が真裏セラレ或ハ極手テ稀ナルベキモ溢血性腫瘍二王リ胸腺が廣ク占メラル・場合ヲモ
考慮セザル可カラザルヲ以テナリ.叉Hassall氏小藩乃至遺淺胸腺腹心ヲ鋏如スルモ胸腺原
焚性否定ノ上封的根櫨トハナシ得ザルモノナリ.
4)胸腺原獲性ヲ立春スルニ最:モ有力ナル要約ハ組織構造ノ特性ナリトス,然ル=從來之
二論及スルコト比較的少クシテ多クハHassall昏昏艦ノ存否ヲ重視セリ,一方ヨリ圓形細胞
肉腫或ハ淋巴肉腫トセラルベキモノが癌腫トセラレ:或ハThymomト名盤ケラレタルアリ.
之レ胸腺ノ組織獲生二關スル論者ノ見解多岐二互リテー一SUセズ, Me =皮質圓形細胞(胸腺淋
巴球)ヲ上皮性トナス論者アルニ基クモノナリ.胸腺ノ恩恵及ビ組織二關シテ學者ノ意見匿
匪未ダ蹄一スルトコ・ナシ.故二藍カル論議ノ面向ヲ丁々顧慮:シテ之ヲ髄鞘ム=ハ繁雑=互
ルヲ以テ,嚢=予(12)ガ文献ヲ参照シ自己ノ所見=基キテ記セル,胸腺小圓形細胞ハ上皮性
=アラズ淋巴球sシテ上皮細胞ハ髄質:ニノミ存在シ,Hassa11氏小衣ヲ形成スル胸腺=於ケル
唯一ノ上皮牲細胞ナリトノ見地(112)ノ第3章第3節参照)ヨリ之ヲ論ゼントス.予が髄質ノ
上皮細胞トナセルモノヲ上皮性ナリトセル主ナル根擦ハ之ガ:HaSSa11氏小盟ヲ形成シ如何二
獲育増大スルトモ血管又ハ格子歌織維ノ侵入スルコトナク,硝子様攣性二陥ルトキハvan
Gieson氏染色法=テ帯褐黄色ヲ呈スル上皮性ノ硝子檬物ヲ作り,Jonso1ユ(8),照井(18)等ノ稻…
スル輩細胞性小雨印チ髄質上皮細胞が肥大シテ原形質ガ「エオジン」二良染スル最モ原始的
ノHassa】1氏小燈が攣性シタル場合ニアリテモ同様,上皮性硝子様物ヲ示スコトナリトス.
依テ眞ノ原嚢性胸腺癌一如テ髄質上皮細胞ヨリ出生スルモノノミナリ,此ノ黙昌關シテハ
Simmonds肋及ビLargiad合r(s♪ノ読ク1・コロニ合致スルモ,鼓二注意スベキハ組織迷芽ヨリ
[ 225 ]
3056
申
曾
根
稜生スル場合アルヲ顧慮セザルベカラザルコトナリトス.
本島昌アリテハ腫瘍細胞ハ著シク速カナル増殖ヲナシ悪性ノ態度ヲ示セルモ樹髄質細胞二
酷似・y,ソレノミ=依りテモ能ク髄質上皮細胞が腫瘍細胞化シタルモノタルヲ窺知シ得ルモ
ノニシテ,腫瘍化シタル細胞ニハ往々非定型的核分剖ヲ認メシメ而カモ其ノ組織構造ハ明二
胞樂状ニシテ彊ク諸組織=向ヒ浸潤性ノ増殖ヲ螢ミ,個’々ノ細胞聞ニハ細織維ヲ認メシメズ
實性癌ノ性欣ヲ備フルモノナリ.
街組織構造上ノ特性トシテ學グベキハ腫瘍組織中=Hassall氏小膿ヲ作ラントスル傾向ア
ノY排列及ビ輩純型小忌トシテノ組織像ヲ認メシムルコトナリトス.此ノ所見=依ルモHassa11
氏小謡ヲ形成シ得ル髄質上皮細胞ヲ嚢生母地トナスモノナルハ観易キ理ナリ.腫瘍化シタル
細胞が其ノ本性nヨリHassa11三七艦ヲ作ルトシテモ,必ズシモ生理的二見ラル・ガ如キ葱
根状ノ定型的ノモノヲ作り得ルモノ=非ザルベキハ,モトヨリ考ヘラル・所;シテ事忌予
ノ例二観ラル・モノが正常ノH:assa】】氏小ee =比シ其ノ形態遙カニ不完全ナルモノタルコト
ハ認容シ得ラル・トコロナリ.以上ノ如ク髄質上皮細胞が腫瘍細胞化シテ増殖スル場合,
H:assall氏心髄ヲ形成セントスル性能ヲ示ス程度ハ素ヨリー様ナラザルベク,從來ノ報告例中
力・ル組織像昌關スル記載ナキモノ勘カラザルモ,癌腫ノ胸腺原焚性ヲ立謹スル上=最モ有
力ナル條件ナリト謂フヲ得ペシ.
要之,本例ハ以上ノ如キ諸條件ヲ具備スルヲ以テ本腫瘍ヲ胸腺髄質上皮細胞ヨリ稜生シタ
ル癌腫ナリト決定シ些ノ不合理ヲモ襲見シ得ザルナリ.本例ハ嚢=申村(丁o)ノ記セシ悪性胸
腺腫二言當スルモノナルモ上皮性腫瘍ニシテ悪性ナルモノヲ癌腫トセラル、モノナレバ胸腺
癌腫トシテ之ヲ記載シタリ.
置冨原因的考察
藤浪(1)ハ嘗テ腫瘍ノ原因及ビ稜生ハ吾人ノ頗ル難解トスル所=シテ原因的要件ヲー々閑
明シ難キコト之ヨリ甚ダシキハ莫シト言ヒシ如ク,癌腫ノ嚢生乃至原因二就キテ古來幾多ノ
晶晶,假読アルハ其ノ間ノ消息ヲ物語ルモノニシテ,現今多クノ學者ハ種々複雑ナル要因ノ
綜合ニヨリテ結果セラル・モノトナスが如シ.
本例二於テ腫瘍下部二退行胸腺組織ノ淺存ヲ見,而カモ婁=中村(10ノが胸腺腫ヲ槍索シテ
注意シタル如キ,髄質上皮ノ増殖ヲ残存胸腺組織中二齪タリ,此ノ年齢二二腺上皮増殖ノ像
ヲ示セルハ此際注意スベキモノナルモ,之ヲ促セル要約ヲ何レニ求ムベキカ.
由來内分泌器官ノ間=ハ二二二相五關係アルハ周知ノ事實ニシテ,一一ee官ノ異常ガヨク他
ノ組織ノ増生ヲ促スモノアルハ屡k認メラル・所ナリ。予ノ槍セシ甲歌誌,副腎,磯下垂禮
ノ所見殊二謄下垂騰前葉二於ケル「エオジン嗜好細胞ノ多ク盤基嗜好細胞ノ比較的多キ如キ
ハ興味アル所見二麗スルモ,之が如何=作用セシカバ未ダ之ヲ明=シ得ズ.然うバ臓器局所
素因的關係=求ムペキ所見ナキカ,若シ臓器二於テ成形異常存スルアラバ何等カノ動機ニョ
リ増生及ビ腫瘍獲生ノ促サル・コトアルハ屡々認メラル・所ナリ.本例胸腺=於テハ上皮小
燈組織迷入ノ認メラレタル以外,直接認メラル・組織成形異常ノ存在ヲ捉へ得ザリシモ他ノ
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原護三下腺癌ノ剖樵例
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諸所=組織成形異常又ハ之二關聯セルモノノ存在ハ之ヲ認ムペシ.即チ副脾,横行結腸軍在
ポリt一・一プ」,副腎二項ケル副皮質結節,申心皮質,髄質内皮魚島ノ如キアリテ輕度ナルモ成
形異常ノ多護セルモノナレバ,胸腺ニモ亦其ノ組織成形異常ノ存在ヲ全然否定シ得ザルモノ
アリ.:Parabutschew〔1ヨ♪ガ記セシ如ク胸腺二於ケル生理的退行ヲ阻止スルが如キモノが癌腫
獲生ノ素因ヲ作ルコトアルハ考ヘラル・所ナリ.今本例二於テ睾丸二於ケル歌ヲ観ルニ,其
ノ年齢二憲ジ相當ノ機能ヲ認メラレザルニアラザルモ細精管ノ1群=荒蕪ノ歌存シ,且細精
管二於ケル精興ノ少キト同時二精細胞ノ退行性攣化アリテ,之が間細胞ノ少キコト等ト共=
睾丸二於ケル機能低下ヲ考ヘシムルモノアリ,カ・ル睾丸機能ノ異常獲現ハ殊二上述セシ如
キ成形異常ヲ否定セシメザル胸腺二於テハ,爾他(脳下垂罷ノ如キ)内分泌腺ノ機能異常ト相
引ツテ胸腺ノ腫瘍難生ヲ誘獲シタリト看倣スモ,甚ダシク平鍋ヲ鉄クモノトハ言ヒ得ザルベ
シ.然レドモ素ヨリ直接原因ヲ捕へ得タルモノトハ謂フベカラズ.
尚胸腺機能ノ未ダ閲明ノ域二達セザル時,其ノ腫瘍化が他ノ内分泌腺二如何=影響セシカ
ヲ云爲シ得ザルヲ遺憾トス.然レドモ上述所見二鑑ミ著シキ影響ヲ齎セシモノト零下ヒ得ザ
ルベシ.其他ノ諸組織二向ツテハ前縦隔腫瘍トシテノ影響=止マルモノ多シ.
第5章 結
論
本篇ハ65歳ノ男子=テ生前著シキ呼吸困難iヲ呈シ縦隔寳腫瘍トセラレ三三ヲ経タルモノニ
就キ病理解剖學的並二組織學的二槍索セラレタルモノノ記載ニシテ,其ノ所見二基キ結論ス
ルコト次ノ如シ.
1.本例腫瘍ハ胸腺髄質上皮細胞ヨリ獲生セル癌腫ナリ.
2.腫瘍内二遺残胸腺組織乃至Hassall氏小平ヲ存セザルコトアルモ胸腺原護性否定ノ縄封
養根振タリ得ザルト共二,其ノ存在モ亦胸腺原獲性肯定ノ縄封的再興タリ得ザルモノアリ.
の
3.腫瘍細胞がH:assall氏小禮形成ヲ模倣スル如キ排列ヲトルコトハ胸腺原獲性ヲ肯定スル
ニ有力ナル漫筆ト倣シ得ベシ.
4.癌腫内遺淺胸腺組織=上皮細胞ノ増生乃至Hassall氏小舞i新生機能ヲ保持スルハ弄種ノ
素因的事項ト看倣シ得ルモノト思惟ス.
5.本例二於テハ先天的素因ヲ有スル胸腺が他内分泌腺機能異常=關聯シテ共ノ生理的退
行阻止,延テ腫瘍獲生ヲ促サレシモノニアラザルカ.
引 用 交 献
1)藤豆,疾病ノ素因,殊二腫瘍素因二就テ.日新署學 第2年,大正2年,999頁.一2)Hammar,
Die Menschenthymus in Gesundheit und Krankheit, Ergebnisse der numerischen Analyse von mehr
als tausand Menschlichen Thymusdrlisen. Teil 1 : Das normale Organ. 1926. 一 3) Hammar,
Di.e Menschenthymus in Gesundheit und Krankheit. Ergebnisse der numerischen Analyse von mehr
als tausend nienschlichen ThymusdrUsen. Teil 2 : Das Organ unter anormalen K6rperverhliltnissen.
[Z7]
30s8
中
曾 根
1929・一4)市川,所謂胸腺腫(Thアmoma)二就テ.癌 第11年,大正6年,253頁。一一e 5)石橋,
胸腺癌二就テ.癌 第10年,大正5年,1頁.一 6)石井,悪性胸腺腫瘍問題補遺.大野章三在職
15年記念論文集 昭和6年12月,111頁.一 7)岩下,尿野,胸腺腫,軍署團雑誌 第232號,昭和
4年.1515頁.一 8)Jonson, Studien ilber die Thymusinvolution. Arch. f, mikrosk. Anat・Bd.
73, 1909, S. 390. 一一一 9) Largiader, Zur Kenntnis der b6sartigen Thymtisgesehwttlste, iDsbesonde−
re des Thymuskarzinoms・Frankfurter Zeitschr・f・Path・:Bd.29,1923, S・228. 一 10)中村,胸
腺腫瘍二就テ.癌 第6年,明治45年,161頁. 一 11)中曾根,各種疾患二於ケル胸腺ノ病理解剖
學的亜二組織學的研究 其1,Hassa】1氏小盟二就キテ.十全會雑誌 第40巻,第10號,昭和10年10
月,4091頁.一 12)同入,各種疾患二於ケル胸腺ノ病理解剖學的並二組織學的研究 其2,主トシ
テ偶護性退行二就キテ,十登會維誌第41巻,第5號,昭和11年5月,1638頁.一13)Parabuts・
chew, Primfire Carcinome der ’t’hymusdrtise uRd ihre Histogenese. Zeitschr. f. Krebsforsch. B(1.
30, 1930, S. 380,一・ 14) Rubaschow, Eine b6sartige Thymusgeschwulst. Virchows Arch. Bd. 205,
1911, S. 141. 一一 15) Schrnidtmann, Zur Kenntnis seltener Krebsformen, Virchows Arch. Bd.
226, 1919, E, iOO. 一一 16) Schridde, Thymus. Pathologische Anatomie von Aschoff, Bd. 2, 1928,
S. 170. 一 17) Simmonds, Uel}e r malis,ne Thymusgegchwi’lste. Zeitschr. f. K rebsforsch. Bd.12,
1913,S・280・一18)照井,胸腺ノ形態學的研究.慶磨醤學第11巻,昭和6年,1161頁,
[ 228 ]