AZ Insight - KPMG

AZ Insight
AZSA / KPMG Newsletter
January 2011
Featuring:
・年金・退職給付制度の見直しと
年金マネジメントの具体的手順
Volume 43
AZ Insight Vol.43 / Jan. 2011
経営トピック
年金・退職給付制度の見直しと
年金マネジメントの具体的手順
有限責任 あずさ監査法人 FMG 事業部 パートナー
枇杷 高志
シニアマネジャー 浅海 路史
日本基準および国際財務報告基準(IFRS)の両方について、退職給付会計
基準を改正する公開草案が出されており、年金・退職給付制度の積立状況
を企業の貸借対照表上で即時に認識させることが提案されています。
これが実現すると、年金・退職給付制度にかかる資産・債務の変動が企業
財務に直接影響することになるため、年金・退職給付制度に関するリスク
マネジメントの改善を図ったり、あるいは給付設計・給付水準の見直しを
検討したりする企業が増えるものと思われます。
本稿では、提案されている会計基準の見直しの概要に加え、リスクマネジ
メントのポイントや、制度見直しの具体的手順について解説します。
なお、本稿の内容は 2010 年 11 月時点の情勢に基づいており、文中意見
の部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りします。
【ポイント】
◦ 内外で退職給付会計基準の見直しが予定されており、実現すると
退職給付制度にかかる変動リスクがより顕在化するため、リスク
マネジメント態勢の高度化や退職給付制度の見直しが必要になる
と考えられる。
◦ 退職給付制度の見直しを行う場合は、多くの選択肢があり、多様
な関係者の利害調整が必要であるため、客観的な分析に基づいた
慎重な検討が必要である。
◦ 連結財務諸表管理の観点から、子会社の退職給付制度にも留意す
る必要がある。
1.退職給付会計基準の改正案の概要
と企業への影響
①日本基準の公開草案の概要
日本の企業会計基準委員会(ASBJ)
定めたもの)との主な相違点を解消し
つつ、財務諸表利用者の理解を改善
は 2010 年 3 月、
「退職給付に関する
するために未認識差異の即時認識を取
退職給付に関する会計基準について
会計基準(案)
」と「退職給付に関す
り込むことが意図されています。
は、日本基準、IFRS ともに改正公開
る会計基準の適用指針(案)
」を公表
草案が出されています。以下、公開草
しました。
案が提案している改正の概要を説明し
ます。
公開草案の具体的な改定のポイント
は図表 1 の 3 つに集約されます。
公開草案では、現在の IAS 第 19 号
(IFRS における退職給付会計基準を
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International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved. Printed in Japan.
AZ Insight Vol.43 / Jan. 2011
経営トピック
適用時期は 2011 年 4 月 1 日以降開
2010 年 4 月、
「確定給付制度(IAS 第
19 号の修正提案)
」を公表しました。
始する事業年度の年度末財務諸表か
らとされています。なお、PBO の計算
公開草案では、財務諸表の理解可
方法の見直しに関しては、2012 年 4 月
能性を高めるため、未認識差異の即
1日以降開始する事業年度の期首から
時認識に加え、開示の更なる拡充が提
とされています。
案されています。
②IFRS の公開草案の概要
3 つに集約されます。
適用時期は 2013 年 1 月より早くなる
ことはないとされています。
③会計基準改定の影響
上述のとおり、日本および IFRS の
改定では、細かい点の相違こそあれ、
具体的な改定のポイントは図表 2 の
共通して「未認識差異の B/S 即時認
識」や「開示の拡充」が提案されてい
国 際 会 計 基 準 委 員会(IASB) は
ます。この影響を、我が国企業のデータ
に照らして考察してみます。
図表 1 ■ 日本基準の公開草案の改定ポイント
改定項目
図表 3 は、我が国企業約 3,700 社の
説明
2009 年度末時点の退職給付会計の状
・未認識差異を貸借対照表の純資産の部(その他の包括利益
累計額)で認識。
・P/L は従来通り(遅延処理)
。
・その他の包括利益累計額に計上した未認識差異を P/L に計
上する処理(リサイクル)が必要。
況をまとめたものです。
退職給付債務(PBO)
の計算方法の見直し
・退職給付見込額の期間帰属方法の変更(現行の「期間定額基
準」と、
IFRS に規定された「給付算定式基準」との選択制に)
・割引率設定方法の変更(IFRS と同様の考え方に)
が認められているため、退職給付債務
開示の拡充
PBO の変動要素や年金資産のポートフォリオ等の開示が追
加要請される。
未認識項目の B/S
即時認識
現在の会計基準では、数理計算上
差異等の遅延認識・オフバランス処理
と年金資産の差額のうち 9.8 兆円が企
業の B/S 上は未認識となっています。
公開草案の提案が実現すると、この
9.8 兆円は企業の B/S 上の負債として
計上されることになり、自己資本に対
図表 2 ■ IFRS の公開草案の改定ポイント
改定項目
未認識項目の B/S
即時認識
して約 3%のネガティブインパクトが生
説明
じると考えられます。
・未認識数理計算上差異を貸借対照表の純資産の部(その他
包括利益累計額)で認識。P/L での認識はしない(従来あっ
た複数の選択肢を排除)
。
・過去勤務費用は P/L で一括認識。
ただし、この数値はあくまで 3,700
社の平均であり、個社ごとに見るとか
なりばらつきがあります。一部の企業
期待運用収益率を
割引率と同じにする
・期待運用収益率の設定から恣意性を排除することが狙いと
されている。
では自己資本を超えるほどの未認識差
表示の改定、開示の
拡充
・PBO や制度資産から生じる変動を要因別に3つに区分し
直し、表示を改善する。
・確定給付制度にかかるリスク情報(制度の特徴や感応度分
析など)の開示を拡充する。
さらに、当該数値は 2009 年度末の
異があるため、注意が必要です。
一時点の数値であることにも注意が必
要です。ある調査によると、我が国企
業年金の年金資産は、平均的にはそ
の約半分が株式や外貨建て資産に投
図表 3 ■ 日本企業約 3,700 社の退職給付会計
引当金
(B/S 計上済)
退職給付
債務
88.0 兆円
金利変動等
による増加
リスク
積
立
不
足
19.1 兆円
未認識差異
9.8 兆円
年金資産
59.1 兆円
資されているため、今後の市場変動に
オ
ン
バ
ラ
ン
ス
化
?
自己資本
343 兆円の
約 3%に
相当
よって新たな積立不足が発生するリス
クを抱えているといえます。また、退
職給付債務についても、金利変動等
で評価額が変動するリスクがあります。
これまでも、年金・退職給付制度に
関する上述のような変動リスクはありま
したが、数理計算上差異が遅延認識
運用損による
減少リスク
<出処:日経メディアマーケティング「退職給付関連データ」。上場・非上場企業約 3,700 社を
対象に集計した 2009 年 4 月期∼2010 年 3 月期における実績>
されることで、企業財務への影響はマ
イルドでした。しかし、退職給付会計
が公開草案の通り見直されると、年金
資産や債務の変動が企業財務にダイ
レクトに影響することになり、財務諸
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経営トピック
表の単年度での変動が大きくなります。
と考えます。
にも少なからず影響するため、人事面
このようなことから、年金・退職給付
制度に関する変動リスクへの対処が今
まで以上に重要になります。
2.会計基準変更対応の 2 つの
アプローチ
および財務面の両面からアプローチす
②リスク回避の具体策
「リスク回避」の具体策は、確定給
る必要があります。
具体的には、下記図表 5 のような
付制度を廃止したり、給付水準を見直
視点からの分析を行うことが一般的
したりして、資産・負債の規模を小さく
です。
することです。
実際、2000 年に日本で退職給付会
このような分析の結果、
「将来の財
年金・退職給付制度の変動リスクへ
計が導入された後、厚生年金基金の
務的な影響」や「給付水準の世間水
の対応として、
「リスク管理」と「リス
代行返上や確定拠出年金への移行等
準との差異」等を具体的に把握するこ
ク回避」の大きく 2 つのアプローチが
が盛んに行われ、積立不足はかなり縮
とができ、かつそれを社内の複数の
考えられます。
小しました。
部門で共有できるようになります。この
①リスク管理の具体策
ただし、退職給付水準の引き下げ
ような社内の共通認識が、退職給付
「リスク管理」の具体策は、資産運
は従業員にとって労働条件の不利益変
制度改定プロジェクトの出発点となり
用リスクを中心とした年金・退職給付
更であり、安易に実行すると従業員の
ます。
制度のリスクを具体的に把握し、コン
モチベーションを低下させて本業での
トロールすることです。
生産性を低下させるおそれがあります。
②ステップ 2:制度の移行方針の検討
例えば、母体企業の財務体質や年
また、ドラスティックな変更に対して訴
現状分析の結果、会社の退職給付
金制度の負債特性などを勘案して年
訟等が起きれば、企業自身の社会的
制度に対する考え方と現状との間に何
金資産のポートフォリオを構成すること
評価を下げたりすることにもつながりか
らかのギャップが発見されることがあ
や、運用委託先金融機関に対する運
ねません。従業員や受給者等の権利
ります。例えば、会社として許容でき
用指図や運用管理を企業側で一元的
に配慮しながら、慎重に対応する必要
る将来のコストと現状分析の結果得ら
に行える態勢を構築することなどが挙
があります。
れたコストとの間に差があるケースや、
げられます。
これまでは、企業年金制度の運営
この点については、
「3.退職給付制
給付水準を従業員が魅力に感じるよう
度見直しの具体的手順」で後述します。
に同業他社レベル以上に設定したいの
が受託金融機関や年金基金にかなり
依存していたこともあって、企業の経
に現状と差があるケースなどが当ては
3.退職給付制度見直しの具体的手順
営サイドが企業年金運用に関与できて
まります。 そのギャップを埋めるため
の具体的な方針を検討するのが、この
いないケースも少なくないと思われま
退職給付制度見直しに際しては、通
す。しかし、実際にリスクを負担する
常、図表 4 のような 4 つのステップを
のは、金融機関でも年金基金でもなく、
踏む必要があると考えられます。以下、
れば低いほどいいはずです。一方、人
企業自身です。会計基準変更を契機と
各ステップの内容や留意点を順に説明
事部門から考えると、予算さえ気にし
して、こうしたリスク管理に企業の経
します。
ないのであれば給付水準は高ければ
営サイドが取り組んでいく必要がある
図表 4 ■ 退
職給付制度見直しの
フローチャート
1. 現状分析
財務面
人事面
ステップになります。
財務部門から考えるとコストは低け
高いほどいいはずです。こうした部門
①ステップ 1:現状分析
まず、退職給付制度の課題を把握す
間の利害を共有した上で調整を行う
ため、両部門の担当者をプロジェクト
るために現状分析を行います。退職給
チームのメンバーに加えることが必要と
付制度は人事・報酬制度の一部である
なります。
一方、退職給付会計を通じて企業財務
ここでは現在、最終給与比例制度
図表 5 ■ 現状分析の項目
2. 制度の移行方針の検討
3. 制度の詳細設計
4. 導入手続き
財務面
・会計上の積立状況の把握
・年金財政上の積立状況の把握
・将来の費用やキャッシュフローの
シミュレーション
・前提条件変更による影響分析
人事面
・給付水準、給付カーブの把握
・従業員間での給付格差の分析
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経営トピック
で確定給付型の企業年金制度(DB)
を実施しているケースで説明します。
DB 制度を改定する際の主な選択
図表 6 ように特徴の異なる制度のう
け皿となる制度」の大枠を決定します。
ち、どれが自社にふさわしいのか、あ
しかし、その際にどうしても従前の
るいはどの 2 つ以上の組み合わせをし
給付水準を維持するのが難しく、結果
肢としては「DB 制度のままでマイナー
た方が良いのか等を検討します。また、
として減額をせざるを得ないケースも
チェンジ」
「キャッシュバランスプラン
給付水準などの定量的な要因について
出てくることがあろうかと思います。
(CB)
」
「確定拠出年金制度(DC)
」の
は、コスト面と処遇面の両面から検討
確定給付企業年金法において、給
3 つが考えられます。この 3 つの制度
し、自社で許容しうる範囲内で決定し
付減額が認められるケースとして図表
の主な特徴は図表 6 の通りです。
ます。
7 のいずれかに該当することが必要と
このようにして「給付水準」や「受
図表 6 ■ 従来型 DB、DC、CB 制度の特徴
従来型 DB
給付の安定性
運用成績によらず、
規約通りの給付を
支給
DC
されています。
また、年金受給者の給付減額につい
CB
ては、図表 7 のⅱとⅲが要件として必要
従業員の運用によっ
て給付が変動し元本
割れもある
金利水準によって給
付が変動するが元本
は保証
とされており、よりハードルは高くなり
運用リスク
会社が負担
従業員が負担
会社が負担するが、
金利変動リスクは従
業員が負担
資産運用
会社が一括で運用
従業員が各自で運用
会社が一括で運用
PBO の計上
必要
不要
必要(ただし金利変
動リスクが軽減)
一般的な給付
カーブ
自在(S 字カーブが
多い)
下に凸のカーブ
下に凸のカーブ
退職事由と給付
の関係
事由別に係数の設定
が可能
加入 3 年以上は退職
事由に関係なく全額
受給権付与
事由別に係数の設定
が可能
給付額の明瞭性
小さい
大きい
比較的大きい
中途退職時の
受取
可能
60 歳前の中途引き出
可能
しには一定の条件あり
ポータビリティ
小さい
大きい
比較的大きい
掛金の上限
なし
あり
なし
従業員拠出掛金
可能
不可
可能
ます。特に、経営悪化に関する客観的
な数値基準は明らかにされておらず、当
局に申請しても認められなかったケー
スもありますので、注意が必要です。
③ステップ 3:制度の詳細設計
制度の大枠が決定したら、詳細設
計のステップに入ります。詳細設計と
は、退職給付の給付算定式や受給資
格などについて、規約・規程に記載す
るレベルまで決定することです。その
ためには導入する制度に関する法令を
理解し、その法令の定めの範囲内で
制度設計を行うことが必要になります。
例えば適格年金制度から DB 制度
へ移行する際には、前者では認めら
れていたことが後者では認められない
といったケースもあるため、留意が必
要となります。例えば適格年金制度で
は、定年退職者にしか給付が支給さ
図表 7 ■ 給付減額が認められる理由
ⅰ.実施事業所において労働協約等が変更され、その変更に基づき給付の設計の見
直しを行う必要がある場合
ⅱ.実施事業所の経営の状況が悪化したことにより、給付を減額することがやむを得
ない場合
れない制度設計も認められています
が、DB 制度では加入期間が 3 年以上
であれば一時金給付を行うことが法令
上求められています。
例として、ここでは、DB 制度から
ⅲ.給付の額を減額しなければ、掛金の額が大幅に上昇し、事業主が掛金を拠出する
ことが困難になると見込まれる場合
DC 制度への変更についての設計上の
ⅳ.制度統合・権利義務の移転承継・代行返上に伴って、給付を減額することにつき
やむを得ない事由がある場合
年金法令上の主な要件を図表 8 に示し
ⅴ.給付を減額することにより減少する掛金に相当する額を確定拠出年金の掛金とし
て拠出する場合、または積立金の一部を確定拠出年金制度の資産管理機関に移換
する場合
ⅵ.平成 24 年 3 月末までの間に適年から移行した場合で、給付の額を減額すること
がやむを得ない事由がある場合
ポイントを説明します。まず確定拠出
ます。
一般に、DC 制度の給付設計では、
まず新入社員の 60 歳時点の目標給付
水準を設定し、従業員が将来どれくら
いの運用利回りを上げられそうか(
「想
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経営トピック
定利回り」といいます)を設定して、
従業員が目標給付水準を達成できる
ここで、上記のように決定した給付
掛金を想定利回りどおり運用できた場
確率は下がります。想定利回りを小さく
設計(掛金)を既存の従業員に適用す
合にちょうど目標給付水準が達成でき
すると、その逆となります。このように、
ると、現行制度の給付カーブと新制度
るように、掛金水準を逆算します。
想定利回りの設定は、DC 制度設計の
の給付カーブの違いによって 60 歳時点
大きなポイントとなりますので、プロ
の給付額が目標水準とかい離するケー
運用収 益を多く見込むことになるた
ジェクトチーム内および労使間でコミュ
スが生じます。特に新制度での想定給
め、会社が拠出する掛金は少なくて済
ニケーションを取りつつ、十分検討す
付水準が低下するような従業員に対し
みますが、目標利回りが高くなるため、
る必要があります。
ては何らかの調整措置を入れることを
想定利回りを大きくすると、将来の
検討する必要があります。
図表 8 ■ 確定拠出年金法の主な要件
法令上の主な制約
加入資格
掛金
給付の
支給要件
ポイント
・一 定の勤続期間以上等の加入
資格を設定可能。
・ただし、加入者とならない従業 DC 制度と前払い退職金の選択制
員に対して、不当差別とならな とするケースも多い。
いよう、他の退職給付制度を
適用する等の代替措置が必要。
・拠出限度額は、DC 制度以外の
企業年金がない場合は月額 5.1
万円、企業年金がある場合は
2.55 万円。
・加 入者期間が 10 年以上ある
場 合、60 歳 か ら 70 歳 ま で
の間に本人の申出により受給
開始。
・年金額は裁定時に、個人別管
理資産の 1/20 以上 1/2 以下
の範囲で決定。
・支給期間は 5 年以上 20 年以
下の有期年金または終身年
金(終身は保険商品による場
合)
。
・規約に定めれば支給開始直後
または 5 年経過後に一時金で
受給することも可能。
拠出限度額があるため、現行の
給付水準を維持したまま、将来分
を DC 制度へ全部移行することが
できないケースがある。
また、DC 制度の支給要件には加入
期間 10 年以上という制約があるため、
移行時の年齢が 50 歳以上の従業員は
新制度において 60 歳から給付を受け
取ることができなくなることもあります。
この場合、現時点で 50 歳以上の従業
員は DC 制度に移行させない、あるい
は希望者のみ DC 制度に移行させる、
といった経過措置を考える必要があり
ます。
60 歳時点で加入者期間が 10
年未満の場合は、60 歳以降の年
齢に応じた加入者期間の要件を満
たすことで、受給開始可能になる。
そのため、DC 制度への移行時
には 50 歳以上の加入者の扱いに
ついて検討する必要がある。
④ステップ 4:導入手続き
詳細設計が完了したとしてもすぐに
新制度を実施することはできません。
制度内容によっては、従業員や労働組
合の同意を取得する必要があります。
また新制度が企業年金 制度の場合、
厚生労働大臣の認可または承認が必
要になり、この審査のための期間が必
要となります。また企業年金制度の加
図表 9 ■ DC 制度移行、DB 制度移行のスケジュール概要
DC 制度への移行
手続き
スケジュール
(X 月に移行
する前提)
DB 制度への移行
・規約を作成して厚生労働大臣の承
認を受ける
・一部移行の場合、DB における給 ・規 約を作成して厚生労働大臣
付減額手続きが必要(加入者の の承認を受ける
2/3 以上の同意等)
・給付減額変更であれば、DB に
・全部移行の場合、制度終了の手続 おける給付減額手続きが必要
きが必要(加入者の 1/2 以上の
同意等)
・X-12 月 ~ X-4 月: 制 度 設 計、
商品決定、労使合意
・~ X-3 月:数理計算(一括拠出
金計算、変更後 DB の掛金計算)
・~ X-2 月:DC 規 約 申 請、DB
変更申請
・~ X-1 月:加入者説明会
・~ X-1 日:規約承認、一括拠出
金払込(規約承認後、施行日前
日までに)
・~ X+2 月 末: 個 人 毎 DC 移 換
額計算、DC への資産移換
・X-12 月~ X-4 月:制度設計、
労使合意
・~ X-3 月:数理計算(DB の
掛金計算、給付減額の判定)
・~ X-2 月:DB 承認申請
・~ X-1 日:規約承認
入者管理や給付事務、資産運用等に
ついて、信託銀行や生命保険会社と
いった受託機関との調整も必要となり
ます。このように、導入手続きには意
外と時間がかかるものです。
図表 9 では退職給付制度改定全体
を通してのおおまかなスケジュールを
「DC 制度に移行する場合」と「DB 制
度に移行する場合」について示します。
このように、現状分析や制度設計、
加入者等との交渉や、数理計算を含
む規約承認申請手続きに想定以上の
時間がかかることがありますので、余
裕をもったスケジュール設定が重要で
す。通常は、施行予定日の 1 年以上前
から検討を開始することが望ましいと
考えられます。
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経営トピック
また、数理計算や規約承認申請サ
なると考えられます。
一方、退職給付制度を見直すには時
ポート等は、その多くを外部の受託機
会社によっては、退職給付制度の運
関に依存することになります。専門的
営全般が子会社任せになっていること
会計基準の見直しが近い将来に迫
な領域も多いですが、受託機関の提
もあるでしょう。また、海外子会社の
る今、年金・退職給付制度の運営状況
案を鵜呑みにするのではなく、要求す
場合は、現地の年金規制や労働慣行
を検証し、こうした変動リスクをコント
べきことは要求しつつ健全な協調関係
の違い、あるいは言葉の問題からう
ロールできる方策を早期に検討してい
を持つことが必要です。
まくコミュニケーションが取れないた
くことが必要と考えられます。
さらに、給付削減を意図した制度変
め、退職給付制度の運営状況が把握
更でなくても、数理計算の結果によっ
しづらいとも聞きます。さらに、企業
ては、一部の加入者が給付減額に該
再編等で、全く異なる退職給付制度を
当し、同意取り付けが必要になるケー
持った会社が子会社となることもある
スもあるため、注意が必要です。
かと思います。
間と手間がかかります。
図表 11 では子会社の退職給付制度
⑤まとめ
に関するコントロールのポイントを簡単
最後に、退職給付制度改定の全体
にまとめました。
を通して留意すべき点を図表 10 の通り
5.おわりに
まとめておきます。
4.内外子会社の退職給付制度管理
昨今のボラタイルな経済状況を考え
ると、退職給付コストの変動リスクは
投 資家による企業 評 価の目線 が、
今まで以上に大きくなっていると考えら
連結重視となる中、内外子会社の退
れます。さらに、退職給付会計基準の
職給付制度に関しても、連結財務諸
変更によってこうした変動リスクが、企
表上で重要な位置を占めている場合
業経営に直接的に影響を与えることが
は、本体同様のコントロールが必要に
想定されています。
図表 10 ■ 退職給付制度改定プロジェクトにおける留意事項
社内横断的な検討
態勢の必要性
人事面・財務面の両方に大きく影響する問題であるため、両
部門のコミュニケーションや利害調整が必要
→人事・財務・経営の参加が必要
具体的な根拠データ (例えば給付減額のような)利害調整を行うには、将来の債務
に基づく判断
や費用の予測などといった具体的な根拠データが必要不可欠
従業員の同意、
当局の認可
各種専門家の活用
制度改正内容にもよるが、一定の時間と手間を要することに
注意が必要
人事・財務会計だけでなく、年金数理・法務・税務などの専
門知識やノウハウが必要な場合が多い
→外部のリソースを活用することも一考
図表 11 ■ 子会社に対するコントロールのポイント
現状の把握
制度設計・財政状況の把握
Local GAAP・海外独自の規制の理解
子会社での管理状況(体制・人材など)の把握
ポリシーの明確化
給付設計ポリシー・資産運用ポリシー・会計方針などの企業グ
ループ内ポリシーと子会社の裁量範囲を明確化
ガバナンス態勢の
整備
ガバナンス主体の設置、レポートラインの確立、担当者の配置
など
モニタリング
財政状況や財政運営状況のモニタリング
あずさ監査法人は、公認会計 士、
年金数理人、証券アナリスト等のプ
ロフェッショナルと、税務や人事サー
ビスなどを提供する関連チームとの
連 携により、 会 計、 税 務、 財 務、
年金数理、リスク管理、資産運用、
人事と広範な分野をカバーする専門
チームを組織し、退職給付制度に
係わる問題を経営の視点から俯瞰
する統合的・横断的なサービスを提
供しています。
さらに、
KPMGグローバルネットワー
クとの連携により、グローバル企業
の海外子会社や在日外資系企業に
対するサービスの提供も可能です。
詳細は下記サイトをご覧ください。
http://www.azsa.or.jp/serviceline/
pension.html
また退職給付制度関連のサービス
や、本稿に関するお問合せに関しま
しては、以下の担当者までご連絡く
ださいますようお願いいたします。
有限責任 あずさ監査法人
FMG 事業部
パートナー 枇杷 高志
Tel:03-3548-5555(内線 2638)
e-mail: [email protected]
シニアマネジャー
浅海 路史
Tel:03-3548-5555(内線 2418)
e-mail: [email protected]
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