AZ Insight Vol.57_海外03 - KPMG

AZ Insight
AZSA / KPMG Newsletter
May 2013
Featuring:
・ 海外トピック
・2013 年インド予算案における税制改正概要
Volume 57
AZ Insight Vol.57 / May 2013
1
海外トピック③ − インド
2013 年インド予算案における
税制改正概要
KPMG インド デリー事務所 シニアマネジャー
マネジャー
東野 泰典
伊藤 進
ひがし の
やすのり
東 野 泰典
KPMG インド チェンナイ事務所 ムンバイ事務所
マネジャー
KPMG インド
デリー事務所
シニアマネジャー
空谷 泰典
インドでは毎年 2月末に政府予算案が国会で発表され、そこで翌税務年度に
おける税制改正についても提案されます。2013 年 2月28日にチダンバラム
財務大臣により国会へ提出されたインド予算案は、昨年より一層悪化方向
へ向かう現在のインド経済状況に対する明確な政府の姿勢、すなわち、
(1)
より強いインド経済の復活、を成し遂げるため、より多くの海外投資が行
われる魅力的な投資先としていかに認知されていくか、
(2)
さらなる税収
い とう
すすむ
の増加と歳出カット、について強く打ち出されています。同時に例年のこ
伊藤 進
とですが貧困者層対策への予算取りも、来年の選挙対策を視野に含めるう
KPMG インド
デリー事務所
マネジャー
えで例年以上に行う必要があり、現在のインド政府は相反する目的を達成
するための難しい舵取りを行っている状況です。
その中で発表された 2013 年税制改正に関しては、端的にいうと、直接税、
間接税ともに富裕層に対する増税が行われるということにまとめられ、毎
年のように導入が期待されている DTC(Direct Tax Code)
、GST(Goods &
Service Tax )については引き続き導入年度に関する情報が発信されず、大
きな制度変更がなされない、小規模な改正であったと言えます。原稿執筆時
現在(2013 年 4月8日)においてまだ国会審議中のため、詳細変更の可能性
も当然ありますが、概ね本稿の内容で施行される見通しとなっております。
そらたに
たいすけ
空谷 泰典
本稿では、その税制改正の中で日系企業に影響を与えると思われるものを
KPMG インド
チェンナイ事務所
ムンバイ事務所
マネジャー
中心に解説を行います。
なお、本文中の意見に関する部分は筆者の私見である点をあらかじめお断
りいたします。
中国
【ポイント】
パキスタン
◦インド 2012 年経済成長率の実績は 5%の見通しとなり、近年にない
落ち込みを示している。
◦税収不足を補う目的で、直接税、間接税ともに富裕層に対する一時的、
恒常的な増税を図っている。
ジャイプル
ムンバイ
◦昨年度税制改正にて議論を呼んだ所得税法の遡及的改正に関する再
修正についても期待とは異なり行われなかった。
ブータン
インパール
ボパール
インド
バングラ
ディッシュ
ミャンマー
ハイデラバード
◦DTC(新直接税法)
、GST(新統合間接税法)に関する適用年度は引き
続き発表されなかった。
ネパール
デリー
バンガロール
チェンナイ
スリランカ
© 2013 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG
International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved. Printed in Japan.
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AZ Insight Vol.57 / May 2013
海外トピック③ − インド
Ⅰ.インド経済概況
1.経済状況
は、インドのすべての産業を牽引する
5.1%という目標に対してほぼ同レベル
役割を持つサービス業での経済成長率
の5.2 %を達成する見込みとされてはい
の大きな落ち込みが原因となっています。 るものの、これは様々な補助金の大幅
チダンバラム財務大臣により国会へ
提 出され た2 013 年 度( 2 013 年 4月 -
通常 8-10 %程度を示す同セクターの成
削減などによる歳出カット、公営企業
長率が 6.6 %まで下がっていることによ
株式の売却等による臨時収入などでよ
り、世界のBPO( 業務プロセスの外部
うやく賄っている状態とも言え、将来に
2014 年3月)の予算案において報告さ
委託)としてのインドも世界的経済不況
不安を残す状況であることには変わり
れたインド経済の状況は以下のとおり
の影響を大きく受けていることが示され
ありません
(図表2参照)
。
です。
ていると言えます。
2012 年度
(2012 年 4月-2013 年3月)
インドは慢性的な経常赤字の国では
インドの経済状況を見るうえでもう1
ありますが、今回の予算案ではさらに
にまで落ち込み、前年 6.2 %からのさら
のインド実質GDP成長率は5 %(推定)
つの重要な指標である、対 GDP比財
経常赤字が大きな焦点として取り上げ
なる下落となります
(図表1参照)
。これ
政赤字については、ターゲットであった
られました(図表3参照)
。前述のとお
り、輸出収入となるサービス収入の大
図表 1 ■ インド経済成長率の推移
9.6%
9.3%
幅な低下により、原油輸入高に歯止め
8.6%
がかけられず、経常赤字の割合・金額
9.3%
が大きく増加しています。当該経常赤
6.7%
字額の削減が財政赤字削減のための
6.2%
5.0%
抜本的な対策であることを認識してい
ながらも、政府は効果的な対策が打ち
出せていない状況が読み取れます。
FY 07
FY 08
FY 09
FY 10
FY 11
FY 12
FY 13 E
出所:インド国会 2013 年度( 2013 年 4月- 2014 年 3月)の予算案に基づき筆
者作成
2.政府の今後の指針および注目すべ
き動向
これらの状況を鑑み、インド政府は、
今回の予算案発表において、主に以下
の2点を重要なメッセージとして強く打
図表 2 ■ インド財政赤字の推移
6.5%
6.0%
4.8%
FY 09
FY 10
FY 11
ち出しています。
5.7%
FY 12
5.2%
FY 13
RE
4.8%
FY 14
BE
出所:インド国会 2013 年度( 2013 年 4月- 2014 年 3月)の予算案に基づき筆
者作成
(1)潜在的な年次経済成長率の目
標を8%とし、インドの強い経
済力を復活させる
(2)そのための手段として、外国直
接投資に依存していることを
認めたうえで、投資先としての
魅力をより一層感じてもらう
ために、インド税制や制度の安
定化、透明性の獲得を図る
周知のとおり、インドは多国籍企業
図表 3 ■ インドの経常赤字
経常赤字の状況
USD
% of GDP
FY12 上半期(4-9 月)
364 億 USD
4.0%
FY13 上半期(4-9 月)
390 億 USD
4.6%
出所:インド国会 2013 年度(2013 年 4月- 2014 年 3月)の予算案に基づき筆者作成
に対し、移転価格に関する非常に厳し
い税 務 調査を実施したり、Vodafone
の最高裁判所判例の結果をもとに税法
の遡及的修正を行ったりするなど、評
判のよくない様々な施策や実務により、
海外 投資家に、安定した透明性の高
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海外トピック③ − インド
い税制・制度を持った国として認知さ
合連続引き下げを行ってはいるものの、
れるのがたいへん難しい状況にありま
市場における評価は低く、さらなる利
す。インド政府が、今後、友好的な施
下げが期待されている状況です。
策・優遇策を導入していくことができる
2 012 年半ばの最もインフレが厳し
のか、また、このような政府のメッセー
かった時期から足元はある程度落ち着
ジを、実際の調査、窓口にあたる現場
きを見せているとはいえ、インドが常に
担当者レベルにまで浸透させることが
無視できない貧困層に直接影響のある、
できるのかなど、達成がなかなか難し
食品関係のインフレはまだ9-10%という
い課題であるという認識のもと、期待
高い率を示している状況を鑑み、RBI
をもって動向を注視していきたいところ
が期待通りの利下げ政策を今後行って
です。
いけるのかという点は今年のインド経済
また、インド準備銀行( 以下「RBI」
という)の金利政策の動向についても
をみるうえでの重要なファクターの1つと
言えます。
引き続き注目が必要です。昨今のRBI
による金利政策は、ひとえにインフレ
抑制を主要な目的としてなされているた
Ⅱ.直接税の主要な改正内容
め、度重なる政府の依頼による利下げ
(1)
個人所得税における富裕層に対す
要求に、現在のところ最低限しか応じ
ていない状況です。
日系企業にとっての主要な改正点は
レートを0.25 %引き下げ 7.5 %としまし
た。前回1月に行われた会合でも同様
に0.25 %引き下げを実施しており、2会
のとおり、前年からの変更はありませ
(1)個人所得税における富裕層に
対する追加サーチャージの導
入(1年間のみ)
(2)法人所得税における大企業に
0 〜 200,000
※1
【変更点・注意点】
非課税
※1非 課 税 上 限 額 について、60 歳 以 上
80 歳 未 満 の 高 齢 者 については INR
250,000、80 歳以上の高齢者につい
ては INR500,000(前年と変更なし)
。
10
500,001 〜 1,000,000
20
1,000,000
ピーを超 過する場 合、2 014 年3月期
の税務年度のみ1年間に限り、追加で
サーチャージを10 %徴収することにな
(税金にかかる税金)であるため、Tax
税率(%)
200,001 〜 500,000 ※ 2
超※ 3
ん。ただし、課 税 所 得が 1,0 0 0万ル
りました。サーチャージはTax on Tax
図表 4 ■ 個人所得税の税率
所得金額(INR)
る追加サーチャージ(1 年間のみ)
個 人 所 得 税の 基 本 税 率は図 表4
以下のとおりとなります。
予算案発表後の3月19日にRBIは金
融政策決定会合で政策金利であるレポ
対するサーチャージの引き上
げ(1年間のみ)
(3)自己株買戻し行為に対する新
しい税金の導入(Buy Back課
税)
(4)2年間で10億ルピー以上の設
備投資を行う企業に対する税
務恩典
(5)非居住者に対して支払うロイ
ヤリティー・技術支援料の源泉
税率を25%まで引き上げ
(6)租税回避行為に対する一般的
条項(GAAR)の導入時期を2年
延期
(7)2012年税制改正で非常に大き
な話題となった、税法の遡及的
改正に関する再改正、修正は行
われなかった
30
※2課 税所得 INR500,000 以下の居住者
について一律 INR2,000 の税額控除
※3所 得 が INR10,000,000 を 超 える 場
合、10 % の Surcharge が 課 される。
(Marginal relief の適用あり)
⇒ 2014年3月に終了する税務年度のみの適
用。
Blanketを無 視して簡 便 的に 考えた
場合、30 %の個人所得税率に対して
10 %のサーチャージが 課されること
から、実質的な増税インパクトは3 %
(30 %の10 %)
となります。ただし、日本
人 駐在員の給 料は通常NET 保証さ
れており、インドでの税金は会社が負
担されているのが通例です。そのため、
会社が負担する最終的な人件費コスト
はGross Upベースで考える必要があり、
その結果、最終的には駐在員1人当た
図表 5 ■ 法人所得税の税率
り約4.5 %のコストアップになります。
Income Level(INR)
税金の種類
1,000 万 INR
まで
1,000 万 INR 超
1 億 INR まで
1 億 INR 超
法人所得税 – 内国法人
30.90%
32.45%
33.99%
法人所得税 – 外国法人
41.20%
42.02%
43.26%
最低代替税 – 内国法人
19.06%
20.01%
20.96%
最低代替税 – 外国法人
19.06%
19.44%
20.01%
DDT(配当分配税)
16.99%
(2)
法人所得税における大企業に対す
るサーチャージの引き上げ(1年
間のみ)
法人所得税につきましても、
(1)同
様基本税率(内国法人 30 %、外国法
人4 0%)に変更はありません(図表5参
照)
。
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AZ Insight Vol.57 / May 2013
海外トピック③ − インド
ただし、課税所得が 1億ルピーを超
過する法人に関しては、従前5 %サー
(4)
設備投資を行う企業に対する税
務恩典
ります。
このTRCの取得要件は、記載内容
チャージ(内国法人)
、2 %サーチャー
今回の改正で導入された、納税者
に関する詳細などは2012 年9月にイン
ジ
(外国法人)だったものが、それぞれ
側にとって数少ない税務恩典の1つで
ド税務当局より発効されたCircularに
10 %、5 %と引き上げられることにより、
す。2 013 年 4月1日より2 015 年3月末
おいて定められることになったとはいえ、
それぞれの実効税率が添付の表のよう
までの2 年間において通算総額10 億ル
そもそもの改正自体は昨年度 2012 年
に、内国法人 32.45 %から33.99 %へ、
ピーの工場または機械への設備投資を
度税制改正にて行われたものであり、
外国法人42.02 %から43.26 %へ増加
行った製造会社に対して、法人税計算
当該取得義務は2012 年 4月1日以降発
することになります。個人所得税の増
上15 %の追加損金算入が可能となりま
生した取引に対して遡及的に適用され
税同様、当該取扱いは2014 年3月期
す。これは業種に対する縛りはないも
ることになります。
の税務年度 1年間のみの施策となって
のの、設備投資に対して適用されるも
います。
ののため、恩恵を享受できる法人は製
このサーチャージの引き上げに伴い、
最低代替税(基本税率18.5%)も同様
造会社のみです。
さらに、この恩恵を受けるための対
(6)
租税回避行為に対する一般的条項
(GAAR)の導入延期
租税回避行為に対する一般的条項
の増税インパクトが、配当分配税( 基
象投資は新品に対してのみ適用され、 (以下
「GAAR」という)とは、租税回避
本税率15%)に関しては、すべての規
特殊な状況を除いて5 年間は転売、移
を意図した経済的合理性を欠く契約・
模の法人で均等に従前の16.22 %から
転が禁止されることになります。
権利・義務の創出や、実質的な目的
16.9 9 %へ 税率が増加することになり
ます。
が欠如した取引等について、税務当局
(5)
非居住者に対して支払うロイヤリ
ティー・技術支援料の源泉税率の
(3)
自己株買戻し行為に対する新しい
税金の導入(Buy Back 課税)
引き上げ
非居 住者に対して支 払うロイヤリ
が“ 容認しがたい租税回避を伴う行為”
(Impermissible Avoidance Arrangement)とみなした場合に、当該契約・
取引等を否認することができるとする
Buy Back 課税により、通常の法人
ティー、技術支援料に関する源泉税率
規定です。すなわち法人の締結する契
税とは別に自己株の買い戻し行為を
が従前の10 %より25 %に引き上げられ
約・取引等が否認された結果として税
行ったインド法人に対して新たに課せら
ました。この税率変更に関しては、日
金の追徴等が発生することが当然予
れることとなります。当該基本税率は
本企業の場合、日印租税条約上で当
想され、すでに2012 年度税制改正で
2 0 %ですが、法人税同様、10 %サー
該取引に関する源泉税率が10 %と規定
2013 年 4月1日から始まる税務年度よ
チャージ、3 %の教育目的税が加味さ
されているため(参考:シンガポールの
り適用と公表されていました。
れることで実効税率は22.66 %となりま
場合も同様に10 %)
、引き続き租税条
しかしながら、GAARは、税法上で
す。買戻価額から発行価額を差し引い
約の軽減税率が優先される結果となる
明確に禁止されていないが明らかに税
た、いわゆる売り手側から見たCapital
ことから、実質的な影響はないと言え
金回避を意図するような取引スキームを
Gainポーションに対して上記税率が課
ますが、そのための要件が細かくなっ
防止するための規定である一方、税務
せられることになりますが、当初割当を
た点について留意が必要となります。
当局による濫用が懸念され、また、当
行った相手先からすでに株主が売却等
つまり、租税条約の軽減税率を適用
該規定は租税条約の規定よりも優先し
により変更されている場合においても、
するためには、支払い相手国企業
(イン
て適用されることになるため多くの海
買い手側インド法人が当初割当を行っ
ドから見ての支払先海外企業)がイン
外投資家、インド企業家による導入懸
た発行価額と買戻価額を比較してその
ドで税務番号(以下「PAN」という)を
念・反対が強く訴えられていました。
差異に課税される点に留意が必要です。
取得する必要があるという従前からの
それらに対応するため、インド政府
この税制改正の目的は、配当税回避
要件に加えて、相手国企業側の税務当
は元シンクタンク出身のShome 氏を代
のために多くのインド会社が自己株の
局から当該法人の居住者証明書(以下
表とした委員会を作り、GAAR 制度
買取というスキームで株主への資金還
「TRC」という)を、源泉徴収義務者で
に対 するPublic Commentをとり、改
流を行っていた現在の状況に歯止めを
あるインド法人が入手・保存しておく必
正案に対するレポートを作成させまし
かけるためになされたものであり、今後
要があります。このため、租税条約適
た。Shome 委員会は、レポートの中で、
Buy Backスキームによる資金還流は
用のための上記要件を満たさない場合、 GAARの様々な問題点を指摘し、納税
配当税よりもコスト増となることから手
源泉税率が改正後の25 %で適用され
者に有利な改善案と適用時期を3 年延
段として検討・使用することの税務上
ることになってしまうため、実務上重要
長することを提案しました。
の便益はなくなってしまったと言えます。
な改正である点改めて留意が必要とな
今回の税制改正では、当該レポー
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海外トピック③ − インド
トの提案内容を大きく参考にする形で、
Ⅲ.間接税の主要な改正内容
いくつかの改善点の採用と共に、適用
による州財源の代替確保として、9 0 0
億ルピーの予算化を図ったことが発表
を2 年延長することとし、2016 年3月末
直接税同様、間接税の主要な改正
されるに留まりました。インドの複雑な
の税務年度より適用開始と決定してい
の骨子は、富裕層に対する増税に焦点
間接税制が企業活動の足かせ、製品・
ます。
があたっていると思われます。
商品・サービスのコスト増につながって
この結果により、Shomeレポートに
よって提案された、いくつかまだ重要
な論点が未手当(例:GAAR 施行前に
締結した契約については対象外となる、
いわゆるグランドファーザー条項等)と
なっている一方で、適用開始年度であ
る2 年後までの間に順次手当がなされ
ることが期待されています。
(7)
税法の遡及的改正に関する
再改正
2012 年度税制改正では、世界的な
注目を浴びたVodafoneの係争案件に
いることは周知の事実であり、GST
(1)間接税の基本税率については
概ね変更はないが、いわゆる奢
侈品といわれる高額品に対し
ての関税、物品税は引き上げが
なされている
(2)GST(Goods and Service
Tax)については去年同様、明
確な導入時期についてのコメ
ントはない
(3)サービス税に関しては、納税者
の申告を促す目的で、ある一定
期間にさかのぼっての納税が
利息、ペナルティなしで可能と
なった
対する最高裁判所による納税者有利の
判例が出た直後、現行インド所得税法
の施行開始時である19 62 年まで遡及
的に改正を行う(=判例の内容を覆す
への早期移行が引き続き望まれる一方、
来年の総選挙を控える時期であり早期
の法案化が難しい状況であると思われ
ます。
(3)
サービス税の自主的申告促進施
策
インド政府によると、現在サービス
税登録業者は170万程度ありますが、
そのうちの50 %は登録をしているもの
の納税、申告を行っていないと言われ
ています。これを是正するためにインド
政府は納税義務者に対する税務調査
(1)
高額品に対しての関税、物品税は
引き上げ
Excise Duty(物品 税)は、スポー
などを行う一方で、納税者側の自主的
な申告を促す目的で当該施策を打ち出
しました。すなわち、遅延利息やペナ
結果となる)
、いわゆる「後出しジャンケ
ツタイプ多目的車(SUV)
( 現在、全長
ルティを課されずに、20 07年10月から
ン」的な対応が行われたことにより世間
4m 超、最 低 地 上 高170mm 超、排 気
2 012 年12月までの期間に遡っての修
から非難を浴びました。
量がガソリン車1,2 0 0cc、ディーゼル
正申告、納税が可能となります。
そのような強い反対意見を考慮して、
1,50 0cc 超とのみ定義)として法 令で
間接税の納税・申告対応に関する日
インド政府はⅡ.
(6)に説明したShome
定義される車について、従前の27 %よ
系企業マネジメントのモニタリングは複
委員会に、GAAR 同様、遡及的適用
り30 %へ引き上げられました。また、
雑である等の理由により直接税に比較
に関する改善提案レポートを提出させ
基本関税については、いわゆる高級車
してどうしても甘くなりがちであるため、
ました。その結果、このエッセンスが
(CIF 価 格 4 0,0 0 0USD 超、3,0 0 0cc 超
当該救済措置を必要とする企業にとっ
ては有意義な改正となると思われます。
2013 年度税制改正においてなんらか
の排気量を持つ自動車(ディーゼルは
の形で加味されるのではないかとの大
2,50 0cc 超)
)について、従前の75 %か
勢の意見、希望とは反対に、今回の予
ら10 0 %へ引き上げ、高級二輪車( 排
算案においては当該遡及的適用がなさ
気量 80 0cc 超)についても同様に従前
れた改正条項への変更は一切行われ
の60 %から75 %への引き上げがなされ
ませんでした。
ました。このように購買層は富裕層に
これに対し、インド政府は現在未だ
Ⅳ.おわりに
以上、非常に簡単ではあるものの、
限定される高級品、奢侈品に関しての
2013 年予算案における税制改正の日
解決されていないVodafoneとの税務問
間接税が引き上げられることとなりま
系企業に対する重要な影響について解
題の落としどころが確定した後に、し
した。
説いたしました。今回は最初に申し上げ
かるべき改正を行う予定であるとのみ
コメントを出しています。そのため、引
き続き今後の動向に注目していく必要
がある重要な項目の1つと考えます。
たとおり、富裕層に対する増税が改正
(2)
GST の導入時期は未定
のポイントとなってはいるものの、2012
インド政府は数年前より、現存する
年度の改正と比較して、論点は非常に
多種の間接税を統合したGSTの導入を
少ない内容と言えます。一方、去年から
目指していますが、今回の予算案では、 継続する、税務上、法令上における、
い
引き続きGST導入時期に関する明言
わゆる「インドリスク」といわれるものを
はなく、州政府との合意の大きな障害
払拭する内容にまでは当然いたっては
項目であったCST
( 中央売上税)廃止
おらず、GSTなどの重要な法改正の導
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海外トピック③ − インド
入時期が不透明である点などにおいて
も、海外投資家である我々の期待に十
分応えたものではありません。
海外からの投資を継続して呼び込む
ためには、税制、制度の安定化、透明
化は不可欠であるため、インド政府の
当該目的を達成するさらなる施策につ
いて、今後も注視していきたいと思い
ます。
本稿は、月刊「国際税務」
(Vol. 33
No. 5、税務研究会発行)に寄稿し
たものに一部加筆したものです。
本稿に関するご質問等は、以下の者
までご連絡くださいますようお願いい
たします。
KPMGインド
デリー事務所
シニアマネジャー
東野 泰典
Tel:+91-124-307-4177
e-mail:[email protected] マネジャー
伊藤 進
Tel:+91-124-334-5184
e-mail:[email protected]
KPMGインド
チェンナイ事務所 ムンバイ事務所 マネジャー 空谷 泰典
Tel:+91-22-3091-3212
e-mail : [email protected]
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