2014 年 9 月 11 日号 Global Market Outlook く lo イエレン議長の「計器盤」 9月16,17日に米国金融政策決定会合(FOMC)が開催されます。米国の利上げ時期が市場の大きなテー マとなっており、会議後発表される声明文、記者会見でのイエレン議長の発言に注目です。 1. 従来の雇用関連指標では回復が鮮明に 米国金融当局の2つの使命は「物価の安定」と「雇用の最大 化」ですが、現状、物価は上昇基調にあるもののペースは鈍く グラフ1:米国失業率 % 11 10 それほど警戒感は高まっていません。従って10月に量的緩和 9 8 を予定通り終了させた後、最初の利上げ時期を予測する際に 7 は雇用の状況とその解釈が最大の焦点となります。 6 びに注目してきました。右のグラフ1は失業率ですが、金融危 2012年12月 失業率が6.5%を割り 込むまでゼロ金利を維持 できる。 5 市場は雇用市場の判断において失業率、及び雇用者数の伸 4 3 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:米国労働省 機の後2009年には10%に達しました。その後低下に転じ20 12年12月にFOMCは利上げの目処を6.5%を割り込む時期 千人/月 としましたが、現状既に6.1%まで低下しています。グラフ2は 600 雇用者数の月間増減です。先週発表された8月の数字はやや 400 弱かったものの、このところ平均して20万人を超える増加を示 グラフ2:米国雇用者数月間増減 3ヶ月平均 200 0 しています。2008年3月からマイナスに転じたわけですが、今 -200 年5月にはようやくそれからの累積がプラスに浮上、金融危機 -400 により失われた職が取り戻された形となります。 -600 雇用者数月間増減 -800 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:米国労働省 2. イエレン議長の「計器盤」 しかしイエレン議長は「史上最悪の金融危機」後の雇用市場は従来と変容しているため、上記2つの指標だけ では状況把握に不十分とし、飛行機のパイロットのように多種の指標を監視する必要があると主張しています。 「イエレン議長の計器盤」と称されていますが、主なものは以下の通りです。 ① 労働参加率 やや複雑な話となってしまいますが、失業率の分子は「就職 活動を行っている失業者」で分母はそれに「実際に働いている 人」を加えたものです。従って失業者が職に就けば失業率は低 下しますが、就職活動を諦めた場合でも低下することになりま % グラフ3:米国失業率と労働参加率 % 68 10 9 失業率(左軸) 67 8 66 7 65 す。16才以上の人口のうち「就業者と就職活動を行っている失 6 64 業者(つまり失業率の分母)」の比率が労働参加率です。これ 5 63 労働参加率(右軸) はグラフ3のように2009年あたりから低下傾向が鮮明となって います。ベビーブーマー世代の退職等、人口動態による要因も 4 2005年 62 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:米国労働省 大きいと推察されますが、職探しを諦めた人が景気回復とともに職探しを始めるとすれば「失業者予備軍」となり、 実際の失業者はより多く存在すると言えるかもしれません。 -1- ② 長期失業者 米国の失業保険は通常半年で失効します。従って26週間 以上の失業者には厳しい状況となります。グラフ4はその推移 ですが、低下傾向は鮮明ですが、未だ金融危機以前の3倍近 い水準に留まっています。しかし先般、米国の大学で架空の履 歴書を作成し企業に送付するという実験を行った結果、半年以 上職についていない「人」への返答は顕著に低かったそうです 千人 グラフ4:失業者数(失業期間26週以上) 8000 7000 6000 5000 4000 3000 2000 1000 (注) 。もしそうだとすると、これはもはや金融政策の領域を超え 0 2005年 た政治の問題と言えるかもしれません(景気循環ではなく構造 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:米国労働省 的な問題)。 注)Rand Ghayad “The Jobless Trap”(2014) ③ 求人数 雇用が増えるためには企業側の求人が増える必要がありま 千人 グラフ5:求人数 5000 す。右のグラフ5に見られるようにこのところ求人数の増加ペー 4500 スが加速しています。それにもかかわらず失業者の水準も高 4000 いということは雇用者の求める人材と労働者の技量に差があ 3500 る、つまりミスマッチがあるということかもしれません。もしそう 3000 2500 であるなら、これも職業訓練策等、政治の領域で金融政策の 2000 手に負えるものではありません。 1500 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:米国労働省 ④ 自発的退職者 離職者には通常、本人の都合による場合と解雇等企業側の 要因の2つがあります。前者はより希望に合う職が見つかった グラフ6:離職者内訳 % 2.4 2.2 ためとも解釈できることから、イエレン議長は自発的退職者の 2 増加が雇用市場の改善を示すとしています。右のグラフ6のよ 1.8 うに解雇された人の水準は低位で横ばいとなる一方、自発的 1.6 自発的退職 1.4 退職者は増加傾向にあります。ただし金融危機以前の水準に 1.2 解雇された人 は届いていません。 1 2005年 2007年 2009年 2011年 ⑤ パートタイマー 2013年 資料:米国労働省 右のグラフ7は正規雇用を希望しているにもかかわらず、職 千人 が見つからないためパートタイマーとして働いている人の数で 10000 す。減少傾向にはありますが、まだまだ高い水準といえます。 9000 イエレン議長はこの指標から雇用市場の弱さを指摘していま グラフ7:パートを余儀なくさせられている人 8000 7000 すが、一部には経済のサービス化が雇用全体におけるパート 6000 比率上昇を促しているという見方もあります。 5000 4000 3000 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:米国労働省 -2- 3. 「計器盤」がすべてGOを示さなくても... これまで見てきましたように、「計器盤」はどれも改善基調にあるものの、水準にはバラツキがあります。利上 げの時期については「総合的に判断」とされるのでしょうが、一部には早期の利上げを主張する向きもあります。 その根拠は2つあると思います。 ① インフレ率の上昇が顕著となってからでは遅きに失する。 % グラフ8:米国物価 3 物価安定を重視する「タカ派」の主張です。確かにこれまでの 経験からはこの主張にも頷けると思います。しかしグローバル 化、IT革命等、構造的変化を遂げた現在も同様のことが起きる かどうかはかなり疑問です。2008年12月から政策金利をほぼ ゼロとし、その後も3度にわたり量的緩和を実施したにもかかわ らず、インフレ率は抑制されています。今後も急激に上昇する可 能性は低いと思います。 2.5 CPIコア 2 1.5 1 PCEコア 0.5 0 2005年 2007年 2009年 2011年 2013年 資料:ブルームバーグ ② 異常に低い金利を長期化することによる弊害が緩和効果の利益を上回る。 現在抑制されているといっても米国のインフレ率はグラフ8のように1.5~2%程度です。日本のようにマイナ スには陥っていません。したがって実質金利はマイナスとなっています。その結果、量的緩和によりばらまかれた 潤沢な流動性が存在することもあり、低格付け債券等、一部の資産市場では「バブル」に近い状況が発生してい ます。このまま放置すれば「住宅バブルの形成と崩壊」の再現ともなりかねません。 先日サン・フランシスコ連銀は「市場はFOMC予測よりも長期間緩和政策が継続すると安心しているように見 える」というレポートをまとめました。金融先物市場では来年9月あたりの利上げ開始を予測しているようですが、 状況次第では前倒しとなる可能性も否定はできません。来週のFOMC,及び今後のイエレン議長等の要人発言 に注目したいと思います。 -3- ※ 2014年4月以降のレポート 4月1日号 2013年度の市場推移と主な出来事 4月号 2013年度第4四半期の市場動向と今後の見通し 5月21日号 堅調な欧米金融市場と、警戒感が高まる日本、中国市場 5月30日号 米国長期金利 これまでの推移と今後のイメージ 6月3日号 欧州中央銀行金融政策決定会合に注目 6月6日号 マイナス金利導入に踏み切った欧州中央銀行 6月25日号 2つの地政学リスク 7月号 2014年度第1四半期の市場動向と今後の見通し 8月7日号 米国株に黄信号? 8月21日号 金融市場はジャクソンホール会合に注目 MU投資顧問株式会社 登録番号 金融商品取引業者 関東財務局長(金商) 第 313 号 一般社団法人日本投資顧問業協会会員 一般社団法人投資信託協会会員 〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3-2-15 電話 03-5202-1801 9 月 16 日より下記に移転いたします 〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台2-3-11 電話 03‐5259‐5351 *本資料に含まれている経済見通しや市場環境予測はあくまでも作成時点におけ るものであり、今後予告なしに変更されることがあります。 *本資料は情報提供を唯一の目的としており、何らかの行動ないし判断をするもので はありません。また、掲載されている予測は、本資料の分析結果のみをもとに行われ たものであり、予測の妥当性や確実性が保証されるものでもありません。予測は常に 不確実性を伴います。本資料の予測・分析の妥当性等は、独自にご判断ください。 *なお、資料中の図表は、断りのない限りブルームバーグ収録データをもとに作成し ております。 -4-
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