中国銅企業の動向

レポート
中国銅企業の動向
—銅陵有色と江西銅業—
渡邉 美和
金属企画調査部 調査課 専門調査員 銅、鉛、亜鉛などのベースメタルで、中国は世界に占めるシェアを拡大している。その中国の動向を支えたのが経
済の成長である。2008年の北京オリンピック、2010年の上海万国博覧会の開催などを通じ、2008年のリーマンショッ
クも他国に先駆けて克服し、最近に至り成長の増加率が伸び悩んでいるものの、自動車製造販売などが好調を続けて
久しい。
本稿では、こうした状況下で中国の銅産業について概観する。特に、銅生産の2大企業である銅陵有色金属集団股
份有限公司
(銅陵有色)と江西銅業股份有限公司
(江西銅業)について、生産拡大の経緯と企業構造について振り返る。
この2社は、それぞれ、銅地金生産量がほぼ100万tに達し、1企業で日本の年間総需要に迫る生産量を誇っているの
である。併せて近い将来の生産見通しまで言及する。
「中
なお、本稿は、2012年3月26日に行われたJOGMEC主催の平成23年度
(第12回)
金属資源関連成果発表会での発表
国銅企業の動向」を基に、2011年度実績等からデータを更新し加筆したものである。
1. 世界に占める中国の銅の生産と消費
1-1. 世界の銅地金生産量と中国
世界の銅地金生産量と中国のシェアの2001年から
2011年の推移を図1-1に示す。2011年の生産量は19,779
千tで2001年と比較すると4,103千t
(+26.2%)
増加し
た。この間、中国の生産量は2001年の1,523千tから
2011年には5,197千tに達し、その間3,674t増加し、増
加率は+241.2%にも達する。世界の増加分の殆どを
中国が占めたといっても過言ではない。
世界に占める中国の割合は増加一方の姿を見せてい
る。特に21世紀になってからの成長は著しく、2006年
にはチリに代わって首位に躍り出た。さらに、それ以
降もチリとの差を拡大させている。中国のシェアも
2001年には9.7%だったものが、2002年には2桁の10%
を 超 え、 そ し て2011年 に は26.3 % に 上 昇 し て いる。
2007年にやや緩和したかと思えたシェアの増加も、再
び高い伸びを取り戻し、まだ天井を打つ様を見せてい
ない。
(WBMSのデータに基づき作成)
図1-1. 世界の銅地金生産量と中国のシェア
2012.7 金属資源レポート
25
(121)
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
はじめに
レポート
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
1-2. 世界の銅地金消費量と中国
世界の銅地金消費量と中国のシェアについて、2001
年から2011年の推移を、図1-2に示す。2011年の消費
量 は19,472千 t で2001年 と 比 較 す る と4,786千 t(+
32.6%)増加した。この間、中国の消費量は2001年の
2,307千 t か ら2011年 に は7,915千 t に 達 し、 そ の 間
5,607千t増加し、増加率は+243.1%に達した。中国
は世界の増加分以上の増加を占めたのである。2008年
の北京オリンピック開催を控えて、2007年は前年比+
1,250千tの4,863千tに急増、対前年比増加率は34.6%
に達した。その後の2008年の四川大地震やリーマンシ
ョックに対しても、経済拡大政策により回復し、自動
車の補助金制度終了などにより2010年に一旦落ち込み
を見せたものの、2011年には再び増加に転じた。
この間、
世界に占める中国の割合も大きく増加した。
2002年に米国に代わって首位に立ち、それ以降米国と
の差は拡大一方である。中国の占めるシェアは2001年
には既に2桁の15.7%だったが、2011年には40.6%まで
上昇した。世界の消費量の半数近くを中国が占めるに
至っている。
(WBMSのデータに基づき作成)
図1-2. 世界の銅地金消費量と中国のシェア
2. 中国の主な銅製錬企業
中国の主な銅製錬企業の生産量推移を表1に示す。
「−」で示されている部分は実態のないもの、n.a.と記載
されている部分は入手できなかった数値を表している。
中国の個々の企業情報については、もともと入手し
にくい。これに加えて、
「中央企業商業秘密保護暫定規
定」
(2010年3月25日制定発効、国資発
[2010]
41号)
の制
定を受けて自主規制が進んでいる様にも見える。
これは、直接には制定の経緯は述べられていないが、
2009年7月に発生した豪リオティント社の4人の中国人
(内1人は豪籍、3人は中国籍)が、刑法219条に規定さ
れている
「不正な手段で中国の鉄鋼企業の商業秘密を
獲得した」という商業秘密侵犯罪への抵触及び贈収賄
に関わる犯罪嫌疑により上海公安局に拘束された事件
ののちに公布されたことから、このような事件に対応
したものとの見方もある。
「中央企業商業秘密保護暫定規定」は全34条から成
り、第一条で、その目的を
「中華人民共和国保守国家
秘密法と中華人民共和国不公正競争防止法に基づき、
中央企業の商業秘密を保護し、利益を侵されないこと
を保障する」として第十条で
「法により定める中央企業
の商業機密の保護範囲」が、
「戦略計画、管理方法、商
業モデル、制度改正による上場、合併再編、産業権交
26
2012.7 金属資源レポート
(122)
易、財務情報、投融資政策、調達販売戦略、資源備蓄、
顧客情報、株主招集当に係る経営情報などが含まれ、
設計、工程、産品配分、製造技術、製造方法などの情
報」と規定されている。また、これと同様の内容で、
中央企業に限定されない
「中国商業秘密保護指南」も広
く配布されている。
表1には各種の公開資料から抽出できた数値を一覧
として示している。上場企業に関しては業績報告の開
示が必要であり、これら資料に生産量が述べられてい
ることがあるが、必ずしも掲載されているとは限らな
い。
雲南銅業に関しては、最近は広東省にある広東清遠
雲銅の再生銅からの銅生産量は含まれていないが、こ
れが2001年から継続して同じベースであるか否かは不
明である。
また、注釈しているが、江西銅業の2011年生産量に
ついては、
「2011年年度報告」に、表1で採用した940千
tという生産量が、
「2011年生産陰極銅94万t」と明示
されている一方で、2012年1月9日に開催された江銅集
団第二回六次党代会では
「2011年は、はじめて100万t
を突破し、105万tとなった」
と報告されたとの報道も
ある。
表1. 中国の主な銅製錬企業の銅地金生産量推移
(単位;千t)
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
303.2
337.3
371.0
447.8
544.8
623.5
約650
718.6
813.6
854.4
江西銅業
217.4
231.6
343.1
415.0
421.6
443.4
553.6
702
802
900
940
雲南銅業
171.3
185.1
187.1
225.0
322.5
360.1
451.8
379.3
286.7
326.4
380.2
大冶有色
104.2
122.3
118.8
148.0
177.4
203.8
250.3
n.a.
360
314.3
n.a.
金川有色
41.9
68.0
102.8
131.0
161.0
205.4
243.9
289.9
367.1
360
520
白銀有色
64.0
60.2
62.0
63.0
77.5
75.8
71.3
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
烟台鵬暉
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
61.9
72.3
107.2
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
東営方円
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
75
140.4
180.3
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
寧波金田
-
-
-
41.5
100
122.1
134.6
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
山東金升
-
-
-
-
-
96.6
94.8
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
祥光銅業
中国計
生産の内再生
消費
-
-
-
-
-
-
11.0
n.a.
n.a.
n.a.
n.a.
1,523.3
1,632.5
1,836.3
2,035.1
2,583.4
3,003.2
3,499.4
3,794.6
4,051.3
4,540.3
5,196.9
300
380
430
580
750
1,020
1,136
1,196
1,300
1,620
1,811.3
2,307.3
2,736.9
3,083.7
3,200.3
3,639.1
3,613.8
4,863.4
5,148.9
7,085.8
7,385.4
7,914.6
(出典:2007年まで
「銅的市場分布」、夢想基金、2010.11
2009年
「三大銅業巨頭誰更具投資价値」、証券時報2010.7.9
2009年金川は
「購買澳洲鉱業股権祥光銅業拡大躍進」、21世紀経済報道2010.3.18
2008年は各社web 業績報告、金川は「2011年第一期中期票募集説明書」
2010年は各上場企業業績報告書(大冶は公司債券評級報告2011.7、金川は「2011年第一期中期票募集説明書」の1~9月を単純年換算)
2011年は各上場企業業績報告書(銅陵の2012年計画量は1,020千t、江西2011年は1,050千tという値もあり「銅業資訊2012年2月」)
生産と消費の計はWBMS Refined Production&Consumption 再生はICSG のSecondary)
(注記:銅陵には金隆、張家港を含み、江西・雲南はそれぞれ江西銅業股份・雲南銅業股份の値)
表1から分かることは以下のとおりである。
①江西銅業と銅陵有色の消費量増大に比例した生産
量の増加
②かつての大手企業の一角を占めていた雲南銅業、
大冶有色、白銀有色の相対的地位低下
③ニッケルが本業である金川有色の銅生産量の増加
④再生銅主体の民営企業である寧波金田などの最近
の抬頭
表1のデータを用いたグラフを図2-1と2-2に示す。
上位2社(首位と2位の変動はあるにせよ銅陵有色と
江西銅業)の占めるシェアは、前述したように、あま
り変化していない。同様に上位3社(上位2社に加えて
主に雲南銅業、最近は金川有色)のシェアを見ても安
定的な推移をしている。このことは、消費量の増大に
対して大企業の寡占化が進行したのではなく、大企業
間での対応力の差異による淘汰と、新規参入企業への
認可とが投資が適切に行われた結果と見られる。図
2-2の銅地金生産量に占める再生銅地金のシェアが右
上がりに増加していることからも裏付けられる。
図2-1. 中国の銅地金生産量と企業シェア
2012.7 金属資源レポート
27
(123)
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
2002年
242.6
レポート
2001年
銅陵有色
レポート
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
図2-2. 中国の再生銅地金生産量のシェア
3. 銅陵有色と江西銅業
3-1. 安徽省と江西省の特徴
銅陵有色はその本拠地を安徽省に置いている。江西
銅業は江西省の企業である。両省の中国の省区での位
置付けを表2にまとめた。図3には銅陵有色と江西銅業
の主な事業部門の所在地を示している。
表2から分かることは、色々な指標から見て、両省
とも特に大きな特徴を示さないことである。いわば平
均的な省である。ともに伝統的な景勝の地としても知
られ、かつては安徽省は文具産業、江西省は窯業が栄
えていた。だが、これも共に近代工業化をうまくキャ
ッチアップできず、華南の農業地帯にあって知名度の
低い平均的省区となってきた。
それだけに、世界に冠たる銅産業は両省にとっても
重要な産業となっている。
表2. 安徽省と江西省の中国内省区の位置づけ
人口
面積
人口密度
GDP
一次産業
二次産業
三次産業
穀物収穫量
採鉱業
自動車生産
万人
万km2
人/km2
百万元
百万元
百万元
百万元
万t
万社
万台
順位
8
22
9
14
9
13
16
5
14
8
安徽省
数値
6,135
13.96
439
12,359
1,729
6,437
4,194
2,911
0.31
118.9
%
4.7
1.5
−
3.1
4.3
2.9
2.4
5.9
3.0
6.5
注:省区数は31なので単純シェアは1/31=3.21%
順位
13
18
16
19
15
18
21
11
12
15
江西省
数値
4,400
16.69
264
9,451
1,207
5,123
3,121
1,870
0.41
37.3
%
3.4
1.7
−
2.4
3.0
2.3
1.8
3.8
3.9
2.0
一位省区
名称
数値
広東
9,544
新疆
165
上海
2,997
広東 46,013
山東
3,588
広東 23,015
広東 20,712
河南
5,207
河北
0.86
上海
169.9
最下位省区
名称
数値
西蔵
287
上海
0.63
西蔵
2
西蔵
507
西蔵
69
西蔵
164
西蔵
275
青海
57
上海
−
西蔵他
−
(出典:2011年中国統計年鑑ほか)
3-2. 銅陵有色と江西銅業の発展略史
安徽省に位置する銅陵有色と江西省に本拠地を置く
江西銅業の略史をそれぞれ、表3-1、-2に掲げる。と
もに10世紀以前から何らかの形で銅の採掘がはじまっ
ていた古い銅鉱業地域であったことがわかる。
もともとの
「銅陵」
という地名からも銅と因縁浅から
ぬことが推察できるが、銅陵有色の鉱山は第二次世界
大戦前から近代的採掘がはじまっている。なお、表中
の
「斉」
は中国の南北朝時代
(隋の前)
の南朝の斉のこと
である。1980∼90年代の国有国営企業改革を経て、
2000年に安徽省管轄に移行し、国が直接に保有する中
央企業ではなく、省が企業を保有する地方国有企業と
なっている
(なお、国有の
「有」は企業を保有する意で
あり、
「営」
は企業を経営する意)
。
一方、江西銅業もその歴史は唐・宋に る。だが、
図3. 江西銅業と銅陵有色の主な事業部門所在地
28
2012.7 金属資源レポート
(124)
480年頃
斉、正式に銅採掘精錬機構を設置
1940年
日本資本の華中鉱業公司、銅陵に銅官山鉱山設立
1945年
国民党軍、接収
1949年
銅官山銅鉱山の再建決定
1952年
再生産開始、銅官山鉱務局
1958年
安徽省下の銅官山有色金属公司成立
1962年
冶金部に属す
1965年
冶金部下で銅陵有色金属公司に改称
1985年
有色金属総公司に属す
1995年
銅陵有色金属(集団)公司に改組
1998年
国家有色金属工業局の傘下に再編
2000年
安徽省管轄に移管
2006年
銅陵有色金属集団控股有限公司成立、改組
唐・宋年間 徳興で銅採掘始まる
1956年
探査により大型斑岩銅鉱床発見
1958年
徳興銅鉱山設立
1979年
江西銅業集団公司成立
1982年
貴渓冶煉廠完成
1997年
江西銅業集団公司控股などが江西銅業股份有
限公司を成立させる
3-3. 銅陵有色と江西銅業の機構
3-3-1. 銅陵有色の機構図
銅陵有色金属集団股份有限公司を中心とした機構組
織図を図4-1に示す。なお、
「股份有限公司」は
「株式会
社 」、
「控股
( 有 限 )公 司 」は 持 ち 株 会 社
(Holding
Company)の意である。上場している場合は経営状況
の開示が必要とされるが、上場されていない場合はか
ならずしも必要ではない。
銅陵有色金属集団股份有限公司の支配企業はその
51.83%の株式を所有している銅陵有色金属集団控股
有限公司で、それを支配しているのは安徽省の国有資
産管理委員会である。銅陵有色金属集団股份有限公司
の下には分公司、100%子公司、資本参加企業などが
配され、集団
(グループ)
を構成している。主に銅を中
心とした鉱山、製精錬、加工企業と販売貿易などから
集団が成り立っていることが銅陵有色の特徴であると
もいえる。
(出典:2011年決算報告書による(子会社等は連結対象))
図4-1. 銅陵有色の機構組織
2012.7 金属資源レポート
29
(125)
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
表3-1. 銅陵有色の略史
表3-2. 江西銅業の略史
レポート
その鉱山が注目されたのは銅陵有色に比べるとごく最
近である。表には示されていないが、銅陵有色と同様
に、国家有色金属企業管理総局、中国有色総公司、中
国銅鉛亜鉛集団などに下属する国有企業から、江西省
に管轄が移され、江西省傘下の国有企業となっている。
早くも、1997年には香港上場の股份公司
(株式会社)
を
発足させている。なお、略史の出典は共に当該公司
Webである。
レポート
3-3-2. 江西銅業の機構図
江西銅業股份有限公司を中心とした機構組織図を図
4-2に示す。
「 控股(有限)公司」とは明示されていない
が、江西銅業集団公司が持ち株会社
(Holding Company)
であり、江西銅業股份有限公司が上場されている株式
会社組織である。
銅陵有色と同様、江西省の国有資産管理委員会が江
西銅業集団公司の100%を支配している。江西銅業股
份有限公司の下に直属分公司や100%子会社や資本参
加企業が並んでいる構図は銅陵と同様であるが、連結
対象となっている企業数の多さ、扱い鉱種や加工品目
が銅陵と比べてより広いと見られることが江西銅業の
特徴であるといえる。
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
(出典:2011年決算報告書による(子会社等は連結対象))
図4-2. 江西銅業の機構組織
30
2012.7 金属資源レポート
(126)
円に換算してみると
(2011年末のレートを12.2円/元と
す る )、 銅 陵 有 色 の2011年 売 上 高 と 営 業 利 益 額 は
863,040百万円、21,094百万円、江西銅業の2011年売上
高 と 営 業 利 益 額 は、 そ れ ぞ れ、1,435,220 百 万 円、
94,025百万円という、1兆円企業とそれに近い企業で
ある。
売上高
営業利益
営利率
税引前
利益
純利益
人員
百万元
百万US$
百万元
百万US$
%
百万元
百万US$
百万元
百万US$
人
2007年
37,038
5,071
1,547
212
4.2
1,555
213
1,272
174
銅陵有色金属集団股份有限公司
2008年 2009年 2010年 2011年
37,342
30,755
52,450
70,741
5,464
4,504
7,919
11,227
832
788
1,047
1,729
122
115
158
274
2.2
2.6
2.0
2.4
841
834
1,232
1,866
123
122
186
296
639
717
1,015
1,534
93
105
153
243
15,844
2007年
43,437
5,947
5,476
750
12.6
5,509
754
4,654
637
江西銅業股份有限公司
2008年 2009年 2010年 2011年
53,972
51,715
76,441 117,641
7,897
7,574
11,542
18,671
3,003
3,109
5,908
7,707
439
455
892
1,223
5.6
6.0
7.7
6.6
2,998
3,176
5,980
7,671
439
465
903
1,217
2,197
2,347
4,965
6,457
321
344
750
1,025
22,500
(各年度業績報告書から作成)
図5-1に、銅陵有色金属集団股份有限公司と江西銅
業股份有限公司の2007年から2011年にかけての売上
高、営業利益、同率の推移をグラフで示す。最近の銅
生産量では、2008年から江西銅業が銅陵有色を上回っ
ているものの、大きな差はない。しかし、売上高や利
益率では大きな差異が存在する。図5-1に掲げた対比
から分かるのは、最近の江西銅業の優位である。改め
てこの比較を単純化すると次のように表されよう。
銅生産量: 銅陵≒江西
売上高 : 銅陵<<江西
利益率 : 銅陵<<江西
図5-1. 銅陵有色と江西銅業の経営実績推移
2012.7 金属資源レポート
31
(127)
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
表4-1. 銅陵有色と江西銅業の経営実績推移-1
レポート
3-4. 銅陵と江西の経営実績比較-1
表4-1に公表されている銅陵有色金属集団股份有限
公司と江西銅業股份有限公司の経営実績の推移を2007
年から2011年について掲げる。
一覧して分かることは江西銅業が多くの面で銅陵の
1.5∼2倍以上の実績を計上していることであるが、そ
の年推移は同じような傾向を示している。なお、日本
レポート
3-5. 銅陵と江西の経営実績比較-2
表4-2に公表されている銅陵有色と江西銅業の経営
実績の内、更に、売上高とそれに占める銅関連製品に
ついて、2007年から2011年の推移を掲げる。
ここで、銅陵有色の銅産品とは「金等副産品」
「化工
及びその産品」
「その他業務収入」
以外の
「主営業業務収
入」の最も大きな部分を占める「銅産品」で報告されて
いる部分である。
江西銅業の銅産品には、
「銅カソード」
「銅ワイヤロッ
「 銅加工品」を含んでいる。た
ド(以下
「銅WR」と略)」
だし、表4-2の2007年については
「銅加工品」が分類さ
れてなく、2008年以降の「銅加工品」
が「銅産品」
に含ま
れているか否かは不明な点がある。また、江西銅業に
関しては、注にも示しているが、
「銅WR」は「銅産品」
の内数である。
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
表4-2. 銅陵有色と江西銅業の銅関連製品の実績推移
銅陵有色金属集団股份有限公司
売上高
銅産品
売上高
同上原価
同利益率
銅WR
売上高
銅産品比
百万元
百万US$
百万元
百万US$
百万元
百万US$
%
江西銅業股份有限公司
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
37,038
37,342
30,755
52,450
70,741
43,437
53,972
51,715
76,441
117,641
5,071
5,464
4,504
7,919
11,227
5,947
7,897
7,574
11,542
18,671
33,373
31,511
26,551
43,754
59,391
36,372
45,004
44,136
65,317
99,846
4,569
4,611
3,888
6,606
9,426
4,979
6,585
6,464
9,862
15,846
31,887
31,256
25,333
43,235
58,409
31,943
42,469
40,573
59,975
93,238
4,365
4,573
3,710
6,528
9,270
4,373
6,214
5,942
9,056
14,798
4.5
0.8
4.6
1.2
1.7
12.2
5.6
8.1
8.2
6.6
百万元
−
−
−
−
−
18,315
17,448
13,993
20,298
26,787
百万US$
−
−
−
−
−
2,507
2,553
2,049
3,065
4,251
83.7
83.4
85.3
85.4
84.9
%
90.1
84.4
86.3
83.4
84.0
*江銅の
「銅WR」
は
「銅産品」の内数
(各年度業績報告書から作成)
図5-2にこれらの推移をグラフで示している。これ
らから分かることは、江西銅業の銅産品の利益には銅
WRが貢献していることだ。全体の売上高と利益率の
2社間の差異に比べ、最近では、江西銅業について銅
WRを除くとその差異は縮小する。
表4-3に、表1に掲げた銅生産量との関連を示した。
前述したように、江西銅業から銅WRを除いた値での
銅生産量t当たりの売上高が銅陵の全体の売上高/銅生
産量tの値と接近している様が見て取れる。
図5-2. 銅陵有色と江西銅業の銅産品の売上高と利益の推移
32
2012.7 金属資源レポート
(128)
表4-3. 銅陵有色と江西銅業の銅産品の生産量対比推移
銅陵有色金属集団股份有限公司
江西銅業股份有限公司
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
銅産品売上高
4,569
4,611
3,888
6,606
9,426
4,979
6,585
6,464
9,862
15,846
銅生産量
623.5
650
718.6
813.6
854.4
553.6
702
802
900
940
7.3
7.1
5.4
8.1
11.0
9.0
9.4
8.1
11.0
16.9
銅t当り売上 S/t
−
−
−
−
−
2,507
2,553
2,049
3,065
4,251
銅WRを除く S/t
−
−
−
−
−
4.5
5.7
5.5
7.6
12.3
*S/tは銅t当り売上高
(各年度業績報告書から作成)
3-6. 銅陵有色と江西銅業の経営実績比較-3
ROA(Return on total asset)とは、企業による総資本
の効率的運用を表す指標で、総資産利益率と呼ばれ、
高いほど効率的な運用を示す。なお、ROAは以下の
式であらわされる。
ROA=当期純利益/総資産
図6-1に銅陵有色と江西銅業のROAの推移を示す。
江西銅業の資産運用が効率的であるとわかる。
ところで、ROAは次の式のように分解することが
可能である。
ROA=売上高純利益率×総資産回転率
そこで、銅陵有色と江西銅業について、それぞれ売
上高純利益率と総資産回転率に分解して図示すると図
6-2になる。これから、総資産回転率についてはあま
り差がなく、
どちらかと言えば銅陵有色が高い。一方、
売上高純利益率では江西銅業が銅陵有色を圧倒してい
る。既に、営業利益率でみた結果とも重複するが、江
西銅業のROAの資産運用の高い効率は、企業としての
付加価値率の高さに起因していることが推定される。
一方で、銅陵有色は、資産の回転率を高めることで
利益を創出していることが示唆されている。
図6-1. ROAの対比の推移
2012.7 金属資源レポート
33
(129)
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
銅WR売上高
レポート
(単位:百万US$、千t、US$/kg)
レポート
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
図6-2. 売上高純利益率と総資産回転率の推移
3-7. 銅陵と江西の経営実績比較のまとめ
これまで述べてきた銅陵有色と江西銅業の最近の業
績の差異とその背景となっている要因について以下に
まとめる。
①銅生産量は、最近は江西銅業が1社で約100万tとい
う数値を示しているが、銅陵有色との間で大きな差
はない。ともに中国の需要量に見合った設備増強の
もとに、シェアに大きな変化なく、対応している。
②売上高は江西銅業が大きく銅陵有色に対して水をあ
けている。銅WRの販売に占める大きさが江西銅業
の売上高の大きさに寄与していると見られる。売上
高に占める銅WRの比率は江西銅業
(2011年)が22%
に達しているのに対して、銅陵有色は恐らく10%未
満と推定される。
このことは利益にも貢献している。
なお、銅WRを含まない江西銅業の推定利益率と銅
陵有色全体の利益率比較がほぼ同じ値となることか
らも、この推定の確からしさがうかがわれる。
③銅陵有色は、資産の回転率を高めることで経営効率
を高め利益を創出している。銅在庫の回転率が、全
体で比べると、銅WR比率の小さなことも貢献して、
江西銅業より高い。しかし、反面で、自山鉱率の低
さもこの差異の背景として考えられる。江西銅業の
自 山 鉱 率 は2010年 と2011年 で、 そ れ ぞ れ19.1 %、
21.5%であったのに比べ、銅陵有色はそれぞれ、
5.8%、5.7%であった。
④江西銅業は銅にとどまらない多角化が最近の傾向と
してうかがえる。南方希土でも、四川省で存在感を
見せている。海外展開もアフガニスタン等早くから
積極的。また鉱種も拡大している。
⑤江西銅業の李貽煌董事長は2008年に第十一回全国人
民代表大会の代表にも選出されているが、2012年6
月には、中国共産党第十八回全国代表大会の江西省
34
2012.7 金属資源レポート
(130)
の代表委員42名の一人として選出されている。この
ように政治的影響力も江西銅業は大きいと推定され
る。中国の非鉄金属産業としては、Chinalco熊維平
総経理が2011年時点で全国人民代表大会の議員で中
国政治協商会議の委員。また、五鉱集団の周中枢董
事長は中国政治協商会議の委員であった。
3-8. 銅陵有色と江西銅業の2011年投資動向
表5-1に2011年の年度報告書から抽出した銅陵有色
の2011年投資状況を示す。この内、1は外部調達資金
によるものとされている。2∼5は
「権益性投資」、6以
降は
「プロジェクト投資」と分類されている。n.a.は年
度報告書に記載のない項である。
表5-1で2011年の銅陵有色の大きな投資は銅製錬設
備への投資で2010年から継続している。銅生産量の継
続的な増加の背景となっている。また、銅箔など関連
製品への増加も目立つ一方で、鉱山開発も継続されて
いる。
表5-2に2011年の年度報告書から抽出した江西銅業
の2011年投資状況を示す。表に掲げた以外に
「補充流
動資金」として166,360万元が計上されていて、これと
表5-2の2011年投資額小計を合算すると402,460万元と
な る。 一 方 で 同 報 告 書 で は2011年 の 投 資 総 額 が
405,514万元と示され、その差異が何によるかは不明
である。また、既に完工した項目についても掲載があ
る。
表5-2で目につく投資はアフガニスタンとカナダへ
の投資である。また、徳興銅鉱山、城門山銅鉱山、銀
山九区などの鉱山設備拡充や、銅WRや銅管設備新設
などの加工品分野への投資など幅広く投資が実践され
ていることが分かる。
表5-1. 銅陵有色の2011年投資動向
1
2
3
4
6
7
8
9
10
11
12
13
銅陵有色銅冶煉技術
銅陵金城銅業有限公司
句容市仙人橋鉱業有限公司
銅陵有色股份金翔物資有限責
任公司
銅陵有色金属集団上海国際貿
易有限公司
40万t双閃銅冶煉工程
安慶銅鉱山深辺部開拓
仙人橋採選工程
銅山鉱業公司深部資源開採プ
ロジェクト
冬瓜山60線以北開拓探鉱
大閉山-580米以下深採掘結合
安徽銅冠1万t高精度電子銅箔
その他
小計
2011年末
残高
備考
百万US$
万元
206.7 196,737 *1
79.4
90,740
5.0
8,517
130,228
50,000
3,159
銅原料
n.a.
4,000
6.3
10,000
銅精鉱
n.a.
1,066
1.7
1,246
517,800
37,200
10,752
108,283
6,646
4,142
171.9
10.5
6.6
134,331
23,910
12,957
10,571
93
0.1
16,894
11,700
7,500
78,400
4,310
209
32,173
57,183
401,492
6.8
0.3
51.1
90.8
10,939
1,763
32,309
43,794
*2
2011年投資額
万元
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
5
銅板帯
銅精鉱
投資計画
総額
万元
195,601
n.a.
n.a.
投資件名
レポート
番号
(出典:銅陵有色金属集団股份有限公司「2011年年度報告」からJOGMEC加工)
*1 残高欄に該当する数値は「累積投入金額」と表示されている、前年累計から2011年投資を逆算
*2 2011年残高=前年残+当年投資額-当年固定資産算入額
表5-2. 江西銅業の2011年投資動向
番号
1
外部資金調達による投資
2
3
4
5
6
7
8
9
10
内部資金による投資
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
投資件名
城門山銅鉱山二期拡張
採鉱選鉱量7,000t/日にアップ
永平銅鉱山;露天採掘を坑道採掘へ技術改造
地下開採資源量6,580万t 品位Cu0.59%
富家銅タングステン鉱山露天採掘技術改造
江西銅業冶煉余熱総合回収利用
江西銅業アノードスライム処理総合利用
江西銅業選鉱拡張
武山銅鉱山処理拡大技術改造
徳興銅鉱山採選拡大技術改造
日採選鉱量を10万tから13万tに拡大
アフガニスタンアイナック銅鉱山開発
中国冶金科工集団と連合、25%権益
カナダNorthernPeru社買収
五鉱有色金属股份と連合
5号鉱体深部開採
30万t銅冶煉工程
銀山九区銅金鉱山採選技術改造
武山銅鉱山尾鉱庫新建設
城門山銅鉱山劉家溝尾鉱庫
城門山銅鉱山東溝廃石場
東方新天地(深圳の商用ビル)
龍昌二期工程
新増 銅管生産量3.8万t/年
40万t銅WRプロジェクト
広東省曽城 新増
徳興60万t硫鉄鉱石プロジェクト
30万t銅冶煉工程
節水減排と廃水総合処理
泗州廠一段浮選系統改造
環境保護省エネ
保立広場 D棟 上海営業所ビル
小計
投資計画
総額
万元
2011年末
累計額
百万US$
万元
2011年投資額
万元
49,800
4,722
7.5
33,799
38,754
582
0.9
37,357
105,254
27,261
19,574
21,214
25,732
1,709
2.7
備考
13
0.0
89,576
25,133
10,013
18,687
25,037
258,000 22,965
36.4
196,916
120,000 41,273
65.5
47,086
130,000 24,000
38.1
130,000
13,000 3,329
309,953 3,805
55,000 37,547
32,778 8,959
31,831 11,889
19,707 3,124
30,149 29,654
5.3
6.0
59.6
14.2
18.9
5.0
47.1
10,869
266,560
55,000 *1
19,011
18,780
12,415
29,292 *2
102,448 10,579
16.8
2008年竣工
2010年竣工
2010年竣工
2011年完工
13,318
43,000
9,523
15.1
9,460 *2
33,318
13,656
19,050
15,807
31,700
60,058
9,409
6,604
2,675
1,195
1,192
1,352
236,100
14.9
10.5
4.2
1.9
1.9
1.9
9,329 *2
7,101
2,730
5,849
1,268
60,058
*1 AR本文では投資計画額550,000という数値もあり。 (出典:江西銅業股份有限公司「2011年年度報告」からJOGMEC加工)
*2 2011年投資額より累計投資額が少ない、理由不明
2012.7 金属資源レポート
35
(131)
4. 2012年の中国の銅需要見通し
レポート
中国銅企業の動向─銅陵有色と江西銅業─
中国国土資源部は2012年2月24日、2012年を
「中国鉱
業昇龍の年」と展望し、次のような見通しを述べてい
る
(2012/2/24
「中国国土資源部」
)
。
・中国内の非鉄金属鉱山の生産量は明らかに増加し、
資源保障能力は高められている。
・中国の非鉄金属産業は、粗放な拡大路線から、バラ
ンスのとれた産業発展へ転換しつつある。産業構造
変換が今まさに進んでいる。
・2012年を展望すると、民間消費能力の上昇に伴い、
中国内の非鉄金属需要は新たな増加過程となってい
る。
中国の銅需給のこれまでの推移と2012年見通しを
2011年末の時点でまとめたものが表6である。銅需要
の最近の見通しについては2011年末から強気弱気が交
錯し始めている。
表6. 2008年〜2012年の中国の銅生産量と消費量
(単位:千t)
生産量
消費量
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
3,780
4,110
4,560
5,270
5,750
4,900
5,600
6,800
7,380
7,850
(出典:中国安泰科(2011.12年は2011/11/3報道による))
企業は強気の見通しを示していた。
・2012年の銅需要量は昨年比6%増加―銅陵有色の韋
江宏董事長(2012/3/9
「人民網」
)
・不確定ながらも2012年銅は7%の増加―江西銅業の
李胎煌董事長(2012/3/6
「ロイター中国語版」
)
・2013・2014年の銅成長率、6∼7%/年―世界的電線
ケ ー ブ ル メ ー カ ー Nexans SA の S.Tanudjojo 会 長
(2012/2/28
「有色金属報」
)
・都市軌道交通、2011年12都市1,600km→2015年28都
市3,000km。この期間1.2兆元投資
─
「2012年 中 国 社 会 形 成 分 析 と 予 測 」社 会 青 書
(2011/12/21
「上海有色金属網」
)
一方で2011年末からの動向は短期的には弱気、2012
年上期に至り景気動向を危惧する指標も多くなり始め
た。
・2011年10月、空調、電線など生産量低下。電線生
産量2カ月連続して下降。稼働率90%→80.7% 36
2012.7 金属資源レポート
(132)
(2011/12/8「製冷快報」
)
・8割の銅板条箔社、1月は減産(2012/1/17「 上海有
色金属網」
)
・中国電力企業連会は2012年の全国電力消費の増加
率は2ポイント減少かと発表
(2012/1/17「新華網」)
・2012年1月の中国のエアコン生産、昨年同期比で
は45.5%減少。銅管にも影響か。
(2012/2/28「 上海
有色網」
)
・送配電網建設、前年と同等か。銅WR稼働率3月
上旬70%
('11年同期80∼90%)
。銅管稼働率2月
70.64%(同80%前後)
(2012/3/15「証券時報」
)
5. まとめ
銅陵有色と江西銅業は、冒頭でも述べたように、中
国を代表する銅生産者である。この2社について、公
開されているWeb情報を基に、その動向を調査し概観
した。だが、このような方法では入手できない情報も
まだ多い。例えば、それぞれのグループの上位集団で
ある銅陵有色金属集団控股有限公司や江西銅業集団公
司の動向などである。投資などはこれら持ち株企業が
采配している場合も多いと思われる。
限られた中での、不十分な分析ではあるが、銅陵有
色と江西銅業の2社の比較では、江西銅業の優位さが
目についている。だが、経営の拡大は当然のことなが
らリスクの増大も伴うものの、こうしたリスクはなか
なか限られた情報からは得られないのも実情で、広い
目で見てどのような優位さが存在しているかは俄かに
は言及できないともいえる。
なお、2012年第2四半期に至り、中国経済がこれま
での堅調さを維持できなくなっているのではないかと
いう情報も多くなっている。
このような背景の下では、
銅の需要構造もおのずから影響を受け、ここで予想し
ている状況も容易に変化し得る。細かいフォローと分
析が求められる状況は、中国の銅産業についてもます
ます増加している。
さらに、中国の銅生産に関しては、このような公開
情報が得にくい他の銅生産者の占める割合も更に増大
しつつある。これらへの対処も含め、丹念な動向調査
に努めたい。
以上
(2012.6.18)