バイオマスガス化技術の効率化に向けた新型ガス化炉の設計プロジェクト Design project of new-style gasified furnace for the efficiency of biomass gasification technology 応用生体工学研究室 13ME201 岩田 脩平 指導教員 藤野 毅 准教授 関連組織 株式会社高橋製作所 In recent years, the technology to produce energy gas by making gas out of biomass materials has been getting attention because of issues such as reduction of CO2 and fossil resources. However, it is a problem that trouble by tar and produced gas are low in calories. The purpose of this project is to design and evaluate a new type of gasification furnace to produce gas containing high-calorie hydrogen than normal without getting tar inside the furnace. 1. プロジェクト概要 近年、CO2 の排出削減や化石資源の問 題からバイオマスをガス化することによ りエネルギー用ガスを製造する技術が注 目されている。しかし、タールによるトラ ブルや生成ガスが低カロリーである事が 問題である。本プロジェクトの目的はター ルがガス化炉内に混入せず、高カロリーな 水素を従来と比べ多く含むガスを生成す ることの出来る新型ガス化炉設備を設 計・評価することにある。 ガス化反応により水素成分がリッチな生 成ガス(理論上水素 60%)が発生する。これ までに開発されてきた水性ガスの発生す るガス化炉の水素濃度は約 20~40%ほど である。 2. 装置概略 図 2.1 にTSハイブリッドバイオマス発 電設備フローを示す。この設備ではタール の発生を完全に抑制するために二段階ガ ス化方式 1)が採用されており、炭化炉と熱 分解ガス化炉を分けた構成になっている。 チップ化された原料のバイオマスは乾燥 器に入り、含水率を 15~20%ほどに調節し てから縦型流下式連続高速炭化炉に投入 され、高炭素密度状態の炭化物になり排出 される。ガス化炉に入った炭化物から水性 図 2.1 TSハイブリッドバイオマス 発電設備フロー 表 2.1 既存水性ガス発生炉の水素濃度一例 会社/団体名 中外炉工業 中国電力 化学繊維研究所 進捗段階 水素濃度 備考 実証実験段階 40% ロータリーキルン式 試験段階 25% 水素製造専門 実証試験 25% 小型流動床 2.1 縦型流下式連続高速炭化炉 木質バイオマスを加熱すると 110℃付近 で水分が蒸発し、ヘミセルロースが約 200 ~260℃,セルロースは 240~340℃,リグニ ンは 280~500℃で分解する。対象の試料 により組成が異なるのですべてに当ては まるわけではないが、モデル式の一つを下 記に示す。 この熱分解反応はすべてのバイオマス 原料において同様に生じ、従来型の炭化物 には多くのタールが含まれる。現在、日本 で多く用いられている炭化装置は炉の熱 効率が高いロータリー方式であり、原料を 約 1 時間滞留し、その間 450℃程度で加熱 され炭として排出される。それに対して縦 型流下式連続高速炭化炉は伝統的な炭の 製造方法である炭窯式に基づいて設計さ れており、炭化のみならず精錬作業を行う 事で高い炭素密度を実現できる。 図 2.2 に縦型流下式連続高速炭化炉の概 略図を示す。炭化炉は直径 1m,高さ 2.5m のステンレス製円筒本体を備え、上部から 乾燥したバイオマスを投入する。炭化炉本 体上部には熱分解中のバイオマスから発 生する可燃性ガスを燃焼させる燃焼ゾー ン(800~1,000℃)があり、タール分はここ で燃焼処理され、燃焼排ガスは後述の熱分 解ガス化炉の熱源にされる。炭化炉下部に は本体の内径よりも小さな蓄熱体を配置 し、蓄熱体上部と炭化炉本体の側壁によっ て構成される空間にてバイオマスを燃焼 させる燃焼炭化ゾーン、その燃焼熱により さらなる高温で炭化する精錬ゾーン、およ び不燃状態を作り炭化物を消火する不燃 ゾーンの3つのゾーンにより構成される。 また、蓄熱体は図 2.3 に示すように内壁と 空気供給口を備えた外壁を有する二重構 造であり、間に形成された予備加熱室を介 して空気を燃焼炭化ゾーン、精錬ゾーンに 供給する。予備加熱室はバイオマスの燃焼 熱により高温状態となっており、蓄熱体本 体はターンテーブルにより常に回転して いるため高温の空気を万遍なく供給でき、 これにより燃焼温度を均一にでき、精錬時 間を調節する事で炭の含有率を上げる事 が出来る。また、ターンテーブルの回転に より消火ゾーンにおいて炭化物は適度に 粉砕され、粒径の調節が出来る。 なお、本炭化炉は運転の初期において灯 油の投入により原料を燃焼させる必要が あるが、一度燃焼が安定するとその後、連 続的に投下される原料により自動的に燃 焼熱が得られるため外部燃料は不要とな る。電力もターンテーブルの回転のみなの でほとんど使用しない。 図 2.2 縦型流下式連続高速炭化炉の概略 図 2.3 蓄熱体断面(赤い矢印は空気の流れ) こうして生成された水性ガス中のガス組 成は理論上 H2:60%,CO:20%,CO2:20%と され本ガス化炉では炭化炉において高密 度の炭素が得られるため理論値に近い水 素が得られると期待される。同様に水性ガ スを得る既存の方法では高くとも水素 40%)2 程度であり、本システムの優れた点 であるといえる。また、本システムでは、 前述の炭化炉において発生する燃焼排ガ スをガス化炉の熱源として利用するが、燃 焼排ガスと水性ガス発生管が異なるため に微量のタールが発生しても混ざらない 構造となっている。 炉内では吸熱反応とシフ ト反応を繰り返す。 写真 1 縦型流下式連続高速炭化炉(実証機) 熱分解ガス化炉 2.2 熱分解ガス化炉 前述炭化炉で十分に炭化が進んだ原料は 次に熱分解ガス化炉に運ばれる。そこで水 蒸気をガス化剤として炭化物から水性ガ スを生成する。熱分解ガス化炉内では周り の熱を吸収して、その熱を反応に使う第一 段階の反応として吸熱反応、 C+H2O → CO+H2 (4) が生じ、炉内が高温状態であるためにシフ ト反応として CO+H2O → CO2+H2 (5) が生じる(図 2.4)。 図 2.4 熱分解ガス化炉内の反応プロセス 概略図 4.灰化が終了したら灰化容器を取り出し、 最初は冷たい金属板の上で 10 分間、次に デシケーター中で 15-20 分間冷却する。 5.冷却後、直ちに質量を 0.1mg まではかる。 = × 100 (6) Aad:試料中の灰分(%) M1:灰化後の容器と 試料の質量(g) M2:容器の質量(g) M0:試料 の測りとり量(g) 写真 2 熱分解ガス化炉(実証機) 3 実証実験結果 実証実験は原料処理 200kg/h の規模で 設備を建設し様々な原料で行った。以下に その結果を炭化炉・ガス化炉別にまとめる 3.1 縦型流下式連続高速炭化炉の実証実験 結果と考察 実証炭化炉では各原料で 20%前後の炭 化物収率(投入原料に対する炭化物の重量) が得られ、CHN コーダー(ヤナコー社製 MT-5)による各種炭化物の元素分析結果 (炭化炉内温度 900~1,000℃)ではいずれも 80%以上の高い炭素含有量を示した(表 3.1)。ここで、灰分は JIS M 8812 石炭類 及びコークス類―工業分析方法に基づき、 以下の手順で測定している。 1.あらかじめ恒量にしてある灰化容器に 試料をはかりとり、薄く広げる。 2.室温の電気炉の、あらかじめ確認してあ る均熱帯に灰化容器を挿入する。 3.炉の扉を少し開け電気炉に通電し、約 60 分かけて 500℃まで昇温し、その後 30-60 分かけて 815℃まで昇温して恒量となる まで 815±10℃に保持する。※保持時間は 通常1時間。 また、炉内温度が炭化にどのように影響す るかを調べるためにターンテーブルの回 転速度を調節しながら徐々に炉内温度を 上げていき逐次炭化物を取り出し元素分 析を行った(表 3.2 と表 3.3)。この結果、林 地残材・建築廃材ともに水素と窒素の割合 は炉内温度によって変化なく、炭素割合は 増加し、灰分の割合はいったん上昇後、 900~1,000℃の高温付近で大きく減少す る傾向があることが分かった。さらに、広 葉樹と針葉樹のチップおよび炭化物につ いてその灰分の分析を蛍光 X 線分析装置 (Philips 社製 PW2400)で行ったところ、 チップでは広葉樹、針葉樹共に K が 10% 前後で広葉樹は Ca が針葉樹は Ar の割合 が多い(図 3.1)。 木の主成分はセミロース、 ヘミセルロース、リグニンの 3 種類であり、 樹種によらずこの3つで 90%に達する。副 成分としてはカリウム、カルシウムなどの 無機成分が多く含まれ、一般的に広葉樹の 方が無機成分は多く含まれる。また、Ar は空気中に約 1%存在する元素であり樹木 内部にも空気と共に含まれており、測定結 果に影響したものと考えられる。炭化物で は広葉樹で主成分として Ca が約 54%、針 葉樹では Fe が約 41%含まれる事が分かっ た(図 3.2)。広葉樹・針葉樹共に K、Ca の 割合が少し減少し、Fe をはじめとした金 属元素の割合が増えている。これは炭化の 過程で反応に寄与することなく残った事 と、炭化の過程で木材中の空気が抜け、ア ルゴンの割合が大きく下がったために相 対的に割合が上がったものと思われる。 表 3.1 炭化物の元素分析結果 炭素(%) 灰分(%) 水素(%) 窒素(%) 広葉樹炭 85.4 7.1 0.1 0.6 針葉樹炭 86.7 3.6 1.1 0.6 建築廃材炭 87.3 7.4 0 0.8 パームヤシ炭 81.2 10.7 0.4 0.4 ペレット炭(マレーシア産) 84.7 5.8 0.9 0.7 表 3.2 林地残材の炉内温度変化による炭化影響 林地残材 炭700℃ 炭800℃ 炭900℃ 炭1000℃ 炭1100℃ C (%) 49.54 74.35 76.61 73.98 83.04 86.28 H (%) 6.13 0.24 0.55 1.52 0.53 0.43 N (%) 0.24 0.44 0.53 0.33 0.31 0.21 灰分 (%) 0.65 14.1 15.19 10.71 4.64 6.16 表 3.3 建設廃材の炉内温度変化による炭化影響 建設廃材 炭700℃ 炭800℃ 炭900℃ 炭1000℃ 炭1100℃ C (%) 49 73.2 84.21 85.71 87.27 85.86 H (%) 5.98 1.17 1.18 0.74 0 0 N (%) 0.41 0.65 0.87 0.84 0.84 0.77 灰分 (%) 0.94 19.89 6.68 8.05 7.43 7.86 図 3.1 広葉樹・針葉樹チップの灰分分析結果 (単位%) 図 3.2 広葉樹・針葉樹炭化物の灰分分析結果 (単位%) 3.2 熱分解ガス化炉の実証実験結果 と考察 実証実験の結果、ガスクロマトグラフに よる分析により発生した水性ガス中に水 素が約 60%含まれる事を確認した。また 200kg/h の投入量で水素が約 80Nm3/h 発 生し、その水性ガスによって約 80kwh の 発電を行うことが出来た。炭化物収率 15.5%、熱分解ガス化炉の反応効率 60%で 当初想定していた水素発生量は 86.84Nm3/h、発電量は 100.702kwh だっ たので水素に関しては理論値の約 92%と 近い発生量を確認できたが、発電量は 79% と落ち込んだ。水素の発生量に対して発電 量が 13%近く下がったのは発電に使用し たガスタービンエンジンの発電効率が想 定より低く出たためだと思われる。水性ガ スは水素と一酸化炭素が主成分である(発 熱量約 1,000kcal/Nm3)なものなので、発 電として利用していくためにはガスター ビンエンジンのチューニングもしくは蒸 気タービンと組み合わせた複合型の発電 システムを考える必要があるとこの結果 からも考えられる。 表 3.4 広葉樹チップのガス化実験結果 4 まとめと今後の課題 実証実験の結果、縦型流下式連続高速炭 化炉を用いて木質バイオマスを高い純度 で炭化出来きた(図 4.1 にて炭化物の元素 分析結果から高位発熱量を求め、既存の化 石資源と比較した。本炭化炉で製造された 炭の優れた発熱量がわかる)。その炭化物 を用いて熱分解ガス化炉より理論値に近 い水素発生量を確認した。また、実証炉系 内にタールの発生は認められず、運転初期 に必要とされる灯油の量も 40L 前後と長 期運用の場合にメンテナンスが容易かつ、 環境負荷が少ないことも確認できた。しか し、いくつか課題も見えたのでそれら課題 と考えうる解決方法を表 4.1 にまとめた。 まず、ガス化炉排気ガスの利用は熱の有 効利用を考えるうえで非常に重要である。 今回の実証機で生産されるガス化炉排ガ ス は ガ ス 温 度 650 ℃ 、 ガ ス 容 積 約 826Nm3/h、熱量約 160,000kcal/h にもな る。この排ガスは原料の乾燥に利用すると して考えてはいるが、今回の実証実験では その実験は行わなかった。含水率 50%の木 材を 20%に乾燥する際に必要となる熱量 は 184kcal/kg13)なので 200kg/h の原料を 乾燥させることを考えると必要量は約 37,000kcal/h である。つまり原料の乾燥に 利 用 す る も の と 仮 定 し て も 約 122,000kcal/h もの熱量が余るのである。 この利用法として、蒸気タービンを併用し 発電効率を上げる事は有益であると考え られるが、建設コストおよび維持管理費が かさむ為、慎重な検討が必要となる。また、 水素の発生量と発電効率の向上のために は炭化物収率を上げる事も重要である。従 来の知見より炭化温度が高くなるほど炭 化収率は下がる傾向にある。炭化効率を落 とさず、炭化収率を理論値に近づけるため には炭化炉の温度をこまめに調節してい く必要があるが、現状ではターンテーブル の回転速度と吹き込む空気量を現場スタ ッフの方が手作業により調節しながら温 度を調整しており、細やかな調節は難しい。 ターンテーブルの回転数と空気流入量に ついて細かくデータを揃え、最適な条件を 見極める必要がある。 次に本システムは純度の高い炭にさえ できれば、木質バイオマス以外の廃棄物系 バイオマスから水素製造及び発電を行う 事が可能であるため、多様な組成を持つバ イオマスへの対応として今回行ってきた 木質系バイオマスと同様に炭化物や出力 ガス成分の検証が必要である。なお、本シ ステムは炭化炉での処理温度が 1,000℃で あり、タールをはじめとした各種不純物の 除去やアスベストなどの毒性部室の無毒 化を実証しており農業系バイオマス(稲わ ら、籾殻)だけでなく水分の調節さえでき れば畜産系バイオマス(ブロイラー鶏糞、 豚糞など)も無臭で処理し有効活用する事 が出来る。 図 4.1 各種炭と原料の高位発熱量比較 表 4.1 課題と想定される解決方法 課題 解決方法 ガス化炉排気ガスの有効利用 高含水率バイオマスの乾燥利用及び蒸気ガ スタービンの併設による発電効率の改善 炭化物収率の向上 炭化炉内温度の細かな調整方法を確立 炭化炉とガス化炉間の熱需要 加熱水蒸気の温度制御によるガス化炉内温 最適化 度制御 木質バイオマス以外への対応 様々な種類のバイオマスに対して製造され る水性ガスの特性把握により制御因子をつ かむ 発電効率の改善 ガスタービンの低カロリー用チューニング 及び蒸気ガスタービンの併設 参考文献 1) 小島康夫:木質系廃棄物利用による気体燃料生産,ケミカル・エンジニアリン グ,PP.135-139,2008 2) 谷口美希,西山明雄,笹内護一:ロータリーキルンを用いたバイオマスガス化システムの現状 と展望,日本エネルギー学会誌 91(10),pp1024-1029
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