4. 砂止潜堤による覆砂材の流出低減技術 4. 砂止潜堤による覆砂材の流出低減技術 4.1 技術の概要 本技術は、波浪条件が厳しく、覆砂材やアサリが流され漁業へ影響を及ぼしている漁場 に対し、小規模な構造物(以下、 「砂止潜堤」と表記)を用いることによって覆砂材やアサリ の流出を防ぎ、生息に適した生息基盤を確保するものである。 【解 説】 背景 強い波浪を受ける環境では、覆砂によりアサリ漁場を造成しても、覆砂材が次第に流出 していく。これに伴い、漁場のアサリ分布密度が低下する。このような問題に対処すべく、 アサリの生息基盤となる覆砂材およびアサリの流出を低減させる対策が求められる。 技術の特徴と主な効果 本技術の特徴は、覆砂区の沖側と岸側に複数列の砂止潜堤を配置することによって覆砂 材やアサリが覆砂域の外に流れ出ていくことを低減させることにある(図 4-1、図 4-2)。 主な効果としては、波浪条件が厳しい海域においても覆砂によるアサリ漁場造成が可能と なることである。なお、ここで取り扱う砂止潜堤とは、人工海浜や人工干潟などの土留め 堤や消波を目的とした潜堤とは機能が異なる。 一般に、覆砂材の流出を低減する対策としては、消波堤などを設置して背後に静穏域を 作る手法が用いられている。しかし、アサリ漁場造成において消波堤などの構造物を設置 すると事業コストが高くなる。 覆砂材やアサリの流出を低減させる小規模な構造物(砂止潜 堤)を導入することによりコスト低減を図ることが可能となる。 沖側 岸側 海面 砂止潜堤がないと覆砂材が流され漁場とならない 波の進行方向 覆砂材 砂止潜堤によって覆砂材の流出を抑制しアサリ漁場となる 波の進行方向 アサリ 漁場 アサリ 漁場 砂止潜堤 覆砂材 図 4-1 砂止潜堤の効果(概念図) - 97 - - 97 - 砂止潜堤 沖側 砂止潜堤 覆 砂 覆 砂 砂止潜堤 覆 砂 岸側 平面図 断面図 図 4-2 砂止潜堤を用いたアサリ漁場の平面図と断面図(例) 4.2 適用条件 砂止潜堤を用いたアサリ漁場造成の適用は、砂止潜堤によって覆砂材の流出が低減され ることと、アサリ生息場所として適性があることを条件とする。 【解 説】 通常、潜堤などの海岸構造物は消波による砂浜の侵食防止を目的として設置されるが、 砂止潜堤は、覆砂材の流出を低減させることを目的として設置する。したがって、潜堤構 造では覆砂材の流出を低減できない波浪条件が存在するため、本技術の適用は、覆砂材の 流出が抑えられることと、アサリ生息場所としての適性を条件とする。 4.2.1 覆砂材の流出が抑えられる条件 砂止潜堤によって覆砂材の流出が低減される波浪条件としては、底質のシールズ数など を参考に判断する。 【解 説】 図 4-3 に砂移動の形式について、シールズ数(「4.3.2 設計(2)シールズ数の算定」参照) と浮遊砂移動距離を代表するパラメータ(ub/w)によって整理した結果を示す 1) 。柴山ら (1982)によると砂移動の形式を、波によって砂が移動しない場合(図中 0 の範囲)から砂が 層状に移動するシートフローの状態(図中 4 の範囲)まで 5 段階に分けている。砂止潜堤を 採用できる条件としては、高波浪時における覆砂材の移動形態が浮遊移動(図中 3 の範囲) になるような海域が想定される。砂止潜堤は潜堤を配置することによって覆砂材の流出を 低減させる機能がある。よって、潜堤を設置しなくても砂の移動がない、あるいは少ない 場合(図中の 0~2)は、砂止潜堤の設置は基本的に必要がない。また、砂が層状に動くシー - 98 - - 98 - トフロー(図中 4)のような波浪条件の場合には、砂の移動量が大きくなり潜堤は機能しな いことが考えられ、それ以外の対策(例えば消波堤等)が必要となる。 0:移動なし 000:移動なし 11:掃流形式 11:掃流形式 b/w uub/w 浮遊砂移動距離のパラメータ 浮遊砂移動距離のパラメータ (底面流速振幅/底質沈降速度) (底面流速振幅/底質沈降速度) 22:掃流・浮遊混合形式 22:掃流・浮遊混合形式 33 44 10 8 33:浮遊形式 33:浮遊形式 潜堤以外の対策が必要 潜堤以外の対策が必要 潜堤必要なし 潜堤必要なし 00 11 22 6 =1.7m、T =4.8s s 1/3 1/3 HH =1.7m、T =4.8 1/3 1/3 H.W.L+5.5m、地盤高 +5.5m、地盤高+1.5m +1.5m H.W.L (多比良地先における3年確 (多比良地先における3年確 率波で検討した例) 率波で検討した例) 4 2 44:シートフロー形式 44:シートフロー形式 0.02 0.04 0.04 0.02 0.1 0.2 0.2 0.1 0.4 0.4 1.0 1.0 シールズ数 シールズ数 図 4-3 砂の移動とシールズ数との検討事例 4.2.2 アサリの生息に適した条件 アサリ生息環境としての適性が条件となる。特に、砂止潜堤によるアサリ漁場造成では、 潜堤と潜堤の間で覆砂材が移動するので、覆砂域の高さが変化する。よって、覆砂域の高 さがアサリの生息範囲内に収まるよう留意する。 【解 説】 始めに、アサリの生息環境として、底質、水質、流況、地盤高等について調査し、造成 場所がアサリの着底や生息に適した条件であることが必要である。 次に、砂止潜堤は覆砂材の移動を完全に抑えることはできないために、次第に堤間で堆 積と侵食がおこり、地盤の高さに変化が生じる(図 4-4)。よって、地盤高は、造成後の堆 積や侵食による高さの変化も考慮し、アサリの生息に適した範囲内に収まるように設定す る。アサリの生息適地は、一般的に大潮時の干出時間が 3 時間以内 2) とされることから、 3 時間以内の場所を適地とする。また、造成後の堆積や侵食によって覆砂域がアサリ生息 範囲を超える場合は、維持管理対策(「4.4 維持管理」参照)を実施することが望ましい。 沖 維持管理対策 堆積 アサリ生息範囲(上限) 侵食 砂止潜堤 覆 砂 砂止潜堤 堤 間 図 4-4 覆砂面の高さとアサリ生息範囲の関係 - 99 - - 99 - 岸 4.3 実施方法 4.3.1 計画 砂止潜堤の計画時には、既存資料や現地の漁業実態、環境条件などの必要な情報を収集 する。 適用時には条件に基づき、砂止潜堤の配置(長さ、間隔、列数)を検討する。 【解 説】 以下に述べる(1)既存資料の収集、(2)漁業実態、(3)計画地点の環境、(4)経済性の検討 の項目にしたがって計画する。 (1) 既存資料の収集 覆砂の設計を行うために、隣接海域で施工された覆砂工事の状況、波高、風向風速、潮 位、水深図、流れ、底質などの情報を収集し、覆砂工設計のための基礎資料とする。 (2) 漁業実態 計画地点および周辺海域での漁業や漁場利用を確認する。特に、アサリ漁業と、漁場を 共同利用するノリ養殖業などの操業場所、操業時期、および漁法などを確認する。 (3) 計画地点の環境 計画地点での波浪、流況、地形条件(地盤高、潮位)を調査し、後述する設計波やシール ズ数を算定するための参考資料とする。また、底質(強熱減量、COD、全硫化物)、水温、水 質(塩分、溶存酸素濃度、硫化水素)、および地盤高などが、前述の「適用条件」を満たし ていることを確認する。 (4) 経済性の検討 砂止潜堤の計画にあたって、覆砂材の流出低減効果の検討のほか、経済性の検討も必要 である。砂止潜堤を設置した覆砂域でアサリを対象として利用する場合、漁獲販売を目的 とする場合と、資源管理(資源保全、増大)を目的として利用する場合が考えられる。資源 管理を行い、将来にわたってアサリ漁場を継続的に利用していくためには、親貝保護区や 稚貝生産場などとしての利用も考えられる。 経済効果は、 「水産基盤整備事業費用対効果分析のガイドライン」3)などに基づき算定す る。 - 100 - - 100 - 4.3.2 設計 設計では、施工方法、経済性を考慮して、造成地の地盤高と底質が安定化し、長期間に わたり増殖対象種の好適な生息環境が維持されるように、波浪、潮位、底質などの自然条 件を定める 4) 。 【解 説】 砂止潜堤の設計の基本的な考え方、設計の手順など、「漁港・漁場の施設の設計の手引 (2003 年版) 」4) および「漁港・漁場構造物設計計算例」12) にまとめられており、これら既 往の指針を参照する。 なお、有明海の干潟域は毎年 9 月ごろからノリ漁場となり支柱が立てられるので、ノリ 漁場が施工区と重複しないことを確認しておく。砂止潜堤の配置場所は、ノリ支柱の設置 の障害とならないように、漁業関係者と共に十分に検討して決定する。 (1) 設計波の算定 設計波の算定は「漁港・漁場の施設の設計の手引(2003 年版)」4) に準拠する。設計位置 での換算沖波波高を基に「浅水における波の特性図」4) と「水深による波高変化図」4)を用 いて設計波高を算定する。 設計波高算定手順の概要を図 4-5 に示す。 風データ 確率風速 風域(有効フェッチ) 波浪推算 設計沖波 屈折、回折 換算沖波波高(Ho') 水深による波高変化 設計位置での波高 (設計波高) 図 4-5 設計波高算定フロー - 101 - - 101 - (2) シールズ数の算定 覆砂材の底質シールズ数を算定し、覆砂材の移動形態を推定する。覆砂材の移動の目安 としては、シールズ数が 0.043 未満で移動なし、0.1 を上回ると浮遊移動が始まる 2)とさ れている。また、アサリ生息条件との関係では、シールズ数が 0.20 以上でアサリの残存率 が低下する 4)ことが示されている。したがって、覆砂材の移動が小さく、アサリの生残に 影響をおよぼさない範囲は、シールズ数として 0.20 以下が求められる。ただし、砂止潜堤 を用いたアサリ漁場造成では、潜堤による効果もアサリ漁場へ含まれることから、計画地 点におけるシールズ数と、そのシールズ数に対する効果を把握した上で検討する必要があ る。 (3) 覆砂材の粒径および覆砂厚 覆砂材の中央粒径は、アサリの成育に適したものを用いる。具体的にはアサリの着底が ピークである粒径 1mm~2mm 程度の極粗砂もしくは小礫を覆砂材として用いることが望ま しい 11) 。 覆砂厚に関しては、 「漁港・漁場の施設の設計の手引(2003 年版)」4) を参考に決定する。 (4) 砂止潜堤設計のための数値シミュレーションまたは水理模型実験 砂止潜堤の設計では、波浪や流況などの条件に対し、砂止潜堤が十分な機能を発揮でき るよう、潜堤の高さ・長さ、設置間隔、列数などを適切に設定する必要がある。これらの 設計要素と海域条件や海底勾配との関連は十分に解明されていないため、可能であれば、 漁場造成する現地の条件にて数値シミュレーションや水理実験(図 4-6)を行い、これらの 最適値を決定することが望ましい。水理実験の実施例をコラム②に示す。 造波板 消波材 砂止潜堤 底質 図 4-6 水理模型実験(二次元造波水槽)の模式図 (5) 設置間隔 砂止潜堤は、潜堤によって覆砂材の流出を低減させることを機能としているため、設置 間隔を決める上では、現地で想定される波(設計波)との関係を把握して決定する必要があ る。水理実験における検討事例をコラム②に示す。実験では、設置間隔が 1L(1 波長)では ほとんど効果がみられなかったが、設置間隔が狭まるほど流出低減効果が得られた。しか し、0.4L 以下になると覆砂面積に対して潜堤の体積の割合が大きくなる(漁場面積に対し - 102 - - 102 - て潜堤の比率が高くなる)ためアサリ漁場としての効果が薄れた。 設置間隔を狭くすると漁 場面積を確保するためには列数を増やさなければならず非効率となる。よって実際の設置 間隔や列数は、現地の漁場における作業性や経済性などを考慮して決定する必要がある。 (6) 砂止潜堤の高さ 砂止潜堤の高さは、覆砂に用いた砂が砂止潜堤を超えないことを基本とする。砂止潜堤 と覆砂面の断面図を図 4-7 に示す。覆砂材の量を dl(d:覆砂厚、l:覆砂長)とすると、dl が砂止潜堤の高さ(h)を超えないためには、砂止潜堤に覆砂材が移動したと仮定した量 (hl/2)を超えないことが必要である。よって、覆砂厚(d)は砂止潜堤の高さの 1/2 以下、ま たは砂止潜堤の高さは覆砂厚の 2 倍以上が目安となる。 h d 覆砂 砂止潜堤 l d = 覆砂厚、 l = 覆砂長、 h = 砂止潜堤の高さ 覆砂材の投入量(dl)が砂止潜堤の高さを超えない(hl/2)ことを基本 dl < hl/2 d < h/2 砂止潜堤の高さ(h)は覆砂厚(d)の2倍以上が目安 図 4-7 砂止潜堤の高さと覆砂厚の関係(概念図) 4.3.3 施工 砂止潜堤の施工は、主に覆砂と砂止潜堤の築造となる。施工方法は、干潟域での施工を 基本として、地盤高や流向、経済性等を考慮して選定する。 【解 説】 以下に、海上からの施工について説明する。砂止潜堤の施工は、アサリ漁場としての覆 砂と、 覆砂材の流出を低減するための砂止潜堤の築造に分けられる(図 4-8)。 施工手順は、 現地の地盤高や流況、経済性、作業可能時間、作業船の規格などを考慮して決定する。 - 103 - - 103 - ①覆砂 覆砂 覆砂 ②砂止潜堤 砂止潜堤 砂止潜堤 覆砂 砂止潜堤 覆砂 図 4-8 砂止潜堤漁場の施工手順(覆砂、砂止潜堤の築造) (1) 覆砂 施工方法は、均し作業の必要がない薄層覆砂装置を用いた工法や覆砂材の直接投入後に 均しを行う工法などがある。 (2) 砂止潜堤の築造 砂止潜堤の築造では、干潟域の浅いエリアにおける施工であることを考慮して実施方法 を選定する。 干潟域では施工場所の地盤高が高く、 作業船による作業時間が限られるため、 覆砂材の流出防止に十分留意した施工管理が必要である。 なお、砂止潜堤の石材として捨て石(50~200kg/個)を用いた場合(コラム①参照)、捨て 石の間から覆砂材の流出を防ぐために潜堤の内部に大型土のうや防砂シートなどを設置し、 捨て石の間から覆砂材が透過することを防ぐ処置を行うことが望ましい。 - 104 - - 104 - 4.4 維持管理 砂止潜堤を用いた覆砂域を持続的な漁場として利用していくためには、その維持管理を 行うことが望ましい。 【解 説】 砂止潜堤と潜堤の間では覆砂材の移動に伴う地形の変化が生じる。維持管理の上では、 地盤高を調整(砂の移設、整地)することが望ましい。一般的に、波や流れの作用により砂 が岸側の砂止潜堤に吹き寄せられ、地盤高が高くなる現象が起こる。この状態を放置する と、砂が砂止潜堤を乗り越えて潜堤外に流出する。また、地盤高が高くなると、干出時間 が長くなり夏季などに干潟面が高温化する等によりアサリの生息に不適となる。これを防 ぐためには整地により、地盤高を調整することが望ましい(図 4-9)。実施例をコラム③に 示す。 覆砂材の移動は現地調査により確認する。調査は地盤高計測や粒度組成調査とし、経時 的な堆積、侵食状況や覆砂材の残存を確認する。 堆積砂 沖 岸 覆砂 砂止潜堤 生息密度 中 生息密度 高 砂止潜堤 アサリ 生息 範囲 生息密度 低 図 4-9 砂止潜堤漁場における維持管理方法(整地)の実施事例 4.5 留意点 砂止潜堤による覆砂材の流出低減効果やアサリへの効果は、継続的なモニタリング調査 によって確認することが望ましい。 【解 説】 覆砂材の流出低減効果は、堤間の堆積や侵食により、経年的に変化することが考えられ る。また、アサリの着底や成長についても底質の変化や競合生物の繁殖などの影響を受け る。砂止潜堤の機能を持続的に利用するには、定期的なモニタリング調査により、その効 果を確認することが望ましい。調査内容は、覆砂材の流出低減を確認する方法として、地 盤高測量や底質調査、アサリへの効果としてアサリの密度、成長などとする。 - 105 - - 105 - コラム①「長崎県雲仙市多比良地先における実施事例」 長崎県雲仙市多比良地先において、高さ 1m と 0.7m の砂止潜堤の造成を行った。砂止潜 堤に用いる石材は捨て石(50~200kg/個)とした。覆砂材と捨て石の粒径は大きく異なり覆 砂材が捨て石と捨て石の間を通過して外部に流出する可能性があるため、堤内に大型土の うを設置して砂透過防止を行った。 ○砂止潜堤(高さ 1m) 平成 18、19 年度に高さ 1m の砂止潜堤を 3 列造成し、 その間を覆砂することによって試験 区を造成し、潜堤による覆砂材の流出低減効果やアサリの着底について調査を行った。 その後、経時的に地形変化を調査した結果、覆砂材は砂止潜堤によって保持されており、 潜堤による砂止め効果が確認された。また、放流したアサリの生残や天然アサリの加入も 確認され、漁場としての効果の発現が期待された。課題としては、通常の覆砂と比べて潜 堤設置により施工費が増えることがあげられた。 ○砂止潜堤(高さ 0.7m) 平成 22 年度は、上記の試験結果を受け、潜堤の高さを 1m から 0.7m に低くした潜堤を造 成し、コスト縮減と砂止め効果について調査した。コスト縮減については、潜堤の高さを 低くしたことによって、石材使用量が 40%減少し、直接工事費として 15%の削減が可能と算 定された。造成から 1 年後の地形変化を調べた結果、流出低減効果について高さ 0.7m でも 1m と同等であることが確認された。 砂止潜堤(高さ1m、3列) 平成18、19年度造成 砂止潜堤(高さ0.7m、3列) 平成22年度造成 砂止潜堤造成状況 1.0m 大型土のう 1.0m 2 1: 1.0m 5.0m 2 1: 0.7m 捨て石 (50~200kg/個) 3.8m 砂止潜堤(高さ1.0m) 砂止潜堤(高さ0.7m) - 106 - - 106 - コラム②「砂止潜堤の設計に関する検討事例(水理実験)」 砂止潜堤の効果を確認するため、長崎県雲仙市多比良地先を対象に水理実験を行った。 ○砂止潜堤の形状:通常の石積堤のように台形を基本とする。経済性や漁業者の安全性、 視認性を考慮し、高さ 1.0m 以下とした。 ○波浪条件:ここでは人工干潟の設計事例をもとに 3 年確率波とした。 (ケースによっては 1 年確率波も用いた) ○材料の諸条件:覆砂材:海砂(dd50=0.7mm) 、砂止潜堤:捨石(50~200kg) ○潮位条件:有明海は潮位変動が大きいが、ここでは H.W.L.(D.L.+5.5m)とした。 ○実験縮尺:1/20 (相似則はフルード則とするが、覆砂材の粒径については適用できな いため、シールズ数φを同等とすることで設定した) ○シールズ数φ:現地条件ではφ=0.32 だったため、1/20 縮尺で同等となるよう 7 号硅砂 (dd50=0.13mm)を用いφ=0.34 とした。この条件は、覆砂材が浮遊移動する条件である。 ○砂透過防止工の設置:砂止潜堤の内部に縦板を設け、砂の透過を防止した。 ○砂止潜堤の設置間隔:波長 L に対し、波長比 x/L=0.3~1.13 で設定した。 ○実験結果 ・流出低減の効果 右図に示すように砂止潜堤がない 場合には全体的に侵食されるが、砂 止潜堤を設置した場合、潜堤の前面 で砂が捕捉され流出が低減すること が確認された。 ・砂止潜堤の天端高さ 0.004 単位潜堤体積あたりの砂流出低減 量を天端高さごとに整理したのが右図上段である あまり効果がみられないが、0.7m と 1.0m は同等の 効果があることが確認された。 ・砂止潜堤の設置間隔 右図下段は天端高さと同様に、設置間隔を波長比 x/L ご とに整理したものである。1L(1 波長)ではほとんど効果が みられず、設置間隔が狭まるほど砂流出低減効果が期待で きる。しかし、0.4L 以下になると潜堤体積の割合が大きく なるため効果が薄れ、また漁場面積も狭くなるた め、作業性や経済性も考慮して設置間隔を設定する必要が ある。 単位潜堤体積あたりの土砂侵食低減量 (設置間隔 30m、2 列) 。天端高さが 0.5m の場合は 0.003 0.002 0.001 0.000 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1.0 1.0 1.2 天端高さ(m) 0.007 0.006 0.005 0.004 0.003 0.002 0.001 0.000 0.2 0.4 0.6 0.8 設置間隔(波長比 x/L) - 107 - - 107 - コラム③「砂止潜堤漁場の維持管理」 長崎県多比良地先で、覆砂面の前後に砂止潜堤を設置した漁場の実証実験を行った。こ の砂止潜堤では、砂の移動を完全に抑えることはできないため、覆砂材は次第に岸よりに 移動し、漁場内に高地盤域が形成された。高地盤域は干出時間が長くなることから、アサ リの生息に適さなくなる。そこで、移動した砂を元の場所に戻す「整地作業」を維持管理 として行った。 本実証実験では、一輪車を使って、砂止潜堤前面に堆積した砂を地盤の低い場所へ移動 した。この作業は干潮時に行い、1 日に 2 時間、6 名で 2 日を要し、約 5m3 の砂を移動させ た。なお、その後も砂止潜堤内の地盤の変化を観察してきた結果、この実証実験場所の環 境では、1 年に 1 度、先に示した維持管理により、アサリ漁場内の適正な地盤高が保たれ るものと推察された。 維持管理作業 一輪車を使って地盤が高くなったところの砂(左写真)を低い場所(右写真)に移動 <文 献> 1) 柴山知也,堀川清司,矢吹信貴,半田真一.二次元海浜変形予測手法の実験による検討. 第 29 回海岸工学講演会論文集 1982: 249-253. 2) 山本正昭.アサリ漁場の物理環境.水産工学 1997;33(3): 193-199. 3) 水産庁漁港漁場整備部. 「水産基盤整備事業費用対効果分析のガイドライン」 水産庁漁 港漁場整備部,東京.2011. 4) 社団法人全国漁港漁場協会. 「漁港・漁場の施設の設計の手引き 2003 年版」東京.2003. 5) 堀川清司編.「海岸環境工学 海岸過程の理論・観測・予測手法」,東京.1985. 6) 柿野純. アサリの減耗に及ぼす物理化学的環境の影響に関する研究.水産工学 2006; 43(2): 117-130. 7) 社団法人全国沿岸漁業振興開発協会.沿岸漁場整備開発事業 増殖場造成計画指針 ヒ ラメ・アサリ編 平成 8 年度版.(増殖場造成計画指針編集委員会編),東京.1997. - 108 - - 108 - 8) Swart D H. 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