肺結核治療におけるリファンピシン座薬の使用経験 A Clinical

Kekkaku Vol. 90, No. 6 : 543_547, 2015
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肺結核治療におけるリファンピシン座薬の使用経験
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坪田 典之 1 谷向 茂厚
要旨:〔目的〕内服困難な肺結核患者の治療目的のため,リファンピシン(RFP)座薬の有用性を検討
した。
〔対象と方法〕肺結核初回治療目的での入院患者で,イソニアジド(INH)と RFP に薬剤耐性を
認めず,INH と RFP を含む計 3 剤または 4 剤の標準治療を施行した症例を対象とし,RFP 通常経口内
服症例と院内自製の RFP 座薬を用いた症例間で,喀痰抗酸菌検査での塗抹と培養検査で 2 回および 3
回連続陰性に要した日数を比較した。
〔結果〕両者の塗抹と培養陰性化について,有意差は認めず同
等の結果であった。
〔考察〕RFP 座薬使用例では RFP 通常経口内服例と比較し高齢者や全身状態不良
者が多いことを考慮に入れれば,RFP 座薬使用例で RFP 内服例とほぼ同等の成績が得られたことによ
り,内服投与困難例に限定すれば,RFP 座薬は十分に結核標準治療のオプションになりうると考えら
れた。
キーワーズ:肺結核,リファンピシン,座薬
例(以下,RFP 内服群)と RFP 座薬使用症例(以下,RFP
はじめに
座薬群)について,喀痰抗酸菌検査における菌陰性化の
現在の本邦における肺結核患者の特徴の一つは高齢化
面から比較し,RFP 座薬の有用性を検討した。
の進行である。新登録結核患者の半数以上は70歳以上で,
対象と方法
約 3 分の 1 は 80 歳以上が占めており,この割合は年々増
加している1)。また高齢者では嚥下障害の合併や全身状
2011 年 1 月から 2013 年 6 月末までの 2 年 6 カ月間に
態の不良のため経口摂取が困難な例が多い。経口投与が
おける当院での肺結核入院・初回治療患者 351 例中,以
困難な場合,経鼻胃管や胃瘻からの薬剤投与が行えれば
下の要件①∼⑥を全て満たす症例 217 例(61.8%)を対
結核に対する標準治療が施行しうる。しかし現状では誤
象とした。
嚥や逆流が著しく経鼻胃管や胃瘻が使えない症例も少な
①原則,当院入院後より結核初回治療を開始した症例。
くない。このような場合には注射薬に頼らざるをえな
②入院時の喀痰抗酸菌検査で塗抹陽性(ガフキー 1 号
い。しかし,結核治療の中心薬の 1 つであるイソニアジ
以上)かつ培養結果も陽性。その培養で得られた菌株
ド(INH)では注射薬を用いることができるが,リファ
より結核菌群の同定と薬剤感受性検査がなしえている。
ンピシン(RFP)は日本では注射薬が使用できない。こ
③ INH と RFP を含む合計薬剤数 3 剤以上の標準治療(こ
のため一部の施設では院内製剤として RFP 座薬を調整し
の場合 RFP 座薬も含む)が施行され,かつ入院時喀痰
て用いている2)。しかしながら RFP の座薬での経腸投与
の薬剤感受性検査結果で INH または RFP に対して耐
3)
法は十分な血中濃度が得られにくいとの指摘 もあり,
性を認めない症例。
結核の標準治療法とは認められていない。当院(医療法
④原則,通常の RFP 経口内服困難な症例に対して RFP
人喜望会谷向病院)では,1997 年頃から院内製剤として
座薬を使用(RFP 座薬群)。経過中に RFP 座薬使用か
RFP 座薬を用いており,問題ない治療効果を確認してい
ら RFP 内服への変更や,RFP 内服から RFP 座薬へ変更
る。今回,当院での自験例を用いて,通常の RFP 内服症
した症例は除外。
1
医療法人喜望会谷向病院呼吸器科,2 公益財団法人岡山県健康
づくり財団保健部
連絡先 : 坪田典之,公益財団法人岡山県健康づくり財団保健
部,〒 700 _ 0952 岡山県岡山市北区平田 408 _ 1
(E-mail : [email protected])
(Received 17 Dec. 2014 / Accepted 9 Mar. 2015)