兵庫県における結核菌の VNTR による解析および薬剤感受性について

兵庫県における結核菌の VNTR による解析および薬剤感受性について
辻 英高(健康科学研究センター感染症部)
【研究の背景と目的】
近年、結核菌の遺伝子型別法として反復配列数多型
(Valiable Nunbers of Tandem Repeats;VNTR)法が国際
的に広く用いられてきている。結核菌ゲノム上には数
10bp の塩基配列を単位とした反復配列領域(VNTR 領域)
が多数存在しており、その反復数は多型をしめすことが
知られている。わが国では 12 ヵ所の VNTR 領域の組み合
わせからなるJATA(12)VNTR法が国内標準法として提唱さ
れ、地方衛生研究所への技術共有が進められている。当
研究所は、結核菌の遺伝子型別法として従来から RFLP 法
を用いて解析を行ってきた。しかしながら VNTR は RFLP
と比較して同程度の菌株識別能を有し、また菌株の比較
解析も容易である。さらに他の分析機関とのデータの互
換を図る目的からも現在、県内の健康福祉事務所管内に
おいて分離された菌株について、JATA(12)VNTR 法による
分析を行い、菌株の異同について解析を行っている。
本報告では、県内の健康福祉事務所管内において分離
された菌株の型別結果、また、厚生労働研究で実施した
病原体サーベイランス等によって収集した結核菌株の
薬剤感受性、および薬剤耐性遺伝子の解析結果について
述べる。
【材料と方法】
1 VNTR による菌株の解析
県内の健康福祉事務所から検査・保管依頼された 2012
年度分離株 75 株および 2013 年度分離株 65 株の計 140 株
について JATA(12)VNTR を行い、菌株の異同等を調べた。
また、結核菌の VNTR は、近畿ブロックでは近畿地域結核
菌 VNTR 解析データベースが試験的に構築されており、県
内の VNTR クラスターについて、近畿のデータベースと比
較した。
2 薬剤感受性試験および耐性遺伝子の解析
県内で分離される結核菌の薬剤耐性を調査する目的で、
2009 年度から 2011 年度の期間に結核研究所との共同研
究を行い、新登録患者から分離される結核菌株を収集し
た。収集された菌株は、抗結核薬(INH, RFP, SM, EB, KM)
及び Fluoroquinolone(LVFX,CPFX)に対する薬剤感受性
試験を行い、薬剤耐性に関与する遺伝子の変異を調べた。
INH耐性は katG、
遺伝子解析はRFP耐性については rpoB、
inhA、ahpC、SM 耐性は rpsL、rrs、EMB 耐性は embB の各
遺伝子を対象にして、ダイレクトシーケンス法で変異の
有無を調べた。
【結果および考察】
1 VNTR による菌株の解析
1) 県内分離株の解析
県内の健康福祉事務所から検査・保管依頼された 2012
年度分離株 75 株および 2013 年度分離株 65 株の計 140 株
について VNTR を実施した。その結果、結核菌 140 菌株は
114 の遺伝子型に分類された。遺伝子型が同一の VNTR ク
ラスターは、16 種類(42 菌株)であり、クラスター形成
率は 30%であった。
2) 近畿分離株との比較
県内の分離株のうち VNTR クラスター16 種類について、
近畿のデータベースと比較した結果、9 種類が近畿地区に
おいてクラスターを形成する菌株であった。また、健康
福祉事務所における疫学調査で、県内患者と他府県の患
者との関連性が疑われた事例が 2 例あり、各事例におい
て VNTR 型は同一であった。
3) 特異的な VNTR 型
県内で分離された結核菌のうち 1 菌株は、M.bovis BCG
株と同一の VNTR 型であった。また、国内で分離が報告さ
れ、東京都で集団発生した M 株が県内でも分離された。
4)薬剤耐性株の VNTR 型
県内の健康福祉事務所から 2012 年度から 2013 年度に
薬剤感受性試験依頼のあった21株のうち一次抗結核薬に
耐性がみられた菌株について VNTR の型を調べた。その結
果、VNTR 型が一致、あるいは近似した上記の M 株はすべ
て SM 耐性であった。また、RFP 耐性、および SM・KM 耐性
の各株は県内に同じ VNTR 型の菌株はみられなかった。
2 薬剤感受性試験および耐性遺伝子の解析
薬剤感受性試験の結果、県内分離株は一次抗結核薬に
のうち SM 耐性株が多く、次いで INH 耐性株が多かった。
また、これらいずれかの薬剤に耐性がある株は 15.6%であ
り、2 剤以上の耐性株は 5.5%であった。そのなかで INH
および RFP に耐性の MDR 株は 1.8%にみられた。耐性株の
出現頻度は、近畿地区(兵庫県を除く)の出現頻度と類
似していた。また、多剤耐性 3 株は耐性遺伝子の変異が
類似していた。SM 単独耐性 9 株のうち 8 株の耐性遺伝子
は同一の変異であった。
2 薬剤耐性遺伝子の解析
薬剤耐性遺伝子の解析の結果、RFP 耐性について多剤耐性
4 株は、いずれも rpoB 遺伝子の S531L 変異であった。INH
耐性については、INH 単剤耐性株は katG 遺伝子の変異で
inhA に C-T 変異がみられた。
あったが、
多剤耐性 3 株は、
また、多剤耐性株のうち、2 株は ahpC 遺伝子に-48G-A の
変異がみられた。SM 耐性に関与する遺伝子について、多
剤耐性 3 株は rpsL 遺伝子の K43R 変異であり、SM 単独耐
性株は 1 株が K43R の変異で、他の 1 株は K88R の変異で
あった。また、いずれの株も rrs 遺伝子には変異はみら
れなかった。EMB 耐性に関しては embB 遺伝子の M306L ま
たは M306I 変異であった。