平成 26 年度政策・実務研修(JAMP 共同実施)レポート優秀作 固定資産税課税事務(家屋) 家屋の評価に係わる固定資産税課税の公平性について 福岡県大野城市総務部市税課 室原 卓哉 1 はじめに 地方税収の約4割以上を占め、基幹税目となっている固定資産税は、賦課期日時点 で固定資産(土地・家屋・償却資産)を所有する者に課される税金である。その中で も家屋については、登記のある家屋は登記簿上の所有者、未登記家屋は家屋補充課税 台帳に登録された所有者に課税することとなっている。また、固定資産税課税につい ては、明瞭且つ公平なものでなければならない。そのため、家屋の評価は地方税法第 403 条において、総務大臣の定める固定資産評価基準によって評価することとなってお り、その基準によって評価された評価額をもとに固定資産税額が算出される。しかし、 固定資産税の課税や家屋の評価について本当に公平性が確保されているのかというこ とが問題視されている。 そこで、このレポートにおいては、家屋の評価に係わる固定資産税課税の公平性に ついて考察していく。 2 大野城市の家屋評価の現状 大野城市では、家屋担当4名(1班2名体制)で新築や増築家屋等の調査及び評価 を行っている。新築や増築家屋の把握方法は、建築確認申請書(民間確認検査機関分 を含む)、登記済通知書、航空写真や現地調査等によって把握している。 家屋の評価は、再建築評点基準表に基づき各部分別に評点数を求めていく部分別評 価方式を採用している。また、家屋評価システムも導入しており、システムにて調査 家屋の図面作成及び評価計算を行っている。評価する家屋は、木造や軽量鉄骨造等で 建築された家屋であり、鉄骨造や鉄筋コンクリート造等で建築された家屋は福岡県に 評価を依頼している。 3 家屋評価に係わる固定資産税課税における問題 固定資産税課税の公平性を確保する上での問題点として次の3つが考えられる。 まず1つ目は、家屋の評価には少なからず個人の主観が反映され、評価に差が生じ てしまうことである。前述したとおり、家屋の評価は固定資産評価基準に基づき評価 するものであり、客観的に評価されるのが原則である。客観的に評価された家屋の評 価額は、その家屋の評価者が誰であっても同一の結果が導き出されるべきであり、そ うでなければ納税者の理解を得難いこととなる。しかし、固定資産評価基準の解釈の 仕方にも評価者によって差があり、採用する評点項目や補正係数も違ってくる。また、 1 固定資産税課税事務(家屋) 固定資産評価基準に定める評点項目や補正係数のみでは対応できない家屋が存在する ことも事実で、その家屋の実態に見合った補正係数等を採用しようとした際にも当然 差が生じてしまう。 2つ目は、近隣市町村間で生じる評価の差である。前述した評価者間で生じる差を 埋めるため、固定資産評価基準に則した自治体独自の家屋評価要領が作成されている ケースがよく見られる。この家屋評価要領は、固定資産評価基準に則して作成されて いるとはいえ、要領作成時の家屋評価担当者達の考え方が強く反映されたものであり、 必ずしも近隣市町村との均衡が図られたものとは限らない。この近隣市町村間での評 価の差が生む問題として代表的なものは、新築されたコンビニエンスストアの評価で ある。同一の所有者が異なる近隣市町村で、同一のコンビニエンスストアを新築した とする。自治体毎にコンビニエンスストアを評価した場合、評価額はおそらく異なっ たものとなるだろう。均衡の図られていない家屋評価要等をもとに評価をすれば、評 価額が異なるのは当然と言える。しかし、所有者からすれば同じ家屋を新築したのに、 異なる評価額が算出されるのは納得のいくはずがない。 3つ目は、課税漏れ家屋の存在である。固定資産税が課税される家屋は、不動産登 記規則第 111 条に定められた要件(外気分断性・土地への定着性・用途性)を満たす 建物である。家屋の所有者には等しく固定資産税が課税されるべきだが、家屋が新増 築されたことを市町村が把握しきれず、未課税となっている家屋が存在している実態 がある。大野城市における新増築家屋の把握方法は前述のとおりだが、例として建築 確認申請書の提出を必要としない新増築家屋等は把握が難しく、未課税となっている 可能性がある。大野城市においては、判明しているだけで数十棟の課税漏れ家屋があ る。課税漏れしていることが判明する要因としては、前年度と当該年度の航空写真を 比較したときや、土地家屋調査士からの評価依頼が主なものとなっている。これらの 課税漏れ家屋を、随時評価し遡及課税しているが、たまたま見つかったものだけ課税 するということも課税の公平性を阻害する要因となる。 4 問題解決のために 前述した3つの問題を解決し、固定資産税課税の公平性を確保する解決策としては、 次のようなことが考えられる。 1つ目は、家屋評価要領を作成し、各評価者の評価の均衡を図ることである。前述 した評価者間に生じる評価の差を埋め、均衡のとれた評価をするには、個人の主観に よる判断を排除し、統一された1つの基準によって家屋を評価しなければならない。 そのためには、絶対的な基準である固定資産評価基準や固定資産評価基準解説、固定 資産税実務提要等に示された家屋評価に関する取り扱い方等を十分に把握し、付設す る評点項目や採用する補正係数の判断基準を明確に記載した家屋評価要領を作成する 必要がある。そのような家屋評価要領を作成することで、組織内での家屋評価の判断 基準に関する意思統一を図り、均衡のとれた家屋評価を実施することが可能となる。 また、この家屋評価要領の作成にあたって、近隣市町村の家屋担当者と共同で作成し 近隣市町村での判断基準を統一することにより、近隣市町村間での評価の均衡を図る 2 固定資産税課税事務(家屋) ことも可能となる。 2つ目は、家屋全棟調査を実施し、課税漏れ家屋を無くすことである。家屋全棟調 査とは、市内全ての家屋の形状や構造、用途、面積等について現地調査し、調査結果 と固定資産税課税台帳を照合することによって課税漏れ家屋を把握するものである。 この調査により把握できた課税漏れ家屋を適正に評価し課税することで、課税の公平 性を確保することができる。しかし、家屋全棟調査を実施するには多くの問題がある。 家屋全棟調査には莫大な費用がかかること、家屋全棟調査の結果得られる税額が、調 査にかかる費用に見合わない可能性が高いこと、家屋全棟調査実施後は、課税の公平 性を維持するためにも新増築家屋を全て把握し、課税漏れ家屋の再発を防ぐ必要があ ること等が考えられる。これらの問題をクリアすることは容易ではないが、固定資産 税課税の公平性を欠く課税漏れ家屋を無くすためにも、家屋全棟調査の実施を検討し ていく必要がある。 5 おわりに 固定資産税の課税において課税公平性の確保は大前提であるが、これまで述べてき たような問題等が要因となり厳密な意味では公平性が確保できているとは言えない実 態がある。また、昨今の自治体職員を取り巻く環境として、人員削減による少数精鋭 体制やジョブローテーション等の短年での部署移動による知識や経験の不足といった こともあり、公平性を確保しつつ固定資産税課税事務を遂行していくことは、容易で はない。しかしながら、課税公平性を確保できなければ納税者から固定資産税に対す る理解を得ることはできないため、今回のような研修等を通じて知識を深めたり、実 務経験を積むことによって、課税公平性の確保に努めていきたい。 3 固定資産税課税事務(家屋)
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