日本薬局方に基づいた低分子量ヘパリンの分子量測定

LC application data
No. 747013H(1/5)
April 2015
日本薬局方に基づいた低分子量ヘパリンの分子量測定
Measurement of Molecular Mass of Low-Molecular-Mass Heparin
based on Japanese Pharmacopoeia
【はじめに】
ヘパリンは豚の小腸粘膜から精製されるムコ多糖類で、抗凝固薬の一つとして血栓塞栓症の治療および予防、播種性血管
内血液凝固症の治療、血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時の血液凝固防止など多岐にわたり用いられてい
ます。このヘパリンを酵素あるいは化学処理により低分子量化させた低分子量ヘパリンは、同じく抗凝固薬として用いられ、
出血副作用が少ないとされています1) 。低分子量ヘパリンは、ヘパリンの分解方法や分子量分布により、パルナパリン、ダル
テパリン、エノキサパリンなどに分類され、一般的にはナトリウム塩として用いられています。
第十六改正日本薬局方(JP)では、低分子量ヘパリンの一つであるパルナパリンナトリウムについてのみ、医薬品各条で分
子量測定法、質量平均分子量および分子量分布が定められています。測定法には、紫外可視吸光度検出器(UV検出器)お
よび示差屈折率検出器(RI検出器)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)が収載されています2) 。本試験法では、分
子量測定用低分子量ヘパリンを標準試料として分子量の検量線を作成します。一般的なSECによる分子量測定では、ピーク
トップ分子量が既知のオリゴマーやポリマーなどの標準試料を用いて、保持容量と分子量の関係から校正曲線を作成します。
しかし、パルナパリンナトリウムの測定では、RIとUVの強度比や標準化係数と呼ばれる値を用いて分子量を算出し、検量線
を作成する複雑な解析法であるため、市販されているSEC用のソフトウェアでは解析が行えません。
今回は、日本薬局法に基づいてパルナパリンナトリウムの分子量測定を行い、新規に開発したChromNAV Ver.2のオプ
ションプログラムである低分子量ヘパリン分子量計算プログラムを用いて解析を行い、質量平均分子量および分子量分布を
計算した結果を報告します。
Keyword : 低分子量ヘパリン, パルナパリンナトリウム, 日本薬局方, 分子量測定, UV検出器, RI検出器,
低分子量ヘパリン分子量計算プログラム
【実験】
[Equipment]
Pump:
Pump option
Autosampler:
Autosampler option:
Column oven:
Detector:
[Conditions]
Column:
PU-4185
DG unit
AS-4050
TC unit
CO-4060
UV-4075
RI-4030
Eluent :
Flow rate:
Column temp.:
Wave length (UV):
Injection volume:
Standard:
Sample:
TSKgel G3000SW XL (7.8 mm I.D. x 300 mm L, 5 mm) +
TSKgel G2000SW XL (7.8 mm I.D. x 300 mm L, 5 µm)
Aqueous solution of 0.2 M anhydrous sodium sulfate
( adjusted to pH 5.0 with 0.05 M sulfuric acid)
0.5 mL/min
30 ºC
234 nm
50 mL
20 mg of low-molecular-mass heparin for calibration CRS*
in 2 mL of the eluent
*number average relative molecular mass: 3,800
20 mg of parnaparin sodium CRS in 2 mL of the eluent
[Structure]
R1O
H
R5
H
O
O
H
OR3 H
R1, R3, R4 = SO3Na or H
H
O
R2
CH3
O
H
R6
OH H
NHR2
R5 = CO2Na, R6 = H or R5 = H, R6 = CO2Na
H
O
H
= SO3Na or
OR4
n = 4 - 21
n
Parnaparin sodium
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No. 747013H(2/5)
April 2015
【結果】
図1に分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラムを、図2にパルナパリンナトリウムのクロマトグラムを示します。
UV
RI
図1 分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラム
UV
RI
図2 パルナパリンナトリウムのクロマトグラム
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No. 747013H(3/5)
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表1に日本薬局方で求められるシステム適合性の内容を示します。本測定では、UVおよびRIクロマトグラムにおいてそれぞ
れ15個のピークを検出し(図3参照)、システムの性能を満たしました。また、低分子量側から4番目のピーク高さの相対標準
偏差は、UVで0.58%、RIで0.94%とシステムの再現性を満たしていることを確認しました。
表1 日本薬局方のパルナパリンナトリウム医薬品各条で求められるシステム適合性
システム適合性の項目
システムの性能
システムの再現性
内容
標準溶液50 µLにつき、UV検出器およびRI検出器から得られたクロマトグ
ラムにおいて、それぞれ10個以上のピークが認められるものを用いる
標準溶液50 µLにつき、試験を6回繰り返すとき、低分子量側から4番目の
ピーク高さ(H UVおよびH RI )の標準偏差は3.0%以下である
分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラムを用いた検量線の作成は、[ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウ
の[検量線作成] 画面で行います。 図3には、6回連続測定した分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラムを用いて検量
線を作成した時の [検量線作成] 画面を示します。検量線を作成するための各種パラメーターおよび検出するピーク数を設定
することで、自動計算により検量線を作成します。ここでは、UVおよびRIクロマトグラムともに15個のピークが検出できていま
す。
(A)
(B)
(C)
(D)
(E)
図3 ChromNAV Ver.2 [ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウ - [検量線作成] 画面
(A) クロマトグラム表示フレーム, (B) 検量線表示フレーム, (C) 検量線情報,
(D) 分子量検量線パラメーター, (E) クロマトグラム一覧
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[ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウの [分子量計算] 画面では、実試料に対して分子量を計算する区間などを設定
します。 図4に、パルナパリンナトリウムに対して計算区間を設定した時の [分子量計算] 画面を示します。ここでは、パルナパ
リンナトリウムに対して定められている分子量分布を計算するために、薬局方で指定されている分子量範囲を設定します。
(A)
(B)
(C)
(D)
図4 ChromNAV Ver.2 [ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウ - [分子量計算] 画面
(A) クロマトグラム表示フレーム, (B) 計算モード・方法, (C) 分子量計算区間, (D) 分子量範囲
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作成した [ヘパリン分子量計算パラメーター] を、平均分子量および分子量分布を算出したい実試料のクロマトグラムに適用
させることで、[ヘパリン分子量計算結果ビュー] に計算結果が表示されます。図5は、図3および図4で示した [ヘパリン分子量
計算パラメーター] をパルナパリンナトリウムのRIクロマトグラムに適用した結果です。ここでは、ツールボタン(図5-(B))により
、実試料のRIクロマトグラムにUVクロマトグラムおよび検量線をオーバーレイ表示することができます。計算結果のテーブル(
図5-(C))には算出した平均分子量および分子量分布が表示されるため、薬局方での各判定値を満たしているかどうかを確認
することが可能です。なお、今回測定したパルナパリンナトリウムは、日本薬局方の判定値(表2)を満たしていることを確認し
ました。
(B)
(A)
(C)
図5 ChromNAV Ver.2 [ヘパリン分子量計算結果ビュー] 画面
(A) クロマトグラム表示フレーム, (B) ツールボタン, (C) 分子量計算結果テーブル
表2 日本薬局方のパルナパリンナトリウム医薬品各条に収載されている平均分子量および分子量分布
低分子量ヘパリン
質量平均分子量の範囲
パルナパリンナトリウム
4500 - 6500
分子量分布
M 1500 - 10000
≧ 80%
【参考文献】
1) 辻肇, 血栓止血誌, 19 (2), 187-190 (2008).
2) 第十六改正日本薬局方,“パルナパリンナトリウム 医薬品各条”, (2011), 日本公定書協会.
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