株式短期見通し:FRBの利上 げとニュー・ニュートラルの 世界の

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April 2015
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株式短期見通し:FRBの利上
げとニュー・ニュートラルの
世界の間で
PIMCOのグローバル株式担当最高投資責任者(CIO)の
ヴィルジニー・メゾヌーヴと、
株式担当マクロ経済アナリストの
マーク・リチャーズが、
株式市場に関するPIMCOの最新の見
通しをお伝えします。
問: 米連邦準備制度理事会(FRB)が金利正常化に向けたゆっくりとしたプロセスを
開始するとみられることを受けて、株式市場はどのように反応すると予想しますか。
答: 1月にご説明しましたように、PIMCOでは2015年のグローバル株式市場は変動の
激しいものになると考えています。PIMCOが掲げる
「ニュー・ニュートラル」の見通し
では株式市場を強気にみていますが、米国の金融政策が正常化する過程で株式市
場にはある程度の短期的な影響があるとみられます。
FRBは「忍耐強く」
という文言を3月の金融政策の声明から外すとともに、
フォワード・
ヴィルジニー・メゾヌーヴ、CFA
グローバル株式担当最高投資責任者(CIO)
ガイダンスよりも経済指標次第で動く姿勢を明確にしています。
これによりFRBがそ
う遠からぬ時期に利上げに踏み切る可能性が出てきたわけですが、その時点の経済
指標に従い、6月、9月、12月のうちのいずれかの米連邦公開市場委員会(FOMC)会合
でこれが決定されるとPIMCOでは予想しています。
どの利上げサイクルにも固有の事情が存在するものですが、利上げを開始する時点
の前後で株式市場の動きに一貫してみられるパターンがあります。通常、利上げを開
始してから最初の2~3カ月間にS&P500種株式指数は約7%下落しますが、半年後に
は利上げ前の水準以上に回復することが往々にしてあります。
マーク・リチャーズ
シニア・バイス・プレジデント
ポートフォリオ・マネージャー
株式市場の足元の健康状態を判断するならば、もっと別の要因にも目を向ける必要
があります。すなわち、利上げ時点の株式市場のバリュエーション、企業の利益幅、
レバレッジや支配的なリスク選好度といった要因です。
また、長期金利は株式バリュ
エーションの基本的な構成要素です。
PIMCOの見通しであるニュー・ニュートラルでは、以前の金融引き締め期よりも成長
率が低下し、金利が低くなるのにともなって、中立的となる実質政策金利の均衡点も
低くなると考えます。
これは、
この数カ月間のFOMC会合でFRBがフェデラル・ファンド
(FF)金利の長期見通しを引き下げてきていることからわかる当然の帰結です。長期
間低金利が続けば株式市場には有利となりますから、従来利上げは経済の健全性
を確認する材料であって、実際にはリスク資産にもプラスなのです。ゼロ金利政策
の終了とニュー・ニュートラルの現実化のバランスをうまく取ることができるかどう
かが、2015年のグローバル株式の見通しにおける主な要因になるでしょう。
また、
この数カ月間に多くのエマージング市場では予想外の利下げ
問:今後半年から1年の間に注目されるテーマとは何でしょうか。
が行われるなど、米国以外の中央銀行が次々と金融緩和に向かって
答: 株式の中に債券の代替となる投資対象を探す動きが長らく続
いるため、企業キャッシュフローを割り引く際に用いる米国のイー
ルドカーブの長期金利側では頭を押さえられるとみられます。
問: PIMCOの提唱するニュー・ニュートラルのテーマを世界が受け入
れるようになってから、株式市場はどのように反応したのでしょうか。
答: 世界的に幅広く長期金利が低下したため、過去2~3年の間に
株式市場にアノマリーが生じ、その一部はこの新たな世界秩序を
反映していると思います。
たとえば、
通常は上昇相場でアウトパフォー
ムする景気敏感株が、通常は下落相場で良いパフォーマンスを示
いてきましたが、それは今後も続くと思います。
この5年間は、高
配当ファンドに流入する資金が株式への資金流入を大きく上回っ
てきました。
しかし、
このテーマにはもう一相場ありそうです。
とい
うのも、欧州中央銀行(ECB)が積極的な量的緩和プログラムに乗
り出すとともに、世界中の中央銀行が次々と利下げに踏み切って
いるため、世界的に債券利回りが低水準に留まるとみられるから
です。投資家は、債券に代わってクオリティ、安定性とインカムを実
現する選択肢を追求し続けています。
すディフェンシブな業種を、米国の上昇相場の中でもアンダーパ
株式インカム戦略にはさまざまなアプローチがあります。単純に
フォームするという事態が現実に起きているのです。中国の需要
高配当銘柄を買えばよいと思われるかも知れませんが、その方
の落ち込みが、
コモディティのスーパーサイクルの終焉したことを
法は往々にして失敗します。PIMCOの配当重視の株式戦略では、
受けてアンダーパフォームした素材資源株など景気敏感株には逆
株主に安定的に配当を支払い、長い間に配当を成長させる条件
風となってきました。
それとは対照的に、不動産や通常ディフェンシ
が整っているか、
自社株買いを増やしそうな、
また自社株買いの実
ブな投資先とみられている公益事業など平均以上にレバレッジ比
績がある銘柄を投資対象とします。
こうしたアプローチは単純な高
率を高めているセクターを低金利が支えています。
また、
クオリティ
配当利回り戦略よりも良好なパフォーマンスを上げることが多い
株がいわゆるバリュー株をアウトパフォームしているのも、上昇相
のです。
場では異例のことです。通常であれば、上昇相場ではリスク選好度
が高まり、投資家にバリュー株投資の追求を促します。今回の相場
環境では、
それらの割安な銘柄がむしろ
「バリューの罠」
として扱わ
れ、債券に似た特徴とも言える安定したキャッシュフローを持ち、
相対的に確実性の高い銘柄が選好されているのです。
PIMCOが運用するその他の株式戦略の中には、
クオリティと持続
可能な利益成長を重視するものがあります。参入障壁を高く築き、
明確な成長属性を持つ企業であれば、最近設立された多くの企業
にはまだ馴染みのないニュー・ニュートラルの環境の中でも良好
な業績を上げられるはずです。持続可能な成長性は企業に配当性
もう一つのデカップリング(非連動)を示す良い例が、ユーロ圏の
向を引き上げる余地を与え、持続的な配当はもとより、場合によっ
銀行株のパフォーマンスです。異例なことに、ユーロ圏の銀行株は
ては自社株買いに結びつく可能性もあります。
欧州市場全体に後れを取り、2014年後半から2015年1月にかけて
アンダーパフォームしました。
しかし、
このデカップリング現象が今
収束に向かい始めています。銀行はインフレ期待の低下に対する
懸念に苦しんできました。
というのも、インフレ期待の低下は借り
手の債務履行能力が低下するとともに成長率が低迷し、傷んだバ
ランスシートを回復させようと銀行が融資を制限するなど、銀行に
は不利に働くためです。今ではインフレ期待が少しずつ高まり、経
済成長率が改善していて融資も伸びているように、3つのトレンド
のすべてが反転し始め、
このセクターを支える材料になってきてい
ます。さらに自己資本比率が際立って改善していて米国の銀行よ
りも高くなっていることも好材料で、今後数年間に配当性向が高ま
る可能性があります。
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米国では広く行われてきた自社株買いが、他の地域でもトレンド
として拡大していく可能性があります。たとえば欧州では、配当に
自社株買いを加えた額に対するフリーキャッシュフローの比率が
2倍になっていて、
これは米国企業の2倍もあります。ECBの量的緩
和プログラムにより、信用力の高い欧州社債の利回りは低位に抑
えられるとみられ、米国で起きたように債務を原資とする自社株買
いを促す可能性があります。日本では、コーポレート・ガバナンス
の気運が高まるとともに、企業は自己資本利益率(ROE)を引き上
げる目標を掲げるようになっており、今後は、
日本企業が記録的な
水準に膨れあがっている現預金を株主に還元していくことも考え
られます。
問: 為替レートの変動性が株式に与える影響、
とりわけ米ドル高が
エマージング市場に与える影響についてどうみていますか。
答: 株式のボラティリティについても言えることですが、通貨のボラ
ティリティは難題であるとともに好機でもあります。為替のボラティ
リティの上昇は、企業には総合的にみて若干のマイナスの影響を
もたらします。
それは、通貨エクスポージャーをヘッジするコストが
増加し不透明感が高まるため、業務において通常よりも大きな割合
で為替ヘッジするようになるとみられるからです。第1四半期の業績
発表期は、為替の見通しの当たり外れが話題になると予想します。
投資家にとって、
この数カ月間は為替が重大なテーマになっていま
した。そのようなテーマが他のファンダメンタルズを凌駕するとき
には、有望な企業を有利な価格で買う好機が生まれます。
エマージング諸国については、米国の利上げと米ドル高に対する潜
在的に脆弱な面が多く語られてきました。以前にも申し上げたこと
で、今でも変わらぬ真実だと思いますが、エマージング市場を国ご
との違いのない一つの市場とは見なしていません。
そうではなく、
常
に念頭に置いておくべき多様な状況を持つ多様な国々からなる市場
なのです。
たとえば、
さまざまなエマージング市場のコモディティのエ
略歴
ヴィルジニー・メゾヌーヴ、CFA
グローバル株式担当最高投資責任者(CIO)
ロンドンを拠点とするグローバル株式担当の最高投資責任者(CIO)
であり、
マネージング・ディレクター。株式のグローバル統括責任者およびポートフォ
リオ・マネージャーも務める。2014年にPIMCOへ入社する以前は、
シュロー
ダー・ピーエルシーにてグローバルおよびインターナショナル株式統括責任
者を務めた。それ以前は、
クレイ・フィンレイにて共同最高投資責任者(CoCIO)およびディレクターとして勤務。
さらにそれ以前には、
ステート・ストリー
ト・リサーチ・アンド・マネジメントやバッテリーマーチ・フィナンシャル・マネ
ジメントにてポートフォリオ・マネージャーとして勤務。投資業務経験年数
28年。パリのEcole Superieure Libre des Sciences Commerciales Appliquees
(ESLSCAビジネススクール)より MBAを取得。
パリのドフィーヌ大学にて中国
語(北京語)修士号、
北京の中国人民大学より政治学学士号を取得。
マーク・リチャーズ
シニア・バイス・プレジデント
ロンドンを拠点とし株式のマクロ経済調査を担当。2014年にPIMCOへ入社
する以前は、
ディレクターとして、
クレディ・スイスにてアセット・アロケーション
およびグローバル株式戦略を担当した。それ以前は、INGホールセール銀
行にて汎欧州株式ストラテジスト、ロンバード・ストリート・リサーチにてエ
コノミストを務めた。投資業務経験12年。サリー大学より経営経済学学士号
を取得。
クスポージャーには大きな開きがあります。
ロシアではコモディティ輸
出が国内総生産(GDP)の18%にも達するのに対し、中国ではコモ
ディティの輸入がGDPの6%もあるなど、
エネルギー格差は歴然とし
ています。米ドルに対する感応度の面でも大きな開きがあります。
多くのアジア諸国経済にはGDPの5%以上もの経常黒字があります
が、欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域とラテンアメリカ地域の国の
中には同程度の経常赤字を抱えている国もあります。もちろん、
こ
うしたことは市場にとってもはやニュースでもなく、
2013年のテーパ
リング癇癪の際にすでに金利上昇時にどの国が勝者でどの国が敗
者となるのかの例が示されています。
これにより意外性はなくなって
おり、
さらにはエマージング市場の中央銀行が市場に協力的で、米
国の金融引き締めのペースは緩慢になるとみられることから、FRB
による利上げの影響は限定的になる可能性があります。
しかし、
テーパリング癇癪を警鐘と捉えて改革に取り組まなかったエマー
ジング諸国経済は、
自国の金融市場をリスクにさらしています。
市場は米国のゼロ金利政策の終了に向け準備を始めていますが、
米国以外の中央銀行が進める金融緩和、長期金利の低下、および株
主への増配の可能性は、株式市場における影響を吸収する緩衝材
となり得るでしょう。PIMCOでは、市場ストレスに耐え得る株式ポー
トフォリオを迅速かつ精緻に構築することを目標に掲げ、長期的な
見通しを軸に、利益が長期的に成長すると期待される優良企業へ
の投資機会を常にうかがっています。
また、
さまざまな市場環境に
おいて多様性と安定性が確保されるような多様な運用のスタイル
と戦略を、お客様に提供したいと考えています。
これこそが、2015年
も引き続きPIMCOの掲げる目標です。
VIEWPOINT | APRIL 2015
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