LC application data No. 747014H(1/6) April 2015 ヨーロッパ薬局方に基づいた低分子量ヘパリンの分子量測定 Measurement of Molecular Mass of Low-Molecular-Mass Heparins based on European Pharmacopoeia 【はじめに】 ヘパリンは豚の小腸粘膜から精製されるムコ多糖類で、抗凝固薬の一つとして血栓塞栓症の治療および予防、播種性血管 内血液凝固症の治療、血液透析・人工心肺その他の体外循環装置使用時の血液凝固防止など多岐にわたり用いられてい ます。このヘパリンを酵素あるいは化学処理により低分子量化させた低分子量ヘパリンは、同じく抗凝固薬として用いられ、 出血副作用が少ないとされています1) 。低分子量ヘパリンは、ヘパリンの分解方法や分子量分布により、パルナパリン、ダル テパリン、エノキサパリンなどに分類され、一般的にはナトリウム塩として用いられています。 ヨーロッパ薬局方第8版(EP)では、低分子量ヘパリンの医薬品各条に分子量測定法が定められ2) 、各低分子量ヘパリンナ トリウムおよびカルシウムの医薬品各条にてそれぞれ異なる質量平均分子量および分子量分布が定められています3-8) 。測 定法には、紫外可視吸光度検出器(UV検出器)および示差屈折率検出器(RI検出器)を用いたサイズ排除クロマトグラフィー (SEC)が収載されています。本試験法では、分子量測定用低分子量ヘパリンを標準試料として分子量の検量線を作成しま す。一般的なSECによる分子量測定では、ピークトップ分子量が既知のオリゴマーやポリマーなどの標準試料を用いて、保持 容量と分子量の関係から校正曲線を作成します。しかし、低分子量ヘパリンの測定では、RIとUVの強度比や標準化係数と 呼ばれる値を用いて分子量を算出し、検量線を作成する複雑な解析法であるため、市販されているSEC用のソフトウェアで は解析が行えません。 今回は、ヨーロッパ薬局法に基づいて各低分子量ヘパリンの分子量測定を行い、新規に開発したChromNAV Ver.2のオプ ションプログラムである低分子量ヘパリン分子量計算プログラムを用いて解析を行い、質量平均分子量および分子量分布を 計算した結果を報告します。 Keyword : 低分子量ヘパリン, パルナパリンナトリウム, ダルテパリンナトリウム, ヨーロッパ薬局方, 分子量測定, UV検出 器, RI検出器, 低分子量ヘパリン分子量計算プログラム 【実験】 [Equipment] Pump: Pump option Autosampler: Autosampler option: Column oven: Detector: [Conditions] Column: Eluent : PU-4185 DG unit AS-4050 TC unit CO-4060 UV-4075 RI-4030 Flow rate: Column temp.: Wave length (UV): Injection volume: Standard: Sample: TSKgel G2000SW XL (7.8 mm I.D. x 300 mm L, 5 µm) Aqueous solution of 0.2 M anhydrous sodium sulfate ( adjusted to pH 5.0 with 0.05 M sulfuric acid) 0.5 mL/min 30 ºC 234 nm 25 mL 20 mg of low-molecular-mass heparin for calibration CRS* in 2 mL of the eluent *number average relative molecular mass: 3,800 20 mg of parnaparin sodium CRS in 2 mL of the eluent 20 mg of dalteparin sodium CRS in 2 mL of the eluent [Structure] NaO3S OR O CO2Na OH O O OH O R3 OH R' R OR HN O CO2Na OH SO3Na O n SO3Na n = 1 to 21, R = H or SO3Na, R’ = SO3Na or CO-CH3 R2 = H and R3 = CO2Na or R2 = CO2Na and R3 = H Parnaparin sodium O O O HO O O R O R3 OH OH O O HN HO O R2 OH O O HN NaO3S O R2 O R O HO O R' R O n SO3Na n = 3 to 20, R = H or SO3Na, R’ = SO3Na or CO-CH3 R2 = H and R3 = CO2Na or R2 = CO2Na and R3 = H Dalteparin sodium 〒192-8537 東京都八王子市石川町2967-5 http://www.jasco.co.jp No. 747014H(2/6) April 2015 【結果】 図1に分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラム、図2にパルナパリンナトリウムのクロマトグラム、図3にダルテ パリンナトリウムのクロマトグラムを示します。 UV RI 図1 分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラム UV RI 図2 パルナパリンナトリウムのクロマトグラム UV RI 図3 ダルテパリンナトリウムのクロマトグラム 〒192-8537 東京都八王子市石川町2967-5 http://www.jasco.co.jp No. 747014H(3/6) April 2015 分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラムを用いた検量線の作成は、[ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウ の[検量線作成] 画面で行います。 図4には、3回連続測定した分子量測定用低分子量ヘパリンのクロマトグラムを用いて検量 線を作成した時の [検量線作成] 画面を示します。検量線を作成するための各種パラメーターを設定することで、自動計算によ り検量線を作成します。 (A) (B) (C) (D) (E) 図4 ChromNAV Ver.2 [ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウ - [検量線作成] 画面 (A) クロマトグラム表示フレーム, (B) 検量線表示フレーム, (C) 検量線情報, (D) 分子量検量線パラメーター, (E) クロマトグラム一覧 〒192-8537 東京都八王子市石川町2967-5 http://www.jasco.co.jp No. 747014H(4/6) April 2015 [ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウの [分子量計算] 画面では、実試料に対して分子量を計算する区間などを設定 します。 図5に、パルナパリンナトリウムに対して計算区間を設定した時の [分子量計算] 画面を示します。ここでは、パルナパ リンナトリウムに対して定められている分子量分布を計算するために、薬局方で指定されている分子量範囲を設定します。分 子量分布を計算するための分子量範囲は各低分子量ヘパリンナトリウムにより異なるため、ダルテパリンナトリウムに対して は、別途で [ヘパリン分子量計算パラメーター] を作成しました。 (A) (B) (C) (D) 図5 ChromNAV Ver.2 [ヘパリン分子量計算パラメーター] ウィンドウ - [分子量計算] 画面 (A) クロマトグラム表示フレーム, (B) 計算モード・方法, (C) 分子量計算区間, (D) 分子量範囲 〒192-8537 東京都八王子市石川町2967-5 http://www.jasco.co.jp No. 747014H(5/6) April 2015 作成した [ヘパリン分子量計算パラメーター] を、平均分子量および分子量分布を算出したい実試料のクロマトグラムに適用 させることで、[ヘパリン分子量計算結果ビュー] に計算結果が表示されます。図6は、パルナパリンナトリウムおよびダルテパ リンナトリウムのRIクロマトグラムに対して、作成した [ヘパリン分子量計算パラメーター] を適用した結果です。ここでは、ツー ルボタン(図6-(B))により、実試料のRIクロマトグラムにUVクロマトグラムおよび検量線をオーバーレイ表示することができま す。計算結果のテーブル(図6-(C))には算出した平均分子量および分子量分布が表示されるため、薬局方の各判定値を満た しているかどうかを確認することが可能です。なお、今回測定したパルナパリンナトリウムおよびダルテパリンナトリウムは、ヨ ーロッパ薬局方の判定値(表1)をそれぞれ満たしていることを確認しました。 (B) (A) (C) 図6 ChromNAV Ver.2 [ヘパリン分子量計算結果ビュー] 画面 (A) クロマトグラム表示フレーム, (B) ツールボタン, (C) 分子量計算結果テーブル 表1 ヨーロッパ薬局方の各低分子量ヘパリンナトリウムおよびカルシウムの医薬品各条に収載されている 平均分子量および分子量分布 低分子量ヘパリン 質量平均分子量 の範囲 M < 2000 M < 3000 分子量分布 M 2000 M 2000 4000 8000 パルナパリンナトリウム 4000 - 6000 ≦30% ダルテパリンナトリウム 5600 - 6400 ≦13% エノキサパリンナトリウム 3800 - 5000 12 - 20% 68 - 82% チンザパリンナトリウム 5500 - 7500 ≦10% 60 - 72% ナドロパリンカルシウム 3600 - 5000 ≦15% M 3000 8000 M > 8000 50 - 60% 15 - 25% 35 - 55% 22 - 36% 75 - 95% 〒192-8537 東京都八王子市石川町2967-5 http://www.jasco.co.jp No. 747014H(6/6) April 2015 【参考文献】 1) 辻肇, 血栓止血誌, 19 (2), 187-190 (2008). 2) European Pharmacopoeia 8.0 volume II,“Heparins, low-molecular-mass monograph 0828”, (2014), Council of Europe. 3) European Pharmacopoeia 8.0 volume II,“Parnaparin sodium monograph 1252”, (2014), Council of Europe. 4) European Pharmacopoeia 8.0 volume II,“Parnaparin sodium monograph 1252”, (2014), Council of Europe. 5) European Pharmacopoeia 8.0 volume II,“Dalteparin sodium monograph 1195”, (2014), Council of Europe. 6) European Pharmacopoeia 8.1 supplement,“Enoxaparin sodium monograph 1097”, (2014), Council of Europe. 7) European Pharmacopoeia 8.0 volume II,“Tinzaparin sodium monograph 1271”, (2014), Council of Europe. 8) European Pharmacopoeia 8.0 volume II,“Nadroparin calcium monograph 1134”, (2014), Council of Europe. 〒192-8537 東京都八王子市石川町2967-5 http://www.jasco.co.jp
© Copyright 2024 ExpyDoc