これは多摩美術大学が管理する修了生の論文および

これは多摩美術大学が管理する修了生の論文および
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多摩美術大学大学院
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『インテリア』と『人の心理』
学籍番号:30030089
多摩美術大学研究科
高橋 友顕
『イメージ』
人は、太陽の光を浴び、空に枝を伸ばし葉
をつけ、大地に根を張りそびえ立ち成長して
いる樹木の姿に、イメージを得た。
樹木のその姿は、古代の神話などで世界樹
として語られ表現されている。
天へと伸びる枝と大地に根を張るその姿が、
古代の人は、神の住む天と死者の棲む地下を
結び付けているように感じられたのであろう
か、樹木を世界の中心、軸と例えている神話
は多い。
例えば、北欧神話の古代スカンジナビアの
伝説では、ユグドラシルという巨大なトネリ
コの木が登場し、その樹木は、神と英霊の住
む天国と人間の住む地上と死者の住む地獄と
いう三つの領域に根を張り、世界の中心に立
つ軸、柱という世界樹として語られている。
人は、大地という広がる空間の中で、樹木
のその姿に、世界樹という世界の中心、軸と
いうイメージを与え、また、こうしたイメー
ジは、生活する人が感じて生まれるものであ
り、人の記憶や想像などといった心理の表れ
なのであろう。
インテリアは、そうした人々が生活する生
活空間をデザインしている。
そして、デザインされたインテリア空間
(生活空間)は、その場所で生活する私達、
人間の心理にも影響を与え、人の心理という
人の心の中、内部、内面にあるイメージが、
空間の創造へと、繋がっているのではないだ
ろうか。
インテリアという生活空間と人の心理の関
係を考えるにあたり、広がる空間の中に場を
形成する境界ということから考えていきたい
と思う。 『遮断する境界』と『曖昧な境界』
私達が生活するインテリア空間は、壁や床、
天井などの境界によって、いくつもの部屋と
いう空間から成り、その場所はダイニング、
そこは寝室、などといった、生活空間を様々
な機能性ごとに振り分けられ、その空間の中
を、暖簾や、簾、屏風、衝立てなどといった
もので、その生活空間の入り口や室内の中を
装飾している。
しかし、この混沌としている生活空間も二
つの境界に分れる。
それは、壁や天井、床などの外部の環境か
ら『遮断する境界』と暖簾や屏風、簾などの
あくまで人の意識に訴え、外部の環境を受け
入れる『曖昧な境界』である。 こうした、遮断する境界と曖昧な境界が形
成するそれぞれの機能性は、場の雰囲気とい
う、生活空間を規定していると同時に場のも
つイメージも形成している。
外部の環境と遮断する機能をもつ壁なら、
囲むようにその場のイメージを形成している
し、外部の環境も受け入れる、屏風や暖簾な
どは、人の意識に訴え、意識的な結界のよう
に、その場のイメージを形成している。
私達は生活空間の中で、その境界が形成す
る場のイメージの混ざり合った中で生活して
いる。
遮断する境界と曖昧な境界のどちらの境界
も、同じ生活空間の中において、雰囲気とい
った場のイメージを形成しているならば、そ
こには共通する何かがあるのではないだろう
か。
例えば、墓域や古代遺跡などの壁などの遮
断する境界と神社などにみられる鳥居や注連
縄(しめなわ)という人の意識に訴えかけ、
しきるシンプルで曖昧な境界は、どちらの機
能もそれぞれ神聖視された聖域的な場のイメ
ージを形成している。
壁などのような強固な境界は、外部の環境
から遮断するように、また、その聖域的なイ
メージをもつ場所を守るようにその世界を形
成している。
その例をいくつか挙げてみると、古代エジ
プト文明の墓域や古代遺跡などには、その光
景がよく表れている。
アビドスの墳丘墓では、墳丘の東側の全面
に供養の場を示すために、墓碑が二枚立てら
れ、その墓碑には、王が神の化身であること
を示す、王のホルス名がレリーフとして浮き
彫りにされている。
その墳丘墓の周りを壁で囲み、外部の環境
と遮断するように、その壁の外側に王の家族
や廷臣達を埋葬し、王を神聖視するかのよう
に、場の雰囲気、世界を形成している。
また、ナイル川を挟んで、東岸の都を現世
の都とし、西岸は死者の都とされていた古代
エジプトの首都テーベでは、第20王朝のラ
ムセス3世は、この西岸に自分の壮大な埋葬
神殿を建設し、そして、以前からあった古い
神殿を、自分の聖域的な領域に取り込むため、
囲むようにまた、外部の環境と遮断するよう
にして、東と西に重厚な塔のような壁を建て
ている。
そして、同じくその時代の首都であるメン
フィスでは、巨大な墓域があり、その場所の
中央には、王が死後、太陽の神ラーのもとに
昇って行くというイメージを形にしたと考え
られているジュセル王の階段状ピラミッドが
建てられ、この神聖で聖域的な場所の周りに
も高さ9mを超える壁で囲まれている。
壁のもつ、その強固な存在はその場の世界
を外部の環境から守るように、遮断してその
場の世界を形成している。
また、壁以外にも、天井などの機能も利用
し、一つの部屋のようにして聖域的な世界、
イメージをもつ場も形成している。
この壁以外の天井、床を考えることで、そ
の場の世界は、外部の環境に対してより私的
な雰囲気をもつ場のイメージとなる。
例えばこのエジプト文明の死後のイメージ
は、現世の生活の世界と変わらないもので、
現世で生活している時間よりも長い時間、自
分が死後、そこで生活するのだと考えらてい
たらしく、第19王朝から第20王朝の墓づ
くりの職人でもあるセンネジェムは、ディル・
アル=メディーナという職人村に住み、その
場所に自分の墓をつくり、その墓の内部には、
神に報告したい自分の実績などを壁や天井な
どに刻んだ。
その壁の上の方には、太陽の神ラーの船を
拝む2頭のヒヒが描かれ、そして、その壁の
中央には、死後の世界で平和に農耕をして生
活しているかのように、センネジェム夫妻が
描かれている。
このように、古代エジプトの墓域や神殿な
どの聖域的な世界は、外部の環境に対して遮
断され、囲むようにその場のもつイメージを
形成している。
それとは逆に、聖域的な世界を形成してい
るのが、鳥居といった日本の神社などにみら
れる境界である。
鳥居は、聖域的な場所の最も外側つまり入
り口に立てられ、原則として不浄なものの侵
入を禁ずる印として注連縄がかけられ、そこ
を潜るとそこから先が神聖な神々の場である
と、人の意識に訴えることで、そこに意識的
な結界のようなものが表れ、外部の環境も受
け入れながら、サンクチュアリを形成してい
る。
鳥居が存在する 原初的な神社には、自然崇
拝や自然信仰から発祥しているものもあり、
特に自然の恵みを育てる山は、神が宿るとさ
れ、聖域的な場所であった。
そのため、山そのものが神聖視され、山を
神体とする神体山として、その山を背景にし
ている神社が存在する。
山に向かい鳥居を立てることで、そこは聖域
的な場所であると壁などのように囲んで遮断
するのではなく、あくまでも人の意識に訴え、
山という広大な場所を聖域的な場所としてい
る。
大和国一の宮の大神神社(おおみわじんじ
ゃ)は、原初的な自然崇拝の形を残す神社で
あり、三諸山(みもろさん)を神体山とし、
そこに神が宿ると考えられていた。
ここでは神殿ではなく、神が宿ると神聖視
された山、三諸山に向かって鳥居を設置して
いる。
また、琵琶湖に浮かぶ島、竹生島(ちくぶ
しま)、古くは都久布須麻(つくぶすま)と
書かれているがこの島は神の棲む島とも呼ば
れ、都久夫須麻神(つくぶすまのかみ)と称
されており、この島の古絵図には、島の入り
口となる位置に鳥居が印してある。
古絵図からも想像できるように、原始的な
頃は、この孤島を聖域的な場にするために、
全体にではなく、外部の環境と境界になるそ
の部分、島の入り口に鳥居を立てることで、
島全体を聖域的な世界としてたのであろう。
このように、壁などような外部の環境と遮
断する境界と鳥居のような外部の環境も受け
入れる、曖昧な境界は、どちらの境界もしき
り方が相違しているが、聖域的な場の世界を
もつ場所を形成している。
なぜこうした、それぞれの文化や環境、機
能などが相違する境界が、どちらも普遍的に
広がる大地という空間の中で、内部と外部、
秩序ある世界と混沌とした世界とに分けるよ
うに、聖域的なイメージをもつ場を形成して
いるのであろうか。
それは、境界というのは内部と外部の世界
を分ける機能性であって、その内部の世界、
場所の世界を形成しているのは、その空間で
生活する人の表現から生まれているからなの
であろう。
空間をしきるということは、人の表現が広
がる空間を何を内部とし、何を外部にするか
なのである。
だから、境界の機能性、形、文化などが相
違していても、その場の雰囲気、イメージは
変わらないのであろう。
人の表現が、境界という機能性を利用して
形成される場所だからこそ、普遍的に広がる
空間の中で、場所と空間、内部と外部、秩序
ある世界と混沌とした世界に分れるように場
所の中、場の雰囲気、イメージは形成される
のである。
『視点』と『感覚の記憶』 それでは、普遍的に広がる空間の中に場の
中の世界、場のイメージを形成しているのが
人の表現と関係しているのであれば、その場
のイメージと人の表現の間にあるものはなん
であろう。
それは、見るという視点ではないだろうか。
そして、この見ることこそが、場のイメー
ジへと人の表現に繋がりをもつのである。
例えば、人の視点が場所に対して表現を生
んでいる事実は、旧石器時代の最古の芸術、
洞窟壁画によく表れている。
洞窟壁画の絵は、動物の脂肪を燃料にし、
皿型の石製のランプの明かりだけを頼りに暗
い洞窟という生活するには適さない、しかも
入り口から奥深い、外部の風景の見えない場
所で、人の見るという視点だけを頼りに描か
れている。
その壁画のモチーフは、洞窟の外で生きて
いる食用、衣料になる単体の動物ばかりで、
馬、バイソン、トナカイ、猪、ライオン、鹿、
サイ、熊、羊などのその時代、人間が生活し
ていく上で必要な動物ばかりで、人間を描い
ている例は比較的少ない。
スペインのアルタミラ洞窟壁画では、ビゾ
ンという野牛の一種が、ほぼ実物代の大きさ
で描かれている。
洞窟壁画の描かれ方で、動物を横向きの姿
で描かれ、他の動物と区別がつくように特徴
をつかみ描かれいるとあるが、このビゾンも
横向きで、その形、足、角、尾といった特徴
をつかんで描いている。 色彩は、赤や黄色、茶色、黒といった色が
使われ、様々な色彩を作り出すことが出来た。
天然の岩石を原料として、固まりのまま使用
したり、砕かれて粉にして使われていた。粉
状の色素には、付着剤として動物の脂肪や血
が混ぜられているとされている。
動物の毛で作った刷毛や先をほぐした細枝
で描かれたとされ、骨や葦の茎で吹き付け、
スプレーで表現したような技法も使っていた。
その証拠に、フランスのペシュ・メルルの
洞窟壁画には、馬と手形と呼ばれる絵が存在
し、身体が黒い斑点の馬と一緒にネガティブ
ハンドと呼ばる、手を置いて上から手の甲に
顔料を吹きかけて出来る、手の形が馬と洞窟
の壁に描きだされている。
また、洞窟壁画の特徴として、人々は目に
見える風景すべてではなく、アルタミラの洞
窟壁画のような動物などの単体のモチーフを
描いているというのがあるが、フランスのラ
スコーの洞窟壁画では、動物と人間を描いて
いる壁画が存在している。
ラスコーの壁画には、バイソンの絵が描か
れていて、そのバイソンには、槍のようなも
のが刺さっている。その横にはバイソンと戦
っているのか、人間がその角の先に横たわっ
ている。
このように洞窟壁画の絵は、外の風景の見
えない視点から、洞窟という囲まれた暗い場
所で人の視点だけを頼りに、様々な表現を駆
使して描かれ、そのモチーフは、洞窟の外の
環境で生きている動物を中心に描かれている。
そして、洞窟壁画のような外部の環境と遮
断するような場所は、自然にできた場であり、
この場所が秩序をもつように、その場の中の
雰囲気、場のイメージを形成されているのは、
人の視点によって生まれた表現なのは確かな
のである。
では、人の視点が場の表現へと関係してい
るならば、人の見るという視点は、何を感じ
て表現しているのであろう。
視点を通して見るということは、音を聞い
たり、手で触れるなどして、感覚を働かせな
がら感覚の情報も感じている。
環境から得る、感覚の情報は、意識して入
る情報であり、無意識に入る情報でもある。
広がる空間の中で感覚を働かせ感じた、そ
の情報は、感覚の記憶として身体に残り、記
憶される。
この感覚の記憶が、視点と共に場所の表現
へと繋がりをもっているのではないだろうか。
もう一度、洞窟壁画に絵を例えると、洞窟
壁画が入り口から離れた暗く囲まれた場所で、
これだけの表現が出来ていたのは、視点を通
して得た、感覚の記憶を思い出すように描い
ているからではないだろうか。
その感覚の記憶を思い出す様に描いている
から、どの動物の絵も特徴づいて描かれ、ま
た生活の風景の狩りの一部分とも思われるよ
うな表現が、断片的に描かれているのであろ
う。
そして、その感覚の記憶を、より鮮明なも
のにするために様々な色彩を使いネガティブ
ハンドと呼ばれる技法など様々な表現を駆使
して描いているのではないだろうか。
この洞窟壁画の絵が、呪術的な何かのため
なのか、それとも他に何か目的があったのか、
それはわからないが、この暗い洞窟の中の場
所に描かれている絵は、外部の空間の環境に
生きる動物であり、この外部に生きる動物を
描いているという事実は、人が見るという視
点を通して、外界から何かを感じていること
は確かなのである。
また、この人の環境を見るという視点が、
感覚を働かせ身体へと伝わり感覚の記憶とし
て残り、表現へと繋げている事実は、山水画
のような風景を描く技法にも表れている。
例えば、山水画は、山という神聖視された
広大な場所を見るという視点を通して、その
山の場所の情報を感じて、山の自然と共に、
見て、歩き、様々なことを感じて自然の風景
を画面の中で構成されている。
自然の風景を描く山水画の空間構成で、山
の麓から見上げる高遠(こうえん)、山を眺
める平遠(へいえん)、谷の間から遠くの山
を見る深遠(しんえん)の三遠(さんえん)
という三つの視点があり、これは、山水画を
描くときの画家の視点でもあり、山を歩き、
高い山を見上げ、谷間をのぞき、山々を見て、
視点を画面の中で構成し、作者は描くのであ
る。
中国の北宋前期の山水画の画家、笵寛(は
んかん)の溪国旅行図では、山という神聖視
された場所で、視点を通してその場所の情報
を感じながら描いている。
この絵の山の岩は俯瞰して描かれ、山の岩
の右側には、まるで山の高さを象徴するかの
ように、滝の流れが山の麓の深い霧へと消え
ている。
画面の右端には、驢馬と旅をする一行を点
景として入れて、そこから視点を上に写すと、
樹木、急流、楼閣を描かれている。そして、
滝が深い霧の中に消えるような、高さの測れ
ない山が登場する。
この山水画は、山の頂上を見上げるという
構図で描かているのだが、山の岩が俯瞰して
描かれているように、山の頂上からは見下げ
るように描かれ、鑑賞者の視点が、下から上
へ、また上から下へと画面の中で往返するよ
うに描かれている。
だから、鑑賞者の視点も画家がそのとき感
じたように画面の中で、視点が往返し自由に
動くのである。
このように、山水画家は、その時、その場
所の環境の視点を、画面の中で構成し描いて
いる 。
視点を構成し描いていることはもちろん、
音を聞いたり、手で触れるなどして、感覚を
働かせ、その場の情報を感じながら表現して
いるのであろう。
こうした外部の環境から受けた感覚の情報
が感覚の記憶として、身体に刻まれ、表現に
表れるのである。
このことは、もう一つの山水画の例えで、
それがよくわかる。
中国の自然と水墨画を学んだ、室町時代の
画家の雪舟(せっしゅう)の破水山水図には、
その山水画の上に500年位前の詩が書かれ
ている。
その詩文の一部に、この山水画の風景を読
んでいる詩があり、その詩文とその山水画の
風景は、同じ詩文と絵である。
例えば、山という文字なら山の絵といったこ
とである。
詩人も画家もその場所には、足を運んでい
ないらしく、想像の絵を描き、想像の詩文を
読んでいる。
想像の絵を描いていることは、記憶を頼り
にするしかないであろう。
この記憶こそ、人が空間の環境を見るとい
う『視点』が生んだ、『感覚の記憶』なので
ある。
『想像というイメージ』
このように、人は視点を通して場所の情報
を感覚を働かせ、身体に刻み、感覚の記憶を
頼りに表現している。
そして、この場所の情報を感覚で感じて表
現するということは、生活空間という生活の
場でも表れている。 その光景は、平安時代の貴族の生活風景に
よく表れている。
平安時代の貴族の住居空間である寝殿造で
は、その内部の生活空間は、建物の外部を土
や漆喰で塗り固めた塗籠の他は柱が立ち並ぶ、
宏大なワンルームの空間であった。
そのため、そこに住む貴族達は自分達、個々
の生活空間を創り出すため、その空間の中を、
簾や障子、壁代でしきり生活した。
そして、個々の生活空間では、その周辺を
屏風、衝立障子、帳台、几帳などで飾りつけ
た。
この飾りつけのことを室礼(しつれい)と
呼ぶのだが、特に、その中の障屏の道具の一
つである屏風というインテリアの屏風絵には、
寝殿造という生活空間の中で生活する場での
表現の変化がよく表れている。
平安時代中期までは、文選屏風(もんぜん
びょうぶ)、文集屏風(もんじゅうびょうぶ)、
長恨歌屏風(ちょうこんかびょうぶ)などの
中国の詩文にもとずく、風景画や風俗画の唐
絵屏風であったが、平安時代後期からは、そ
の屏風絵の主題に変化がみられる。
貴族達の生活空間である寝殿造において、
屏風は、毎日のように目にするため、こうし
た唐絵屏風の屏風絵だけでは満足できなくな
り、しだいに自分達に親しみやすい生活感情
を描いた大和絵が生まれる。
その発生により、屏風絵の主題は中国の詩
文にもとずく、風景画や風俗画から和様化し、
自分達の生活感情を表現した大和絵の屏風が
親しまれている。
この唐絵から生活感情を描いた大和絵の変
化が、まさに人の感覚の記憶がインテリア空
間、生活空間の場の情報を表現していること
の表れなのである。
中国の詩文にもとずく、風景画や風俗画を
描く唐絵屏風という、生活空間をデザインす
るインテリアは、人の表現を自分達の周りの
生活感情を描く、大和絵という身近な人の感
情へと表現を変化させた。
その表現は自分達の生活感情という日常の
出来事を記憶するかのように、屏風絵に描か
れ表現されている。
そして、このことを裏付けるかのように、
インテリアとは室内装飾という意味をもつが、
もう一つ意味をもつ、それは内部という意味
である。
この内部と繋がっているのは、場所で感じ
た人のもつ心理、感覚の記憶のことを表して
いるのではないだろうか。
人は洞窟壁画や山水画などのように、普遍
的に広がる空間の環境の中から、様々な空間
の情報を、視点という見ることを通して、五
感を働かせ、感覚の記憶を思い出すように表
現している。
この周りの環境を感じて表現していること
が、インテリアの内部の意味と繋がり、イン
テリアは生活空間をデザインすると同時に、
人の内部つまり感覚の記憶と関係をもってい
るのではないだろうか。
境界が、内部の世界と外部の世界に分ける
機能性であって、その内部の世界を形成して
いるのは、生活する人の表現から、生まれて
いるというのはここにある。
なぜ、古代エジプトの墓域や古代遺跡など
の壁や天井、床などの、遮断する境界と日本
の神社などにみられる鳥居の曖昧な境界は、
それぞれの文化や環境などの相違する場所で、
神聖的なイメージをもつ、聖域的な場を形成
したのであろうか。
それは、こうした広がる空間で生活する人
の感覚の記憶が形成した場であるからなので
あろう。
唐絵屏風というインテリアが人の感情とい
う心の中を変化させたように、インテリアは
生活空間だけでなく、感覚の記憶という人の
心理、心の中もデザインしているのである。
そして、記憶という人の心理には想像とい
うイメージも含まれる。
インテリアという室内装飾、この装飾は、
オーナメントとも言い、ラテン語の名詞では
オルナートゥス、秩序、整い、装備を語源と
している。
つまりインテリアとは、秩序ある世界であ
り、内部という人の記憶や想像などが表れた
場所なのである。
場所の内部の世界、雰囲気といった場のイ
メージは、人のもつ感覚の記憶や想像などに
よって生まれ、表現され、古代遺跡や神社な
どの聖域的な場所のように、普遍的に広がる
空間の中で、内部と外部、秩序ある世界と混
沌とした世界とに分けるように、差異づけら
れて、広がる空間の中で明らかにされるので
ある。
例えば、建築の表面に施された様々な装飾
には、人が生活する中、感じた世界観、自然
観、死生観、を表現している。
樹木は北欧神話の古代スカンジナビアの伝
説で、世界樹、世界の中心、軸という巨木ユ
グドラシルとして、神話で語られている以外
にも様々な意味をもち装飾されている。
古代オリエントにおける、棕櫚の木という
樹木は、季節による落ち葉がなく、毎年、新
しい葉をつけて、枯れるまで身を付けるので
聖樹とされ、また、パルメットという文様の
デザインのもとにもなっている。
西アジアのチグリス川に栄えたとされる、
メソポタミア文明の世界最初の帝国でもある
アッシリアでは、このパルメットを繋いだ不
思議な形の樹木を、生命の木として神聖視さ
れ、象徴的に浮き彫りにされている。
また、神話で世界樹とされ、語られている
巨木ユグドラシルは、ノルウェーの最大の入
江、ソグネフィヨルドの奥にあるウルネス教
会では、ウルネス様式と呼ばれ表現されてい
る。
その表現は、根を食べている鹿などと共に、
この巨木ユグドラシルを象徴的に浮き彫りに
されている。
こうした人の様々な表現こそ、人の感覚の
記憶と共に生まれた『想像というイメージ』
の表れなのである。
『空間の創造』
人は、天に枝を伸ばし、広がる大地に根を
張り成長する樹木をみて、様々なイメージを
得たように、記憶と想像という人の心理は、
五感という感覚を通し、普遍的に広がる空間
の身近な環境から、様々なことを感じて表現
している。
インテリアは、そうした人が生活する身近
な環境、生活空間をデザインし、そして、デ
ザインされたインテリア空間(生活空間)は、
人に心理によって表現された、場のイメージ
が混ざり合った、イメージの場なのである。
人は、そうしたイメージの場の中で生活し、
そして、視点という見ることを通して、音を
聞いたり、肌で感じ、手で触れるなどして、
意識し、または、無意識に身体に入る感覚の
情報を、感覚の記憶として表現し、生活する
場で感じたイメージを普遍的に広がる空間へ
と表現するのである。
インテリアは、そうした人の心理をデザイ
ンしていることはもちろん、人を表現へと導
く、表現という創造する行為もデザインして
いるのである。
そして表現するという行為は、普遍的に広
がる空間という領域の中に、場のイメージも
った場所を形成し、それは同時に『空間の創
造』へと繋がる。
:参考文献
:装飾の神話学 /著者 鶴岡 真弓 /発行所 株式会社河出書房新社
:ヨーロッパの文様辞典 /著者 視角デザイン研究所・編集部
/株式会社視覚デザイン研究所
:ビジュアル博物館 第5巻 樹木 /株式会社 同朋舎出版
:「図説世界建築史」第2巻 エジプト・メソポタミア建築
/著者 シーロン・ロイド+ハンス・ヴォルフガンク・ミュラー
/発行所 株式会社 本の友社
:世界四大文明ガイドブック ジュニア版
/著者 NHK、NHKプロモーション
/発行 NHK、NHKプロモーション② :神体山 /著者 影山 春樹 /発行所 学生社
:神社ウオッチング /著者 外山 晴彦 /発行所 東京書籍株式会社
:石器・骨・古代都市 stones,bonesandancientcities
地球物語双書2
/著者 ローレンス H.ロビンス /発行所 株式会社 心交社
:岩波美術館 歴史館第1室 /著者 高階 秀爾 /発行所 株式会社 岩波書店
:岩波美術館 歴史館第7室 /著者 前川 誠朗 /発行所 株式会社 岩波書店
:岩波美術館 歴史館第8室 /著者 前川 誠朗 /発行所 株式会社 岩波書店
:自然をうつす /青木 茂 /発行所 株式会社 岩波書店
:ボストン美術館秘蔵 日本近世屏風絵名作展