ANSYS Workbench Simulationにおけるモード合成法

TIPS & TRICKS
図1:
[Flexible Dynamic]解析では,9個すべてのオリ
ジナルアセンブリ部品を剛体として設定
図2:システムレベルの解析にジョイントを定義
図3:
[Reference Coordinate System]の座標系に関す
る位置と方向
ANSYS Workbench
Simulationにおけるモード合成法
モード合成法のスーパーエレメントによってシミュレーションモデルに
柔軟性を与えつつ,自由度を削減して高効率計算を追求
Sheldon Imaoka(ANSYS, Inc.)
ANSYS Workbench 11.0のANSYS Rigid
Dynamicsというアドオンモジュールでは,複
雑な運動アセンブリにおけるジョイント接続が
定義できます.
ジョイントを介して剛性部品とフレキシブ
ル部品をモデル化するANSYS Workbench
SimulationのRigid Dynamicsツールは,剛性部
品を質点と剛性リンク(剛性接触要素)でモデ
ル化するため,荷重の伝達能力が生まれ,シス
テムレベルの性能を比較的安価な計算コストで
評価できるという利点があります.しかし,計
算時間はフレキシブルメッシュの規模で決ま
り,用途によっては剛性の仮定が十分な精度に
ならない事例もあります.
こうした事例においては,モード合成法
(CMS)のスーパーエレメントを活用するアプ
ローチを採用した方がよいでしょう.CMSで
はモデルの柔軟性を維持しつつも,自由度
(DOF)を削減することによって,計算を効率
化しています.
スーパーエレメントは完全なモデルと比較
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ANSYS Advantage • Volume I, Issue 3, 2007
してDOFが低下していますが,構造の柔軟性
をモデル化する精度は変わっていません.スー
パーエレメントの生成手段である規則的なサブ
ストラクチャリングやCMSにおいては,イン
ターフェイスノードのDOFを維持しつつ,行
列を圧縮することで他のDOFをすべて消去し
ています.CMSでは規則的なサブストラク
チャーを一般化座標でアペンドしているため,
動的用途におけるスーパーエレメントの応答精
度は改善します.
CMSのスーパーエレメントはたわみが大きい
非線形解析に利用できることから,非線形非定
常問題解析で特に効果を発揮します.これは
DOF(インターフェイスノードと一般化座標)
が少なく,かつ精度のよい力学表現になってい
ることに起因しています.とはいえ,CMSの
スーパーエレメントは定常解析やモーダル解
析,調和解析,そしてスペクトル応答解析にも
利用が可能です.
接触がスーパーエレメント(規則的なサブ
ストラクチャーまたはCMS)にあると,イン
ターフェイスノードの個数はその接触領域の
規模に応じて劇的に増加するため,ANSYS
Workbench Simulationの[Flexible Dynamic]解
析においては,CMSのスーパーエレメントを
ジョイントで利用すべきです.ジョイントは
単独ノードで定義するため,CMSにおけるイ
ンターフェイスノードは個数が最小限まで減
少します.
実施例
今回の例では,Autodesk®社のInventor®に
よるサンプルアセンブリを使用しました.
[Flexible Dynamic]解析では9個すべての部品を
剛体とし(図1参照),部品間の相互作用をジョ
イントで定義しつつ,関与しているサーフェス
を剛性挙動にしました.そして,[Joint
Condition]にある2種類のジョイント条件を本サ
ンプルエンジンの荷重にとりました.
別のモデルにおいては,CMSのスーパーエ
レメントを生成する目的から,コネクティング
ロッドを設定しました.図2はジョイントを伴
うシステムレベルのオリジナル解析を表示した
もので,個々のモデルでは[Remote
Displacement]にある変位の支援を受けつつ,
TIPS & TRICKS
-250.
-250.
角速度[rpm]
-17.086
角速度[rpm]
-17.086
-500.
-750-
-500.
-750.
-1000.
-1000.
-1250.
-1303.9
-1250.
-1303.9
2.e3 -32.5e-2
5.e-2
7.5e-2
0.1
0.125
時間[s]
0.15
0.175
0.2
図4:剛性の事例とCMSの事例でシミュレーション結果を比較.荷重が小さいと,
結果は一致する.緑の線はCMSの結果,赤の線は剛性事例の結果.
[Joint Reference Coordinate System]に基準座
標系の位置と方向を複製する必要があります
(図3参照).その複製が終わると,モデルの
メッシュ化とスーパーエレメントの生成が可能
になります.
スーパーエレメントを生成するには,
[Commands]というオブジェクトを挿入しま
す.これは拘束ノードを([Remote
Displacement]にある変位の支援をもとに)選
択してその拘束を削除し,選択ノードをマス
ターDOFとするオブジェクトです.ユーザー
指定回数の要求モードでCMSの生成手順を実
行してできあがったファイルfile.subは,シス
テムレベルの解析に必要なスーパーエレメン
トファイルです.
以上の手順はスーパーエレメントに変換す
るリジット部品ごとに繰り返します.スーパー
エレメントは複数存在することもあるた
め,.subというスーパーエレメントファイルご
とに一意の名前が付くよう,ファイル名はリ
ネームしておきます.最後に付け加えると,単
位系はシステムレベルのアセンブリで用いてい
るものと同じにしてください.
生成したスーパーエレメントは,直ちにシ
ステムレベルのモデルに組み込むことができま
す.個人的には,[Commands]オブジェクトを2
個追加し,一方を置換すべき部品の下に,もう
一方を[Flexible Dynamic]ブランチの下に組み
込む方法が気に入っています.1つ目のオブ
ジェクトは1本のラインPART1_ = MATIDで,
要素タイプのIDが先験的に参照できます.2つ
目の[Commands]オブジェクトでは,リジット
部品の剛性リンクを1つ残してすべて削除し,
スーパーエレメントを追加した後,一致ノード
2.e3 -32.5e-2
5.e-2
7.5e-2
0.1
0.125
時間[s]
0.15
0.175
0.2
図5:荷重が大きくなると,CMSスーパーエレメント部品の柔軟性が原因となり,剛
性の事例とCMSの事例に差が出る.緑の線はCMSの結果,赤の線は剛性事例の結果.
をまとめて連結します.
剛体は剛性リンク(剛性接触要素)を通じ
てジョイントにつながっています.その剛性リ
ンクを1つ残してすべて削除することが個人的
に気に入っている理由は,そうするとポスト処
理が通常通りに実施できるからです.ANSYS
Workbench Simulationにおいては,オリジナ
ルの剛性質量が部品の位置を追跡する手段に
なっているため,剛性リンクが1つしか残って
いない場合でも,質量要素が接続ジョイントと
同時に運動しており,システムの応答が可視化
できることに変わりありません.
全般の結果(変形,ジョイントの結果,バ
ネの結果)を見直し,スーパーエレメントの解
を拡大して[Tools]メニューから[Read ANSYS
Result Files]に入ると,変形,応力,およびひ
ずみを部品ごとに見直すことができます.結果
を特定の時点または全体のいずれで拡大する場
合でも,ANSYS Workbenchプラットフォーム
でのポスト処理は通常通りです(図6参照).■
この記事の詳細とデモンストレーション用入
力ファイルについては,著者(sheldon.imaoka@
ansys.com)までお問い合わせください.
図4と図5は剛性アセンブリとCMSのスー
パーエレメント(個別にピストン,コネクティ
ングロッド,クランクシャフトを表現)を用い
たアセンブリの双方について,ジョイントにお
けるクランクシャフトとコネクティングロッド
の相対角速度を示した図です.比較的荷重が小
さい場合は,両結果が良好に一致していること
は予想通りです(図4参照).荷重が大きくなり,
一定の相対変形が存在するようになると,剛性
だけの事例とCMSの事例は,部品の柔軟性に
起因した差を表しています(図5参照).
いずれのシステムレベルで実行しても,計
算が比較的短時間であったことは注目すべき点
でしょう.剛性だけの事例は,実行した303回
の反復計算に3.2GHzのPC上で19秒を要し,3個
のCMS部品を伴うアセンブリは,実行した
1,340回の反復計算に合計191秒を要しました.
CMSアセンブリの事例で反復計算の要求回数
が多かった原因は,解析に追加して盛り込んで
あるCMSのスーパーエレメント部品3個が持つ
柔軟性の挙動を考慮するためです.
図 6: 結 果 に CMS部 品 が あ る 場 合 で も , ANSYS
Workbench Simulationにおけるポスト処理は通常通り
である.
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