特集:実践的先駆者 シミュレーションを利用した イノベーションにより競争優位を獲得 時間とお金の節約だけでなく,魅力的な製品の開発による売上増と競争優位獲得も 支援する予測解析ツール Korhan Sevenler(米国 ニューヨーク州,Xerox Corporation製品ライフサイクル管理ディレクター) © Xerox Corporation イノベーションをモットーとするXerox を受けるか,様々な実験計画法(DOE: Corporationは,ゼログラフィーという革新 Design of Experiments)を用いて研究する 的な電子写真方式を採用した業界初の普通 ことにあります.最終目標は,ロバスト設 紙複写機を市場に投入し,業界を確立しま 計,すなわち開発の初期段階で設計の最適 した.その後,年間売上170億ドルを誇る企 化を図りつつ,勘に頼る設計を排除するこ 業に成長し,文書の複写と管理で世界を とにより,これらの変数が変化しても最高 リードしている現在もイノベーションを推 の性能を発揮する製品を設計することです. 進しています.当社は,世界的に激化する Korhan Sevenler 競争環境のなかで,業界で最も幅広い製品 DFLSSを推進する上で重要な鍵を握って ラインを用意しており, カラーおよび白黒 いると言えるのがANSYS DesignXplorerで 印刷・出版システム,デジタル印刷機, す.このソフトウェアを使用すれば,上記 「ブックファクトリー」,多機能機器,レー したDOEによる研究を即座に開始できるだ ザーおよびソリッドインク方式のネット けでなく,応答曲面によって設計感度を評 ワークプリンター,複写機,ファックス機 価したり,ロバスト設計を迅速に実現する など様々なデジタルシステムを提供してい ことも可能になるからです.操作性に優れ ます. た高速なANSYS DesignXplorerは,Xerox 社のエンジニアリング部門全体にDFLSSを このような広範な製品を開発するには, 浸透させて,エンジニアリング業務全体の エンジニアリングソリューションが不可欠 効率アップを図るという当社の計画に完全 です.予測解析ツールを使用すれば,高い にマッチしたソリューションです. 品質基準を確実に満たせるだけでなく,何 万ドルものコストと数週間の期間がかかる ソリューションを利用した製品開発 プロトタイプ試験を繰り返す必要性を低減 Xerox社では,最先端の解析ツールを使用 することも可能になります.また,シミュ して,すべての製品を開発しています.高 レーションツールを利用すれば,売上増が 度なシミュレーションをサポートする最高 図れるほか,革新的で魅力的な新製品を開 レベルの解析ツールであり,複数の物理現 発して競争優位を獲得できるという大きな 象を評価する必要があるマルチフィジック メリットを享受できます. ス解析で効果を発揮するANSYS Mechanicalはその1つです.また,数値流体 Design for Lean Six Sigma 力学の研究には,ANSYS CFXとFLUENT Xerox社では,Design for Lean Six Sigma を利用しています.シミュレーションベー (DFLSS)戦略という遠大なエンジニアリン スの設計を支援するとともに,開発サイク グイニシアティブを推進しています.この ルの初期段階で様々なコンセプト案を評価 プログラムは,製造業界で実践されている して設計を最適化できる環境を提供する Lean Six Sigmaを取り入れてから18カ月後 ANSYS DesignSpaceも最大限に活用してい にあたる2005年に開始しました.DFLSSの ます.Xerox社では,ANSYS Workbenchイ 主な目的は,部品製造公差,機械の使用温 ンターフェースの使用頻度を増やしていく 度,印刷媒体の差異といった重要な変数の ことも検討しています.エンジニア全員が 変化によって製品の性能がどのような影響 一元的に同じ解析を実施するのではなく, ANSYS Advantage • Volume II, Issue 3, 2008 11 特集:実践的先駆者 互いに連結している部品とアセンブリの構造解析は,Xerox社がこれまでに開発したシステムの中で最も複雑なiGen3デジタル印刷システム の開発で重要な位置を占めていた. 各自が独自の解析を行うという当社のアプ スケジュール通りに市場に投入することも 問題がありますが,それでも,できるだけ ローチにマッチしているからです. できました.iGen3デジタル印刷システムは 速く設計を完了させる必要があります.こ 現在,当社の主力製品の1つとなり,主要な れまでは,この問題を解決するために,設 収益源になっています. 計業務の生産性向上とスピードアップを主 ANSYSは,iGen3デジタル印刷システム な目的としたエンジニアリンググループが の開発にも大きく貢献しています.オフ セット印刷機に匹敵する高画質画像を実現 組織上の弊害を克服 組織化されてきました. するこの印刷システムは,高速印刷,低コ 多くの場合,シミュレーションベースの ストの短期印刷,各ページをカスタマイズ 製品開発を支援するツールやソリューショ 一方,シミュレーションベースの設計プ できる機能といった様々な特徴を備えてい ンを導入すれば,大規模な分散型企業が直 ロセスでは,開発サイクルの初期段階で設 ます.この製品を商用印刷市場に投入して 面する組織上の弊害を簡単に克服すること 計の解析と改良を行う時間を多くとること 高いシェアを獲得できたのは,ANSYSのお ができます.弊害の1つとして,開発サイク ができるため,プロトタイプ試験への依存 かげです.なお,当社がこれまでに開発し ルの初期段階でシミュレーションを行うの 度と最終段階でのトラブルシューティング たシステムの中で最も複雑で,しかもス に必要な資金と時間を十分に確保できない を最小限に抑え,下流部門の時間と費用を 節約することができます.ここ数 ピードと性能の限界を超えたiGen3デジタル 年当社では,試作回数を削減する 印刷システムの研究開発プロジェクトに10 2.41E-3 億ドル以上の資金を投入した結果,この1つ 2.41E-3 たことも付け加えておきます. 2.41E-3 互いに連結している部品とアセンブリの構 2.40E-3 2.40E-3 には,エンジニアリング業務をできる限り 前倒しにして,製品の性能調査,潜在的な ANSYS Advantage • Volume II, Issue 3, 2008 4.9 0E -1 4.9 4E -1 4.9 8E -1 5.0 2E 1 5.0 6E -1 5.1 0E -1 E+0 1.96 E+0 1.98 12 E+0 1.99 品質と信頼性を維持しながら,この製品を E+0 2.01 DFLSSを実施したことで,コストを抑え, E+0 2.02 ました.また,エンジニアリング解析と 2.40E-3 E+0 2.04 る可能性のある問題を回避することができ DFLSSのトレーニングも, から,専門能力の向上にDFLSSが 必要であることに気付いたスタッ 造解析が重要な位置を占めました.その際 どを速やかに実施したため,のちに発生す 行う体制を強化しています.また, DFLSSの推進に積極的なスタッフ iGen3デジタル印刷システムの設計では, 問題の特定,設計案の評価,設計の改良な ために開発サイクルの初期段階で モデリングとシミュレーションを の製品だけで400以上のパテントを取得でき 複雑なデジタルプリンターに使われているポリゴンミラー の変形をANSYS DesignXplorerで調査している様子. フへと受講者の範囲を広げると いった方法をとり,効率的に実施 しています. 特集:実践的先駆者 Xerox社のエンジニアは,熱伝達(左)や接触(右)などの様々な解析研究でANSYS Mechanicalを使用している. 似ています.歴史上最も多くの発明品を残 きる環境も実現します.このような環境で 大企業が直面している問題の1つは,専門 した発明家の1人であるエジソンは,白熱電 は,適切なアイデアに焦点を絞って複数の スタッフがアイデアを交換しノウハウを共 球などの革新的技術を漠然と頭に描いただ 実験を実施し,コンセプトを繰り返し修正 有する機会が限られていることです.Xerox けでなく,エジソンから受けた指示を実行 することができます.これにより,シミュ 社では,実践コミュニティ,すなわち専門 するスタッフと一緒に実験も行っていたか レーションを迅速かつ正確に行えるように 業務(エンジニアリング,販売,マーケ らです. なるため,製品設計のイノベーションを推 実践コミュニティ 進し,業界をリードすることができます.■ ティング,機器修理)を担当しているス タッフがベストプラクティス,経験,アド また,シミュレーション技術は,エンジ バイス,問題の解決策を共有できる知識 ニア自らがイノベーターとなり,様々なア ネットワークを構築することによって,こ イデアを試して問題の有無を簡単に確認で © Xerox Corporation の問題を解決しました. また,この取り組みの一環として,エン ジニアのために,モデリング,シミュレー ション,DFLSSをテーマとする全社的な フォーラム(2日間)を毎年開催しています. 講演者を社内だけでなく社外からも招いて いるこのフォーラムでは,自由時間や休憩 時間を十分にとり,人脈作りや情報交換が 行えるようになっています.さらに当社は, 毎月「Lunch and Learn(ランチアンドラー ン)」セッションを主催し,エンジニアが顔 を合わせて最新のシミュレーション手法に ついて情報交換できる場も提供しています. シミュレーションベースのプロセスで イノベーションを推進 実践コミュニティの最大のメリットの1つ は,シミュレーションツールのほか, DFLSSやDOEなどの手法を製品開発プロセ スで最大限に活用できるようになることで す.これにより,時間とお金を節約できる だけでなく,代替案を探索したり,様々な アイデアを試してみたり,多数のwhat-ifシ ナリオを実行することも可能になります. このような環境を導入すれば,イノベー ションを強力に推進し,競争優位を維持す ることができます.こうして見てみると, シミュレーションベースのアプローチは, Thomas Edisonが米国ニュージャージー州 に設立した研究所で採用されていたものと プリンターのエミッション制御サブシステムの粒子飛跡を,Xerox社のエンジニ アがANSYS社の流体解析ソフトウェアを使用してシミュレーションしたもの. ANSYS Advantage • Volume II, Issue 3, 2008 13
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