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消費財
低温を維持しながら
コスト削減を実現
シミュレーションを利用して冷蔵庫の設計を最適化し,
温度もコストも低く抑える
Axel J. Ramm(ブラジル ジョアンヴィル,南米地区(LAR)Whirlpool Corporation SA 開発スペシャリスト ブラックベルト)
家電業界の国際競争により,高い品質を
維持しながらコスト削減を求める要求は
ドルと不振が続く中,市場競争は激化して
を向けました.これまでWhirlpool社による
います.
通常のコスト削減プロジェクトでは,エン
ジニアがいくつかのプロトタイプの作成と
メーカーに対してかつてないほど強まって
家庭用および業務用冷蔵庫のマーケット
試験を行い,その結果を現在の本生産キャ
原料費の上昇に伴い,メーカーは製品設計
リーダーの一角を占めるWhirlpool
ビネットと比較する必要がありました.こ
の見直しを余儀なくされています.家電業
Corporation(Whirlpool社)は,競争優位性
のような試行錯誤の手法ではコストと時間
界の2006年における売上は全世界で62億米
を見出そうとANSYS社のソフトウェアに目
がかかり,変革は少しずつしか進みません.
います.特に競争が激しい冷蔵庫部門では,
上部ヒンジ
中央ヒンジ
キャビネットの最適化解析で用いられたWhirlpool
社の冷蔵庫モデルのオリジナルデザイン
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ANSYS Advantage • Volume II, Issue 1, 2008
キャビネットとドアのアセンブリの有限要素モデルと
重要なヒンジの拡大図
下部ヒンジ
消費財
最近では,Whirlpool社は最先端のシミュレーションと実験的なツー
ルを組み合わせ,複雑な構造挙動を評価する手法を用いて大きな成
果を得ています.
Whirlpool社が先頃,発売後3年が経過する450リットル2ドア冷蔵
ラッパー
庫の製造コスト削減を検討したところ,このモデルは現行設計で指
定されている既存のキャビネットのたわみとドア降下の限界値に適
合する必要があること,ならびに所定のキャビネット剛性を保つ必
要があることが分かりました.全負荷時のドアを開くと,キャビ
ネットのたわみやドア降下が発生します.そうなると,キャビネッ
トはたわみ,ドアが下がり,最終的にはキャビネットが変形します.
また,再設計でキャビネット剛性を変更すると,断熱性能や美観に
悪影響を及ぼす可能性があり,最終的には消費者が認識する品質に
中央レール
影響します.
冷蔵庫のキャビネットは,外側のシートメタル部品,ポリウレタ
ン発泡体の充填材,内側のプラスチックライナーで構成されていま
す.同じモデルの製品でも製造方法と試験方法に大きな違いがあり,
それがドア剛性に影響を及ぼすため,キャビネットのたわみとドア
降下を評価するのは非常に複雑です.Whirlpool社のエンジニアは,
最も重要な変数を特定するために実験計画法(DOE: Design of
Experiments)と逐次解析を利用しました.このプロセスと,構造
前面レール
挙動を表す定量データをコンパイルした後,エンジニアリングチー
ムはANSYS Mechanicalを使用して冷蔵庫の設計を最適化しました.
シミュレーションと解析の目的は,材料費とドア降下に最も大き
シミュレーションのセットアップ
な影響を及ぼす設計係数を求めることでした.はじめに,エンジニ
アはソリッド要素とシェル要素を使用してキャビネットの有限要素
冷蔵庫のポリウレタン発泡体,EPSの縦仕切り,ヒンジ,レ
モデル(FEM)を作成しました(詳細は左の記事を参照).この研
ベラは,ソリッド四面体要素(SOLID45)でモデル化しました.
究では,すべての有限要素解析(FEA)にANSYS Parametric
基本的に薄板で構成される他のパーツは,SHELL181要素でモ
Design Language(APDL)を使用しました.キャビネットの剛性を
デル化しました.クリンチジョイントやスクリューのすべての
制御するための状態変数や応答変数は,静荷重がかかった状態での
コネクションには,BEAM188要素を使用しました.
ドア降下でした.最小化するべきコスト関数は,キャビネットの
シートメタル部品の質量と正比例しました.
材料属性はすべて線形等方性があるとみなしました.入力
データは研究室の試験結果とサプライヤの技術仕様書から取得
製造に使用する材料の数量を減らしてコスト削減を図るために解
したものです.ポリウレタン発泡体の弾性は研究室の試験装置
析を行った結果,コンプレッサープレート,デッキ補強材,底面
で評価し,その弾性係数は係数として算入しました.
デッキ,前面レールを総質量の7.8%だけ薄くすると,ドア降下を最
小限に保ちながら材料を削減できることが分かりました.さらに詳
現実の荷重条件を適切に表すため,すべてのキャビネット
細なシミュレーションや最適化を行った結果,質量に最も影響を及
パーツの質量を評価し,算入しました.また,キャビネットバ
ぼす因子はキャビネットラッパー(外側のパネリング)であること,
ラストと装荷ドアに相当する質量を計算し,モデルの各位置に
ただしラッパーを薄くするとドア降下が増加することが分かりまし
割り当てました.重力による加速度は荷重境界条件として適用
た.ドア降下に最も影響を及ぼす因子は,中間レールとキャビネッ
しました.キャビネットを底面で拘束し,実際の動作条件をシ
トの前面フランジを連結するスクリューでした.設計者は,ラッ
ミュレーションしました.
パーを薄くしたことに起因するドア降下の増大を補正するため,
ラッパーの前面フランジと中央レールの間にスクリューコネクタを1
ドアの付属品とヒンジは,拘束方程式でモデル化しました.
つではなく2つ追加しました.その結果,ドア降下は12%改善しまし
これによって平行移動と回転を制御し,ドアからキャビネット
た.この設計変更はキャビネットの堅牢性にも寄与し,ポリウレタ
への移動が正しく行われます.その結果,ドアサポートを底面
ン発泡体の剛性損失(製造プロセスのばらつき)が補正されました.
にだけ配置し,ヒンジピンを回転しないようにすることもでき
るようになりました.その場合,各ドアの上部ライナーに拘束
をさらに2つセットし,剛体挙動が現れないようにする必要が
あります.
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この最適化とこれに関連する設計変更の結果,ドア降下とキャビ
ネット変位をWhirlpool社の品質基準に則った合理的レベルに保ちな
がら,キャビネットの総質量を26%減らすことができました.同社
の収益報告書では,材料費は製品あたり15%低下し,年間120万米ド
シックスシグマと,
クリティカルシンキングの重要性
Whirlpool社のこの事例では,実験計画法(DOE)製品試
ルのコスト削減を実現しました.
験を含むシックスシグマツールを使用して,製造プロセス
ANSYS Mechanicalとシックスシグマツールを使用することで,
を評価し,キャビネットの構造挙動に影響を及ぼす振動の
Whirlpool社のエンジニアは,実際のデータで校正された複雑な有限
原因について実験室検査を行いました.その結果,エンジ
要素キャビネットモデルを開発し,最初の物理的プロトタイプの最
ニアは,有限要素モデル(FEM)校正を達成するための,
適化を行うことができるようになりました.この手法は開発時間の
ばらつきの低減に役立つ十分な知識が得られました.
短縮と製造コストの削減をもたらし,その結果,Whirlpool社は競争
が激化する市場の要求に対応しやすくなりました.■
FEMと校正を行った後,シックスシグマツールを用いて
係数とレベルを選択し,ANSYS Mechanicalによる最初の
最適化で逐次仮想DOEを行いました.その目的は,ドア降
下と材料費に最も大きな影響を及ぼす設計係数を求めるこ
とでした.
Whirlpool社では,シックスシグマイニシアチブにより,
品質や性能など,製品およびプロセスの重大な成果にばら
つきが出る原因の影響について調査し,多くの場合は欠陥
を大幅に減らすためのイニシアチブに着手します.シック
スシグマの理念と関連して,「Y = f(X)」
(YはXの関数)と
いうフレーズがよく用いられます.この非常にシンプルな
方程式は,重大な製品やプロセスの動作特性(Y)におけ
る挙動が一定のプロセス係数や入力(X)に起因するとい
う測定結果を表しています.たとえば,キャビネットラッ
パーの厚さ(X)はキャビネットの剛性とドア降下(Y)に
影響を及ぼす可能性があります.シックスシグマで最も重
要な作業は,Yのばらつきを特定し,測定することです.
これはYのばらつきの原因を見つけ,これを軽減する有効
な手法を開発するための作業です.
また,科学的手法に基づくクリティカルシンキングは非
常に重要なスキルであり,シミュレーションに関係する工
業実験に広く採用され,これが設計最適化につながってい
ます.クリティカルシンキング(演繹と帰納のプロセス)
は,研究者が当初の疑問から理論を展開するための手段を
もっていることを意味します.この手段には,専門の知識,
経験,プロセス知識,批判的に熟考して他の事項に関連付
ける能力が含まれます.実際に明らかになっているように,
改善活動や開発活動にとって重要なのは,特定のツール
セットでトレーニングを行うことよりもクリティカルシン
キングです.
キャビネットの形状は変えずにドアと他
のいくつかの装備の設計を変更した,
Whirlpool社の最新の冷蔵庫モデル
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ドア降下(ズレ)を定量化した
シミュレーション結果
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