2.気相の物理・化学 - プラズマ・核融合学会

J. Plasma Fusion Res. Vol.91, No.5 (2015)3
23‐328
小特集
シリコン系太陽電池の高効率化に向けたプラズマ CVD の科学
2.気相の物理・化学
2. Elementary Processes in Gas Phase
2.
2 反応性プラズマにおけるシリコンクラスター・ナノ粒子形成
2.2 Formation of Silicon Clusters and Nanoparticles in Reactive Plasmas
古 閑 一 憲,白 谷 正 治
KOGA Kazunori and SHIRATANI Masaharu
九州大学大学院システム情報科学研究院
(原稿受付:2
0
1
5年2月1
2日)
薄膜堆積で用いられている反応性プラズマで発生するナノ粒子は薄膜に取り込まれることで膜質の劣化を
招くためプロセスプラズマの科学における重要な研究対象である.特に水素化アモルファスシリコン太陽電池に
おける光劣化現象では,シランプラズマ中で発生したサイズが 10 nm 程度以下のアモルファス構造のナノ粒子
(クラスター)の堆積膜への混入が原因の1つとして考えられている.本節では,反応性プラズマ中のナノ粒子に
ついて核発生からサイズが 10 nm 程度までの初期成長期の成長機構について概要を説明した後,シランプラズマ
で発生したナノ粒子の堆積膜への輸送,混入と膜質への影響に関する研究結果を紹介する.
Keywords:
plasma CVD, reactive plasma, nanoparticle, cluster, nucleation, coagulation, higher order silane molecule, radical
2.
2.
1 はじめに
薄膜シリコン太陽電池製作などで重要な役割を果たして
いるシランプラズマでは,材料ガスと電子との衝突解離で
発生した化学的活性種を起源としてナノ粒子が発生・成長
する.膜堆積中のナノ粒子混入は膜質劣化の原因となるた
め,ナノ粒子の発生機構や振舞い解明がナノ粒子抑制や除
去のために重要な研究テーマとなっている[1‐8].
筆者らは,反応性プラズマ中のナノ粒子計測法を開発す
るとともに,得られた知見を基に核発生とそれに続く成長
に関する一貫したモデルを構築することに成功している
[9].ナノ粒子成長モデルの概要を説明するため,反応性プ
ラズマにおける典型的なナノ粒子のサイズ・密度の時間変
化を図1に示す.ナノ粒子は,
(1)気相中の SiH2 等の高い反応性を有する化学活性種
(ラジカル)を出発点として,ラジカルの重合による
図1
高次シラン分子の発生から核形成を経て 10 nm 程度
ナノ粒子のサイズ・密度の時間推移の典型例.
のサイズに至るまでの初期成長期
(2)10 nm 程度から 100 nm に至る急速成長期
主要なナノ粒子の成長機構は,ラジカルがナノ粒子表面
(3)急速成長期に続く成長飽和期
に堆積する化学気相堆積(CVD)成長と,ナノ粒子同士が
の3つの過程を経て成長する.定常状態では,SiHx ラジカ
衝突する凝集成長の2つが挙げられる.それぞれの成長機
ル,サイズが 0.5 nm 程度以下の高次シラン分子,サイズが
構では,ナノ粒子とプラズマ(電子,イオン,ラジカル)と
10 nm程度以下のナノ粒子,10 nm以上のナノ粒子(ここで
の相互作用が重要な役割を果たす.初期成長期について
は便宜上微粒子と定義する)の4つのサイズグループが気
は,成長に複雑な化学反応が関与し,しかも精度の高い測
相中で共存する.
定法が確立されていないこともあって不明な点が多く残さ
Kyushu University, FUKUOKA 819-0395, Japan
corresponding author’s e-mail: [email protected]
323
!2015 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.91, No.5 May 2015
れている.急速成長期では,正負に帯電した微粒子のクー
ロン引力に基づく凝集成長が主要な成長機構である.一
方,成長飽和期の微粒子は電子付着によりほとんど全ての
微粒子が負に帯電しているため,クーロン反発力により凝
集が抑制されて CVD 成長が主要な成長機構となる.
本節では,はじめに核発生過程を概説し,近年筆者等の
研究で明らかになった,核発生後のナノ粒子の3つの成長
モードについて概要を説明する.また,シランプラズマ中
でのナノ粒子の発生と堆積膜への輸送,混入とその膜質へ
の影響について概説する.
2.
2.
2 核発生
シランプラズマでは,高速電子によるシラン分子の衝突
解離(いわゆる1次反応)により,SiHx ラジカルが発生す
る[10].生成したラジカルの内,反応性が低い SiH3 は,プ
ラズマ中での寿命が長いため基板表面に到達することがで
き薄膜堆積に寄与すると考えられている.これに対して,
反応性が高い SiH2 等は,気相中での寿命が短く,これらの
ラジカルと SiH4 分子との重合反応(いわゆる2次反応)を
出発点として高次シラン分子が発生する.
高次シラン分子の発生では,ガス滞在時間と核発生時間
が重要である.ガス流速が速く,ガス滞在時間が核発生時
間よりも充分短い条件においては,中性ラジカルはプラズ
マ中で核発生に充分な時間滞在することができない.その
ため,プラズマ中に捕捉された負帯電分子 SiH−
x を出発点
図2
とした重合反応により高次シランが発生する
[8].しかし
ながら,薄膜シリコン太陽電池を作製するための典型的な
放電開始後(a)
3 ms,(b)
10 ms,(c)
100 ms におけるナノ
粒子のサイズ分布[1
3]
.放電開始後 10 ms,シリコン原子
数4個程度においてサイズ分布にボトルネックが現れて,
核発生が起きていることがわかる.
放電条件では,ガス流速は比較的遅く,ガス滞在時間は核
発生時間よりも長い場合が多い.このような場合,下記の
高次シラン分子からナノ粒子への核発生には,高次シラ
ような SiH2 による挿入反応により高次シランが発生する
ンへの電子付着が重要な役割を果たしている.J. Perrin ら
と考えられている[11,
12].
による実効的な電子付着断面積の計算結果から[14]
,シリ
コン原子数が4個程度から,電子付着断面積が急激に増加
SiH4+e− → SiH2+2H+e−
して,電子付着することが可能であることがわかってい
SiH2+SiH4+M → Si2H6+M
る.負イオン化した高次シランはプラズマ中に形成された
SiH2+Si2H6+M → Si3H8+M
空間ポテンシャルに捕捉されて,プラズマ中の滞在時間が
…
長くなることで核発生する.この核発生期におけるサイズ
これら挿入反応は,3体反応であることが知られており,
分布の振る舞いについては,布村らによる気相構成分子の
SiH2 と SiH4 の反応で発生した余剰エネルギーが第3体 M
質量分析結果からも同様の結果が確認されている[1
5].
以上をまとめると,核発生期における高次シラン分子は
(多くは SiH4 分子)との衝突により緩和して高次シラン分
SiH2 等の短寿命ラジカルとSiH4 分子の3体反応により発生
子が安定的に気相中に存在する.
上述した重合反応による高次シラン分子成長では,分子
する.高次シラン分子と SiH2 ラジカルとの連続した重合反
中のシリコン原子の数が多くなると共に分子密度が単調に
応により1分子中のシリコン原子数が増加し,シリコン原
減少するはずである.しかし,反応性プラズマでは,シリ
子4個程度の高次シラン分子が負帯電することにより核発
コン原子の数が4つ程度まで高次シランが成長すると核発
生する.つまり核発生には4回程度の連続した重合反応が
生が起きる.筆者等は,ナノ粒子への電子付着と拡散損失
必要であり,定常状態では SiH2 ラジカル密度は電子密度に
を利用した計測法を開発し,初期成長期におけるナノ粒子
比例していることから,核発生レートは電子密度の約4乗
のサイズ分布を推定した[13].結果を図2に示す.放電開
に比例すると考えられる.
始後 3 msでは,1分子あたりのシリコン原子数の増加と共
に,密度が単調減少して高次シラン分子のみが気相中に存
2.
2.
3 ナノ粒子成長における3つの成長モード
在する.しかし放電開始後 10 ms では,シリコン原子数4
2.
2.
3.
1 凝集成長
図3に初期成長期におけるナノ粒子のサイズ・密度と体
個程度においてサイズ分布にボトルネックが現れて核発生
積分率の時間推移を示す[13].核発生後ナノ粒子のサイズ
し,その後ナノ粒子が単分散のまま成長する.
324
Special Topic Article
2.2 Formation of Silicon Clusters and Nanoparticles in Reactive Plasmas
図4
K. Koga and M. Shiratani
ナノ粒子凝集に関する領域図.図中の三角形,四角形,丸
はそれぞれ,凝集領域,非凝集領域,これらの間の遷移領
域を示す.また図中の実線と破線はナノ粒子同士の付着確
率 "s を 1.0,0.2 とした時の凝集・非凝集を分ける閾値の理
論曲線を示す.
れた条件を示す.図中の理論曲線は凝集と比凝集の境界に
位置し,実験結果とよく一致している.つまり,凝集成長
ではナノ粒子とイオンの密度比とナノ粒子サイズが重要な
図3
ナノ粒子のサイズ・密度の時間推移の典型例.実線が高次
シラン分子,破線がナノ粒子を示す.
パラメータである.
上の議論から単純に考えると,ナノ粒子密度が多くなる
とともにナノ粒子同士の平均自由時間が短くなり,ナノ粒
は単調増加し,密度は単調減少する.サイズと密度から計
子の成長レートが高くなると考えられる.しかし,CVD
算した単位体積あたりにナノ粒子が占める体積(体積分
成長が支配的な状況では,逆にナノ粒子密度の増加ととも
率)は単調に増加する.体積分率の増加は初期成長期の主
に成長レートが減少する成長モードが存在することが最近
なナノ粒子成長機構が SiH2 等の堆積による CVD 成長であ
の研究により明らかになった.
ることを示すものの,密度の減少は凝集も同時に起きてい
2.
2.
3.
2 CVD 成長における2つの成長モード
ることを示す.この2つの成長機構の内,まずは凝集成長
CVD成長では,ナノ粒子表面へのラジカル堆積によりナ
が起きる条件について議論したい.ちなみにこの場合の凝
ノ粒子が成長するため,ナノ粒子とラジカルの相互作用が
集とは,第1節で説明した急速成長期におけるクーロン力
重要な役割を果たす.ここでは,ナノ粒子とラジカルの相
を介した正負帯電ナノ粒子の衝突による凝集とは異なり,
互作用を明らかにするため,ナノ粒子成長に対する振幅変
中性ナノ粒子の熱運動中の衝突による凝集を指す.凝集条
調放電によるラジカル密度摂動の影響を調べた研究結果に
件の詳細な議論は,論文[16]や本誌解説記事[17]を参照し
ついて説明する[19].
ていただくとして,ここでは概要を説明する.
実験では,容量結合型放電プラズマ装置を用いた
[19].
凝集成長では,ナノ粒子とプラズマ中の電子・正イオン
放電電極に振幅変調した高周波電圧を印加してプラズマを
との相互作用によるナノ粒子の帯電状態の変化が重要であ
生成した.プラズマ中で発生したナノ粒子のサイズ・密度
る.電子付着断面積の計算結果より,シリコン原子4個以
上の粒子で電子付着が生じやすいことからナノ粒子も負帯
は,筆者らが開発したレーザー散乱法を用いて計測された
[20].
電することが予想される.しかし,その帯電量は電子1個
放電開始後8秒の放電領域中央付近のナノ粒子サイズ・
程度であり,正イオンや電子との衝突により,帯電状態は
密度の振幅変調度(AM Level)依存性を図5に示す.振幅
中性近傍で揺らぐことが数値計算で明らかになっている
変調度の増加と共に,サイズは減少,密度は増加している.
[5,
6,
9,
18].ナノ粒子が負帯電して2つのナノ粒子にクー
密度の増加とサイズの減少つまり成長率の低下は,核発生
ロン反発力が作用する場合,凝集は抑制されるため,微粒
が重要な役割を果たす.核発生の節で説明したように,ナ
子の負帯電維持時間が微粒子同士の平均自由時間より長い
ノ粒子は連続したラジカルの重合反応と電子付着により核
ときに実効的にナノ粒子同士にクーロン反発力が作用して
発生する.定常状態においてラジカル密度は電子密度に比
凝集が抑制される.凝集条件について,ナノ粒子サイズ
例するので,核発生レートは電子密度のべき乗に比例す
"!をパラメータとして
!"とナノ粒子とイオンの密度比 ""!
る.振幅変調した場合,振幅変調しない場合よりも電子密
条件を調べた結果を図4に示す.図中の白抜きの三角は凝
度が高い時間帯が存在し,この時間帯に核発生レートが顕
集が起きた実験条件を示し,白抜きの四角は凝集が抑制さ
著に高くなるため,平均すると振幅変調なしの場合に比べ
325
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.91, No.5 May 2015
ノ粒子密度がプラズマ密度よりも十分小さい領域では,ナ
ノ粒子のサイズ成長率はナノ粒子密度に依存しない independent mode となる.その後,ナノ粒子密度の増加ととも
にサイズ成長率が減少する negative feedback mode に移
る.図中の白丸で示されている実験結果は,装置サイズに
近い #) "0.1 m のときの理論曲線によく一致している.こ
の結果を図4のナノ粒子サイズとナノ粒子とイオンの密度
比のグラフに追加したものを図7(a)に示す.この結果は,
ナノ粒子サイズ,ナノ粒子とイオン密度比の2つのパラ
メータを用いることでナノ粒子の初期成長期における3つ
の 成 長 モ ー ド(positive feedback(凝 集 成 長)
,negative
図5
feedback,independent)の発生条件を表すことができる
ナノ粒子のサイズ・密度の振幅変調度依存性.
ことを示している.図7(b)にそれぞれの成長モードの概
要を表した図を示すので理解の一助としていただきたい.
て核生成レートが高くなり,ナノ粒子密度が増加する.す
るとナノ粒子1つに流入するラジカルフラックスが減少し
て成長率が減少すると考えられる.
凝集成長であれば,密度の増加と共にナノ粒子の成長
レートは高くなり,サイズは大きくなるはずであるが,こ
の結果は反対の振る舞いをしている.プローブ計測結果よ
りプラズマ密度は 109 cm−3 台であり,凝集成長条件から考
えて,この実験における主要な成長機構は CVD 成長であ
る.CVD 成長の場合,ナノ粒子サイズ成長率はラジカル密
度に比例する.一般的にラジカル密度 %(が従うレート方程
式は,生成項と壁への損失項で表されるが,ナノ粒子とラ
ジカルの相互作用が無視できない場合,ナノ粒子への損失
項がレート方程式に加えられる.この場合のナノ粒子のサ
イズ成長率は,以下のような式で与えられる.
&$'
"!%("
&&
!
$
"
"!
%
!! $'"%'##)#"
%
ここで!は比例定数,"はラジカルの拡散係数,#)は装置
の特性長を示す.図6に,!!
" で規格化したナノ粒子成
%
長率のナノ粒子密度依存性を示す.この時,$'"10 nm と
し,装置の特性長 #) はパラメータとした.理論曲線は,明
らかに2つの成長モードが存在することを示している.ナ
図6
装置の特性長 Lw をパラメータとした,ナノ粒子成長率のナ
ノ粒子密度依存性.
図7 (a)
3つのナノ粒子成長モードの領域図と(b)
3つの成長
モードの概要図.
326
Special Topic Article
2.2 Formation of Silicon Clusters and Nanoparticles in Reactive Plasmas
K. Koga and M. Shiratani
2.
2.
4 シランプラズマプロセスにおける堆積膜
へのクラスター取り込み
レーザー散乱法で得たクラスターからのレーザー散乱光強
ここまで反応性プラズマにおけるナノ粒子の核発生から
光散乱光強度はともに放電電極近傍のプラズマシース領域
度の空間分布を示す
[2
3].SiH*発光強度とレーザー散乱
初期成長期までの成長機構について説明した.反応性プラ
にピークをもつ.この結果は,SiHx ラジカル生成レートが
ズマの重要な応用の一つとしてシランプラズマを用いた水
最も高い放電電極近傍のプラズマシース領域でクラスター
素化アモルファスシリコン(a-Si:H)薄膜の堆積が挙げら
量が高いことを示す.放電電極近傍で生成したラジカルや
れる.シランプラズマ中で発生したナノ粒子は膜質劣化の
高次シランラジカル,また中性クラスターはプラズマポテ
原因の一つと考えられており,ナノ粒子生成領域から堆積
ンシャルによる捕捉を受けず拡散により接地電極に置かれ
膜への輸送,膜への混入は重要な研究テーマである.ここ
た基板に輸送され堆積する.これらの生成,輸送,堆積過
ではシランプラズマ中でのナノ粒子の生成から膜への輸
程をまとめたものを図9に示す
[24].SiH3 は主な製膜寄
送,混入,そしてナノ粒子混入による膜質への影響につい
与種として考えられており,高次シラン分子がラジカル化
て説明する.
したもの又はクラスターは膜への付着率はほぼ100%であ
198
0年に発見されて以来未解決の問題に a-Si:H 薄膜の光
ることまた水素結合を多く含むことから,これらの膜への
劣化がある[21].これは,光照射により a-Si:H 薄膜中に欠
混入が光劣化の原因と考えられている.我々は,シランプ
陥が生成するため,a-Si:H 薄膜を用いた太陽電池の発電効
ラズマ中で発生したクラスターの水素含有量をフーリエ変
率が低下するという問題である.光劣化は,a-Si:H 膜中の
換赤外分光法で計測し,Si-H2 結合に関わる水素含有量
Si 原子に水素原子が2つ結合した Si-H2 結合に起因すると
CSiH2が,デバイス条件を満たす a-Si:H 薄膜中でも 1 at.%程
考えられており[22],膜中 Si-H2 結合抑制に向けた研究が
度であるのに対して,クラスターは 9 at.%と多量に Si-H2
行われている.
結合を含むことから[24],クラスターの膜への混入が光劣
シランプラズマを用いた薄膜堆積では,SiH4 ガス分子の
化の主な原因であると考えた.
電子衝突解離で生成した SiHx ラジカル,高次 シ ラ ン分
高次シランラジカルとクラスターという2つの候補の
子,そしてサイズが 10 nm 程度以下のアモルファスシリコ
内,どれが膜中 Si-H2 結合生成の原因であるかについて検
ンナノ粒子(クラスター)が存在する.図8にプラズマの
討した結果を図10に示す.まず,膜中 Si-H2 結合生成に対す
*
発光分光法で得た SiH (波長 414 nm)からの発光強度と,
る高次シラン分子の寄与を明らかにするため,四重極質量
分析器を用いた残留ガス分析から推定した高次シランラジ
カルの製膜への寄与と CSiH2の相関を調べた.高次シランラ
ジカルの製膜への寄与を考える場合,高次シランラジカル
と SiH3 ラジカルの密度比
[SimHn]/[SiH3]を得る必要があ
る.定常状態において,高次シラン分子とシラン分子の密
度比
[SimH2m+2]/[SiH4]は,[SimHn]/[SiH3]と比例関係に
あるので,[SimH2m+2]/[SiH4]を高次シランラジカルの製
膜への寄与として考えることができる.高次シランラジカ
ルの内 Si2Hx と Si3Hx の寄与について調べた結果を図10
(a)
に示す.Si2Hx と Si3Hx の製膜への寄与は,CSiH2が2桁変化
しても数倍程度の増加にとどまり,Si2Hx と Si3Hx の膜混入
による膜中 Si-H2 結合への寄与は小さいと考えられる.次
に,膜中 Si-H2 結合生成に対するクラスターの寄与を明ら
図8
SiH*(波長 414 nm)からの発光強度(上図)とナノ粒子か
らのレーザー散乱光強度(下図)の空間分布.横軸の GND
と RF はそれぞれ接地電極と放電電極に位置を示す.ラジカ
ル生成レートが高い,放電電極側のプラズマシース領域で
ナノ粒子の生成が起きていることを示す.
図9
327
シランプラズマにおける製膜過程の概要図.
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.91, No.5 May 2015
びアモルファスシリコン薄膜堆積におけるクラスターの膜
への輸送,混入について近年筆者らが得た結果を交えて概
要を説明した.反応性プラズマにおけるナノ粒子成長で
は,プラズマ中の電子・イオン・ラジカルとの相互作用が
ナノ粒子成長を支配しているところが他のナノ粒子プロセ
スとは根本的に違うところである.最近では,ナノ粒子と
ラジカルの非線形カップリングを利用して,サイズ揺らぎ
の抑制を実現している[28].またごく最近では反応性プラ
ズマ中のラジカルの非線形カップリングよるナノ粒子成長
を,非平衡極限プラズマにおける階層構造形成と結びつけ
て検討する動きも現れ,これらの知見に基づく新しいナノ
テクノロジーの創出が期待される.
参考文献
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図1
0 膜中 Si-H2 結合に関わる水素含有量 CSiH2 に対する(a)
高次
シランラジカルと(b)
クラスターの膜混入の寄与.
かにするため,レーザー散乱法による気相中ナノ粒子量と
下流領域で捕集したナノ粒子量から推定した膜中クラス
ター体積分率 Vf と CSiH2の相関を調べた.結果を図10
(b)に
示す.データにばらつきはあるものの,CSiH2の増加ととも
に Vf は線形に増加する傾向を示す.2.
2.
2で説明したよう
に,ナノ粒子は Si 原子が4つ重合した分子から核形成する
ため,核形成後のナノ粒子の混入が膜中 Si-H2 結合生成の
主要因であると考えられる.
これらの知見を基に,我々はクラスター混入を抑制した
a-Si:H薄膜を作製し,高い光安定性を示すa-Si:Hの作製に成
功している
[25].従来型の容量結合型プラズマ CVD 法な
どの多量のクラスター混入するプロセスでは,ナノ粒子混
入が Si-H2 結合生成の主なプロセスと考えることができる.
しかしながら,膜堆積中の表面では Si-H2 結合が多いこと
が指摘されており[26,
27],光劣化の解決のためには,クラ
スター混入を完全に抑制した上で,より精密なプラズマに
よる膜堆積プロセスを実現する必要がある.
2.
2.
5 おわりに
核発生から初期成長期におけるナノ粒子の成長機構およ
328