4.極低温環境下でのプラズマの特性変化と自己組織化

J. Plasma Fusion Res. Vol.85, No.8 (2009)5
26‐531
小特集
極低温環境下でのプラズマ研究の新展開
4.極低温環境下でのプラズマの特性変化と自己組織化
野 間 由 里,崔
宰 赫,佐 野 正 樹,寺 嶋 和 夫
東京大学大学院新領域創成科学研究科
(原稿受付:2
0
0
9年6月1
9日)
プラズマのガス温度(中性ガスの温度)が室温付近から極低温までの値を有するクライオプラズマにおい
て,そのガス温度制御により特性の変化,および,自己組織化パターンの形成が見いだされた.クライオプラズ
マではガス温度の低下に伴うプラズマ中の粒子の運動エネルギーの低下により,その特性は変化し,また,粒子
間の自己組織化の起源ともなる分子間相互作用の影響が増大する.本項では特性変化と自己組織化を中心として
このクライオプラズマに関する我々のグループの最近の研究成果に関して紹介する.
Keywords:
cryoplasma, cryogenic plasma, microplasma, plasma jet, dielectric barrier discharge, discharge mode transition,
electron coupling parameter
4.
1 はじめに
の特徴である,常温から極低温に至るプラズマのガス温度
プラズマのガス温度(中性ガス温度)はプラズマの基本
の低温性は,応用科学の分野,たとえばマテリアル工学に
的なパラメータの一つであり,プラズマ物性を語る上で欠
おいて,生体材料のような熱に敏感なポリマー材料など
かすことはできない.また,各種のプラズマ応用,たとえ
の,プラズマプロセスにおける新規材料への適用を可能と
ば,プロセス応用においても重要なパラメータの一つであ
する.一方,基礎科学の分野,たとえばプラズマ物理にお
り,その制御により幅広い材料をプロセス対象とすること
いては,新たな秩序構造(相)の出現など,低温領域にお
が可能となる.ガス温度が数千 K 以上のプラズマは一般的
ける新規プラズマ現象が期待される.特に室温以下では
に熱プラズマと呼ばれ,室温から数千 K 程度のプラズマは
様々な気体の沸点や融点が存在し,さらには超伝導転移,
低温プラズマと呼ばれる.熱プラズマは,高圧ランプなど
トンネル化学反応,超流動などユニークな現象も存在す
の光源やプラズマ溶接・溶射などの材料プロセスツールと
る.このような現象がプラズマの物性にどのような影響を
して,低温プラズマはプラズマテレビや材料の表面処理,
与えるかとても興味深い.
オゾン発生装置,蛍光ランプなど,幅広い分野で応用され
本章では,我々の研究の一端を報告する.
てきた[1‐5].一方,従来の室温以下の低温領域でのプラ
ズマに関する研究は,主に,原子・分子物理などの基礎科
4.
2 研究結果と考察
学の観点から,液体ヘリウム温度(4 K)付近などの限られ
4.
2.
1 クライオプラズマの発生
た冷媒温度においてのみ行われてきた.しかしながら,応
まず,図1にジェット型のプラズマ発生電極を用いたク
用科学の観点,なかでもマテリアル工学の立場での研究は
ライオプラズマジェットの発生装置の概略図を示す.圧力
皆無に等しく,とりわけ,連続的にプラズマのガス温度を
は大気圧付近に維持し動作ガスとなるヘリウムの温度を室
制御させた条件下での研究はこれまでにはなされてこな
温から 5 K まで連続的に制御してクライオプラズマを発生
かった.
このような背景の下,我々のグループでは,プラズマの
新しい温度領域の開拓をめざし,プラズマのガス温度が室
温以下の「クライオプラズマ」についてガス温度を連続的
に制御し,その生成,診断,および,応用に関する研究を
進めてきた[6‐10].クライオプラズマとは,従来の①熱プ
ラズマ(ガス温度:数千 K 以上),②低温プラズマ(ガス温
度;数千 K∼数百 K 程度)に続く,③第3の温度領域,す
なわち,室温以下の低温領域(4.2∼300 K)におけるガス温
度を有するプラズマを指す.このクライオプラズマの最大
図1
クライオプラズマの発生に用いたジェット型誘電体バリア
放電の装置概略図[9]
.
4. Characteristics and Self-Organization of Plasmas at Cryogenic Temperatures
NOMA Yuri, CHOI Jai Hyuk, SANO Masaki and TERASHIMA Kazuo
corresponding author’s e-mail: [email protected]
526
!2009 The Japan Society of Plasma
Science and Nuclear Fusion Research
Special Topic Article
4. Characteristics and Self-Organization of Plasmas at Cryogenic Temperatures
Y. Noma et al.
させた.発生させたプラズマがプラズマのガス温度ととも
移した.また,図5はヘリウムガス(純度6N)に窒素ガス
に変化する様子(装置の上部から撮影)を示したものが
(純度6N)を微量 (0.5%)混入させ,プラズマのガス温
図2である.プラズマのガス温度の低下に伴う発光励起種
度を変化させた場合のクライオプラズマの様子である.
の変化によるプラズマの色の変化が確認されている.
250 K のときは同心円状のパターンが形成されたのに対し
さて,現在までに非平衡系における自己組織化の現象の
(図5左)プラズマのガス温度を 78 K まで低下させると六
一例 と し て,誘 電 体 バ リ ア 放 電(Dielectric Barrier Dis-
角格子状の自己組織化パターンが出現した(図5右).誘
charge)中の圧力やガス種などの変化に対するパターン構
電体バリア放電でのパターン形成の説明にはしばしば反応
造の形成・変化に 関 す る 研 究 が 進 め ら れ て い る ものの
拡散モデルが適用されてきた
[17‐19].反応拡散モデルは
[11‐15],重要な熱力学パラメータである“ガス温度”の系
自然界で生じるパターンを数理的に理解するために作られ
統的な変化に対する研究はなされていない.さらにまた,
たものであり,なかでも我々はフィッツヒュー‐南雲モデ
プラズマを格子状に整列させることで,フォトニック結晶
ル[20]の反応拡散方程式に着目し,パラメータを変化させ
として機能させるなどのマイクロプラズマの集合体として
た時のパターンの形成を数理的手法により行い,ガス温度
の研究が進められており[16],このような分野への制御パ
の低下によるクライオプラズマパターンの遷移との対応を
ラメータとしてのガス温度の導入は興味深い.以上のよう
試み,これらの現象を定性的に説明することができた.そ
な基礎的研究の観点から誘電体バリア放電クライオプラズ
の結果,印加した交流電圧の半周期ごとに放電を抑制する
マのガス温度依存性の研究を行っている.図3に示すよう
向きに形成される電場の水平方向への拡散と,印加電圧の
な平行平板型のプラズマ発生電極を用いて,大気圧付近で
変化がガス温度の低下によるクライオプラズマのパターン
ヘリウムの温度を室温から 78 K まで連続的に制御してク
の遷移に大きく関与している可能性が示唆された.
ライオプラズマを発生した様子が図4である.なお,次節
4.
2.
2 クライオプラズマのガス温度
の4.
2.
2で詳細を述べるように,プラズマの周囲のプラズ
さて,今回の実験におけるプラズマの生成に用いたガス
マ化されていない部分のガスの温度(雰囲気ガス温度)に
であるヘリウムのガス温度の上昇はどの程度であろうか?
対するプラズマのガス温度の上昇は最大で 1 K に留まると
プラズマの周りのガスや壁などの温度(雰囲気温度)を室
評価されており,以下では,測定した雰囲気ガス温度をプ
温以下で制御した場合の,プラズマ部分のガス温度の上昇
ラズマのガス温度と近似し説明を進める.プラズマのガス
を評価した
[9].簡単な熱伝導方程式を用いて算出した,
温度の低下に伴って,一様なプラズマから六角格子状の自
図1に示したジェットタイプのクライオプラズマにおける
己組織化パターンが出現した.そしてプラズマのガス温度
をさらに低下することによって再び一様なプラズマへと遷
図2
ジェット型誘電体バリア放電によるクライオプラズマの様
子[9]
.
図3
クライオプラズマの発生に用いた平行平板型誘電体バリア
放電電極の概略図[8]
.
527
図4
平行平板型誘電体バリア放電電極で発生させたクライオプ
ラズマのプラズマガス温度依存性の様子[1
0]
.
図5
ヘリウムガスに窒素ガスを微量混入(5%)させた場合のク
ライオプラズマの様子(左:250 K,右:78 K)
[8]
.
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.85, No.8 August 2009
プラズマのガス温度上昇の計算結果を図6に示す.プラズ
よって発生させたプラズマには,主に,三種類の放電モー
マの大きさ(この場合は円柱とみなしたプラズマの半径
ドが存在し[21],プラズマを材料プロセスとして応用する
(()で評価.3つの大きさのプラズマのエネルギー密度は
際にはこの放電モードの把握が重要となる.一つ目がフィ
) によって温度の上昇が著しく
48 mW/cm3 で均一とした.
ラメント放電モード[22]で,平行平板型の電極の場合,細
変化するものの,実験に相当する (!0.8 mm では,最もプ
かい放電柱が電極間に生成されるモードである.均一な放
ラズマのガス温度上昇が生じやすいと考えられる雰囲気ヘ
電とならないため,表面処理などのプロセスには適さない
リウムガスの温度が 5 K の場合でさえ,クライオプラズマ
ものの均一性を必要としないオゾン生成などへの応用が行
のガス温度の上昇は 1 K 程度に抑えられるとの結果を得
われている[23‐25].動作ガスとしては空気や酸素が使わ
た.この結果より,雰囲気ヘリウムの温度を室温以下で制
れることが多い.二つ目がグロー放電モード[26]で,平行
御することにより,望みのガス温度に制御したクライオプ
平板型の電極の場合,均一なプラズマが電極全体に広がる
ラズマの実現性が示された.このようなプラズマのガス温
モードである
[27‐37].均一な放電であることから表面処
度の制御は,プラズマのマイクロ化(微小化)による,発
理や薄膜生成などに応用されている.動作ガスとしてはヘ
熱量の微小化(今回の場合,1 mW 程度),比表面積の増大
リウムやアルゴンが使われることが多い.そして三つ目が
(マクロプラズマの2,3桁の増大)に起因したプラズマの
タウンゼント放電モードで,外見上ではグロー放電モード
ガス温度の制御性の向上が実現されたために達成できたも
と同じく均一なプラズマであるものの,電界,電子密度,
のであり,従来のマクロサイズのプラズマにはない,マイ
イオン密度などの分布の時間に対する挙動が異なる[26].
クロプラズマの持つ環境親和性が,十二分に活かされたも
この放電モードは発見されてから日が浅く,応用はまだな
のである.
されていない.動作ガスとしてはおもに窒素が使われる.
4.
2.
3 プラズマのガス温度変化に伴うクライオプラズマ
図8(a)∼(c)に代表的なガス温度でのクライオプラズマの
の特性変化
電流‐電圧測定の結果を示す.常温付近では印加した交流
まず,クライオプラズマのガス温度の変化によるプラズ
電圧の半周期毎に nsec 幅の細かい電流パルスが無数現れ
マ中の励起種の変化を発光分光法を用いて測定した.300-
るフィラメント放電モード(図8(a)),200 K では印加す
800 nmの可視光域で,各励起種の発光強度の変化をプラズ
る交流電圧の半周期毎に μ 秒オーダの単一または複数のパ
マのガス温度に対してプロットしたものが図7である.プ
ルスが現れるグロー放電モード(図8(b)),そして 40 K
ラズマのガス温度の低下に伴って不純物からの発光強度が
ではグロー放電モードのときより長い電流パルス幅が現れ
いったん増加するものの,その後は,不純物として混入し
る大気圧タウンゼント放電モード(図8(c))とプラズマの
ている酸素(沸点:90.18 K),アルゴン(沸点:87.3 K)そ
ガス温度の低下に伴うその放電モードの変化が確認され
して窒素(沸点:77.36 K)といった沸点の高いガスの励起
た.今回のクライオプラズマ生成に用いた電極が微小で
種の発光強度は減少していくことがわかった.なお,各ガ
あったために,目視での放電モードの判断は困難であった
ス種の沸点よりも低い温度でも発光強度が確認されるの
が,電流‐電圧特性測定により放電モードを区別すること
は,蒸気圧によるものと考えられる.さらに,プラズマの
ができた.
さらに電荷‐電圧(%- &)測定より 導 出 し た 換 算 電 界
ガス温度が 50 K 程度より低くなるとヘリウム分子の励
起種である,ヘリウムエキシマーからの発光強度が増加し
"!
$,電子スウォームデータから得られたドリフト速度
た.また 20 K 以下ではヘリウム原子・分子の励起種からの
' ,電子の拡散係数と移動度の比率 !!
",および,電流‐
発光のみが計測された.
電圧測定(#-&)により得られた電流ピーク値を用いて,ガ
次に,電流‐電圧特性からクライオプラズマの放電モー
ス温度の連続的な変化(5 K∼室温)に伴うクライオプラズ
ドを特定した.一般に,大気圧で誘電体バリア放電方式に
マの電子密度および電子温度を算出した[38‐39].なお,こ
の算出方法は,このクライオプラズマの DBD 部分に有効
図6
様々なサイズのクライオプラズマにおける,プラズマの周
りの雰囲気のガス温度に対するプラズマのガス温度の温度
上昇の計算結果の一例.
図7
528
各種の励起種の発光強度のプラズマのガス温度依存性.
Special Topic Article
4. Characteristics and Self-Organization of Plasmas at Cryogenic Temperatures
図9
Y. Noma et al.
プラズマガス温度の変化(5 K∼室温)に伴うヘリウムガス
密度の変化(点線)とクライオプラズマの(a)
電子密度,お
よび,(b)
電子温度(黒点)
.
向と類似(図9(a),
(b))していることがわかる.つまり約
50 K 以下での電子密度と電子温度の急激な変化にはガス
密度の増加というマクロ的な現象が関係していると考えら
れる.同様に,ガス温度の低下に伴うヘリウムエキシマー
の発光強度の増加と放電モードの変化も,マクロ的にはガ
ス密度の増加に関係していると考えられる.実際に気相中
のクラスターの生成に重要となる三体衝突はガス密度が高
くなることによって促進されると言われており[40],今回
図8
のヘリウムエキシマーの発光強度の増加は,式(2)に示す
代表的なプラズマのガス温度でのクライオプラズマの電流
‐電圧測定の結果((a)
室温,(b)
200 K,(c)
40 K)
.
三体衝突の反応が促進されたためと考えられる.また,大
気圧窒素誘電体バリア放電に代表される大気圧タウンゼン
であり,コロナ放電部では保障されない.その結果を図9
ト放電モードの放電維持には,気相中での準安定状態粒子
(a),(b)の黒点に示す.室温からプラズマのガス温度を低
の衝突によって生成する電子が印加電圧の次の半周期での
下させると 50 K 付近までは電子密度に著しい変化はみら
プラズマの生成に重要だとされる[21].クライオプラズマ
9
れなかったが,それ以下になると 10 cm
−3
オーダからおよ
のガス温度が 50 K 以下になったときに,放電モードが大気
そ 1012 cm−3 オーダへと 1000 倍程度増加した.これに対し
圧タウンゼント放電モードに変化したのも,急激なガス密
て,電子温度は徐々に増加していき,50 K 付近で極大とな
度の増加によるヘリウムの準安定状態の粒子同士による衝
り,その後,13 eV から 2 eV 程度に急激に減少した.
突が気相中での電子生成を促進したためと考えられる.ク
ここまでクライオプラズマのガス温度による様々な特性
ライオプラズマの発光分光測定の結果を考慮すると具体的
の遷移結果を示してきたが,すべての結果に共通するの
には以下の反応式
(1),(2)
[41‐43]が気相中での電子生
は,ガス温度が約 50 K になるとその特性変化が顕著に現れ
成に主に関与していると考えられる.
るという点である.具体的にはヘリウムエキシマーからの
He*+2He → He+2 +He+e
He2*+He2* → He+2 +2He+e
発光強度が急激に増加し,放電モードも大気圧グロー放電
モードから大気圧タウンゼント放電モードへ変化し,急激
(1)
(2)
に電子密度が増加するとともに電子温度が低下した.以下
さて,この 50 K 程度以下の急激なプラズマの特性変化は
にこの特性変化に関する考察を行う.まず,電子密度と電
ガス密度の増加というマクロ的な現象と関連した考察だけ
子温度の変化は,ヘリウムガスの密度変化に伴う変化の傾
では不十分である.そこでミクロな視点からの考察を行う
529
Journal of Plasma and Fusion Research Vol.85, No.8 August 2009
ために電子の結合パラメータを考慮した.結合パラメータ
"とは電子クーロンエネルギーと運動エネルギーの比(式
(3)
[44])であり,結合パラメータの値が大きくなること
はプラズマを構成する荷電粒子間のクーロン相互作用が強
くなることに対応する[45].
"!
##
"
$#
%
'
! #$
&!
(3)
#,#
'はそれぞれ電気素量,真空誘電率,ボル
',%
!,$
&,!
ツマン定数,電子温度,電子密度である.ここで "'は平均
の電子間距離のことで,電子密度を用いて式(4)のように
表される.
図1
0 各プラズマのガス温度におけるクライオプラズマの結合パ
ラメータ.
"!
$
"'!! $ "
$%'
%
(4)
電子密度と電子温度の算出結果から結合パラメータをクラ
イオプラズマの各ガス温度で求めると,60 K から 5 K にか
けて結合パラメータの値が2桁増加し,プラズマ中で電子
クーロン相互作用が強くなった(図10).なお,この結合パ
ラメータの増加の傾向はガス温度が 60 K よりも高いとき
には見られなかった.したがって 50 K 程度以下で起こるク
ライオプラズマの急激な特性変化には,ガス温度の低下に
伴うクーロン相互作用力の増加がミクロ的には関係するの
ではないかと考えられる.次に原子‐分子間のファンデル
ワールス相互作用による理想気体からのずれの度合を表す
図1
1 ヘリウムの第2ビリアル係数の温度変化(灰色)とヘリウ
ムガス密度の温度変化(黒点)
.
第2ビリアル係数について考える.第2ビリアル係数は
ファンデルワールス相互作用が大きくなるほど負の方向に
大きくなる[46].ヘリウムの第2ビリアル係数の温度依存
性[47]を図11(灰色)に示す.また,同図にヘリウムガス
御パラメータとして連続的に変化させ,発生・物性変化を
の温度変化によるガス密度もプロットした(黒点)
.これ
とらえた研究は皆無に近かった.本研究ではガス温度が室
より,ガス密度が急激に増加しはじめる 50 K 以下付近で第
温以下のプラズマに関しての研究が未開拓であることに着
2ビリアル係数も急激に増加することがわかる.すなわ
目し,プラズマ工学の新たな研究分野を切り拓くべく,マ
ち,ヘリウムを動作ガスとするクライオプラズマでクーロ
イクロプラズマを用いることにより,プラズマのガス温度
ン相互作用が急激に増加した 50 K 以下付近ではミクロ的
を室温以下で連続制御可能なクライオプラズマの開発を進
にはファンデルワールス相互作用も増加している環境だと
め,そのプラズマの診断および応用研究を進めている.本
言える.
研究を通して,プラズマのガス温度の低下に伴い,プラズ
以上のような考察により,クライオプラズマではプラズ
マを構成する粒子の運動エネルギーの低下による自己組織
マのガス温度を低下させていくと,自己組織化の起源でも
化パターンの形成や自己組織化の根源である相互作用の増
ある様々な原子‐分子間相互作用の影響が支配的なプラズ
大というマクロとミクロの現象の出現が確認された.ま
マへと遷移することが明らかになった.
た,この相互作用の増大に伴うクライオプラズマの放電
モードなど様々な特性変化が確認され,クライオプラズマ
4.
3 まとめ
はガス温度が室温以上でガス密度の大きい,従来のプラズ
マとは異なる特性を有すると考えられる.
極低温を含む室温以下の温度領域において,固体,液体,
気体といったそれぞれの状態における特有の物性があるよ
クライオプラズマに関する研究は,まさに始まったばか
うに,物質の第四の状態と称されるプラズマにも,室温以
りであり,今回の基礎的研究のスタートに続き,今後さら
下での温度に依存した特有の物性の発現が期待される.プ
なる基礎研究,そして,新たな応用研究が発展していくも
ラズマのガス温度(中性ガス温度)をパラメータとして室
のと考えられる.従来の熱プラズマや低温プラズマは幅広
温以下でのプラズマの物性研究を進めるためにはプラズマ
い分野で実用化されているが,プラズマ工学の新しい研究
中の中性粒子のガス温度を連続的に制御,低下させる必要
分野であるクライオプラズマもバイオ,医療,農業,環境
がある.これまでにプラズマを低温環境下で使用する応用
をはじめとする各種のプロセスなどへの新規応用が,今
研究や,液体ヘリウム温度などのある特定の温度における
後,大いに期待される.
物性研究はなされてきているが,プラズマのガス温度を制
530
Special Topic Article
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辞
クライオプラズマ発生用冷凍機システムの開発において
は,上岡紀之様をはじめとする!鈴木商館・低温機器部の
皆様に大いにお世話になった.ここに深く感謝いたしま
す.
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