[雑草と作物の制御]vol.10 2015 p30~35 ナシのジョイント仕立ての特徴および専用苗木育成時における ジベレリンペースト剤の活用 神奈川県農業技術センター 1 北見 丘 れまで 10 年近く必要としたナシ園の育成期間を ジョイント仕立てとは (1)早期成園化が可能 半減する超早期成園化技術(図-1)で、1 年間 全国のナシ園は高樹齢化が進み改植の必要性に はジョイント栽培用の長尺苗を育成する必要 迫られているが、改植による一定期間の収益減少 があ るが 、 本ぽ での 無収益期間もわずか1年に は経営に与える影響が大きく、実際の改植は進ん 短縮され、定植 4 年目には成園並収量を達成で でいない。また、現在の整枝法は高度な技術を必 きる画期的な技術である 。 要とし、労働時間短縮に向けての省力・効率化が 難しく、このことが規模拡大や新規参入を困難に (2)つなげる効果 する要因となっている。 ジョイント仕立ては基本的には超密植栽培 ニホンナシの樹体ジョイント仕立ては、これま だが、各樹の先端部を隣接樹に接ぎ木 をして でにない「樹と樹をつなげる」発想を活かし、こ 図-1 つなげるという点で大きく異なる。通常の仕 早期成園化を可能とするジョイント仕立て - 30 - [雑草と作物の制御]vol.10 2015 p30~35 図-2 2 本主枝(慣行)(左)とジョイント仕立て (右)の比較 立て法では主幹部に近いほど樹勢は強く、先 「省力化」 につながる。 端部に行くにつれて樹勢は弱くなる。その結 また、果実品質についても、2 本主枝では先 果、主幹部では徒長枝が多く発生し、花芽の 端部と主幹部の品質に糖度の差が出るのに対 着生は悪く着果量を確保するのに苦労し、先 して、ジョイント仕立てでは差が ない。 端部では新梢の伸びが悪く、樹勢の強化・樹 冠の拡大に苦労する。2 本主枝仕立てでは密植 (3)剪定技術の簡易化と各種作業の大幅な しても、この特性によって均一に棚面を埋め 省力化 ていくことが困難である。それに対してジョ 通常の仕立てでは骨格枝を育成しながら、 イント仕立てでは、ジョイント接ぎ木部分を 結果量を確保する高度な管理技術が必要とな 介して、樹勢の強い主幹部から樹勢の弱い先 る。特に主枝・亜主枝といった骨格枝先端を 端部に養水分の一部が還流することにより、 伸ばす事が重要なため、これらの枝に支柱を 側枝の勢いが均一にな る(図-2)。この側枝 添える作業が必要となる。それに対して、ジ が均一になる効果が以降に説明する「簡易化」 ョイント栽培ではジョイント接ぎ木時点で骨 図-3 ジョイント仕立てによる剪定時間における省力効果 - 31 - [雑草と作物の制御]vol.10 2015 p30~35 図-4 慣行 4 本仕立て(左)とジョイント仕立て(右)での作業動線の違い 格枝は完成し、側枝の管理 一定方向に誘引が行 2 ジョイント仕立て専用苗の育成について え、側枝更新だけを考えれば良いため、作業時間 目標とする樹間は 1.5~2m だが、先端を隣接 は約 40%減少する(図-3)。従来の仕立てのよ 樹の背に接ぎ木するため、樹間 1.5m の場合でも うに骨格枝の育成や着果量の確保、樹勢の調整、 苗木は全長 3.3m以上の長さに育成する必要があ 側枝の誘引方向などを総合的に考える必要のある る。定植時に隣接樹にジョイント接ぎ木すること 高度な熟練技術が不要なることにより、これまで がベストなため、苗木が短ければ単位面積当たり 困難であった規模拡大や新規参入を可能とする画 の必要本数は多くなり(表-1)、コスト的に高く 期的新技術である。 なる。 また、剪定以外の作業でも側枝の向きが一 育苗および定植に関するポイントは以下のとお 方方向となるため作業動線が直線となり(図 りである。 -4)、受粉や摘果、収穫といった作業でも効 ①栽植本数が多くなるので、移植作業の省力化 率があがる。時間当たりの収穫果数を比較す および植え痛みの軽減のため不織布ポット ると、経験の浅い作業者ほど効果が高く、ジ を利用した育苗を行う。 ョイント仕立ては慣行 4 本仕立ての 1.5 倍で、 経験者並みの効率で作業ができる。この点か ② 育苗用土は赤土とバーク堆肥を 2:1 の割合で 混合したものを用い、上部が5~10 ㎝出る程 らも雇用労力を活用した大規模経営にはお勧 めの技術で ある。 表-1 なお、樹勢のコントロール方法としては主 苗木の長さと 10a 当りの必要本数 (列間 3mの場合) 苗木の長さ 3.8m以上 3.3m以上 3.0m以上 2.8m以上 幹の切断(間引き)による方法と側枝上の発 育枝の摘心の2方法があるが、摘心を行い側 枝上の短果枝を維持する方法が樹勢の強くな りやすい火山灰土壌では一般的である。 樹間 2.0m 1.5m 1.2m 1.0m 10a必要本数 167本 222本 278本 333本 *標準的な列間は3mだが、土壌条件、新植・改植、 品種等によって異なる - 32 - [雑草と作物の制御]vol.10 2015 p30~35 図- 5 ジョ イン ト 仕立 て 専用 苗木 の育 成方 法 度に半地中に埋設し、十分周辺土壌と密着させ 梅雨明け以降の潅水量が生育量を決めると る。 いっても過 言 では な い の で 、 十 分 行 う こ と 。 ③先端 2 芽を伸ばすと、1 本の時と比較して長 ⑥5月中旬から8月末の間に苗の伸長が一時 さは同等で主枝を曲げる際の屈曲部がやや 的に止まる「止め葉」の発生が認められた場 細 く な り 曲 げ や す い 。 ま た 、 2本の新梢は、 合、直ちに先端部を摘心(ピンチ)し、苗の 主枝誘引時に折れた場合等の予備枝として、ジ 再伸長を促す。 ョイント完成まで剪除せず残しておく。 ⑦ 摘心等で絶えず先端部の伸長を促す苗育成で ④苗木を斜めにして行う斜立育苗法は、伸長 は、夏期に発生するチャノキイロアザミウマ、 量の低い品種を2年間育苗する場合は主枝 ニセナシサビダニ、アブラムシ等の害虫防除が の誘引の際の棄損を避けるために有効であ 重要である。 るが、通常の育苗の場合は生育の良い直立 ⑧植付時は計画した間隔にこだわらず、苗木の長 育苗を行う。 さを有効に使い接ぎ木できる間隔で順次植付し ⑤化成肥料を5~8月に月1回施用し(窒素量で た方が良い。定間隔で植栽する場合で、わずか ポット当たり2g 程度)、自動灌水施設等を利用 に伸長量が不足する場合は、そのまま直立させ して春、秋期1日1回、夏期朝夕2回、ポット て新梢を伸ばして、7 月~8 月に接ぎ木を行うこ 周辺の土壌まで十分湿る程度に灌水を実施する。 とも出来る。 - 33 - [雑草と作物の制御]vol.10 2015 p30~35 本県で行った結果では、主要品種の‘幸水’に 表- 2 おいて新梢伸長を促す芽の基部に GA ペースト剤 品 種ご との 育 苗の 難易 難易 品種 100mg を 1 回(5/14)、3 回(5/14、6/14、7/16) 易 豊水、なつしずく それぞれ塗布すると、新梢が無処理に対して長く やや易~中 幸水、筑水 なった。特に 7 月の 3 回目処理後の新梢伸長が促 やや難~難 おさゴールド、秋麗、あきづき、南水 進された(図-6)。 落葉後に主幹基部径、新梢長、新梢節数、新梢 ⑨品種による育苗時の生育は異なるが、これまで 基部径及び新梢先端径を比較すると、新梢長、新 の結果を取りまとめると、表-2となる。特に 梢節数に有意な差が認められ、3 回処理は無処理 ‘秋麗’と‘南水’の伸長は悪いので、2 年育成 より新梢節数が 10 節程度多くなり、新梢長が 50cm も考慮する必要がある。 長くなった(表-3)。なお、薬害は各処理とも認 めらなかった。 3 専用苗におけるジベレリンペーストの活用に ついて 本県で育成した新品種‘香麗’では、5/25、6/24、 7/19 に 3 回処理した苗は、新梢長、新梢節数に有 ナシ樹体ジョイント仕立ては、改植を推進する 意な差が認められ、節数が 12~15 節増え、新梢長 新たな省力的栽培法として全国ナシ産地への導入 が 40~50cm 長くなった。定植時の目標株間を 1.5m が始まっており、その普及推進には新梢が 2m以 とした場合、必要な長さのジョイント仕立て専用 上伸長した苗木(全長 3.3m以上)の安定的生産 苗を育成できた(表-4)。 が重要である。そこで、苗木新梢伸長促進のため この結果を含めた各県の試験により、本剤によ のジベレリンペースト剤使用登録拡大を目的に共 るニホンナシ苗木への新梢伸長促進を目的とした 同研究を行っている各県と試験を行った。 処理については、平成 26 年 1 月 29 日付で適用拡 300 新梢長 (cm) 250 200 150 無処理 1回処理(5/14) 100 3回処理(5/14、6/14、7/16) 50 0 5/9 図-6 6/6 7/4 8/1 8/29 9/26 (月/日) ナシ‘幸水’苗木への GA ペースト処理回数別の新梢伸長の推移(2013 年) - 34 - [雑草と作物の制御]vol.10 2015 p30~35 表-3 GAペースト処理がナシ‘幸水’1年生苗木の新梢生育に及ぼす影響(2013年) 主幹長 主幹基部径 新梢長 (cm) (mm) (mm) 1回処理 57.0 17.9 192 ab 43.2 b 10.2 3回処理 56.6 17.0 232 a 51.1 a 10.2 無処理 57.3 18.1 182 b 39.8 b 9.4 z n.s n.s * ** 処理区 優位性 新梢節数 新梢基部径 (mm) n.s Z:有意性はTukey 検定による(*は5%水準、**は1%水準で異なる英文字間に有意差あり) 表-4 処理区 GAペースト処理がナシ‘香麗’2年生苗木の新梢生育に及ぼす影響(2013年) 主幹長 主幹基部径 前年枝長 前年枝基部径 新梢長 新梢節数 新梢基部径 (cm) (mm) (cm) (mm) (cm) GA3回 無処理 107 26.3 15.5 16.5 198 48.4 10.9 115 25.3 12.0 17.9 151 36.2 11.6 y n.s n.s n.s n.s ** ** n.s z 優位性 (mm) Z:5/25、6/24、7/19 処理,Y:有意性はt検定による(*は 5%水準、**は 1%水準で有意差あり) 大登録された(100mg/1 枝、萌芽期~新梢伸長期、 イロアザミウマ、ニセナシサビダニ、アブラムシ 頂芽基部塗布または新梢基部塗布 3 回以内)。 等の害虫防除が必須となる。 なお注意点として、本剤を塗布する際、薬剤が 今回は‘幸水’及び‘香麗’における結果を示 葉や芽に付着すると薬害(やけ症状)の原因とな したが、品種における反応の違いがある。他県の るので、葉や芽に付着しないように注意して塗布 植調試験では‘あきづき’及び‘南水’でも効果 する。また、本剤の塗布処理や摘心等で絶えず先 が認められているが、効果の低い品種もあるので、 端部の伸長を促すため、夏期に発生するチャノキ 使用の際は指導機関に相談すること。 - 35 -
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